帝光
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帝光中学、2年5組に在籍している多くの女子生徒達は戦慄していた。
今回の学園祭において女子生徒達はクラスの出し物である【アフターヌーンティーの喫茶室】を楽しみにしていたのだった。
しかし無情にも5組は調理室争奪戦に敗北し、飲食系の出し物が出来なくなってしまったのである。
そんな5組では【アフターヌーンティーの喫茶室】にかわる出し物を何にするかと昼休みの間に緊急で学級会議が開かれていた。
第一候補が【アフターヌーンティーの喫茶室】であり、第二候補は【縁日】であった。
必然的に第二候補の【縁日】になる訳だが、【アフターヌーンティーの喫茶室】を計画していた女子生徒らが譲らなかったのである。
衣装も既に用意してあり、それを「使わないのは勿体ない」と主張していた。
一方の男子生徒は「別に第二候補の【縁日】でいいだろう」と主張していた。
「ねーこれいつまですんのー?もう飽きたしー結局どっちなわけ〜?」
「え、紫っち、そこ言っちゃうんっスか?」
「あっくん……」
堂々巡りの口論を見ていた紫原は大きく欠伸をし、つまらなそうに言い放ったのだ。
誰しもが心で思っていても言えない言葉をサラリと言ってしまう紫原に黄瀬と白島の二人は苦笑いを浮かべた。
しかし、このままでは埒が明かないのは確かである。
「そうっスね〜俺は縁日で良いと思うっスけど?」
黄瀬の言葉に女子生徒からは「え〜」「でも〜」「勿体ないし」と不服そうな言葉がもれる。
黄瀬は「あれ?おかしいっス……」と意外そうに呟いた。
大方、自身が【縁日】を推せば女子生徒も【縁日】に賛同してくれるとふんでいたのだ。
当てが外れて首を傾げている黄瀬と飽きてお菓子を食べ始める紫原の二人を見て白島は困った様に笑う。
確かに普段であれば黄瀬の意見に女子生徒達は反発する事はないだろうが、今回は特例である。
【アフターヌーンティーの喫茶室】を推す女子生徒達は、この黄瀬涼太というイケメンモデルに対しどうやって【アフターヌーンティーの喫茶室】の為に用意した衣装を着せるかと躍起になっているのだから。
女子生徒達の思惑を知っている白島は何とも言えず苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
女子生徒達が【アフターヌーンティーの喫茶室】の衣装を諦めるとは思えないし、かと言って調理室は使えない。
【縁日】にしようにも黄瀬に衣装を着せたい女子生徒はただの【縁日】では納得してくれないのだ。
ならば、妥協案は一つしかない。
『はい』
「はい、白島さん」
挙手をした白島にクラスの視線が集まる。
『皆さんがせっかく用意して下さったのに使わないのは勿体ないですから、そのお衣装で縁日の接客をする。
では駄目、ですか?』
白島の提案にクラスの女子生徒達は色めき立ち大いに賛成した。
しかし中には女子生徒が先走って用意した衣装を何故着なくてはならないのかと不満をもらす男子生徒もいた。
が、その言葉にシュンとする白島と、彼女の背後から文句を言った男子生徒に対して無言の圧力をかける紫原、この案を否定しても解決策のない状況の3点セットに男子生徒も賛成せざるを得ない。
こうして帝光中学2年5組の学園祭の出し物は無事【縁日】に決定したのである。
『黄瀬くんは……やっぱりカッコイイんだね』
「えーどこがー?黄瀬ちんがカッコイイとか〜ときちん趣味悪いし!」
ソワソワとする女子生徒達を見て白島は何気なく思っていた事を口にする。
白島にしてみれば何気無い一言ではあったが、紫原はその一言に口を尖らせて不服そうに食べ終えたお菓子の袋をぐしゃりと握り潰した。
「ちょっ!?紫っち酷くねっ!?白っち!紫っちにもっと言ってやって欲しいっス!」と聞こえてくる黄瀬の声は無視をする。
『えっ!?私、黄瀬くんは綺麗な顔立ちしてると思うんだけど』
握り潰した袋を受け取り、くしゃくしゃになった袋を綺麗に伸ばし畳みながら白島は紫原を見た。
紫原は頬杖をつきながら彼女を見つめていて、気のせいかさらに機嫌が悪くなった様に感じる。
『でも、私。
黄瀬くんよりあっくんの方がカッコイイと思ってたのにな、趣味悪いのか……』
紫原の刺す様な視線に思わず目をそらし、綺麗に畳終えたお菓子の袋を見てボソリと呟く。
そんな白島の呟きを聞き「んーなら、いーよ」と鋭い視線から一転しふわりと笑うと新しいお菓子を開け食べ始めた。
『えっ?』と今度は彼の急激な変化に目を丸くして白島が紫原を見つめる番だった。
「黄瀬ちん良かったね〜ときちんがカッコイイて〜」
「えっ!?ちょっ、紫っち!さっきと言ってる事なんか違くないっスか!?」
「えーそうだっけ〜?どうでもいーじゃん、別にー」
「全然良くないっス!!」
(……あっくんも容姿、カッコイイって言われたいんだ)
紫原と黄瀬のやり取りを聞きながら白島は幼馴染みである紫原の一面に驚いた。
花より団子タイプだと思っていたのだが、どうやら認識を改める必要がある様だ。
(あっくんに彼女とか出来たら……もう一緒に帰れないよね)
いつか訪れるであろう未来を想像し落ち込むが、今落ち込んでいても仕方がない。
(その時までは……あっくんとの思い出、いっぱい作っておきたいな)
暗い気持ちを払う様に思考を学園祭へと向ける。
彼女達が意地でも黄瀬くんに着せたいお衣装とはどんな物なのだろうか?とまだ見ぬ衣装に思いを馳せた。
きっとキラキラしてるんだろうなと、クスリと笑う。
しかし、白島は二つの思い違いをしていた。
一つ目は女子生徒達は【黄瀬だけ】に衣装を着せたがっているのだ、と思っていて【黄瀬だけ】では無いと言う事に気づくのは暫く後の衣装合わせの時であり、二つ目は紫原の意外な一面についての思い違いに気がつくのは学園祭よりずっーと後の事である。