空を飛ぶ翼
プシュー………。
なにか音が聞こえた。
ゆるゆると闇の中にいた意識が浮上する。
また、寝てたんだ。
肌に風を感じる。
扉が開いたんだ。
「だれ?」
風に乗って匂いがやってくる。
血の匂い。
それと、なんだろう、焼きたてのパン?みたいな匂い。
「…なんだ、こりゃ。」
誰かの声。
誰だろう、知らない人だ。
新人さん、かな?
コツコツコツ、
足音が、人が、近づいてくる。
足音ひとつにつき匂いが濃くなる。
血の匂い。
人を、殺してきたばっかりなのかな。
「おい。」
近い、すぐそこだ。
殴られるのかな。
薬の時間なのかな。
どっちかな?
「きみ、大丈夫??」
また、知らない人の声。
ふたり、いるのかな?
「くすりの、じかん?」
ごほごほ、軽く咳き込む。
まだ、うまく話せない。
喉がぱりぱりしてる。
静かになった。
聞こえ、なかったかな。
怒られるの、かな。
顔色、うかがわないと。
なのに、真っ暗で見えない。
わからない。わからないよ。
「っうあ?」
誰かの手が、頭に触れる。
ガサガサだけど、あたたかい。
「なに??」
頭で手がもぞもぞ動いてる。
なんだろう。
「外してやるから、じっとしてな。」
はずす?なにをだろう。
なにか付けていたのかな。
そこまで、考えて何かが顔から滑り落ちた。
途端、
「あっ、」
まぶしい。まぶしい。まぶしい。
外された。そっか。
目隠し、されてたんだ。
目の前に二人の影がある。
ぼやけてよく見えない、まぶしい。
まぶしい。きれい。
やっと、あかるい。寂しくないよ。
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未開封のマルバの保管庫がある。
そう聞かされたのは、一軍の奴らを始末し、あの会計担当のやつ、デクスターキュラスターから資金について聞いていた時だった。
「どうやら小さな金庫の中身はもっていったようなんですが、奥の部屋にもうひとつあるようで」
そう言われ、ビスケットとともにマルバの部屋の奥へ案内される。
そこには、頑丈そうな鉄製の扉と、パスワードを入力するためキーパッドが備え付けられていた。
「いかにも、って感じだね。」
キーパッドをビスケットがまじまじと見つめながら言う。
「ここは何が入ってる部屋なんだ?」
「それが、わからない部屋なんです。」
困り顔で電子端末をいじりながら言う。
「このCGSの会計記録にはありませんし、まず設計図にこの部屋自体が載っていません。」
「最重要で大切なモンしまってる部屋ってことか」
この部屋を開けてみたい。
そう単純に感じた。
マルバが現金よりも隠したかったものはなんなのか。
金になるなら万々歳、どんなもんが入ってるのか。
「ねえ、これその番号かな?」
キーパッドを見てたはずのビスケットが後ろにいた。
マルバの机だったものの、引き出しの中から1枚の紙を取り出してヒラヒラさせていた。
そこには、4573という3桁の数字。
「試しにうってみるか」
ピッピッピッピッ
静かな部屋に機械音が響く。
ピーーー
キーパッドのディスプレイにはOPENの四文字。
部屋が少しの緊張で静かになる。
マルバが隠そうとしたものだ、何が出るかわからない。
「開いたな」
プシューーー
音を立てながら、ゆっくりと、扉が開く。
そうしてゆっくり開いた扉の先は小さな個室だった。
そして、その個室の真ん中には鉄製のイス。
そのイスに腰掛けていたのは…
「だれ?」
目隠しをされた、子供だった。