Re_そして僕らは嘘を突き通す
そんなロックマンはまだ、それがサーチマンの優しさから来ているものであり、決してロックマンを嘲ったものではないという事に気がつかない。
それはもはや、人によってはこの時点で“ロックマンを説得することは無理だ”と考えて諦めてしまうかもしれない領域だったが、その領域に踏み込んでも尚、サーチマンはロックマンの為に、ロックマンを説得することを諦めようとは思わなかった。
だから努めて冷静に、感情論のぶつけあいにならなくて済むように、自分にできる限りの最大限の穏やかさを込めて、言葉を続ける。
「お前は、ロール達が同性愛を非難したあの時、その非難に対して感じた不快感から衝動的に、今のお前と俺の関係をバラしてしまおうとしただろう?」
「……それが?」
ロックマンの表情は、ロール達の同性愛への否定的意見や、サーチマンに手を振り払われた事を思い出したせいなのか、僅かに険しさが増していた。
サーチマンの両肩を握る両手にも相当な力が入っている。
苛立ちが隠せていない様子のロックマンを見て、サーチマンはロックマンに苦い思いをさせている事に関して密かに胸を痛めた。
サーチマンは別に、ロックマンを怒らせたくて嘘を推奨している訳ではないのだから当たり前の事か。
そうして胸を痛めても、それでも最後には自分の考え――ロックマンを守りたいという思いは伝わるはずだと信じて、サーチマンはロックマンの問いに答える。
「そんな一瞬の非難、それも間接的な非難でも、人間で言う頭に血が上った状態になる程傷付いてしまうというのに、いつどんな時でも嫌悪の視線で見られ、陰口を叩かれるようになったとしたら、しかもそれがそれまで自分が仲間、友達だと思っていた者たちが相手だとしたら……お前は、耐えられるのか?」
その言葉で、ロックマンの脳裏に、つい六時間ほど前のロール達の姿と言動が蘇り始めた。
ロールはハッキリ嫌だと言っていた、ガッツマンもハッキリと変だと言っていた、アイスマンはそもそもあり得ない事だと考えていた、ブルースは気持ち悪い事だと言い捨てた、グライドは言葉を濁しながらも疑いたくなると言ってきた、それら全てがロックマンの中で色を取り戻し、増強されていく。
ロールに嫌がられ、ガッツマンに変だと思われ、アイスマンに好奇の目で見られ、ブルースに気持ち悪いと跳ね除けられ、グライドに苦い顔をされる、そんな未来がロックマンの脳裏に再生されて、ロックマンは急激に息が苦しくなるのを感じた。
サーチマンの肩を掴む両手からも力が抜けていき、目の前の色が判別できなくなるような眩暈と、人間で言う肺に相当するプログラムが握りつぶされるような圧迫感に襲われて呼吸が乱れる。
そして何より、心が痛い、辛い、苦しい。
こんな苦しみが死ぬまで続くなど、自分には到底耐えられない、そう感じたロックマンはしばしの間言葉を失う。
そして過呼吸の発作のような荒い息をなんとか抑え込んで、まだ僅かに眩暈のする状態のまま、それでもサーチマンに視線を合わせると、か細く呟くように言った。
「……じゃあ、どうしろっていうのさ……。」
サーチマンに救いを求めて縋るような視線を向け続けるロックマンの目には涙が溜まっていて、その顔は少し刺激をすれば泣きだしてしまいそうな表情をしている。
その姿はとても弱々しく悲しげで、普段のロックマンからは想像しにくいものであったが、サーチマンはそれをロックマンらしくないとは言わない。
ロックマンも自分も、疑似とはいえど人格を持っているのだ、喜びを感じる時や楽しさを感じる時があれば、悲しみや怒りを感じる時もある、それは決して間違いではない、だから今の悲しげなロックマンも自分の愛するロックマンには違いない。
サーチマンは言葉で答えを返すより先に、自由な両腕をロックマンに向けて伸ばし、その背にまわした。
ロックマンの顔が、泣きだす直前の表情から少し驚いた様子の表情に変わる。
「サーチ、マン?」
まだ目には涙を溜めたまま、ロックマンは少しきょとんとした様子でサーチマンを見詰める。
するとサーチマンは、苦さも哀れみも混ざらない、ロックマンにしか見せない優しい笑みをその顔に浮かべてロックマンを見詰め返してきた。
そして、ロックマンを苦しくない程度に優しく抱きしめたまま、言葉で答えを出す。
「此処でだけ、俺だけの前では、嘘を吐かなくていい。俺達は同じだ、だから、本心から笑って、本心から泣けばいい。俺も、お前だけの前では嘘は吐かない。」
ロックマンはそれまで、サーチマンが呆れや哀れみだけでものを言っていると思っていた為、しばらくの間驚きの隠せていない表情をしていたが、徐々にその言葉と笑顔と抱擁の意味を、サーチマンは本当に自分を大切にしてくれているという事を理解する。
そして僅かに頬を赤らめて、それから嬉しそうな笑顔を見せて目を細めた。
溜まっていた涙が一粒、頬を伝って滑り落ちる。
それは、いくらサーチマンの前では嘘を吐かなくていいとしても、それでも大切な仲間達に嘘を吐かなければいけない悲しみが消えさる事にはならないという事を示しているようにも見えたが、それでもロックマンは嬉しそうに微笑みながら、自分もサーチマンの首の後ろに腕をまわしてサーチマンに抱きついた。
「ありがとう、サーチマン……これからも、ずっと、ずっと一緒にいようね……。」
「あぁ、俺達はこれからも一緒だ。」
愛があれば全ての障害は克服できる、などという絵空事を言う気は、ロックマンには無い。
しかしそれでも、例えばこの秘密と嘘が暴かれる日がきたとして、暴風雨の様に激しい非難に曝される事になったとしても、それでも決してサーチマンから離れない、そんな意思を、覚悟をもって、ロックマンはサーチマンに抱きつく腕の力を強めた。
ロックマンが腕の力を強めてより身体を密着させると、サーチマンはロックマンの背を優しく撫でてくれた。
ネットナビには本来ない筈の体温が薄っすらと伝わってきた気がして、ロックマンは幸せそうに微笑む。
そして二人は、この愛しい相手を守る為にも外ではこれまで通り嘘を吐き続ける事を決意するのであった。
それはもはや、人によってはこの時点で“ロックマンを説得することは無理だ”と考えて諦めてしまうかもしれない領域だったが、その領域に踏み込んでも尚、サーチマンはロックマンの為に、ロックマンを説得することを諦めようとは思わなかった。
だから努めて冷静に、感情論のぶつけあいにならなくて済むように、自分にできる限りの最大限の穏やかさを込めて、言葉を続ける。
「お前は、ロール達が同性愛を非難したあの時、その非難に対して感じた不快感から衝動的に、今のお前と俺の関係をバラしてしまおうとしただろう?」
「……それが?」
ロックマンの表情は、ロール達の同性愛への否定的意見や、サーチマンに手を振り払われた事を思い出したせいなのか、僅かに険しさが増していた。
サーチマンの両肩を握る両手にも相当な力が入っている。
苛立ちが隠せていない様子のロックマンを見て、サーチマンはロックマンに苦い思いをさせている事に関して密かに胸を痛めた。
サーチマンは別に、ロックマンを怒らせたくて嘘を推奨している訳ではないのだから当たり前の事か。
そうして胸を痛めても、それでも最後には自分の考え――ロックマンを守りたいという思いは伝わるはずだと信じて、サーチマンはロックマンの問いに答える。
「そんな一瞬の非難、それも間接的な非難でも、人間で言う頭に血が上った状態になる程傷付いてしまうというのに、いつどんな時でも嫌悪の視線で見られ、陰口を叩かれるようになったとしたら、しかもそれがそれまで自分が仲間、友達だと思っていた者たちが相手だとしたら……お前は、耐えられるのか?」
その言葉で、ロックマンの脳裏に、つい六時間ほど前のロール達の姿と言動が蘇り始めた。
ロールはハッキリ嫌だと言っていた、ガッツマンもハッキリと変だと言っていた、アイスマンはそもそもあり得ない事だと考えていた、ブルースは気持ち悪い事だと言い捨てた、グライドは言葉を濁しながらも疑いたくなると言ってきた、それら全てがロックマンの中で色を取り戻し、増強されていく。
ロールに嫌がられ、ガッツマンに変だと思われ、アイスマンに好奇の目で見られ、ブルースに気持ち悪いと跳ね除けられ、グライドに苦い顔をされる、そんな未来がロックマンの脳裏に再生されて、ロックマンは急激に息が苦しくなるのを感じた。
サーチマンの肩を掴む両手からも力が抜けていき、目の前の色が判別できなくなるような眩暈と、人間で言う肺に相当するプログラムが握りつぶされるような圧迫感に襲われて呼吸が乱れる。
そして何より、心が痛い、辛い、苦しい。
こんな苦しみが死ぬまで続くなど、自分には到底耐えられない、そう感じたロックマンはしばしの間言葉を失う。
そして過呼吸の発作のような荒い息をなんとか抑え込んで、まだ僅かに眩暈のする状態のまま、それでもサーチマンに視線を合わせると、か細く呟くように言った。
「……じゃあ、どうしろっていうのさ……。」
サーチマンに救いを求めて縋るような視線を向け続けるロックマンの目には涙が溜まっていて、その顔は少し刺激をすれば泣きだしてしまいそうな表情をしている。
その姿はとても弱々しく悲しげで、普段のロックマンからは想像しにくいものであったが、サーチマンはそれをロックマンらしくないとは言わない。
ロックマンも自分も、疑似とはいえど人格を持っているのだ、喜びを感じる時や楽しさを感じる時があれば、悲しみや怒りを感じる時もある、それは決して間違いではない、だから今の悲しげなロックマンも自分の愛するロックマンには違いない。
サーチマンは言葉で答えを返すより先に、自由な両腕をロックマンに向けて伸ばし、その背にまわした。
ロックマンの顔が、泣きだす直前の表情から少し驚いた様子の表情に変わる。
「サーチ、マン?」
まだ目には涙を溜めたまま、ロックマンは少しきょとんとした様子でサーチマンを見詰める。
するとサーチマンは、苦さも哀れみも混ざらない、ロックマンにしか見せない優しい笑みをその顔に浮かべてロックマンを見詰め返してきた。
そして、ロックマンを苦しくない程度に優しく抱きしめたまま、言葉で答えを出す。
「此処でだけ、俺だけの前では、嘘を吐かなくていい。俺達は同じだ、だから、本心から笑って、本心から泣けばいい。俺も、お前だけの前では嘘は吐かない。」
ロックマンはそれまで、サーチマンが呆れや哀れみだけでものを言っていると思っていた為、しばらくの間驚きの隠せていない表情をしていたが、徐々にその言葉と笑顔と抱擁の意味を、サーチマンは本当に自分を大切にしてくれているという事を理解する。
そして僅かに頬を赤らめて、それから嬉しそうな笑顔を見せて目を細めた。
溜まっていた涙が一粒、頬を伝って滑り落ちる。
それは、いくらサーチマンの前では嘘を吐かなくていいとしても、それでも大切な仲間達に嘘を吐かなければいけない悲しみが消えさる事にはならないという事を示しているようにも見えたが、それでもロックマンは嬉しそうに微笑みながら、自分もサーチマンの首の後ろに腕をまわしてサーチマンに抱きついた。
「ありがとう、サーチマン……これからも、ずっと、ずっと一緒にいようね……。」
「あぁ、俺達はこれからも一緒だ。」
愛があれば全ての障害は克服できる、などという絵空事を言う気は、ロックマンには無い。
しかしそれでも、例えばこの秘密と嘘が暴かれる日がきたとして、暴風雨の様に激しい非難に曝される事になったとしても、それでも決してサーチマンから離れない、そんな意思を、覚悟をもって、ロックマンはサーチマンに抱きつく腕の力を強めた。
ロックマンが腕の力を強めてより身体を密着させると、サーチマンはロックマンの背を優しく撫でてくれた。
ネットナビには本来ない筈の体温が薄っすらと伝わってきた気がして、ロックマンは幸せそうに微笑む。
そして二人は、この愛しい相手を守る為にも外ではこれまで通り嘘を吐き続ける事を決意するのであった。