審神者、監督生になる。
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「——」
「長谷部、あと三十分……たったら起こして……」
もう朝らしい。でも、主はまだ寝ていたい。
「そんなふうにいつまでもゴロゴロしてると永遠に起きられなくなっちまうよ」
「俺たちみたいにね! イーッヒッヒッ!」
「「ふぎゃっ⁉︎」」
不穏な言葉を聞きグリムと共に飛び起きる。そうだった、ここは本丸ではないのだ。
入学式の後、私は本丸に帰る為に闇の鏡の前に立った。結論からいえば私は帰れなかったのだが元の世界、本丸への帰り方がわかるまで学園長いわく趣のある建物、オンボロ寮に滞在する事を許された。
オンボロ寮の一室でグリムと共に眠っていたのだが、この寮は問題だらけである。寝る前に掃除をしたのだがまったく綺麗になった気がしない。雨漏り、雲の巣、塵埃、軋む床、剥がれた壁紙……あの学園長許すまじ、誘拐され、本丸には戻れず、ボロ屋敷に放り込まれるなんてありえない。文句をいう前に学園長は早々と帰っていった。
そしてその後すぐに私はグリムと再会をはたしたのだが、学校からつまみ出されたグリムはまた懲りずに学校へ侵入したようで、雨宿りにこのオンボロ寮へ立ち寄ったところを程よく学園長にこのオンボロ寮に押し込められた私と再会したという流れである。
ボロいだけの建物だったらまだよかった。このオンボロ寮には出るのだ……私の天敵である幽霊、ゴーストが。どうやらこのゴースト達を怖がって寮から人が居なくなったらしい。ゴースト達がそういっていたから間違いない。そのゴースト達をグリムと共に追い払った。グリムの炎がゴーストに有効なのは驚く、魔法だからゴーストにも有効なのかもしれない。
ゴーストを追っ払った後、夕食を持ってきた学園長にその事を話したまではいいが、そこから雲行きが怪しくなってきた。働かざる者食うべからずとグリムと二人一組の雑用係に任命されたのだ。雑務の代わりに私は食事や元の世界に帰る為の情報収集や学習の為に図書館も利用できるようにしてくれるらしい……いやいや、おかしい話だ。
学園長、貴方はこの学校の責任者として学校の手違いで連れて来られた私を、責任を持って元の世界に返す義務があるはずだ。なければ困る、私が。なぜ、私が帰り方を探さねばならんのだ。私が自力で帰り方を探すとしても図書館ぐらい無償で提供してもいいレベルじゃないのか。
グリムにとっては追い出されずに学ぶ事ができるのだから、条件はいいはずだ。渋々ながらも受け入れていたからやっぱりこの学校に通いたい気持ちはあるのだろう。
グリムが受け入れれば私が受け入れないわけにはいかない。グリムがいなければ私はゴースト達が出るオンボロ寮で生活する事はできないのだから。
「おはようございます、二人とも。よく眠れましたか?」
「ベッドに寝そべったら底が抜けてびっくりしたんだゾ! どんだけオンボロのまま放置してたんだ? 朝もゴーストに起こされるし最悪なんだゾ!」
グリムと連携してゴースト達を追い出した後、学園長がオンボロ寮に来た。こいつの笑顔を見ただけで腹の底から怒りが湧き出てくる。本来ならゴーストではなく長谷部に起こされるはずだったのに。光忠達が作った美味しい食事もないなんて地獄だ。そんな地獄に突き落とした学園長を私は恨まずにはいられない。
「さて、そんなわけで本日のお仕事についてお話があります」
私の恨みを感じとったのか学園長は仕事の話をし始める。正門から図書館までの清掃を与えられた。グリムが問題を起こさないように見張っていろとお言葉もいただいたことだし、仕事を始めるとしよう。不本意であったとしても与えられた仕事はしっかりとしないとな。
ぶつぶつと文句をいうグリムを連れメインストリートへ向かう。とりあえず昼飯の為に頑張ろうなグリム。
「ここがメインストリートみたいだね」
「ふわぁ〜……スゲーんだゾ。昨日はよく見てなかったけど、この石像は誰だ? 七つあるけど、なんかみんなコワイ顔。 このおばちゃんなんか、特に偉そうなんだゾ」
掃除道具を持って指定された場所に来た。そこに個性の溢れる石像が並んでいる。並んでいる七つの石像にはこれいって統一性が感じられない。女性の石像、男の石像、動物に人と蛸の半人の石像まである。石像になるぐらいなのだからこの学校に所縁のある人物なのか、何か偉大な事を成し遂げた人物達なのだろうか。
「ハートの女王を知らねーの?」
「ハートの女王? 偉い人なのか?」
グリムと二人で石像を眺めていると、顔にハートのペイントをした男子生徒に声をかけられる。生徒の口ぶりからここに通う生徒は知っていて当然の人物なのだろう。グリムと私の知識は同レベルなのでは?
「昔、薔薇の迷宮に住んでた女王だよ。規律を重んじる厳格な人柄で、トランプ兵の行進も薔薇の花の色も一切乱れを許さない。マッド奴らばっかりの国なのに誰もが彼女には絶対服従。なんでかって? 規律違反は即打ち首だったから!」
「こ、こえーんだゾ!」
「なるほど、恐怖政治か」
「クールじゃん! オレは好き。だって、優しいだけの女王なんてみんな従わないだろ?」
「確かに、リーダーは強いほうがいいんだぞっていうか。オマエは誰だ?」
「オレはエース。今日からピカピカの一年生。どーぞヨロシク」
エースの第一印象は人当たりのいい好青年だ。石像を不思議そうに眺めていた私達にわざわざ声をかけてくれたのだろうか。そうだとしたら良い人である。グリムがエースに自己紹介をしている。私を紹介する時に冴えない子分といっていたのだが、お前の子分になったつもりはないし冴えなくて悪かったな。
「グリム、私はお前の子分じゃないがな。ま、よろしくエース」
「なあなあ、エース。それじゃあっちの——」
グリムがエースに石像の人物がどのような人物だったのかを聞き始める。その問いにエースも答えてくれるようだ。私もその説明を覚える事にする。帰り方がわかるまでこの場所で過ごす事になるのだ、こちらの知識を知っておいて損はない筈だ。
石像の人物紹介を終えてエース石像を見ながら「クールだよな〜」と呟いた。そして振り返ったエースの顔はニヤリと意地悪く笑っていた。
「……どっかの狸と違って」
うん、この男。良い人ではない。