才能の行方
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私はアメリカ人の父と日本人の母の間に生を受けた。
父は多忙な人でアメリカと日本を往復していた事もあり、幼少期に父が自宅にいる記憶はほぼないと言っていいだろう。
そんな父から月に一度送られてくる物があった。
それは一枚のDVDだった。
そのDVDはまず父から母への情熱的な愛の囁きから始まり父の近況報告、そしてバスケットボールの試合の映像へ続き最後に私へのメッセージで締めくくられていた。
毎月DVDを観る度に母は困ったように「もーあの人ったら」と笑うのだ。
そんな母を見ながら幼心にも私は父と母は離れて暮らしていたとしても愛し合っているのだなと想うと同時に、バスケットボールというスポーツに興味を惹かれたのを今でも覚える。
初めは自宅にあるバスタオルを丸めボールに見立て映像の中の父がボールを放るタイミングに合わせて投げて遊ぶ程度だったが、数日後父からその年二度目の誕生日プレゼントが送られてきたのだった。
プレゼントの中身は子供用の簡易的なバスケットボールセットと競技用のバスケットボールであった。
今思えば父は私をバスケットボールプレーヤーにしたかったのだろう。
良くも悪くも父の術中にはまった私はその日から暇を作ってはバスケットボールに没頭する日々が始まったのである。
幼少期から周りよりも成長が早く体格的にも恵まれていた事もありそれに輪をかけて身体能力にも優れていた私は自惚れていると言われてしまうかもしれないが、自身には才能があるとことを確信していた。
私はきっとバスケットボールをする為に生まれてきたのだと想った事もあり今でもバスケットボールは私の人生だと思っている。
でもそれ以上にもっとバスケがしたい、バスケが大好きだ。
強い相手と戦いたい、強いチームでバスケがしたい高みがあるのならその高みへ……
そんな想いを抱え私は帝光中学校へと進学した。
バスケットボールの強豪校として有名な帝光中学校、その女子バスケットボール部に私は入部し強豪校と聞いていた通り強いチームでありチームワークも個々の技術力もかなりのものだった。
だけど「足りない」そう感じるのに時間は掛からなかった。
そんな日々を過ごしていた私に男子バスケ部の白金監督から声が掛かった「こちらで練習してみないか」と。
勿論、私は男子バスケ部の公式的な試合には出られない。
在籍は女子バスケ部のままで試合は全て女子バスケ部を優先し、練習時や予定の重ならない非公式の試合時のみ男子バスケ部に行く事になる。
そんな事をして大丈夫なのかと問う私に白金監督は「紙透がこれまで以上の結果を出せば誰も文句は言えん」と笑顔で答えたのだ。
出来るだろう?と副音声が聞こえた気がした私は白金監督への第一印象は凄い事を何事もないように言う恐ろしい人だった。
でも、そんな人が態々声を掛けてくれたのだから何か理由があるはずだ。
「はい、よろしくお願いします白金監督」
言葉と共に私は自然と頭を下げていた。
きっとそれは私の足りない〈なにか〉を今白金監督についていけば見つけられる、そんな気がしたからだ。
きっと後にも先にも私の恩師は白金耕造監督、ただ一人だろう。
帝光中学校は女子バスケ部より男子バスケ部の方が強かった。
それは女子バスケ部が弱い訳ではなく男子バスケ部が強過ぎただけの話。
この場所で練習する事が出来ると知った私は期待と喜びで身を震わせ、そして彼等と対面して衝撃が走った。
まだ開花してはいないが同じ〈香り〉だった。
幼き日に私自身に感じていた、いずれ芽吹く〈才能〉を持つバスケットボールプレーヤー。
私がずっと求めていた〈何か〉は〈才能〉を持つ〈仲間〉なのだ。
きっと彼等こそが私の求めていたーー
「おい」
ーーこの声は……。
「アキラ、起きろ」
ーーそうだった、私の求めていたもの。
「こんなとこで呑気に寝てんじゃねーよ」
ーーそれは
「……君だよ、ナッシュ」
「はぁ?何言って……おい、アキラ寝ぼけてんのか?」
「ありがとうナッシュもう起きたよ」
起き上がり彼を見つめる。
「だだ少し懐かし事を思い出してね……あの時手に入れたくてもがきあがいて、結局手に入れられなかたものの事」
ゆっくりと彼の首筋から左腕の刺青を指でなぞり手を握る。
私の手を握り返してくれる彼に喜びと愛しさが溢れ出す。
「あの日々に全く未練がないと言ったら嘘になるかな」
「で?」
私の言葉に短く不機嫌そうに言葉を返してくる彼にキスをする。
「うん……私の捜し求めてたものはナッシュ、君なんだよ。
だから、この手を離さないで……いたっ」
真面目な話をしている私に彼からデコピンが送られた。
「似合わねぇーんだよ」と意地悪く笑う彼に「酷いな〜真剣だったのに」と返す。
痛みに耐える私に「知るか」と彼は鼻で笑うのだ。
そんな態度とは裏腹に離されることのない手の温もりを感じながら静かに目を閉じる。
彼から贈られる温もりが私の全てなのだと、まぶたの裏に浮かぶのはもう彼等ではなく彼ただ一人だった。
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