844年
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アリシア・フェリシスタス、19歳。女。
843年、ある事件を境に失踪。親族はなし。
同時期、シガンシナ区近辺を中心にならず者の刃傷沙汰が増加。
844年の秋にかけてそれは継続され、秋が近づく頃にはより顕著になり、遂には致命傷に近い傷を受けたという者が現れた。
しばらくして、経緯は不明だが、憲兵団の上官が病院送りとなる。
回復まで数か月を要するとのこと。
事態を重く見た憲兵団がアリシア・フェリシスタスの捜索を開始するも、解決までには至らず。
その間、数名の憲兵団が返り討ちに遭い軽傷を負う。
そこから僅か二日後、エルヴィン・スミス分隊長率いる調査兵団数名の手により、アリシア・フェリシスタスの捕縛に成功。
その際、対象はリヴァイ調査兵の手により頭部を負傷。
昏睡状態となり、調査兵団の管轄下において治療、及び、監視を受ける。
監視を始めて二日目の朝、アリシア・フェリシスタスの意識が戻る。
交渉開始。
「・・・とまあ、これまでの経緯としてはこんな感じかな。他に質問ある?」
「いえ・・・今のところは」
「ならよかった。これからやることが山ほどあるからね」
エルヴィンによる取引を終えた後、体力の限界がきたのだろう、与えられた水をひとくち口にしただけで、アリシアはあっさりと深い眠りについた。
そうして日が沈みかけた頃、アリシアが再び目を覚ますと、そこには見知らぬ兵士の姿があった。
その兵士の名は、ハンジ・ゾエ。
彼か彼女かは不明だが、ともかく、いまはこの兵士が監視役だという。
アリシアの治療は看護兵の手によって完了しており、もう一晩休んだら、すぐにでも調査兵として活動を開始しなくてはならないそうだ。
「とはいえ、あなたも酷い目に遭ったもんだねえ」
ベッドの傍にある椅子に腰かけ、プレートに乗っかったチーズの欠片をスプーンの先で突つきながら、ハンジは憐れむような素振りを見せた。
「その額の怪我はリヴァイがやったっていうじゃないか。女の顔に傷をつけるなんて、酷い男だよ」
「・・・まあ、兵士になれば傷なんていくらでもつくから、そのうち気にならなくなるよ」
「それにしてもリヴァイの奴、おっそいなー。クソでも長引いてんのかな。あ、これは彼の持ちネタなんだ」
「アリシアはさ、どうして駐屯兵や憲兵に相談しないで、一年間も逃げ回っていたの?私たち兵士のことを嫌ってるっていう噂があるみたいだけど・・・。・・・何か事情があるんなら、少しでいいから話して欲しいなぁ~、なんて・・・・・・」
「おっかしいなあ。リヴァイやエルヴィンには口を利いてくれたっていうのに、その意思が見られないんだけど・・・。ああ、そうか。おなかいっぱいになったから、眠くなっちゃったかな」
「・・・・・・あの」
「ん?」
アリシアが会話に応えないせいで、ハンジがひたすら独り言を連ねるだけの空間が続いていたが、終わりの見えない一方的な会話にさすがに限界を感じたようで、アリシアが静かに声を上げた。
「見張りとか、もう大丈夫ですから」
「監視の解除を願い出ているのなら、それはできない相談だ。上官からの命令というのもあるけれど、それよりも、兵全体にあなたが不穏分子じゃないということが証明されるまでは、誰かしらが見張りにつくだろう」
経歴が経歴だからね、と、すっかり冷めたシチューをすすりながらハンジは静かに言ってのけた。
「リヴァイだって、ここまで打ち解けるのに時間がかかったもんだ。彼の仲間たちは、そうでもなかったみたいだけど・・・・・・っと、これは余計だったな。いまのは忘れてくれ」
ハンジは失言を誤魔化すように立ち上がると、アリシアが膝に乗せていた空のプレートを搔っ攫い、自分の物と重ねて、そのまま傍にあった机の上へと乱雑に置いた。
そうして椅子に座ると、何事もなかったように微笑んで。
「彼のことも、私たちのことも、これからゆっくりと時間をかけて知っていけばいい。私たちがそうしてきたように」
「・・・・・・」
かけられた言葉こそ優しいが、どこか淋しさが滲んでいるようにもとれるそれに、アリシアは、投げかけようとした疑問を寸でのところで飲み込んだ。
忘れてくれ、そうハンジがわざわざ釘を刺してきたということは、彼——リヴァイにとって触れられたくない話題であることぐらい、容易に想像がついた。
だがこの先、彼らのことを深く知る機会など訪れるだろか。
人となりすら知ることがないまま終わるかもしれないのに?
そう。
あの時、あっさりと、当たり前だった日常が崩れた時のように・・・・・・。
アリシアの瞳に濃い影が宿っていく。
「しっかし、本当に遅いな!」
「!」
突然、大きな声を出したハンジによって、アリシアの意識は強制的に引き戻された。
驚きから肩が大きく揺れたが、そのことにハンジは気づかなかったようだ。
「そろそろ来てもらわないと、先に進めないってのに・・・本当に忘れてないだろうな」
「・・・忘れるわけねぇだろ、てめぇじゃあるまいし」
「おっ、来た来た!もう、待ちくたびれたよ~!」
ハンジの落ち着きのなさが目立ち始めた頃、看護室の扉が鈍い音を立てて開いた。
リヴァイだ。
心なしか、機嫌が少しばかり悪そうにも見える。
「こいつのベッドを手配するのを忘れていた間抜けがいたんでな、その尻拭いをして来てやったところだ」
「それは災難だったね。ありがとう、助かったよ」
「研究にかまけて睡眠を疎かにするからだ。・・・部下が嘆いていたぞ」
「そのための優秀な部下だよ」
「・・・まあいい。それより、そいつはちゃんと動けるんだろうな?」
見下すような姿勢でリヴァイが顎で指した先にいるのは、ベッドで上半身を起こしているアリシアだ。
骨を何本か折ると宣言された時こそ生きた心地がしなかったが、あの時に比べれば、幾分か態度がマシになっただろうか。
ただ、それでも消えることのない威圧感は、恐らく彼の性格によるものなのだろう。
「全身の異常はなし、額の怪我もほっとけば治る。あとはしっかり栄養をとって、体力を戻していけば問題ないってさ」
「そうか。なら、明日から訓練を始めて問題ないな。いつまでもぐうたらさせてやれるほど、調査兵団は暇じゃねぇからな・・・」
カツカツと靴音を立てながら、アリシアがいるベッドまで歩み寄るリヴァイの指先には、鈍く光る小さな鍵が握られていた。
「奴の判断を信じた以上、ごちゃごちゃ言うつもりはねぇ。俺たちがお前にしてやることは一つ・・・」
硬質な音を立てながら、リヴァイの手によってアリシアの手錠が外されていく。
枷を外されている最中は顔を伏せていたが、最後に左足の枷が外されて初めて、アリシアはリヴァイの顔を間近で見つめた。
鋭い瞳と目が合う。
しかし、それはすぐに離れていった。
「てめぇが次の壁外調査で犬死しないよう、立体起動の技術を徹底的に叩き込んでやるだけだ」
843年、ある事件を境に失踪。親族はなし。
同時期、シガンシナ区近辺を中心にならず者の刃傷沙汰が増加。
844年の秋にかけてそれは継続され、秋が近づく頃にはより顕著になり、遂には致命傷に近い傷を受けたという者が現れた。
しばらくして、経緯は不明だが、憲兵団の上官が病院送りとなる。
回復まで数か月を要するとのこと。
事態を重く見た憲兵団がアリシア・フェリシスタスの捜索を開始するも、解決までには至らず。
その間、数名の憲兵団が返り討ちに遭い軽傷を負う。
そこから僅か二日後、エルヴィン・スミス分隊長率いる調査兵団数名の手により、アリシア・フェリシスタスの捕縛に成功。
その際、対象はリヴァイ調査兵の手により頭部を負傷。
昏睡状態となり、調査兵団の管轄下において治療、及び、監視を受ける。
監視を始めて二日目の朝、アリシア・フェリシスタスの意識が戻る。
交渉開始。
「・・・とまあ、これまでの経緯としてはこんな感じかな。他に質問ある?」
「いえ・・・今のところは」
「ならよかった。これからやることが山ほどあるからね」
エルヴィンによる取引を終えた後、体力の限界がきたのだろう、与えられた水をひとくち口にしただけで、アリシアはあっさりと深い眠りについた。
そうして日が沈みかけた頃、アリシアが再び目を覚ますと、そこには見知らぬ兵士の姿があった。
その兵士の名は、ハンジ・ゾエ。
彼か彼女かは不明だが、ともかく、いまはこの兵士が監視役だという。
アリシアの治療は看護兵の手によって完了しており、もう一晩休んだら、すぐにでも調査兵として活動を開始しなくてはならないそうだ。
「とはいえ、あなたも酷い目に遭ったもんだねえ」
ベッドの傍にある椅子に腰かけ、プレートに乗っかったチーズの欠片をスプーンの先で突つきながら、ハンジは憐れむような素振りを見せた。
「その額の怪我はリヴァイがやったっていうじゃないか。女の顔に傷をつけるなんて、酷い男だよ」
「・・・まあ、兵士になれば傷なんていくらでもつくから、そのうち気にならなくなるよ」
「それにしてもリヴァイの奴、おっそいなー。クソでも長引いてんのかな。あ、これは彼の持ちネタなんだ」
「アリシアはさ、どうして駐屯兵や憲兵に相談しないで、一年間も逃げ回っていたの?私たち兵士のことを嫌ってるっていう噂があるみたいだけど・・・。・・・何か事情があるんなら、少しでいいから話して欲しいなぁ~、なんて・・・・・・」
「おっかしいなあ。リヴァイやエルヴィンには口を利いてくれたっていうのに、その意思が見られないんだけど・・・。ああ、そうか。おなかいっぱいになったから、眠くなっちゃったかな」
「・・・・・・あの」
「ん?」
アリシアが会話に応えないせいで、ハンジがひたすら独り言を連ねるだけの空間が続いていたが、終わりの見えない一方的な会話にさすがに限界を感じたようで、アリシアが静かに声を上げた。
「見張りとか、もう大丈夫ですから」
「監視の解除を願い出ているのなら、それはできない相談だ。上官からの命令というのもあるけれど、それよりも、兵全体にあなたが不穏分子じゃないということが証明されるまでは、誰かしらが見張りにつくだろう」
経歴が経歴だからね、と、すっかり冷めたシチューをすすりながらハンジは静かに言ってのけた。
「リヴァイだって、ここまで打ち解けるのに時間がかかったもんだ。彼の仲間たちは、そうでもなかったみたいだけど・・・・・・っと、これは余計だったな。いまのは忘れてくれ」
ハンジは失言を誤魔化すように立ち上がると、アリシアが膝に乗せていた空のプレートを搔っ攫い、自分の物と重ねて、そのまま傍にあった机の上へと乱雑に置いた。
そうして椅子に座ると、何事もなかったように微笑んで。
「彼のことも、私たちのことも、これからゆっくりと時間をかけて知っていけばいい。私たちがそうしてきたように」
「・・・・・・」
かけられた言葉こそ優しいが、どこか淋しさが滲んでいるようにもとれるそれに、アリシアは、投げかけようとした疑問を寸でのところで飲み込んだ。
忘れてくれ、そうハンジがわざわざ釘を刺してきたということは、彼——リヴァイにとって触れられたくない話題であることぐらい、容易に想像がついた。
だがこの先、彼らのことを深く知る機会など訪れるだろか。
人となりすら知ることがないまま終わるかもしれないのに?
そう。
あの時、あっさりと、当たり前だった日常が崩れた時のように・・・・・・。
アリシアの瞳に濃い影が宿っていく。
「しっかし、本当に遅いな!」
「!」
突然、大きな声を出したハンジによって、アリシアの意識は強制的に引き戻された。
驚きから肩が大きく揺れたが、そのことにハンジは気づかなかったようだ。
「そろそろ来てもらわないと、先に進めないってのに・・・本当に忘れてないだろうな」
「・・・忘れるわけねぇだろ、てめぇじゃあるまいし」
「おっ、来た来た!もう、待ちくたびれたよ~!」
ハンジの落ち着きのなさが目立ち始めた頃、看護室の扉が鈍い音を立てて開いた。
リヴァイだ。
心なしか、機嫌が少しばかり悪そうにも見える。
「こいつのベッドを手配するのを忘れていた間抜けがいたんでな、その尻拭いをして来てやったところだ」
「それは災難だったね。ありがとう、助かったよ」
「研究にかまけて睡眠を疎かにするからだ。・・・部下が嘆いていたぞ」
「そのための優秀な部下だよ」
「・・・まあいい。それより、そいつはちゃんと動けるんだろうな?」
見下すような姿勢でリヴァイが顎で指した先にいるのは、ベッドで上半身を起こしているアリシアだ。
骨を何本か折ると宣言された時こそ生きた心地がしなかったが、あの時に比べれば、幾分か態度がマシになっただろうか。
ただ、それでも消えることのない威圧感は、恐らく彼の性格によるものなのだろう。
「全身の異常はなし、額の怪我もほっとけば治る。あとはしっかり栄養をとって、体力を戻していけば問題ないってさ」
「そうか。なら、明日から訓練を始めて問題ないな。いつまでもぐうたらさせてやれるほど、調査兵団は暇じゃねぇからな・・・」
カツカツと靴音を立てながら、アリシアがいるベッドまで歩み寄るリヴァイの指先には、鈍く光る小さな鍵が握られていた。
「奴の判断を信じた以上、ごちゃごちゃ言うつもりはねぇ。俺たちがお前にしてやることは一つ・・・」
硬質な音を立てながら、リヴァイの手によってアリシアの手錠が外されていく。
枷を外されている最中は顔を伏せていたが、最後に左足の枷が外されて初めて、アリシアはリヴァイの顔を間近で見つめた。
鋭い瞳と目が合う。
しかし、それはすぐに離れていった。
「てめぇが次の壁外調査で犬死しないよう、立体起動の技術を徹底的に叩き込んでやるだけだ」