帝光
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白島兎紀はクラスメイトから渡された紙袋を手に困惑していた。
今日は待ちに待った学園祭当日であり、もうすぐ学園祭が開催される時間で各クラスが最後の仕上げやリハーサルに勤しんでいた。
そんな中裏方の仕事をしていた白島にクラスメイトが一着の紙袋を差し出してきたのだ。
5組の初期案であったアフターヌーンティーの喫茶室で調理担当だった生徒達は縁日に変更された後は商品の買い付けや事前準備、配給係だった生徒達は当日の接客が主な仕事であった。
よって調理担当であった白島は、ほぼ仕事が無いと言ってもよい状態である。
そもそも仕事が無いと言っても白島は元々配給係であった紫原を手伝う事は確定事項であり、周囲から接客要員として頭数に入れられていたとしても驚かないし不満もない。
問題は紙袋の中身ーー衣装である。
一度試着をしたものの、余りの恥ずかしさに一度脱ぎ衣装を渡してきたクラスメイトに説明を求めにいく、出来れば着たく無いと言う意図も込めて。
『あ、あの……これ』
「白島さん?うそっ!?まさか、サイズ合わなかった?」
『そ、そのサイズは大丈夫です……あのどうして私のお衣装があるんでしょうか?』
「紫原くんが接客係だったし、きっと白島さん接客係の仕事もすると思って用意して置いたんだよね!ほら、使わないと勿体ないでしょ?白島さん!もうすぐ始まっちゃうよ!急いで急いで!」
白島の追加衣装もアフターヌーンティーの喫茶室を推していた女子生徒達の謀の一部であり、クラスメイトに急かされ試着室に押し戻された白島は何にも言えずに頭を抱えた。
ただでさえアルビノや小柄な体格は目立つのだ。
目立つ事をを苦手とする白島にとって渡された衣装はこの上なく目立つ物である様に感じられた。
しかし、いつまで試着室にこもっていてもどうしようもない。
(あっくんも今頃着替えてるはずだし……)
衣装を着るのは自分だけではないと諦めもう一度衣装に袖を通して始める。
衣装が入っていた紙袋には衣装の着方や装飾品の位置、髪型の指定まで細かく指定されたメモも入っていて、これを用意した女子生徒達の本気度を感じ取り一人溜息をつく。
準備を終えもう一度鏡で自身の姿を確認する。
いつもとは違う髪型、紫色をベースにしたベロア生地のジャケットや金色の飾りがキラキラと輝き一層白島の羞恥心を駆り立てた。
そして何よりーー
(これって、男装、だよね……?)
きっと黄瀬くんやあっくんも同じ様な衣装を渡されているのだろうと苦笑いを浮かべた。
でも、他の女子生徒達も男装なのだろうか?と白島が疑問に思っていると教室の方から黄色い声が聞こえて来た。
きっと着替え終わった黄瀬を見て女子生徒達が興奮しているのだろうと悟った白島はもう一度鏡に向き合った。
しばらく鏡とにらめっこをしていた白島であったがそろそろ出て行かなくてはと思いつつも勇気が出ず、一人試着室のカーテンに手を掛けては離す事を繰り返していた。
するとまた教室の方が騒がしくなる、今度は女子生徒の声と男子生徒の両方が騒いでいる様だ。
(何かあったのかな?私も早く戻らないと、でも……やっぱり恥ずかしいよ!)
教室の騒ぎ声が気になってはいても、やはり羞恥心には勝てない様であった。
『い、行かなきゃ!で、でも!う〜……』
「ときちんー終わった〜?」
『あ、あっくん!うん、終わったよ』
いつまで経っても試着室から出てこない白島を迎えに紫原が試着室の前まで来た様で、白島が着替え終えた事を知った紫原は「じゃあ、開けるねー」と勢い良くカーテンを開ける。
『あっくん!!
えっ!?あ、あっくん!?』
静止する間もなく開けられた事に驚いた白島は咎める様に名前を呼び、紫原の姿を見て一度目より驚きと困惑を含んだ声で紫原の名前を呼んだ。
『……ド、ドレス?』
「んー体格的にこれしかオレが着れるの無いんだってー」
白島が驚くのも無理も無い、2メートル近い男子生徒の重厚なドレスの女装姿を見て驚かない人の方が少ないであろう。
巻き髪の付け毛や輝くティアラまで装着しており、何と言うかただただインパクトが凄い。
『あっくん、その……大丈夫?』
「なにがー?」
流石に紫原が女装をしているとは思わなかった白島の口から出た言葉は紫原を心配するものだった。
対して当人はあっけらかんとしていて、女装について特に思う事はない様だ。
『ごめんねあっくん、何でもないの』
「そっかーじゃーいこー?」
『うん』
紫原の登場でさっきまで白島の中にあった羞恥心は影を潜めた様で、むしろ女装していても動揺してない紫原を見て白島自身も男装程度のことで恥ずかしがってはいけない様な気がして来たのだ。
教室に戻った二人を出迎えたのはフランス王朝にありそうな青年将校風の衣装を着た黄瀬だった。
白島も同じ様な衣装ではあるが、黄瀬の衣装はさらに少女漫画に出てくる男装の麗人の衣装で、その黄瀬の姿を見て白島は女子生徒達の思惑を知った。
(黄瀬くんはきっとオ○カルだ!あっくんはマリー・アン○ワネット?あっくんがアン○ワネットだとすると私はもしかしてフェル○ン伯爵かな?)
こうして女子生徒達の計画により学園祭当日、オ○カル・キセ・リョウタ、アツシ・アン○ワネット、トキ・シロシマ・フェル○ンの三名が爆誕したのである。
「紫っち、白っち!記念に写真撮るっスよ!」
『うっ!写真は……ちょっと嫌、かもです……』
「えー?白っちノリ悪いっス〜
普段はこんな格好する事無いんだし、写真は必須じゃないっスか?ふつー紫原っちもそう思うっスよね?」
「んー?オレは別にどっちでもいーし」
『あっくん!』「えー!?」紫原の返答に白島は嬉しそうに、対する黄瀬は不満そうな声を漏らす。
「……!
でも紫っち、白っち似合ってると思うっすよね?写真ぐらい恥ずかしがる事無いと思わないっスか?」
「うん、ときちん可愛いよー?」
「きっと、この機会逃したらもう白っち着てくれないっすよ〜」
「んー?……たしかにー」
紫原が頼めば白島は衣装を着るであろうと思った黄瀬であったが、写真を撮る為そこはあえて伏せた。
そして少し考えた後に黄瀬の意見に賛同する紫原。
出来れば二度目は着たくない白島が口ごもっていると徐々に話の流れが写真を撮る方に向かっていた。
「ほら、白っちも笑って笑って!」
紫原を誘導して写真を撮る流れを作った黄瀬は嬉しそうに携帯を構えた。
駄々をこねても仕方ないと諦めた白島も携帯に向かいニッコリ笑う。
「はい!撮るっすよーいい感じッス!」
写真を撮る事に成功した黄瀬は上機嫌の様だ。
恥ずかしさの余り顔を赤らめている白島とそんな彼女の頭を撫でている紫原。
そんな二人を見て黄瀬はまた携帯を構えると素早くボタンを押した。
シャッター音を聞き撮影されていた事に気付いた白島は黄瀬を見上げる。
見上げられた黄瀬は今さっき撮ったツーショット写真を白島に見せつつ口角を上げ悪戯っ子の様に笑う。
「うんうん、貴重な白っちの男装姿も良く撮れたし、後でちゃんと二人にも送るっす。
あっ!そろそろ時間っすね〜持ち場に行かないと」
「よろしくー」と返事をする紫原と、黄瀬によって男装をしている事を再確認させられた白島は羞恥心がぶり返して来た様で茹蛸の如く顔を真っ赤にした。
そんな姿の白島を横目に黄瀬は何事もなかった様に颯爽と自身の持ち場に足を進める。
残された白島は熱が冷めるまで顔を隠す場所ーー目の前の紫原のドレスに顔を埋めた。
「アララ〜ときちん大丈夫ー?」
『うん、大丈夫だよ。
でも、あっくん、お願い……もう少し、このままでいて?』
「おっけー」
こうして紫原の声と開会を告げる放送を聞きながら、白島兎紀にとって恥ずかしくも楽しい学園祭の1日が始まったのである。
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