短編“未満”小説『死にたがりの残滓』
【死にたがりの残滓】
泣きながら目を覚ませば、そこはいつもの自分の部屋だった。
時が止まりかけた狭い部屋、少院 秋斗は自分への疑念の中で目を覚ました。
なんとなく、手のひらを見つめてみる。
自殺する夢を見た。
正確には、自殺しようとする夢だった。
でも死にたがりはやめたはずだった。
まだたまに苦しい時はあるけれど、生きたいから死にたいのだと認識して、だから、自分は生きたい。
バサバサになった長い黒髪を軽く手でまとめてベッドから降りる。
机の上にある、数年前から新調していない古くなったパソコンの電源を付けて、着替えもせずに椅子に座る。
今日は誰とも約束は無い、熱斗も未彩も連絡は入れてこない、部屋から出る理由は少ない、家から出る理由は無い。
普通、のハズだった、多分、よく分からないが、それが普通、普通、普通?
あの夢で、目の前には母親と父親が居た。
自分は大きな道路の歩道を歩いていた、とても車道寄りに。
理由は解らない、けれど飛びこんで死にたかった。
でも、怖かった。
いや、気付いてほしかっただけかもしれない、あの頃のように。
少しずつ、少しずつ、車道に近付く私。
数日前に熱斗に向けてメールを出した、返事はまだない。
その数日後には未彩に向けてメールを出した、返事はまだない。
そういえば真波に知らせたいことがあるのだけど、メールを出して良いだろうか?
優斗にもそろそろ話しかけてみたい、ここ数ヶ月ずっと何も出していないから、たまにはいいだろう。
そう思いながらも秋斗は送信ボタンを押す事をためらっている。
少しずつ車道に近付いて、少しずつ歩道を逸れていって、その時振り向いた母が言った。
正確にはもう覚えていないが、たしか、
「構ってほしいだけ」
「死にたければ死ね」
そんな内容だった。
そこにいる、母は、私を、嫌って、いた。
悔しいけれど当たっていて、だから自分はその中で泣いた。
車道を外れながら、泣いた。
そういえば熱斗や未彩には見せたけれど優斗には見せていないものがあったなぁ、などと思いだして、秋斗はそれを保存したファイルを開き、メールに添付する。
旧式のマウスを動かして、一つずつメールの作成画面にドラッグしていく。
しかし、それを見せてどうするつもり?という自問がすぐに頭の中に突き刺さって、自分が何をしたいのかよくわからなくなっていく。
カチカチとボタンの音を聞きながら、秋斗の心臓は鼓動を荒げ、動悸が秋斗を襲う。
怖い。
所詮夢だから死ねないのだけど、その後いつの間にか自分は車道にいた。
やっぱり、死んではいなかった。
少し傷付いたらしい身体を引き摺って泣きながら歩く自分に浴びせられる視線は酷く白いもので、あれは死ぬことをやめた私? それとも、死にたかった私の思い出?
自分が見せたいから、送りたいから送る、それだけでしょう? それだけなの。
そう自分に言い聞かせて、秋斗は送信をクリックする。
多くの添付ファイルを持つメールは数秒の時間を使って送信されたようだ。
そして、そろそろアンチウイルスソフトのアップデート、というか、バージョンを新調しなくてはいけないことを思い出す。
パソコン本体は壊れるまで使ってもいいけれど、こればかりはどうしようもない。
しかし最新のバージョンは今までとタイプが違って、秋斗はなんとなく使う気がしないでいる。
何故昔の私は死にたかったのか、今はそれすらよく分からないはずなのに、何故私は死にたい夢を見たのだろう。
夢なのだから温かい結末があってもいいはずなのに、何故私は白い目で見られたのだろう。
何故私は夢だと気付くことも、自分が死にたくないことも気付けなかったのだろう。
泣きながら目が覚めるなんて、何年ぶりの話だろう。
椅子に座っていることがなんとなく面倒で、秋斗はもう一度ベッドに倒れ込んだ。
狭い部屋で、自分だけの空間で、今日もまた誰かを待つようで、待っていないはずで、わからない、解らない、分からない、ワカラナイ、わからない。
ロンナとSearchに白い目で見られて、熱斗と未彩に温かく慰められて、満に酷く罵倒されて、全部違うはずなのに、全部一緒に信じ切れなくて、自分だけで生きていくと決めた、そのはずなのに……どうしようもない思いに、秋斗は枕に顔をうずめた。
構ってほしいのが私?
一人が好きなのが私?
そんなことすら秋斗は確かめられない。
ロンナのように賢くはなれない、Searchのように無関心にはなれない、熱斗のように明るくはなれない、満のように全てを怨むことはできない……それじゃあ、
――私は、どこへ行くんですか……?――
秋斗の問いに答える者は、いなかった。
それは、秋斗自身が捨ててしまったから。
End.
泣きながら目を覚ませば、そこはいつもの自分の部屋だった。
時が止まりかけた狭い部屋、少院 秋斗は自分への疑念の中で目を覚ました。
なんとなく、手のひらを見つめてみる。
自殺する夢を見た。
正確には、自殺しようとする夢だった。
でも死にたがりはやめたはずだった。
まだたまに苦しい時はあるけれど、生きたいから死にたいのだと認識して、だから、自分は生きたい。
バサバサになった長い黒髪を軽く手でまとめてベッドから降りる。
机の上にある、数年前から新調していない古くなったパソコンの電源を付けて、着替えもせずに椅子に座る。
今日は誰とも約束は無い、熱斗も未彩も連絡は入れてこない、部屋から出る理由は少ない、家から出る理由は無い。
普通、のハズだった、多分、よく分からないが、それが普通、普通、普通?
あの夢で、目の前には母親と父親が居た。
自分は大きな道路の歩道を歩いていた、とても車道寄りに。
理由は解らない、けれど飛びこんで死にたかった。
でも、怖かった。
いや、気付いてほしかっただけかもしれない、あの頃のように。
少しずつ、少しずつ、車道に近付く私。
数日前に熱斗に向けてメールを出した、返事はまだない。
その数日後には未彩に向けてメールを出した、返事はまだない。
そういえば真波に知らせたいことがあるのだけど、メールを出して良いだろうか?
優斗にもそろそろ話しかけてみたい、ここ数ヶ月ずっと何も出していないから、たまにはいいだろう。
そう思いながらも秋斗は送信ボタンを押す事をためらっている。
少しずつ車道に近付いて、少しずつ歩道を逸れていって、その時振り向いた母が言った。
正確にはもう覚えていないが、たしか、
「構ってほしいだけ」
「死にたければ死ね」
そんな内容だった。
そこにいる、母は、私を、嫌って、いた。
悔しいけれど当たっていて、だから自分はその中で泣いた。
車道を外れながら、泣いた。
そういえば熱斗や未彩には見せたけれど優斗には見せていないものがあったなぁ、などと思いだして、秋斗はそれを保存したファイルを開き、メールに添付する。
旧式のマウスを動かして、一つずつメールの作成画面にドラッグしていく。
しかし、それを見せてどうするつもり?という自問がすぐに頭の中に突き刺さって、自分が何をしたいのかよくわからなくなっていく。
カチカチとボタンの音を聞きながら、秋斗の心臓は鼓動を荒げ、動悸が秋斗を襲う。
怖い。
所詮夢だから死ねないのだけど、その後いつの間にか自分は車道にいた。
やっぱり、死んではいなかった。
少し傷付いたらしい身体を引き摺って泣きながら歩く自分に浴びせられる視線は酷く白いもので、あれは死ぬことをやめた私? それとも、死にたかった私の思い出?
自分が見せたいから、送りたいから送る、それだけでしょう? それだけなの。
そう自分に言い聞かせて、秋斗は送信をクリックする。
多くの添付ファイルを持つメールは数秒の時間を使って送信されたようだ。
そして、そろそろアンチウイルスソフトのアップデート、というか、バージョンを新調しなくてはいけないことを思い出す。
パソコン本体は壊れるまで使ってもいいけれど、こればかりはどうしようもない。
しかし最新のバージョンは今までとタイプが違って、秋斗はなんとなく使う気がしないでいる。
何故昔の私は死にたかったのか、今はそれすらよく分からないはずなのに、何故私は死にたい夢を見たのだろう。
夢なのだから温かい結末があってもいいはずなのに、何故私は白い目で見られたのだろう。
何故私は夢だと気付くことも、自分が死にたくないことも気付けなかったのだろう。
泣きながら目が覚めるなんて、何年ぶりの話だろう。
椅子に座っていることがなんとなく面倒で、秋斗はもう一度ベッドに倒れ込んだ。
狭い部屋で、自分だけの空間で、今日もまた誰かを待つようで、待っていないはずで、わからない、解らない、分からない、ワカラナイ、わからない。
ロンナとSearchに白い目で見られて、熱斗と未彩に温かく慰められて、満に酷く罵倒されて、全部違うはずなのに、全部一緒に信じ切れなくて、自分だけで生きていくと決めた、そのはずなのに……どうしようもない思いに、秋斗は枕に顔をうずめた。
構ってほしいのが私?
一人が好きなのが私?
そんなことすら秋斗は確かめられない。
ロンナのように賢くはなれない、Searchのように無関心にはなれない、熱斗のように明るくはなれない、満のように全てを怨むことはできない……それじゃあ、
――私は、どこへ行くんですか……?――
秋斗の問いに答える者は、いなかった。
それは、秋斗自身が捨ててしまったから。
End.
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