｢さあ、まずは傷の手当てをしよう。｣

男性に言われるまま、クラピカは椅子に座った。
というのも先ほどの現場からミアとクラピカは、彼の家に案内されたのだ。

しかしミアはこのままでは危ないからと、薬品によって眠らされ、奥のベッドで寝かされている。

日当たりの良いリビングで治療を受けながら
｢あなたは一体…。｣
聞かずにはいられなかった質問をするが、期待したような答えは得られず、
｢私は…、そうですね。ただのしがない木こりとでも言っておきましょう。｣
と微笑みを返されるだけであった。
手際よく処置を施す彼は30代くらいだろうか、亜麻色の髪が白い肌に際立って、絵画のような美しさを感じさせる。
そのさらりとした前髪の奥に覗く青い瞳は、冷たくも綺麗な輝きを放っていた。

｢…さあ、これでもう大丈夫ですよ。｣
｢ありがとうございます。あの、彼女の…、ミアの具合は…？｣
｢ええ、心配は要りません。目立った外傷もないですし、じきに目を覚ますでしょう。｣
ほっとした表情を浮かべるクラピカを見て、柔らかに微笑みながら
｢さあ、もうすぐ日が暮れてしまいます。彼女は私が背負いますから、お家にお帰りなさい。｣
と告げる。

その呼びかけにクラピカの表情が翳る。
｢その……。｣
言葉を濁す様子から、男性は
｢…何か事情があるようですね。差し支えなければ、話せる範囲でお聞きしても？｣
と問いかける。
その寄り添うような温かな声に、不思議と疑いの気持ちは生まれなかった。
視線を落としながら、ぽつりぽつりとクラピカはこれまでの経緯を語り出した。

ーーーー
……
ミアは白い砂浜にいた。
透き通った波が打ち寄せる海辺は静かで、ただ波の音だけが響いていた。

いつもより地面に近い視界から、私は裸足で砂浜を歩いていることが分かる。
両手は見知らぬ男性と女性につながれており、不思議と嫌な感じはせず、むしろ笑顔がこぼれていた。

穏やかな笑い声が聞こえ、二人を見上げると
｢ミア…｣
私を愛おしそうに見つめながら、こちらに笑いかけている。

ーなぜだろう。すごく懐かしい…

心が満たされていくのを感じながら、目を閉じる。

……。

浮かび上がる意識の中で、波の音だけが耳に残った。