ホラバス
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薄暗い教室で彼は目を覚ます。
彼にとってその教室は見知らぬ場所であった。
「っ……あぁ?チッ!……ふざけんな」
彼はその特徴的な眉を寄せ不機嫌をあらわにする。
〈目覚めたら見知らぬ教室にいた〉という非現実的な事態に思わず舌打ちをした。
イライラしていても事態は変わらない、そう思った彼は寝起きの様なぼんやりとした頭で思考を巡らせた。
覚えている最後の記憶はなんだ?
ーー部活帰りだった筈だ。
ーーあいつらは?
すぐさま教室を見渡すと彼のチームメイト達は机に顔を伏せていた。
だが、一人だけ姿が見当たらない。
それは彼の幼馴染み白島兎紀であった。
彼は自身の幼馴染みが一人で勝手に行動しない事を知っている。
だとすれば兎紀は初めからこの場所には居なかった、と考えるべきである。
ーー集団誘拐か?
恨みを買っているだろうこの顔ぶれだけを見るとその可能性もあるだろうが、誘拐なんてリスクの高い報復をしようなんてどんな馬鹿だ。
その可能性を考えたが鼻で笑い、違う可能性を考え始める。
ーーあいつらを起こすか
今は情報が欲しいところだ。
「おい、健次郎起きろ」
「……ぁ…ふぁ〜…花宮か?」
「すぐに気合い入れとけ…ヤマ、起きろ」
「あでっ!!誰だッ!!花宮?殴ってんじゃねーよ…つーかここ何処だよ?」
「知らねーよ、今からそれを調べる。ヤマ、他の奴起こせ」
「お、おう!」
彼、花宮真は始めに瀬戸健次郎へ声をかけた。
瀬戸は大きな欠伸と共に目を覚まし状況も理解せずに花宮に言われた通りに前髪をセットし始める。
それを見ながら次は近くで寝ていた山崎弘の頭をはたいて起こす。
叩かれた山崎は怒りと共に飛び起き叩いた人物を確認すると怒りをおさめ周りを見渡し疑問を口にする。
山崎は花宮からの回答を得ると他に机に伏せているチームメイトを起こしに行った。
「で、花宮、状況は?」
「ああ、知らねー教室に俺達五人が寝ていた、目的や犯人は不明って事ぐらいだな。
健太郎、体調は?」
「少し頭が冴えないが問題はない、すぐに戻る」
「異変があったらすぐに知らせろ、一哉」
「おはよーここの場所が肌寒いって事ぐらいじゃん?後はとくに問題ナシ」
「康次郎」
「問題ない」
「ヤマ」
「問題ねー」
山崎が起こしに行った原一哉と古橋康次郎も加わりその場にいた全員が起きた様で、点呼も兼ねて花宮がメンバーに体調を確認する。
体調面においては特に変わったことはない様だ。
「俺達は部活終わりに体育館を出ようとしていた。
そのあたりから記憶が曖昧になっているーーそして目が覚めたらここに居た」
「あれ?そう言えば兎紀チャンいないじゃん」
「はじめから此処には居なかった……チッ……先ずはこの部屋を調べる。
ヤマ、一哉。健次郎、康次郎で組め、武器になりそうなもの、気になったもの、どんな些細な事でもいい、情報を探せ
あと廊下への扉には触れんな、触るのは出る時だけだ。」
花宮の言葉に従い二人一組になり彼らは行動を始める。
白島の安否を気にしながらも花宮は教室を見渡しその光景を記憶する。
何が後々役に立つかわからない、一つでも多くの情報を持っておく事に越したことはない。
こうして霧崎第一のメンバーは不可解な場所の探索を始めたのである。
見知らぬ場所で目を覚ました霧崎第一のメンバーは不可解な場所、教室の探索を終え外に出る事にした。
あの場所にめぼしい情報は無く、廊下に続く扉にも施錠はされていなかった。
目覚めた時誰一人拘束されていなかった事や施錠されていない扉、割って出られる様なガラス窓、逃げて下さいと言わんばかりに見張りのいない状況、この事を踏まえると俺達を誘拐した者の目的は監禁ではないと花宮は結論をだしたのだった。
「ザキ〜端までダッシュ」
「何で俺が行かなきゃなんねーんだよ!行きたきゃお前が行け!」
「ヤダよ、危ないじゃん」
「はぁ!?ふざけんな!!わかってて人にやらせんじゃねー!!」
「うるせー!静かにしろ!」
素手よりはましという理由でロッカーから拝借してきた箒。
それで廊下の端をさしながら原は山崎に走る事を勧めるが、山崎は当然の事ながらそれを拒否した。
自分で行く様に山崎が言うが危ないのでしないと原は飄々と言い放つと、それを聞いた山崎は原に食って掛かる。
そんな二人を花宮が一喝した。
目覚めた場所から今に至るまでこれと言った危険が無かった事もあり霧崎第一のメンバーも大分緊張感が薄れて来た様で、暗くて視界が悪いが外から射し込む月明かりもあり全く周りが見えない訳でもない。
むしろ薄暗いこの環境下では誘拐されたというより、人気の無い建物に肝試しをしに来ている様な気分になっていた。
そんな気の抜けたテンションの中、外に繋がる場所を目指し歩いていた彼らは程なくして下駄箱を見つける。
周りを見渡し危険が無さそうだと判断した花宮は外に出る為の扉に手を掛けた。
「……チッ」
すんなり空いた扉に花宮は顔をしかめ舌打ちをする。
「正直ー肝試し気分も飽きて来たから、さっさと帰ろうよ」
「あぁ?……ただの肝試しで終われば、いいだろーけどな」
「実質ただの肝試しでしょ?」
犯人の目的が解らない状況に苛立ちが募るばかりの花宮を尻目に原は早くこの建物から出るように催促をする。
花宮も犯人特定より優先すべきは身の安全を確保する事である事は分かっていた。
しかめっ面で原の問いかけに「どーだかな」答えると建物の外に出て行く。
花宮に続き、原、山崎、古橋、瀬戸の四人も建物から脱出する事に成功したのであった。
しかし、建物からから出た瞬間に彼らはその場の異常さに足を止め、周辺を見渡す。
「はぁ?」と誰かが呟いた声を耳にする。
「うっそー……これただの肝試しじゃないじゃん、マジなヤツじゃない?」
「な、なんだよ!!これっ!!」
「月が赤い……?」
「赤と言うよりは赤黒いな」
「ふはっ!どんな自然現象だ」
建物の内部に居た時に見えた月とは違う、真っ赤な月明かりが彼らを照らす。
真っ暗なはずなのに鮮明に遠くまで認識でき、その一方である場所から黒いインクを塗りたくった様に真っ黒になり何も無い黒い世界が広がっている。
混乱する四人とは対照的に笑う花宮は赤黒い月を見上げた。
ここまで非現実的な事が続くと犯人に変な薬でも打たれたかと思う所だ。
「さぁ、どーー」
「花宮?」
月から目線を外した花宮は発した言葉を止め歩き出した。
そんな花宮の様子に四人は首を傾げる、そして花宮が向かっている先を見た。
子供だ、子供が蹲っている。
その子供は泣いているのであろうか顔を拭う様な仕草をしているではないか。
「おいっ!待てよ!花宮っ!!」
「……」
「何?花宮って馬鹿力なわけ?」
「花宮!」
異常なこの場所で、一人で泣いている子供など絶対に関わってはいけないと四人の本能が警告を鳴らす。
制止する山崎を無視して歩き続ける花宮に他のメンバーも花宮の制止にかかるが、力ずくで止めようにも止まらない。
「……どうなってる?」
「クソッ!!ふざけんなッ!!」
「っ!動かない?」
「いい加減にして欲しいんだけどっ!!」
花宮を止めるどころか、古橋、山崎、瀬戸、原の四人は自身の身に起こる異変を驚く事となる、何故か手脚が動かせないのだ。
力を入れようにも指先一本も動かす事が出来ない。
だが、体が動かせずとも口は動かす事ができ動かない体のまま花宮に制止の声をかけ続ける。
しかし彼らの呼びかけも虚しく花宮は振り向きもせず、一歩一歩確実に子供との距離を狭めて行く。
そして子供のそばで止まり、触れようと手を伸ばす。
ーー花宮っ!!
緊迫した状況で花宮を呼ぶ彼らの声は悲鳴にも似た怒鳴り声だった。
ーー花宮っ!!
ーーあぁ?うるせーな…
微睡みの中で花宮は自身を呼ぶ声を聞いていた。
その声の直後に右手に圧力がかかり一体なんなんだと思っていると霞んだ視界が徐々に鮮明となって行く。
「どうやら、大事には至らぬ様だな」
「ーーっ!?」
気がついたら目の前には蹲り泣いている子供と、和服の男に腕を掴まれていた花宮は驚き思わず掴まれていた腕を振り払い後退る。
一方で振り払われた和服の男は「はっはっは」と笑うと花宮の視線と蹲り泣いている子供を遮る様に腕を上げた。
和服の袖が暖簾のようになり花宮の視界は青に染まる。
「そう、身構えなくてもよい……だが、ここは些か人の身に余る。
場所を変えた方がよいだろう」
自身の身に何が起こっているのか分からなかった花宮だったが、男の落ち着いた様子を見て何か情報を聞きだせるのではないかと思ったのか「……はい、そうですね」と即座に猫をかぶる。
「(何してんだ、こいつら)……一体、何かあったんですか?」
彼を止める為に体を張っていた霧崎第一のチームメイトを見つけた花宮はかけた言葉とは裏腹に酷く呆れた顔をしていた。
山崎、原、瀬戸、古橋の四人はが何かを引き止める様な動作のまま止まっている。
不安定なまま静止している姿はアート作品の様にも見えた。
「動けねーんだよっ!!そもそもお前が可笑しくなったのが原因だろーがっ!!」
「俺が?」
「そーそーいきなり歩き出したと思ったら、無視する、止まらない、挙句の果てに俺たち現在進行系で金縛り中、何とかしてよー」
山崎と原の反応に花宮は少し考えた素振りを見せると和服の男を見た。
「金縛り……すみません、何か対処法を知りませんか?」
男は花宮の問いに月の浮かんだ目を細め「はいっ!」と掛け声と共に手を軽く。
音とともに体が自由に動く様になった霧崎第一のメンバーから「おお〜」と喜びの声が上がる、数秒前まで動かなかった事が嘘のようであった。
「(一体なんなんだこいつは……得体が知れねー)失礼ですが……貴方は一体?」
「俺か?俺の名は三日月宗近。
いまは訳あってここで探し物をしているのだが、中々主の様にはみつけられなくてな困っていた所だ」
「三日月、宗近さん……俺は花宮、彼らは俺のチームメイトなんです。
助かりました、ありがとうございます。
あの三日月さん、差し支え無ければその探し物の特徴を教えて貰えますか?
俺たちも三日月さんの探し物を手伝います。
探し物は人出があった方が早く見つかりますよ!」
金縛りから解放された霧崎第一のメンバーは花宮の周囲に集まるが、和服の男、三日月宗近と猫被りで話す花宮を見て余計な口は挟まずに静かに二人の会話を聞く事にした。
「ふむ……それは助かる。
ならば、あの中を探して貰えるか?この場所よりは安全だろう。
俺はこの場所を探し終えたらそちらに向かおう」
「わかりました、三日月さんは何を探しているんですか?」
三日月の指差す場所、それは彼らが出てきた建物であった。
口振りから建物の中も安全ではない事を知り花宮は心中で舌打ちをする。
「ああ、何でも《小さい》《フワフワ》で、《白い》《赤い目》の《可愛い》《友達》らしい」
三日月の探し物の特徴を聞き、5人の脳裏に同一人物が浮かぶ。
猫被りの花宮や、表情の変えない古橋、瀬戸、原とは対象的に山崎は驚いた顔をすると脳裏に浮かんだ人物、花宮の幼馴染みである彼女の名前を口に出そうとした。
馬鹿正直に言葉を発しようとした山崎のとなりにいた原は、流れる様な自然の動きで彼の脇腹を力強くどつく。
脇腹を抱え痛みに耐える山崎に原は「めんごーめんごーぶつかっちゃった」と笑う。
対する山崎は原の行動の意図が読み取れず「はぁっ!?」と怒りを含んだ声を上げる。
一方の古橋、瀬戸の2人は三日月から原と山崎のやり取りが見えないよ様、遮る壁の役目をはたしていた。
「……《小さい》《フワフワ》《白い》《赤い目》《可愛い》《友達》だけですか?
他に詳しい情報は?」
「すまぬが、俺が知っている事はこれだけだ」
「三日月さんの探し物ではないんですね……誰の探し物でをしているんですか?
三日月さんの《主》さんですか?」
「ああ、探し物をしているのは俺の主では無いのだ。
先程いた童の探し物でな……お前達の様な人が何故この様な場所にと思ったのだがこれも縁であろう、よろしくたのむ」
「はい、わかりました」
今の段階でこれ以上聞き出す事がなくなった花宮は三日月に軽く会釈をすると山崎、原、古橋、瀬戸を引き連れ建物に向かって歩き出す。
三日月は5人が建物の中に入るのを見送ると踵を返し黒い世界に溶けていく。
赤黒い月が照らすその世界に残されたのは蹲り泣き噦る子供、ただ一人だけである。
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