これが私の本丸です。
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「終わったぁぁぁ!」
「主、お疲れ様でした」
長谷部に書類を預け背伸びをし、椅子から立ち上がる。椅子、正しくは椅子の代わりをしていた亀甲の口から興奮しながらも残念そうな声がもれた。側から見たら屈辱的なこの行動が、亀甲にとってはご褒美になるのだからマゾヒズムとはなかなかに面白いものである。
「大将終わったみたいだな。みんな待ってるぜ、いくか?」
「あー了解。自業自得だし、腹括っていくしかないかな」
図ったように呼び出しにきた薬研と共に長谷部、小狐丸、亀甲、巴形を引き連れ大広間へと向かう。
大広彼間からは賑やかな話し声が聞こえてきた。その賑やかな話の中に「主」「帰還」という言葉が多く含まれていて、私はなんとも居た堪れない気持ちになる。
この二年間、お勤めでやむなく本丸を離れていたならまだしも、私用——それも惚れたキャラクターを推す為だけに二年間も本丸を留守にしたのだから、主としての威厳なんてものは無い。駄目刀ならぬ駄目主である。
私達が大広間へ入る時には、先ほどまで騒がしかったのが嘘のように静まり返っていた。
もう今すぐにでも、部屋に引き返したくなるほどの視線が突き刺さる。
私と共に後からきた彼等も己の席に座ったのを確認して口を開く。
「みんなただいま、二年間も本丸を不在にして悪かった。こんな主だけど、また私に力を貸して欲しい」
「あなたが俺達の主だ。俺達の力は主の為にあるのだから、力をかすのは当然本当だよ」
「そうだぜ、大将」
「蜂須賀、薬研……ありがとう」
「主のご帰還を本丸一同、心よりお待ちしておりました」
長谷部の言葉と共に大広間にいる刀剣男士が頭を下げた。乱れのないその動きに思わず、お〜と声がもれそうになったのを堪える。この時ぐらいは主としての威厳を保たなければならない。
そして、頭を上げた彼等を見渡す。こんのすけと目を合わせ頷き合う。政府に送る形式的な報告はこんなもんで充分だろう。
「この本丸の主である私が帰って来たぞ、お前ら今日は宴だ! 飲め! 騒げ! 全力でな‼︎」
「「「お——‼︎」」」
立ち上がり力一杯拳を突き上げる。ノリのよい者や短刀達が同じように返してくれるのがなんとも心地いい。
その合図と共に厨《くりや》当番と各部隊から三四名の者、酒豪達は大広間を出て行った。料理や酒が運ばれてくるまでに、大広間に残った者達でちゃぶ台を用意する。
この本丸は普段食堂で食事をするのだが、宴や行事ごとの時には大広間で食事をする事になっている。
私と近侍が使用する一卓、各部隊で使用する為に十五卓、あと余分に四卓ほど用意して置く。
あっという間に大広間の準備も終わり、料理が運ばれてくるまでに一度、長谷部と自室へ荷物を取りに戻る。取りに行くものは、ささやかながらお詫びも兼ねたお土産である。
お酒やジュース、つまみにお菓子を長谷部にも手伝ってもらいながら大広間に戻ると、すでに料理が運び込まれていた。
「久しぶりのマイ本丸飯、匂いだけでも既に美味い! やっぱり本丸の飯はレベルが高いな。冷静に考えてみると二年間もこの飯を食いっぱぐれていたとは……私にとって大きな損失なのでは⁉︎」
「主にそういってもらえるなんて、僕達も腕によりをかけた甲斐があったよ。さぁ、主冷めないうちに食べ始めようか」
光忠が嬉しそうに笑うと私を席へと誘導する。彼、燭台切光忠はこの本丸の厨当番筆頭である。ちなみに筆頭補佐は歌仙兼定と北谷菜切の二振りだ。
荷物を使ってないちゃぶ台にのせ、用意されたコップを手に取り、軽く咳払いをする。
みんなを見渡す、準備はできたようだ。
「積もる話もあるけど、まずはこの美味い食事をいただくとしようか、乾杯!」
「「「乾杯‼︎」」」
用意されたコップを手に乾杯の挨拶をする。
乾杯の挨拶を終えると席につき二年間ぶりのご馳走にありつく、やっぱり本丸飯うまいの一言につきる。
「長谷部私の世話焼きよりも、もっと宴を楽しんだ方がいいと思うぞ」
「主、俺はもう充分に楽しんでますよ」
「楽しんでるって……ただ私の為に料理を取り分けてるだけだろ?」
「ええ、俺にとって主のお役に立てる事以上の喜びはありませんから」
いい笑顔でそんな事を言われてしまえば返す言葉もなく、ここまでの好意を出されると恥ずかしくなる。
刀剣男士は比較的主に対して甘いと思うのだが、このへし切長谷部は主を悶え殺す言葉を多くするように感じる。
心中で私は主、長谷部は配下、神と人間と繰り返す。
「お前は忠犬過ぎ」
「ええ、俺はあなたの為の忠犬ですから。お好きでしょう? 犬」
「……嫌いじゃない」
長谷部、その顔は忠犬のするべき顔ではない。忠義の下に見え隠れする熱っぽい何か、二年間留守にした罰なのだろうか、隠す気がなくなっている。
やめろ長谷部、主は恋人いない歴歳の数の人間なんだ。主従関係で色恋沙汰など拗れる以外の何ものでもないだろう。主従関係の恋愛物なんてフィクションだから面白いのだ。
——それに私は追われるより追いたいんだ‼︎
「……じゃあ、主想いの近侍がゆっくり食事する時間を作るとするか。お土産配りに行ってくるから長谷部は飯食ってて、主命な?」
「……主命とあらば」
長谷部よ、露骨に嫌な顔をしないで欲しい。予想はしてたけどね。