844年
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夜が明け、沈んだ陽が再び顔を覗かせ始める頃。
寝静まった兵士たちが活気で溢れる前に、兵舎を抜け出す影がひとつあった。
アリシアだ。
支給品として手渡された白のシャツと真新しい兵団服を着用しているが、着慣れていないせいで動きがややぎこちない。
「来たか」
そんな彼女を兵舎の前で待ちわびていた影が、椅子代わりにしていた木箱からすっくと立ち上がった。
陽が昇り始めたばかりで辺りはまだ薄暗く、影の主の顔を確認するには心許ない。
だが、相手が誰なのかは声で分かる。
今日からアリシアの監視兼、指導役となるリヴァイだ。
「おはようございます」
「・・・随分としおらしいな。昨日のじゃじゃ馬っぷりはどうした」
「じゃ・・・。・・・お互いの利益を考慮した結果です」
「・・・・・・まあいい」
リヴァイは傍に来たアリシアの前を横切り、肩越しに振り返ると、「ついて来い」とだけ指示を飛ばし、そのまま振り向くことなく歩き始めた。
アリシアも無言でそれに倣い、自身より少しだけ大きな背の後を追いかけた。
前を行くリヴァイが歩みを進める度、彼が身に付けた対巨人兵器が無機質に音を立てる。
――立体機動装置。
本格的に昇り始めた朝陽に照らされて鈍く光るそれは、この組織になくてはならないものだ。
そして、アリシアがこうして朝早くに連れ出された理由でもある。
数週間後に行われるという壁外調査とやらに参加するため、アリシアはそれまでに最低限の扱い方を覚える必要があった。
もしそれが叶わなければ、周りから役立たずのレッテルを貼られ、お役御免となるだろう。
・・・だが、あの男が、たったそれだけで自分を手放すことはないだろうと、アリシアは直感していた。
兵団にとってハイリスクでしかないただの犯罪者を、自らが引き込みに来るぐらいだ、何か別に理由がある気がしてならなかった。
しかし、アリシアはそれが分からずにいる。
エルヴィン・スミス。
彼はアリシアに、一体何を見たのだろう。
「ここだ」
兵舎から少し離れた先にある場所。
そこで立ち止まったリヴァイが示す先には、いかにも立体機動の練習におあつらえ向きそうな木が数本あった。
その足元には芝生が敷き詰められていて、気候の良い季節なら、兵士たちの憩いの場にうってつけだろう。
だが、アリシアにとっては予想外だったようで、彼女は小首を傾げた。
「ハンジという人から、訓練用の森があると聞きましたが・・・」
「そこへ行くには馬がいる。ろくに飛べもしないお前には、これで十分だ。・・・これを使え」
リヴァイが持ち歩いていた大きなトランクケースを地面に降ろし、留め具を外すと、中から鈍い光を放つ立体機動装置が姿を現した。
それは、リヴァイが身に付けているものとそっくりそのまま同じに見えるが、保険の為か、刀身だけ装着されていない。
妥当な判断だと言えよう。
「使い方は分かるな?」
「・・・・・・」
「沈黙は肯定と取るぞ」
まるでこちらの事情を見透かしたような、いや、実際に見透かしているのだろうリヴァイの問いに、アリシアは言葉に詰まった。
・・・・・・バレている、色々と。
「ベルトの着け方といい、どこでその知識を得たかなんざ、この際どうでもいい。要は、お前が使えるか使えないか だ。エルヴィンの見立てによると、ひょっとすると、飛べるんじゃねぇかとも話していたが・・・・・・」
「う・・・」
「どうなんだ」
リヴァイの圧により、アリシアは早くも返答に窮した。
こうなってしまうと、もう、実情を吐くしかなかった。
「木にぶら下がるぐらいなら・・・」
「上等だ。おかげで、教える手間が省ける・・・。そうと決まれば、とっととそいつを着けて、実践に移れ」
「・・・了解」
アリシアは、のそのそと立体機動装置に近寄ると、リヴァイに言われるがまま準備に取り掛かった。
その間、一挙動も見逃さない突き刺さる視線と、ひたすら無言の時間だけが過ぎていき、アリシアがいたたまれなくなったのは言うまでもない。
寝静まった兵士たちが活気で溢れる前に、兵舎を抜け出す影がひとつあった。
アリシアだ。
支給品として手渡された白のシャツと真新しい兵団服を着用しているが、着慣れていないせいで動きがややぎこちない。
「来たか」
そんな彼女を兵舎の前で待ちわびていた影が、椅子代わりにしていた木箱からすっくと立ち上がった。
陽が昇り始めたばかりで辺りはまだ薄暗く、影の主の顔を確認するには心許ない。
だが、相手が誰なのかは声で分かる。
今日からアリシアの監視兼、指導役となるリヴァイだ。
「おはようございます」
「・・・随分としおらしいな。昨日のじゃじゃ馬っぷりはどうした」
「じゃ・・・。・・・お互いの利益を考慮した結果です」
「・・・・・・まあいい」
リヴァイは傍に来たアリシアの前を横切り、肩越しに振り返ると、「ついて来い」とだけ指示を飛ばし、そのまま振り向くことなく歩き始めた。
アリシアも無言でそれに倣い、自身より少しだけ大きな背の後を追いかけた。
前を行くリヴァイが歩みを進める度、彼が身に付けた対巨人兵器が無機質に音を立てる。
――立体機動装置。
本格的に昇り始めた朝陽に照らされて鈍く光るそれは、この組織になくてはならないものだ。
そして、アリシアがこうして朝早くに連れ出された理由でもある。
数週間後に行われるという壁外調査とやらに参加するため、アリシアはそれまでに最低限の扱い方を覚える必要があった。
もしそれが叶わなければ、周りから役立たずのレッテルを貼られ、お役御免となるだろう。
・・・だが、あの男が、たったそれだけで自分を手放すことはないだろうと、アリシアは直感していた。
兵団にとってハイリスクでしかないただの犯罪者を、自らが引き込みに来るぐらいだ、何か別に理由がある気がしてならなかった。
しかし、アリシアはそれが分からずにいる。
エルヴィン・スミス。
彼はアリシアに、一体何を見たのだろう。
「ここだ」
兵舎から少し離れた先にある場所。
そこで立ち止まったリヴァイが示す先には、いかにも立体機動の練習におあつらえ向きそうな木が数本あった。
その足元には芝生が敷き詰められていて、気候の良い季節なら、兵士たちの憩いの場にうってつけだろう。
だが、アリシアにとっては予想外だったようで、彼女は小首を傾げた。
「ハンジという人から、訓練用の森があると聞きましたが・・・」
「そこへ行くには馬がいる。ろくに飛べもしないお前には、これで十分だ。・・・これを使え」
リヴァイが持ち歩いていた大きなトランクケースを地面に降ろし、留め具を外すと、中から鈍い光を放つ立体機動装置が姿を現した。
それは、リヴァイが身に付けているものとそっくりそのまま同じに見えるが、保険の為か、刀身だけ装着されていない。
妥当な判断だと言えよう。
「使い方は分かるな?」
「・・・・・・」
「沈黙は肯定と取るぞ」
まるでこちらの事情を見透かしたような、いや、実際に見透かしているのだろうリヴァイの問いに、アリシアは言葉に詰まった。
・・・・・・バレている、色々と。
「ベルトの着け方といい、どこでその知識を得たかなんざ、この際どうでもいい。要は、お前が
「う・・・」
「どうなんだ」
リヴァイの圧により、アリシアは早くも返答に窮した。
こうなってしまうと、もう、実情を吐くしかなかった。
「木にぶら下がるぐらいなら・・・」
「上等だ。おかげで、教える手間が省ける・・・。そうと決まれば、とっととそいつを着けて、実践に移れ」
「・・・了解」
アリシアは、のそのそと立体機動装置に近寄ると、リヴァイに言われるがまま準備に取り掛かった。
その間、一挙動も見逃さない突き刺さる視線と、ひたすら無言の時間だけが過ぎていき、アリシアがいたたまれなくなったのは言うまでもない。