Re_そして僕らは嘘を突き通す
そうして今度はサーチマンがその顔に自嘲の笑みを浮かべながら視線を床に落としていると、それまでサーチマンの背中に身体を預けていたロックマンがサーチマンの背中から離れた。
重ねた手が、するりと抜けていく。
そして立ちあがったロックマンはサーチマンの背後から正面へ移動してその両足に跨るようにして床に膝をつき、今度は正面から両肩を掴むと、強い口調で言った。
「させない、そんな事は絶対に、誰にもさせない!!」
ロックマンの強い決意と、いつか来るかもしれない未来への僅かな怯えを含んだ声が荒廃したこの空間に木霊する。
肩を握る両手は先ほどよりも強い力を発揮していて、正直少し痛い。
サーチマンは視線を床から持ち上げ、ロックマンに向けた。
ロックマンは何処か苦く、怒っているようで泣いている様な、一言で言うならば、必死、の二文字がピッタリと当てはまりそうな顔をしてサーチマンを見詰めている。
そして真っ直ぐサーチマンの両目を見詰めたまま、ロックマンは叫ぶように捲し立てた。
「この嘘が暴かれる日が来るとしても、僕は君と別れるつもりはないよ!! 熱斗くんが反対したって、ライカが反対したって、ロールちゃん達が反対したって、絶対に!!」
そんなロックマンの決意は一見、鋼鉄のように固く感じられるかもしれない。
しかしサーチマンは知っている、この決意は確かに固いが、その固さは鋼鉄のそれではなく、ガラスのように儚さも併せ持ったそれであると。
色々な事を仕方ない事として割り切れないロックマンの事である、実際に熱斗達やロール達にこの秘密と嘘が暴かれる日が訪れて、熱斗達がロックマンとサーチマンの関係を異常な物と考え非難すれば、その心は純粋故に長い長い苦しみを味わって、その末に粉々に砕け散りかねない、サーチマンはそう考えている。
だから、サーチマンはロックマンが今この瞬間の自分の想いを捲し立てるのを静かに聴き終えて、そこから更に数秒の沈黙を挟み、どうすればロックマンにこの嘘を吐き通す事を認めさせられるのか考えてから、なるべく穏やかに口を開く。
「ロックマン、お前が何時でも誰にでも正直でいたいと思うその気持ちはよくわかった。だが……お前はまだ、同性愛がどれだけ大変で、壁の多いものなのかを知らないようだな。」
無用な嘘は吐きたくない、というロックマンの思いを尊重しながらも、サーチマンはあえて、それでも嘘を吐かなければこの先もこうしている事は叶わなくなるであろう、と暗に言い続けた。
ロックマンはそれを、自分もサーチマンも同じ同性愛者なのに、サーチマンはサーチマンだけがなんでも知っている様な顔をしている、と思い苛立つ。
だからロックマンは、サーチマンの目を真っ直ぐ見詰めたまま、声を荒らげて、
「そんな事無い! 僕だって知ってるよ! だって、ロールちゃん達が非難したのを見ていたのは君だけじゃなくて、僕も同じなんだから!」
と言って、元々大して無かったサーチマンと自分の顔の距離を更に縮めた。
それは、できるだけ威圧的に、自分が強い意志を持っているのだという事を演出し、サーチマンにこれ以上反論の隙を与えない為の行動だっただろう。
だがサーチマンはそんなロックマンの行動に怯むことなく、ロックマンの黄緑色の両目を自分の赤い両目で冷静に見詰め返し、しばしの沈黙を挟んでから再び穏やかな声で口を開く。
「……それなら尚更、どうして嘘を吐く必要があるのか、分かるはずだろう?」
そう言ったサーチマンの視線はロックマンを責めると言うよりは哀れんでいて、ロックマンはその哀れみに更なる苛立ちと反発を感じた。
どうしてサーチマンはそんな目で自分を見てくるのだろう、自分は何故サーチマンに哀れまれているのだろう、自分は、ただひたすら正しい事だけを言ってきた、その筈なのに、と、頭の中が徐々に疑問符で埋め尽くされていく。
「わかんない……わかんないよ……。」
気が付けばロックマンは声の強さを失い、また泣き出しそうな顔になってサーチマンに縋るような体勢になっていた。
そしてロックマンは、サーチマンの哀れみに満ちた視線を見ていたくなかったのか、サーチマンに縋るような体勢のまま項垂れて、サーチマンの胸の緑色のアーマーの自分のヘルメットの額の部分を当てる。
もしも二人が人間なら、そしてこのアーマーとヘルメットが薄い洋服であったなら、きっとロックマンにはサーチマンの心音が聞こえたであろう。
しかし実際の所二人はネットナビで心臓など有しておらず、また例え心臓と同じ動きをするプログラムがあったとしても、このアーマーとヘルメット越しの距離ではその存在を音で感知する事などできないだろう。
冷たく厚いガラスを隔てたような、傍にいるのに何処か遠いその僅かな距離感は、すれ違う自分達の意見を物理的に表現しているような気がして、ロックマンは寂しさに表情を歪め、悲しさに目を細めた。
そんなロックマンを見てサーチマンは、これ以上ロックマンに嘘の利点を説くのは酷か、と思ったが、それでも今ロックマンがある程度の納得のもとでこの嘘を、秘密を、守れるようにするのが自分の義務で、責任で、愛情だろう、と考えて、今にも泣きそうなロックマンに対し、あえて冷静な声で尋ねる。
「……ロックマン、お前は、この長すぎるにもほどがあるかもしれないネットナビの一生の中で、ほんの一瞬から始まって死ぬまで続く非難に耐えられるのか?」
ロックマンの悲しみに細められていた目が、急に見開かれた。
そしてロックマンは、目元から力を抜けないままでゆっくり、恐る恐る顔を上げ、サーチマンの表情を見る。
そこに沈み滲む感情はやはり哀れみで、それがある種の呆れから来ているものだと勘違いしたロックマンは、どうしてそんな表情で此方を見るのだと叫びたいのを抑えて、目元から力を抜く代わりに眉間へシワを寄せた。
「……僕が、耐えられないって言いたいの?」
「ああ、そうだ。」
ロックマンが苛立ちを込めた声で問い詰めると、サーチマンは悪びれる様子も無くそれを肯定し、それを聞いたロックマンは大きなショックを受けた。
サーチマンは自分――ロックマンを、そんな弱い存在だと思っていたのか、と思うと、ロックマンは悔しくてたまらない。
同時に、サーチマンの妙に冷静で落ち着いた声が、ロックマンに自分だけが熱くなっているという感覚をもたらし、ロックマンはそれに苛立っていた。
重ねた手が、するりと抜けていく。
そして立ちあがったロックマンはサーチマンの背後から正面へ移動してその両足に跨るようにして床に膝をつき、今度は正面から両肩を掴むと、強い口調で言った。
「させない、そんな事は絶対に、誰にもさせない!!」
ロックマンの強い決意と、いつか来るかもしれない未来への僅かな怯えを含んだ声が荒廃したこの空間に木霊する。
肩を握る両手は先ほどよりも強い力を発揮していて、正直少し痛い。
サーチマンは視線を床から持ち上げ、ロックマンに向けた。
ロックマンは何処か苦く、怒っているようで泣いている様な、一言で言うならば、必死、の二文字がピッタリと当てはまりそうな顔をしてサーチマンを見詰めている。
そして真っ直ぐサーチマンの両目を見詰めたまま、ロックマンは叫ぶように捲し立てた。
「この嘘が暴かれる日が来るとしても、僕は君と別れるつもりはないよ!! 熱斗くんが反対したって、ライカが反対したって、ロールちゃん達が反対したって、絶対に!!」
そんなロックマンの決意は一見、鋼鉄のように固く感じられるかもしれない。
しかしサーチマンは知っている、この決意は確かに固いが、その固さは鋼鉄のそれではなく、ガラスのように儚さも併せ持ったそれであると。
色々な事を仕方ない事として割り切れないロックマンの事である、実際に熱斗達やロール達にこの秘密と嘘が暴かれる日が訪れて、熱斗達がロックマンとサーチマンの関係を異常な物と考え非難すれば、その心は純粋故に長い長い苦しみを味わって、その末に粉々に砕け散りかねない、サーチマンはそう考えている。
だから、サーチマンはロックマンが今この瞬間の自分の想いを捲し立てるのを静かに聴き終えて、そこから更に数秒の沈黙を挟み、どうすればロックマンにこの嘘を吐き通す事を認めさせられるのか考えてから、なるべく穏やかに口を開く。
「ロックマン、お前が何時でも誰にでも正直でいたいと思うその気持ちはよくわかった。だが……お前はまだ、同性愛がどれだけ大変で、壁の多いものなのかを知らないようだな。」
無用な嘘は吐きたくない、というロックマンの思いを尊重しながらも、サーチマンはあえて、それでも嘘を吐かなければこの先もこうしている事は叶わなくなるであろう、と暗に言い続けた。
ロックマンはそれを、自分もサーチマンも同じ同性愛者なのに、サーチマンはサーチマンだけがなんでも知っている様な顔をしている、と思い苛立つ。
だからロックマンは、サーチマンの目を真っ直ぐ見詰めたまま、声を荒らげて、
「そんな事無い! 僕だって知ってるよ! だって、ロールちゃん達が非難したのを見ていたのは君だけじゃなくて、僕も同じなんだから!」
と言って、元々大して無かったサーチマンと自分の顔の距離を更に縮めた。
それは、できるだけ威圧的に、自分が強い意志を持っているのだという事を演出し、サーチマンにこれ以上反論の隙を与えない為の行動だっただろう。
だがサーチマンはそんなロックマンの行動に怯むことなく、ロックマンの黄緑色の両目を自分の赤い両目で冷静に見詰め返し、しばしの沈黙を挟んでから再び穏やかな声で口を開く。
「……それなら尚更、どうして嘘を吐く必要があるのか、分かるはずだろう?」
そう言ったサーチマンの視線はロックマンを責めると言うよりは哀れんでいて、ロックマンはその哀れみに更なる苛立ちと反発を感じた。
どうしてサーチマンはそんな目で自分を見てくるのだろう、自分は何故サーチマンに哀れまれているのだろう、自分は、ただひたすら正しい事だけを言ってきた、その筈なのに、と、頭の中が徐々に疑問符で埋め尽くされていく。
「わかんない……わかんないよ……。」
気が付けばロックマンは声の強さを失い、また泣き出しそうな顔になってサーチマンに縋るような体勢になっていた。
そしてロックマンは、サーチマンの哀れみに満ちた視線を見ていたくなかったのか、サーチマンに縋るような体勢のまま項垂れて、サーチマンの胸の緑色のアーマーの自分のヘルメットの額の部分を当てる。
もしも二人が人間なら、そしてこのアーマーとヘルメットが薄い洋服であったなら、きっとロックマンにはサーチマンの心音が聞こえたであろう。
しかし実際の所二人はネットナビで心臓など有しておらず、また例え心臓と同じ動きをするプログラムがあったとしても、このアーマーとヘルメット越しの距離ではその存在を音で感知する事などできないだろう。
冷たく厚いガラスを隔てたような、傍にいるのに何処か遠いその僅かな距離感は、すれ違う自分達の意見を物理的に表現しているような気がして、ロックマンは寂しさに表情を歪め、悲しさに目を細めた。
そんなロックマンを見てサーチマンは、これ以上ロックマンに嘘の利点を説くのは酷か、と思ったが、それでも今ロックマンがある程度の納得のもとでこの嘘を、秘密を、守れるようにするのが自分の義務で、責任で、愛情だろう、と考えて、今にも泣きそうなロックマンに対し、あえて冷静な声で尋ねる。
「……ロックマン、お前は、この長すぎるにもほどがあるかもしれないネットナビの一生の中で、ほんの一瞬から始まって死ぬまで続く非難に耐えられるのか?」
ロックマンの悲しみに細められていた目が、急に見開かれた。
そしてロックマンは、目元から力を抜けないままでゆっくり、恐る恐る顔を上げ、サーチマンの表情を見る。
そこに沈み滲む感情はやはり哀れみで、それがある種の呆れから来ているものだと勘違いしたロックマンは、どうしてそんな表情で此方を見るのだと叫びたいのを抑えて、目元から力を抜く代わりに眉間へシワを寄せた。
「……僕が、耐えられないって言いたいの?」
「ああ、そうだ。」
ロックマンが苛立ちを込めた声で問い詰めると、サーチマンは悪びれる様子も無くそれを肯定し、それを聞いたロックマンは大きなショックを受けた。
サーチマンは自分――ロックマンを、そんな弱い存在だと思っていたのか、と思うと、ロックマンは悔しくてたまらない。
同時に、サーチマンの妙に冷静で落ち着いた声が、ロックマンに自分だけが熱くなっているという感覚をもたらし、ロックマンはそれに苛立っていた。