ホラバス
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『やっぱり居ない、か……おかしいなー』
つくもは目を閉じ腕を組みしばらく考え込むと、何かを決意したのか目を開け大きく息を吸い込んだ。
『三日月ーー!!出ておいでーー!!今なら僕が三日月のしたい事、何でも「あぁぁるぅぅぅじぃぃぃっ!!!」あ、長谷部が来た』
凄まじい足音と共につくもが言葉を言い終える前に部屋に飛び込んで来たのは、つくもの初期刀であるへし切長谷部だった。
全力で走って来たのであろうへし切長谷部は息を切らして、彼が己が主人を見るにしては珍しく鬼の形相をしている。
「主!!!!貴方というお人はっ!!冗談でもおやめ下さい!!もしあの男にその様な言質を取られでもしたら!!」
『は、長谷部!?ごめん、ごめん!確認のつもりだったんだ』
「確認でも駄目です!もう金輪際しないで下さい!!」
『わ、わかった。もう言わないから』
「……わかっていただけたのなら、結構です」
へし切長谷部の勢いから解放されたつくもは困った様にガリガリと頭をかく。
そして深くため息をつくと天井を見上げ呟いた。
『長谷部には心配かけたけど、これではっきりしたよ。
やっぱり今、この本丸内に三日月が居ないって事が』
「その様ですね……今の主のお言葉を聞いても奴が出てこないという事は」
『さーて、どうするかな……』
今、この本丸では三日月宗近が行方不明となっていた。
三日月宗近はフラフラと何処かに出かけ気付いたら帰って来ているという事案はこれまでも何度かあったのだが、それは本丸の中だけので起きた出来事で本丸外に出て行ってしまったのは初めてでありおおごとであった。
ただでさえこの本丸の主で審神者であるつくもとその刀剣男士は危険視される傾向があり、今の状況を上層部に知られでもしたらこれを機に本丸を潰しに掛かるであろう未来が容易に想像出来てしまう。
迅速かつ内密にこの出来事を処理しなければならない。
事実上つくも達の敵は時間遡行軍や検非違使だけではなかった。
ーー政府に知られてしまう前に。
「三日月の爺さんにだけあんな情熱的な言葉をかける何て少し不平等じゃないか?
なぁ、主?」
「それが主の御心ならば、私は従いますが……」
頭を抱えていたつくものもとに三日月宗近を探していた刀剣男士がやってくる。
鶴丸国永は壁に寄りかかり腕を組みつくもを見つめて微笑んでいるが、目が笑っていなかった。
そして発した言葉とは裏腹に震える己の腕を握りしめつくもから顔を背ける一期一振がそこにいた。
刀剣男士には個体差が存在し、その個体差の多くはその本丸の主である審神者に大きく左右されるものである。
しかしこの本丸に存在する刀剣男士は本来違う主に従っていたもの達である。
この本丸の前の主は物への執着が強い者であった。
そんな主と環境下で過ごした刀剣男士達は通常の個体より執着的な性格をしているものが多い。
『何でもする』などと言う言質を取られた日には今の主従関係が即座に逆転する事は間違いない。
『お疲れ様、鶴丸、一期。
……あーその、ごめん。僕が悪かったんだ、軽はずみな発言だったよ。もう言わないから』
「いや?俺には言ってくれても構わないんだぜ?」
「そうですな、私も主その様に仰って頂けたら、と」
「貴様らっ!!」
今すぐにでも言質を下さいと申し出る鶴丸国永と一期一振にへし切長谷部が食って掛かる。
『長谷部!!ストップ!ストップーー!!みんな!まずは居なくなった三日月を探そう!』
「主、こちらにはいなかった。
探すのもいいのだが俺は主の煎れた茶を飲みたい、三日月を探すのは一休みしてからでもかまわないだろう?」
「主……こちらにも、いませんでした」
『ありがとう鶯丸、江雪……となると残る場所は……あそこかなぁ……』
探し終え戻って来た鶯丸と江雪左文字に労いの言葉をかける。
戻って来て早々に茶を要求する鶯丸にはボトルを渡す、煎れたてではないがつくもが煎れたお茶には変わりない。
つくもが想像する場所は以前の主が使っていた部屋であり、この本丸では曰く付きの部屋である。
目立った危険は無いものの出来る限りあの部屋には近づかない事になっている。
執着の強い元主の思念が何に取り憑いているか全く想像が出来ないからである。
出来れば近付きたくないものであり、三日月宗近が自らあの場所に行くとは考えられなかった。
「はい、ぬしさま。ぬしさまの想像通りかと」
『小狐丸!一人で見に行ったの!?』
「申し訳ありませぬ、ぬしさま……こちらの持ち場にはいなかったのですが、事が起こる場所はあの部屋しかないかと。
この小狐丸、微力ながらぬしさまのお力になれればと思い……」
『ありがとう小狐丸。
でも、君にもしもの事があったら大変だし、もう一人で見に行かないで欲しいんだ』
「ぬしさま……さすがはぬしさまでございまする!私めの身を案じて下さいますとは!!」
「……この狐め……」
『ほら、長谷部も』
「あ、主!?おやめ下さい!」
これ見よがしに擦り寄っていく小狐丸の頭を撫でている主の横で、へし切長谷部は青筋をたて地を這う様な声を出しながら撫でられている小狐丸を睨みつける。
本来つくもは声や感情を荒らげて怒る事はない、それを見越した上で小狐丸はあの部屋を見に行くという行動を起こしていた。
そもそも問題の部屋に入ってはいけない、と規律は無くあくまで暗黙の了解である。
多少の危険も、主に優しく窘められ自然にすり寄り、なおかつ心配して貰えるというオマケ付きがあるこの機を小狐丸が利用しない事は無かったのだ。
主の迷惑になる事を避けるへし切長谷部にとって、意図して自身と正反対の行動をとる小狐丸を心底恨めしく思っていた。
そんな二人の感情を理解しているつくもは小狐丸を撫ででいた手を止めへし切長谷部の頭をワシャワシャと撫でる。
主の行動に驚き、口では否定するものの満更ではないへし切長谷部の表情につくもはクスクスと笑う。
三日月宗近が失踪しているという大事件の中でも、この日常的な風景はつくもにとって掛け替えのないものであった。
だからこそ、この日常風景の中に三日月宗近だけが居ない事がつくもに考えられないのだ。
一通りへし切長谷部を撫で終えたつくもはゴホンと咳払いをすると刀剣男士達に指示をだす。
『よしっ!!各自戦闘準備、準備が終わり次第僕の部屋に集合。
戦闘や想定外の事態も考えられる、よって各自万全の準備をする様に!
集合次第、三日月の捜索並びに救出を行う!じゃあ、解散!』
「はっ!!」
承知の声と同時に刀剣男士達が動き出す。
全員を見送った後、つくもも動き出した。
三日月宗近を見つけ出す為、つくも達の日常を取り戻す為に。