844年
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この壁の中には駐屯兵団、憲兵団、そして調査兵団の三つの兵団が存在している。
それぞれ役割は異なるが、所属に関係なく、彼らは公に心臓を捧げた立派な兵士だ。
そして民間人、果ては人類のため、相手が何であろうとその身を賭して戦うことを誓った者達でもある。
そして、目の前にいるこの二人も例外ではない。
「わたしに、人類のために戦えと」
冗談、とアリシアは吐き捨てるように言葉を返した。
だがその表情には先程よりも不安が色濃く現れており、あと少し突つけば、ぱんっとはぜてしまいそうな緊張感があった。
瞬きひとつしないままアリシアは息を吸い、搾り出すように声を上げた。
「私は兵士じゃない、そんな勝手なことを誰が」
「この処罰を提案したのは私だ。繰り返し言うが、これは決定事項だ。そこに君の意見や意思が一切反映されることはない」
エルヴィンはアリシアの意見をあっさりと遮り、さらに言葉を続けた。
「既に憲兵からの了承も得ている。今もベッドにいる彼はご不満のようだが、これで君が死ぬまで牢獄へ放り込まれる可能性は消えた」
「・・・は?牢獄?なんで」
「心当たりがないとは言わせねぇぞ。思い返してもみろ、てめぇがこれまでしてきた行いを」
アリシアとエルヴィンのやり取りを見守っていたリヴァイが、ここで口を開く。
「結構な刃傷沙汰じゃねえか、危うく死人が出そうになってやがる。しかも、よりによって憲兵の上官まで病院送りにしやがって」
「・・・・・・いいでしょ、まだ生きてるんだから」
「あ?」
「・・・牢獄へぶちこむなら、どうぞお好きに」
鋭い視線に射抜かれてアリシアは一瞬、身を縮こませるが、負けじとリヴァイを睨み返した。
リヴァイは舌打ちをして、「じゃじゃ馬が・・・」と低く呟いた。
「ならアリシア、私と取引をしないか」
取引と聞き、僅かに眉をひそめたのはリヴァイだ。
それは彼にとって随分と既視感のある光景だった。
だが、リヴァイにこの取引を止める理由はない。
「すまないが、君の経歴を少し調べさせて貰った」
「この野郎・・・」
エルヴィンは椅子に腰かけたまま少しだけ前のめりになると、まるで人生を左右するほどの決断をする時のように、ひどく真剣な眼差しでアリシアの瞳を覗き込んだ。
口元だけが小さく弧を描いていて、それが余計にアリシアの神経を逆撫で、悪態までも露呈させた。
「駐屯兵からいくつか情報を提供してもらってね。君は、これまでに何度も刃傷沙汰を起こしているな。病院に搬送された犯人の証言によると、急所を的確に狙うことに躊躇いがないそうじゃないか」
結構なことだ、とエルヴィンは笑む。
「人攫いの相手をすることが多かったようだが、複数人を相手によく無事でいられたものだ。感心するよ。その技量は誰から教わった?」
「・・・・・・」
「無言か。まあいい、大体の見当はついている」
さて、取引の内容はこうだ。
「君を捕えたい賊の後ろ盾にいるのは、恐らく貴族だ。彼らを野放しにしていては、また同じことが繰り返されるだろう。これは壁の中の安全を揺るがしかねない事態だと私は認識している」
「・・・時間が惜しいんでしょう。さっきみたいに、単刀直入に話したらどうなんです」
病み上がりで疲労の気が見られる中、明らかな怒りを滲ませたアリシアが言う。
鎖に繋がれていなければ、体力が戻ってさえいれば、目の前にいるこの男を椅子ごと蹴り飛ばしてやりたいところだ。
ところが、エルヴィンはアリシアの怒りなど気にすることなく、「それもそうだな」と軽く笑ってみせた。
「奴らがいる限り、君の生活は脅かされ続けるだろう」
アリシアは目を細めた。
悔しいが、この男の言う通りだ。
追手だけではない、アリシアがここまで追い込まれた原因である貴族をどうにかしないことには、この狭い壁の中で追われ続ける生活に終わりが訪れることは決してないだろう。
つまりこれこそが、エルヴィンの言う「取引」なのだ。
「アリシア、壁の中での身の安全を保障する見返りとして、君には調査兵団に入って貰いたい」
とんでもなくおかしな話だと、この場に居合わせる者が他にいたなら、誰しもが思ったに違いない。
アリシアだってそうだ。
条件を飲まなければ、憲兵団が管轄する牢獄で惨めに一生を終える。
条件を飲んだとして、壁の中での安全は保障されるが、その先はどうだ?
その、安全だという壁の中からアリシアをわざわざ連れ出し、人類を脅かす存在が群れを成す中へ放り込むと宣言する彼は、おかしさを通り越して、もはやいかれていると評していいぐらいだろう。
どちらを選んでも地獄。
どちらに転んでも地獄。
まるで、酸素が切れたバケツにいる魚のようだ。
「こんなことを言ったところで、すぐには信用できないだろうが、我々は君の味方でありたいと考えている」
どうだか、とアリシアが再度悪態をつこうとしたところで、意外にもエルヴィンの口から面白い台詞が飛び出した。
「奴らに一泡吹かせたくないか」
その一言は、アリシアに火を灯すには十分だった。
アリシアの口端がそっと上がる。
「いいよ、乗ってあげる」
それぞれ役割は異なるが、所属に関係なく、彼らは公に心臓を捧げた立派な兵士だ。
そして民間人、果ては人類のため、相手が何であろうとその身を賭して戦うことを誓った者達でもある。
そして、目の前にいるこの二人も例外ではない。
「わたしに、人類のために戦えと」
冗談、とアリシアは吐き捨てるように言葉を返した。
だがその表情には先程よりも不安が色濃く現れており、あと少し突つけば、ぱんっとはぜてしまいそうな緊張感があった。
瞬きひとつしないままアリシアは息を吸い、搾り出すように声を上げた。
「私は兵士じゃない、そんな勝手なことを誰が」
「この処罰を提案したのは私だ。繰り返し言うが、これは決定事項だ。そこに君の意見や意思が一切反映されることはない」
エルヴィンはアリシアの意見をあっさりと遮り、さらに言葉を続けた。
「既に憲兵からの了承も得ている。今もベッドにいる彼はご不満のようだが、これで君が死ぬまで牢獄へ放り込まれる可能性は消えた」
「・・・は?牢獄?なんで」
「心当たりがないとは言わせねぇぞ。思い返してもみろ、てめぇがこれまでしてきた行いを」
アリシアとエルヴィンのやり取りを見守っていたリヴァイが、ここで口を開く。
「結構な刃傷沙汰じゃねえか、危うく死人が出そうになってやがる。しかも、よりによって憲兵の上官まで病院送りにしやがって」
「・・・・・・いいでしょ、まだ生きてるんだから」
「あ?」
「・・・牢獄へぶちこむなら、どうぞお好きに」
鋭い視線に射抜かれてアリシアは一瞬、身を縮こませるが、負けじとリヴァイを睨み返した。
リヴァイは舌打ちをして、「じゃじゃ馬が・・・」と低く呟いた。
「ならアリシア、私と取引をしないか」
取引と聞き、僅かに眉をひそめたのはリヴァイだ。
それは彼にとって随分と既視感のある光景だった。
だが、リヴァイにこの取引を止める理由はない。
「すまないが、君の経歴を少し調べさせて貰った」
「この野郎・・・」
エルヴィンは椅子に腰かけたまま少しだけ前のめりになると、まるで人生を左右するほどの決断をする時のように、ひどく真剣な眼差しでアリシアの瞳を覗き込んだ。
口元だけが小さく弧を描いていて、それが余計にアリシアの神経を逆撫で、悪態までも露呈させた。
「駐屯兵からいくつか情報を提供してもらってね。君は、これまでに何度も刃傷沙汰を起こしているな。病院に搬送された犯人の証言によると、急所を的確に狙うことに躊躇いがないそうじゃないか」
結構なことだ、とエルヴィンは笑む。
「人攫いの相手をすることが多かったようだが、複数人を相手によく無事でいられたものだ。感心するよ。その技量は誰から教わった?」
「・・・・・・」
「無言か。まあいい、大体の見当はついている」
さて、取引の内容はこうだ。
「君を捕えたい賊の後ろ盾にいるのは、恐らく貴族だ。彼らを野放しにしていては、また同じことが繰り返されるだろう。これは壁の中の安全を揺るがしかねない事態だと私は認識している」
「・・・時間が惜しいんでしょう。さっきみたいに、単刀直入に話したらどうなんです」
病み上がりで疲労の気が見られる中、明らかな怒りを滲ませたアリシアが言う。
鎖に繋がれていなければ、体力が戻ってさえいれば、目の前にいるこの男を椅子ごと蹴り飛ばしてやりたいところだ。
ところが、エルヴィンはアリシアの怒りなど気にすることなく、「それもそうだな」と軽く笑ってみせた。
「奴らがいる限り、君の生活は脅かされ続けるだろう」
アリシアは目を細めた。
悔しいが、この男の言う通りだ。
追手だけではない、アリシアがここまで追い込まれた原因である貴族をどうにかしないことには、この狭い壁の中で追われ続ける生活に終わりが訪れることは決してないだろう。
つまりこれこそが、エルヴィンの言う「取引」なのだ。
「アリシア、壁の中での身の安全を保障する見返りとして、君には調査兵団に入って貰いたい」
とんでもなくおかしな話だと、この場に居合わせる者が他にいたなら、誰しもが思ったに違いない。
アリシアだってそうだ。
条件を飲まなければ、憲兵団が管轄する牢獄で惨めに一生を終える。
条件を飲んだとして、壁の中での安全は保障されるが、その先はどうだ?
その、安全だという壁の中からアリシアをわざわざ連れ出し、人類を脅かす存在が群れを成す中へ放り込むと宣言する彼は、おかしさを通り越して、もはやいかれていると評していいぐらいだろう。
どちらを選んでも地獄。
どちらに転んでも地獄。
まるで、酸素が切れたバケツにいる魚のようだ。
「こんなことを言ったところで、すぐには信用できないだろうが、我々は君の味方でありたいと考えている」
どうだか、とアリシアが再度悪態をつこうとしたところで、意外にもエルヴィンの口から面白い台詞が飛び出した。
「奴らに一泡吹かせたくないか」
その一言は、アリシアに火を灯すには十分だった。
アリシアの口端がそっと上がる。
「いいよ、乗ってあげる」