審神者、監督生になる。
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ガタガタと揺れる、体が揺れている。なんとも質の悪い夢である。
私は二年ぶりに本丸に戻り、この一ヶ月ほどいい加減に脳死するのではと思うほどの任務をこなしていた。
私自身が戦場に出陣する訳ではないが、一度に四部隊を各戦場に送り出し、戦況の把握や指示出しなどを一ヶ月も続けていれば、脳が擦り切れるほどに消耗するのも必然だろう。
だが、さすが私の本丸。一ヶ月で二年分の遅れを取り戻したのだ。有能な刀剣男士に恵まれて私は鼻が高い。
だがこれで明日からは通常運転に戻せるのだ。気の利く私の近侍達は、きっと寝坊をさせてくれるはず。
「やべぇ。そろそろ人がきちまうゾ。早いところ制服を……うーん‼︎ この蓋、重たいんだゾ。こうなったら……奥の手だ!」
うるせぇ、私はまだ眠いんだ。二度寝しようとしたその時、青い炎が横切ると同時に今まで暗かった視界が開ける。
「なっ‼︎ 奇襲かっ⁉︎」
「ぎゃーーーー‼︎ オマエ、なんでもう起きてるんだ⁉︎」
驚き思わず飛び起きると同時に、目の前にいた生物も私に驚いたように飛び上がった。
灰色で耳からは青い炎が、喋っているし新しい政府の使いだろうか。
それよりもここは何処だ。見渡すと部屋の中には棺が浮かんでいるように見える。私の本丸にこんな厨二心をくすぐる仕掛けは存在していないはずだ。ちょっと、かっこいい。
「目の前のオレ様を無視するとはいい度胸なんだゾ! このグリム様に目を付けられたのが運の尽き! オマエのその服を横すんだゾ!」
「お前政府の使いじゃなくて追い剥ぎなのか」
「政府? なんの事なんばゾ? まあいい、グリム様にたてつくなら……丸焼きだ!」
「やなっこた!」
先ほどの炎はこの生物が引き起こしたものらしい。ならば、逃げるに限る。よくわからん場所で、謎の生命体に焼死させられるなど私は御免だ。
眠っていた棺を飛び出して、一心不乱に走る。
無我夢中で逃げ込んだ先は図書室だろうか、凄い数の本が収納された本棚と浮遊する本に目を奪われ足を止める。圧巻な光景だ。
「オレ様の鼻から逃げられると思ったか! ニンゲンめ!」
「熱っ⁉︎ ばっ! 本に燃え移ったらどうすんだ⁉︎」
「オレ様には関係ないんだけゾ! それより丸焼きにされたくなかったらその服を——ふぎゃっ⁉︎ 痛ぇゾ! なんだぁこの紐!」
「紐ではありません。愛の鞭です! ああ、やっと見つけました。君、今年の新入生ですよね? ダメじゃありませんか。勝手に扉《ゲート》から出るなんて! それに、まだ手懐けられていない。使い魔の同伴は校則違反ですよ」
「離せ〜! オレ様はこんなヤツの使い魔じゃねぇんだゾ!」
「はいはい、反抗的な使い魔はみんなそう言うんです。少し静かにしていましょうね」
突然現れた黒服の煌びやかな仮面男に、私は何故か説教をされた。謎生物も仮面男に捕まり口を押さえられ、ふがふがともがいている。まったく状況が読めない。
「まったく。勝手に扉を開けて出てきてしまった新入生など前代未聞です!
はぁ……どれだけせっかちさんなんですか。さあさあ、とっくに入学式は始まっていますよ。鏡の間へ行きましょう」
「よく我慢できないね、とは言われますけど……それより扉? 新入生とは?」
「貴方が目覚めたたくさんの扉が並んでいた部屋ですよ。この学園へ入学する生徒は、全てあの扉をくぐってこの学園へやってくるにです。通常、特殊な鍵で扉を開くまでは生徒は目覚めないはずなんですが……」
扉があの棺だとすると、扉をこじ開けたのはあの生物だ。男が抑えている生物を指差し「こいつが炎で蓋を吹っ飛ばしました」と告げる。
「結局元凶は全てこの使い魔のようですね。連れてきたならちゃんと責任持って面倒を見なさい」
「そんな奴は知りません。私のじゃないです」
「まったく、言ってるそばから……おっと! 長話をしている場合じゃありませんでした。早くしないと入学式が終わってしまう。さあさあ、行きますよ」
「すみませんが、ここはどこですか? 入学式って何の事ですか?」
「おや? 君、まだ意識がはっきりしていないんですか? 空間転移魔法の影響で記憶が混乱しているんですかねぇ……まあいいでしょう。よくあることです。では、歩きながら説明して差し上げます私、優しいので」
よくあっちゃまずいだろ……。それに自分で優しいと言ってしまうあたり、この男はヤバイヤツだ。
歩きながら怪しげな男。ではなくディア・クロウリー学園長から説明を聞いた。なんでもここは名門魔法士養成学校で『闇の鏡』に資質を認められると『扉』というなの棺で馬車に乗せれ、この学園に呼ばれるらしい。
私はどうやら眠っているうちにこの学園へ誘拐されたらしい。レベルの高い刀剣男士が多くいるあの本丸から彼等に気付かれないように寝ている私を運び出すなんて、この学園には凄腕の忍者がいるのかも知れない。まあ、忍者ではなく凄腕の魔法使いだろう。魔法学校なわけだし。
そもそも魔法学校なんてものは聞いたことがない。審神者であるのだから霊力はあれど、魔力なんてものは無いのだ。
「貴方のその姿は趣味かなにかですか?」
「趣味? 何の事ですか?」
「……まあ、問題はないでしょう。趣味は人それぞれですからね」
よくわからない質問だ。この黒い厨二心をくすぐる服装の事だろうか? 私の物ではないが好みのデザインではある。
学園長はなぜか仮面越しにもわかるように、哀れむような表情をすると歩くスピードを早める。もうこれ以上聞く気が無いようで、学園長に捕まっている謎生物がもがいている音をBGMに聴きながら私はこの先に始まるであろう入学式が一気に不安になった。
ああ、もう一ヶ月クソ忙しくても構わないから私を本丸に返してもらいたい。あと、誘拐は犯罪だぞ。学園長殿。