深海チョコレート日和
さてそうして熱斗とロックマンの傍を離れたメイルは、受付嬢に言ったように会議室へ向けて歩いていた。
鞄の中には先ほど熱斗に渡したものと似ているがリボンの色と中身が違う薄桃色の箱が入っている。
いくつかの自販機の前を通り過ぎ、数人の研究員とすれ違いながら進んだ果てに、メイルは科学省の中でも災害対策などなかなか重要な役割をはたしている指令室のその出入口の前へと来た。
メイルが前に立つと出入口の扉は自動的に開き、メイルという来客を受け入れる体制を整える。
開いた扉からメイルが指令室の中に入ると、その足音と扉の開閉音で気付いたのか、それまで巨大モニターと向き合ってキーボードを弄っていた祐一朗が振り向き、メイルに微笑みかけてきた。
「やあメイルちゃん、話は受付から聞いてるよ。」
そう言いながら祐一朗はモニターと直結した機器の傍を離れ、扉から数メートルの所にいるメイルの方へと近付いてくる。
メイルも少し足を進めて、自ら祐一朗の目の前へと近付いた。
やがて二人の距離は一メートル未満となり、メイルと祐一朗は正面から向き合う。
祐一朗の方が幾ばくか背が高いので、メイルは必然的に少し上を見上げる体勢になっている、それに気付いた祐一朗は近くに置いてあったパイプ椅子に手を伸ばし、近くに引き寄せてそれに座った。
そして、メイルに要件を訊く。
「受付の話じゃあちょっとした用事らしいけど、何かあったのかな?」
穏やかに訊く祐一朗に、メイルは少し楽しげに微笑んで背負っていた鞄を下ろし、そのファスナーを開ける。
そして先ほど熱斗へ青色のリボンが付いた箱を渡した時と同じように、薄桃色で、今度は水色のリボンが付いた箱を取り出した。
その様子を穏やかに、しかし何か不思議なものを見ているような視線で見守る祐一朗へ歩み寄り、メイルは祐一朗の目の前へ、その箱をゆっくりと差し出した。
「バレンタインのチョコレートです。」
メイルがそういうと、祐一朗はしばし少し驚いたような表情でメイルと薄桃色の箱を交互に見た後、嬉しそうに微笑んでメイルから箱を受け取った。
その動作がなんだか先ほどの熱斗と似ていて、やはり親子なんだなとメイルは思う。
そして祐一朗はメイルに礼を言った。
「いやぁ、ありがとう。まさかメイルちゃんから貰えるとはね。」
子供のようにキラキラして嬉しそうな笑顔を見せる祐一朗に、メイルもそれまでのちょっとした緊張が解けると同時に嬉しくなり、笑顔を見せる。
そしてメイルはそのバレンタインデーのチョコレートに込めた感謝の気持ちを祐一朗に口頭で伝える。
「この前の深海艇でのお礼も兼ねてるんですよ。」
「深海艇……あぁ、あの時の。」
メイルに言われて、祐一朗も新海底での出来事を頭の中で思いだす。
そして、そういえばあの時自分が偶然持ち合わせていたチョコレートをメイルにあげていた事を思い出した。
それをメイルは今日まで覚えていて、そのお礼に今日という日にチョコレートをくれたのかと思うと、メイルの礼儀の良さに祐一朗はなんとなく微笑ましい気持ちになる。
「あの時貰ったチョコレートに近いチョコレートを選んでみたんです。きっと、あのチョコレートがおじさんの好みなんだろうなって思って。」
そしてメイルは祐一朗に、その時のチョコレートの味をまだ覚えている事も告げた。
わざわざ自分の好みに合わせてくれたと聞いて、祐一朗は尚更嬉しくなる。
「へぇ、そうなのか。丁度甘いものが食べたかった所なんだ、今食べても良いかな?」
祐一朗が訊くと、メイルは頷きながら笑って、
「お口に合うと良いんですけど。」
と言った。
祐一朗は再度ありがとうと礼を言うと、薄桃色の箱にかけられた水色のリボンを外し、箱を開く。
箱の中には小さめのハートの型に収まったチョコレートが七つ入っていて、箱を開けた瞬間から薄っすらと甘い匂いを周囲に漂わせ始めた。
祐一朗はその中の一つを丁寧につまみ、表面のアルミを剥がして口に運ぶ。
メイルはその様子を少し緊張して見守った。
「……うん! 美味しいよ、僕の好みにぴったりだ。」
やがてチョコレートを咀嚼し終えた祐一朗が嬉しそうにそう言うと、メイルも僅かな緊張が解けて嬉しそうに笑った。
どうやらメイルの選んだチョコレートは祐一朗の好みにしっかりと合致したらしい。
いつの間にかメイルの肩の上にはロールが現れていて、二人の様子を微笑ましそうに見守っている。
そして祐一朗はもう一粒だけつまんでアルミを剥がし口にすると、ゆっくりと薄桃色の箱のふたを閉じる。
「さて、それじゃあ残りはまた後で、会議の後にね。メイルちゃんも来るかい?」
そう言いながら席を立った祐一朗に、メイルは笑顔で頷いた。
そして祐一朗が椅子を片付けてから薄桃色の箱を持って指令室の内と外を繋ぐ扉へ歩きだすと、メイルもその後を追って会議室の自動扉へと歩きだすのであった。
End.
鞄の中には先ほど熱斗に渡したものと似ているがリボンの色と中身が違う薄桃色の箱が入っている。
いくつかの自販機の前を通り過ぎ、数人の研究員とすれ違いながら進んだ果てに、メイルは科学省の中でも災害対策などなかなか重要な役割をはたしている指令室のその出入口の前へと来た。
メイルが前に立つと出入口の扉は自動的に開き、メイルという来客を受け入れる体制を整える。
開いた扉からメイルが指令室の中に入ると、その足音と扉の開閉音で気付いたのか、それまで巨大モニターと向き合ってキーボードを弄っていた祐一朗が振り向き、メイルに微笑みかけてきた。
「やあメイルちゃん、話は受付から聞いてるよ。」
そう言いながら祐一朗はモニターと直結した機器の傍を離れ、扉から数メートルの所にいるメイルの方へと近付いてくる。
メイルも少し足を進めて、自ら祐一朗の目の前へと近付いた。
やがて二人の距離は一メートル未満となり、メイルと祐一朗は正面から向き合う。
祐一朗の方が幾ばくか背が高いので、メイルは必然的に少し上を見上げる体勢になっている、それに気付いた祐一朗は近くに置いてあったパイプ椅子に手を伸ばし、近くに引き寄せてそれに座った。
そして、メイルに要件を訊く。
「受付の話じゃあちょっとした用事らしいけど、何かあったのかな?」
穏やかに訊く祐一朗に、メイルは少し楽しげに微笑んで背負っていた鞄を下ろし、そのファスナーを開ける。
そして先ほど熱斗へ青色のリボンが付いた箱を渡した時と同じように、薄桃色で、今度は水色のリボンが付いた箱を取り出した。
その様子を穏やかに、しかし何か不思議なものを見ているような視線で見守る祐一朗へ歩み寄り、メイルは祐一朗の目の前へ、その箱をゆっくりと差し出した。
「バレンタインのチョコレートです。」
メイルがそういうと、祐一朗はしばし少し驚いたような表情でメイルと薄桃色の箱を交互に見た後、嬉しそうに微笑んでメイルから箱を受け取った。
その動作がなんだか先ほどの熱斗と似ていて、やはり親子なんだなとメイルは思う。
そして祐一朗はメイルに礼を言った。
「いやぁ、ありがとう。まさかメイルちゃんから貰えるとはね。」
子供のようにキラキラして嬉しそうな笑顔を見せる祐一朗に、メイルもそれまでのちょっとした緊張が解けると同時に嬉しくなり、笑顔を見せる。
そしてメイルはそのバレンタインデーのチョコレートに込めた感謝の気持ちを祐一朗に口頭で伝える。
「この前の深海艇でのお礼も兼ねてるんですよ。」
「深海艇……あぁ、あの時の。」
メイルに言われて、祐一朗も新海底での出来事を頭の中で思いだす。
そして、そういえばあの時自分が偶然持ち合わせていたチョコレートをメイルにあげていた事を思い出した。
それをメイルは今日まで覚えていて、そのお礼に今日という日にチョコレートをくれたのかと思うと、メイルの礼儀の良さに祐一朗はなんとなく微笑ましい気持ちになる。
「あの時貰ったチョコレートに近いチョコレートを選んでみたんです。きっと、あのチョコレートがおじさんの好みなんだろうなって思って。」
そしてメイルは祐一朗に、その時のチョコレートの味をまだ覚えている事も告げた。
わざわざ自分の好みに合わせてくれたと聞いて、祐一朗は尚更嬉しくなる。
「へぇ、そうなのか。丁度甘いものが食べたかった所なんだ、今食べても良いかな?」
祐一朗が訊くと、メイルは頷きながら笑って、
「お口に合うと良いんですけど。」
と言った。
祐一朗は再度ありがとうと礼を言うと、薄桃色の箱にかけられた水色のリボンを外し、箱を開く。
箱の中には小さめのハートの型に収まったチョコレートが七つ入っていて、箱を開けた瞬間から薄っすらと甘い匂いを周囲に漂わせ始めた。
祐一朗はその中の一つを丁寧につまみ、表面のアルミを剥がして口に運ぶ。
メイルはその様子を少し緊張して見守った。
「……うん! 美味しいよ、僕の好みにぴったりだ。」
やがてチョコレートを咀嚼し終えた祐一朗が嬉しそうにそう言うと、メイルも僅かな緊張が解けて嬉しそうに笑った。
どうやらメイルの選んだチョコレートは祐一朗の好みにしっかりと合致したらしい。
いつの間にかメイルの肩の上にはロールが現れていて、二人の様子を微笑ましそうに見守っている。
そして祐一朗はもう一粒だけつまんでアルミを剥がし口にすると、ゆっくりと薄桃色の箱のふたを閉じる。
「さて、それじゃあ残りはまた後で、会議の後にね。メイルちゃんも来るかい?」
そう言いながら席を立った祐一朗に、メイルは笑顔で頷いた。
そして祐一朗が椅子を片付けてから薄桃色の箱を持って指令室の内と外を繋ぐ扉へ歩きだすと、メイルもその後を追って会議室の自動扉へと歩きだすのであった。
End.