その光景は地獄だった。
それ以外の表現などなかった。

つい数時間前までは、いつもと変わらない日常が広がっていた場所。
私を家族のように愛してくれた人々。
みんなと過ごしたかけがえのない時間。

すべてが。
そのすべてが。

壊されていた。

私は何もできなかった。
思考停止した頭では、眼下に広がる一方的な虐殺をただ見ることしかできなかった。

私に料理を教えてくれたライアは、家族と向かい合わせに座らされ、体中を刃物で刺され、生きたまま首を切られていた。

外から嫁ぎ、まだみんなと馴染めなかった私に優しくしてくれたミゼルは、見るに堪えないほどに傷つけられ、眼球を潰されていた。

私を本当の娘のように可愛がってくれたエールは、みんなを守ろうと激しく抵抗したが、敵の激しい攻撃によりとめどない血を大地に流していた。

私のお父さんと呼ぶべき人は動いていなかった。父かも分からないほどに傷つけ、痛めつけられた”それ”はただの肉塊と化していた。クルタ族ではないから見せしめに殺されたのだろうか。

そして一緒に遊びたくさん笑い合った、弟のように思っていたパイロは、明らかにいたぶることを目的とした、拷問と呼んでいいほどに痛めつけられていた。

なにもできない。
なにも、できない。

私の家族が叫んでいる。
苦悶の表情を浮かべ、涙を流している。

どうして？
どうしてこうなったの？

その場にへたり込み、身体は震える。
喉はからからに乾き、息が上手く吸えない。

ただ、この目だけが
何もできない私へ罰を与えるように
一生消えない罪を与えるように
この地獄を見せる。

空には赤く染まった月が、不気味に輝いていた。