短編“未満”小説『光だけに溢れた理想郷へ飛ぶ為に今私は砕けて尚残る光を全て捨てて闇へと堕ちる:2』

【光だけに溢れた理想郷へ飛ぶために、今私は、砕けてなお残る光を全て捨てて闇へと堕ちる ―2.どうしてそれを選んだの会議―】


桜木 真波を殺し、旗見 マサナに重傷を負わせ、ロンナにハティとチアルをデリートさせて、オフィシャルという正義の肩書を捨てた清上院 未彩はDirty Bloodの本部へと”帰って”きていた。
なんとなく抱える疲労は後悔?それとも満足?
靄がかかったように曇った思考の理由を解らないままで、自室だと言われた部屋に入る。
するとそこには、短い黒髪と水色の目をもつ男性が先客として、テーブルの近くに置かれた複数の小さな椅子の中の一つに座っていた。

「あ、お帰り未彩ちゃん。」
「No.02(ナンバーゼロツー)……。」
「満で良いよ。此処は外じゃないから、本名でもあんまり問題なかったりするんだ。」

未彩をDirty Bloodに勧誘した張本人、藤咲 満が居る。
多分、自分を監視するためなのだろうが、満にとってそれは”あくまでも上からの命令”に過ぎないだろう、というのは自意識過剰に入るのだろうか?などと無駄に考えを巡らせながら、未彩は部屋に入り扉を閉めて、パソコンを乗せた机の上にある小さな蛍光灯を点けた。
本当は天井にもっと大きく、明るい蛍光灯も取りつけられているのだが、そんな眩しい物を点ける気分にはどうもなれない。
満はこれで大丈夫だろうか?と少し心配になり視線を向けると、満はニコッと柔らかに笑う。

「僕はそもそも何も点けてないから、心配しないでいいよ。」

そういえば自分がこの部屋に来た時、部屋の明かりは何も無く、満のPETが微かに光っているだけだった。
そう思うと、やはりまだ満と自分は住む世界が違うような、そんな気がしたが、未彩はそれを頭の中だけで静かに否定した。
これから自分もそうなっていく、Dirty Bloodにセカンドキラーの推薦で入った以上、自分が此処でなる者は、なりはてる者は、サードキラーだ。
……Dirty Bloodのことが明るみになってすぐのあの頃、Search=Darknessという殺人鬼――この組織のファーストキラーを間違った者と認識した自分が、満と共にその境地を目指す日が来るなんて。

「大丈夫、未彩ちゃんの選択は正しいんだから。」

疲れた顔で自分だけの世界に沈みはじめていた未彩を、笑顔の満が現実へ引き上げた。
未彩がハッとして満を真っ直ぐ見つめると、満は自分の座っている椅子の隣にある椅子を右手で軽く叩き、ここにおいで、と合図を送ってくる。
なんとなく、そこに座ることすら今までの何かを壊す行為の気がして、未彩の頭はあの時の様に揺れる。
本当にソレが望みか?真波もマサナも居ない場所で、その殺人鬼の隣で、世界を壊す事が本当にお前の――自分の望みなのか?

「未彩。」

今度は肩の上だった、あの聞きなれたプログラムの少女だった、自分のナビのロンナだった。
満とは違い、笑うことも泣くことも、怒ることもしないロンナの声に、ようやく未彩は何かを決意したような固い表情で満の隣に座る。

「じゃあ、あらためて……お帰り、未彩ちゃん。」
「……ただいま、満さん。」

いつも通りの微笑でお帰りと言ってくる満に、未彩は少し悩んだ末、ただいまと返した。
カチャッと軽く音をたたせながらPETをテーブルに置くと、ロンナが今度は机の上に現れる。

「ねぇ未彩ちゃん、今の気分はどう?」

表に居る時と変わらない微笑、そしてふわっと軽いさわやかで優しげな雰囲気を纏ったまま、なかなか凄いことを訊く、それが藤咲 満という人間だ。
自分も熱斗もSearchさえも、この雰囲気に随分騙されていたのだったか……などとぼんやり考えながら、未彩は今の心境を飾らずに語り始める。

「特に、嬉しいということも、悲しいということもありません。いや、どちらも全くないと言ったらそれは嘘なのだとは思いますが……今後は”どうしたら嫌われないのか、どうしたら愛してもらえるのか”考えなくて済むと思うと、なんだか……これでよかったんだ、って……」

遠くを見る……という程この部屋は広くないのだが、それでも未彩は何処か遠くを見るような目で語る。
ずっと、ずっと、光の中で、いや、光の前でただ立ち尽くして、その足下に作った影の中で考えていた事は、主にその二つだった。
明るく元気で悩みのないような笑顔、自分もその中に加わっていた筈だったのに、いつの間にか疎外感を感じるようになったのは何時だったか、もはや思い出せない。
それでも自分は二人を切り捨てられず、二人を愛し、二人の愛を求めた、けれど……

「二人は結局、俺が居ても居なくてもさして影響のない人間だったんです。二人は俺なんて渇望してなかった……それなのに俺は二人という個人を渇望している、その事実に、今まで苦しんできました。」

真波もマサナも、別に自分――未彩が居なくても問題はなかった、自分はただオマケで相手をされていた。
それなのに自分は、真波が居ないだけで、マサナが居ないだけで、二人と少し離れただけで、こんなにも不安になって、愛しいのか憎らしいのか分からなくなってしまうほど、ひどく二人を、二人の愛を渇望していた。
そしてある日、あまりに耐えられなくて、それを少し遠まわしに二人に零してみた。

「そんな俺に二人は言いました、”みんなを大好きなんだよ”と……最初こそ嬉しかった、俺もちゃんと二人に好いて、愛してもらえるのだと期待した、でも……」
「それはただの博愛、それも所詮口先だけ……そうだよね?」

満の先読みに、未彩はテーブルの上に置いた両手を強く握った。
そう、その言葉の後も、真波とマサナは変わらなかった、所詮は、

「はい……俺はそんな風に扱われたかったわけじゃないんです。そんな、その他大勢の中の一つに過ぎない立場じゃなくて、俺を……ちゃんと、清上院 未彩を見て欲しかった。」

二人は変わらず、口だけの博愛を続け、いつしか自分は半端な希望を信じて二人の蜃気楼を追っていた事に、気付いた。
何度も何度も、期待しては裏切られ、裏切られた後に愛の試食だけ再びさせられて、本番なんてありゃしない、何故自分は二人のことが好きなのか、わからなくなる毎日。
それでも二人は口だけの博愛を、そう、みんな大好き、そう、それだけ、その他大勢の中で陳腐な宗教にも満たない愛を受けて、いつしか影だけが腫れ上げるように膨れて、

「もはや全てが疑わしかった、綺麗な理想ほど疑わしかった、マサナと真波だけじゃない、光 熱斗や桜井 メイル、少院 秋斗、ハティにチアル、大山デカオやロックマン、ロール、光野 優斗にログ、それら全て、目障りで、でも、まだ憧れだった……っ……。」

今まで行き場のなく溜まった廃棄物が溢れだしたような、一気に自分の中の汚泥を吐いた未彩の肩が震える。
それはまるで嘔吐物、もしくは放射能物質で、誰もが離れるような、汚くて有害な物。
しかし満は、今もなお震えた声でそれを吐き続ける未彩の肩を右腕で静かに抱いた。

「ずっと、ずっとずっと! 捨てきれなかった! 捨ててしまえば楽になると薄々わかっていたのに……それでも信じたかった、けど、もう……限界なんだ……疲れたんだ……。」
「……もう大丈夫、此処には光か闇か、表か裏か、1か0か、どちらかしかない。彼らのような半端な愛なんて存在しないよ。もう、どう愛されるかなんて考えなくて良い、そんなクズみたいな愛なんて必要ない、あんな世界は嫌っていいんだ。」

満は、まるで昔の自分を見ているような気がして、あの時の自分にかけたかったかもしれない言葉を未彩にかける。
勿論それは愛ではなくて満個人の後悔の破片でしかないのだが、未彩はそれを分かった上で頷く。

――愛ではないことがこんなに気が楽だなんて、愛ではないことを相手から先に証明されてしまえば何も求めなくて済むなんて、あぁ、真波もマサナも本当に意地悪だったんだ……――

半端な愛で弄ぶ人間を、
中身の無い光を崇める人間を、
それを善だと勧める人間を、

「未彩ちゃん、今度から外では”No.03(ナンバーゼロスリー)”って呼んでいいかな?」
「ハイ、勿論です……」

殺しましょう、半端な光。
殺しましょう、嘘吐き人間。
殺しましょう、偽りの愛。

闇だけの世界に、最後の光=希望を見出して。

「俺は、Dirty Bloodの三人目の殺人鬼になります。」

まだ上手く力の入らない涙にぬれた顔で、未彩は笑って見せた。


End.
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