瞼の裏にわずかな光を感じる。

きっともう朝になったのだろう。

私は朝がいちばん苦手だ。

このまま起きずにぬくぬくと布団にくるまっていられたらどんなに幸せか。

しかし、その願望は、扉の開く音にかき消された。

コツコツという靴の音がこちらに向かってくる。

靴の音が止まった。

「おい、起きろ」

次の瞬間、ベッドの沈みを感じ、声の主が私のベッドに腰掛けたのだとわかった。

私は、意識は覚醒しているが、目を開きたくなくて頑なに寝ているふりをする。

「ったく、しょうがねぇな」

彼はそう言いながら、今度は私の髪を数回撫でた。

こうしてもらったのはいつぶりだろう。

彼の手の温度に少しだけ安心する。

私は無意識に、彼の手に頭を擦りつけるようにしていたらしい。

「起きてんのか？」

あちゃー、バレちゃった。

仕方なくゆっくりと目を開く。

ぼやけた視界には、オレンジ色のくせっ毛と頭の上の帽子がうつる。

ああ、やっぱり中也君だ。

「おはよう」

普段の敵に向ける挑戦的な表情ではなく、とても穏やかな顔で彼は言った。

「、、、おはよ」

私が寝たふりをしていたことを咎める様子はないようだ。

ひとまず安心して、体を起こそうとする。

「寝癖ついてんぞ」

ふっと笑って私の頭を指さした彼。

途端に私は恥ずかしくなって、布団を頭からかぶった。

「別に変じゃねぇよ」

相変わらず笑っている彼の言葉はとても信じられない。

「笑わないでよ、もう」

「葉月、顔見せろ」

名前を呼ばれ、かぶった布団を掴む手を緩めてしまった。

途端に中也君の手によって布団ははがされた。

さっきまで笑っていたはずなのに、目の前の彼の表情はとても真剣だ。

何がなんだかわからなくてぼうっとしていたら、ふいに私の頬が彼の手に包まれた。

くすぐったい気持ちになって、胸がきゅっと締まった気がした。

彼は何を言うわけではなく、ただただ私の頬を包んでいる。

さっきから目が合っているから恥ずかしいのだが、

彼の綺麗な目を見ると、逸らすことも閉じることもできなくなる。

しばらくして手は離れた。

中也君は、「よし」と呟いて立ち上がった。

何がよかったのかわからない。

でも、中也君が優しい目で私を見るから、そんなことどうでもよくなる。

「飯作ってるから、さっさと用意してこいよ」

中也君はそう言うと、行ってしまった。

私はまだベッドの上に座ったままだ。

私はゆっくりとベッドから降りて、クローゼットを開けた。

中からお気に入りのワンピを取り出し、すぐに着替える。

このワンピは中也君が買ってくれた。

ひじあたりまでの長さの半袖で、膝丈のワンピース。

淡いブルーで統一され、幻想的な印象を受ける。

シンプルだが、とても綺麗だから好きだ。

何よりも中也君が買ってくれた服を着るということが嬉しい。

私は自然と緩む口元を抑えた。

こんなしまりのない顔で中也君に会ったら、また笑われてしまう。

顔をさっと洗って、一通りの用意をして部屋を出る。

さあ、今日も一日頑張ろ。

これが私の日常の始まりだ。