深海チョコレート日和
大きなレジ袋を二つ持って帰宅したメイルは、まずそのレジ袋をリビングのテーブルの上に置くと、キッチンのシンクで手を洗い、その場でうがいも済ませた。
それからレジ袋を置いたテーブルへと戻り、袋の中身をテーブルに並べる。
袋の中身はその多くが普通の食材、つまり野菜や魚、肉等だが、それらをとりだす途中でところどころ普通の食事とは縁遠い物――先ほどのバレンタインコーナーで手にしたチョコレートやアルミのカップが出てくる。
そしてメイルはやはり、カカオ多目の少しだけ苦いチョコレートを手にした時に限ってそれをしみじみと見詰めるのである。
そうこうしながら、メイルはレジ袋の中身を全てテーブルに並べ、その中から野菜や肉、魚などは冷蔵庫へ押し込んでいく。
そして最後に残ったのは、最初に手に取った普通のチョコレートとホワイトチョコレートとイチゴチョコレートの板チョコと、アルミでできたハート型のカップと、カカオ多目のチョコレートである。
「メイルちゃん、さっそく作っちゃう?」
いつの間にかメイルの肩の上に立っていたロールが、メイルにそう問いかけてきた。
メイルはその声に反応して、今がそれにふさわしい時間かどうかを確認する為、壁にかかっている時計を見る。
時刻は午後五時十三分を指していた。
メイルは少し悩んだ末に、
「そうね、作っちゃいましょうか!」
と返しながら、キッチンに入り、ゴム製のヘラやいくつかのボウルなど、チョコレート作りに必要な器具を集め始めた。
カチャカチャと音をさせながら、ボウルやヘラ、スプーン、包丁、まな板など色々な器具を集め、それをリビングの広いテーブルに持っていく。
まずは最初に使わない器具はボウルにまとめ、プラスチック製のまな板と一般的な包丁を用意し、メイルはまな板の上に包装を解いたミルクチョコレートを乗せる。
そしてゆっくりと、怪我をしないように注意しながら、包丁でチョコレートを刻み始めた。
トントン、トントン、と規則正しい音がして、チョコレートが細かく削れていく。
正直な所、チョコレートを細かくする作業は手で乱雑に行ってもいいのだが、メイルは今回細かい所まで気を回し、愛情を込めて作りたかったので包丁で刻むという手段を選んでいた。
「うんうん、良い感じ良い感じ。」
メイルのからの上に座ってその様子を見守るロールがメイルの手腕を褒める。
包装の解かれたチョコレートは半分程が刻み終えられていた。
現実世界では薄っすらとチョコレートの香りが漂い、メイルは熱斗や祐一朗だけでなく自分ようにも少し何か買っておけばよかったな、などと思う。
そんな事を考えながら包丁を動かしていると、チョコレートはあっという間に削れ、包丁で削りにくい程小さい欠片へと変化した。
削ったチョコレートをボウルに移しながら、メイルは残ったチョコレートの向きを変えて再び刻み始める。
先ほどよりも少しゆっくりな、トン、トン、トン、トン、という音と共に、小さなチョコレートは更に小さな欠片へと姿を変えた。
「このくらいならこのまま入れても大丈夫かしら。」
親指よりも少し小さい欠片になったチョコレートを見てメイルは呟く。
ロールが肩の上からその様子を窺って、一度一人で勝手に頷いてからメイルの方を向く。
「そうね、このくらいならきっと大丈夫よ。」
ロールの助言もあって、メイルはチョコレートの欠片を刻んだチョコレートを溜めているボウルの中に入れた。
そして新たにもう一枚のミルクチョコレートの包装を解き始める。
紙を破いて、銀紙をはがして、裸にしたチョコレートをもう一度まな板の上に置き、メイルはまた包丁を握ってチョコレートを刻み始めた。
先ほどよりも少しだけ早くなったトントンという包丁とまな板が当たる音が、メイルの慣れの速さを物語っている。
そしてチョコレートはあっという間に刻まれ細かくなり、メイルはそのチョコレートを再びボウルの中に入れた。
これで、ミルクチョコレートの下準備は完了である。
メイルは小さく溜息を吐き、それからミルクチョコレートを入れたボウルより一回り大きい空のボウルを持ってキッチンの流しへと向かって歩きだした。
ロールはテーブルの上でチョコレートを観察している。
キッチンの流しへと着いたメイルは、蛇口から流れる水の温度を高めに設定し、それを空のボウルに汲みとった。
そしてそのお湯をこぼさないように慎重にボウルをテーブルまで運ぶ。
メイルはお湯の入ったボウルをテーブルの上に置くと、その中にミルクチョコレートの入ったボウルを浮かすように、そしてお湯が入らないように慎重に入れた。
すぐさまお湯の熱が伝わってミルクチョコレートが溶け始める、コレは湯煎だ。
溶けはじめたチョコレートをゴム製のヘラでかき混ぜる、するとチョコレートはすぐさま一杯の液体に変わり、その香りを部屋に充満させ始めた。
「んー、良い匂い。」
思わずメイルの口からそんな感想が零れる。
そしてメイルは近くに置いていたアルミのカップの包装を解き大きな皿に並べて載せると、これまた近くに置いていたスプーンでミルクチョコレートを一杯すくった。
すくったチョコレートはすぐにアルミのカップに流し込み、三層になる予定の一番下の段を作る。
メイルはそれを何度も繰り返し、やがて買ってきたカップの約九割にカップの容量の三分の一程度の分量のミルクチョコレートを流し込み終えた。
「さて、次はイチゴチョコレートね。」
そしてメイルはまだ包装を解いていない残りのチョコレートからイチゴチョコレートを取り上げるとその包装を解き、まな板の上に載せた。
先ほどミルクチョコレートを刻んだようにリズム良くイチゴチョコレートを刻む音が室内に響く。
イチゴチョコレートを刻んでいる間に先ほどカップに流し込んだミルクチョコレートは程良く冷えて固まっていく。
それからメイルはイチゴチョコレートを刻み終えると、先ほどと同じように湯煎にかけ溶かしてカップに流し込み、今度はホワイトチョコレートの準備に取りかかる。
同じように刻み、溶かし、流し込んで、メイルは熱斗へプレゼントする分のチョコレートを全て作り終えた。
皿の上に並んだハート型のチョコレートを見詰めながら、ロールがうんうんと一人頷いてその出来栄えを褒める。
「うんうん、いい感じいい感じ。これで熱斗さんの分は完成ね!」
ロールがくるりとメイルに向けて振り向いて笑顔を見せる。
メイルもそれなりの出来栄えの物ができた事に満足し、ロールへ向けて頷いて見せた。
それから、まだ今は空の残りのカップに視線を向ける。
「あ、今日はもう一人分作るのよね。」
ロールが何かに気が付いた様にそういうと、メイルは小さく頷いて今日最後に刻むチョコレート――カカオ多目のチョコレートの包装を解き始めた。
部屋には既にミルク、ホワイト、イチゴのチョコレートの香りが広がっているが、このチョコレートはどんな香りがするのだろうか。
そしてこのチョコレートで作るチョコレートを受け取る人はそれを喜んでくれるだろうか、メイルは熱斗へのチョコレートを作る時とは少し別の胸の高鳴りを感じる。
それから包装を解いたチョコレートをまな板に置いて、メイルは先ほどまでと同じようにチョコレートを包丁で刻み始めた。
最初よりだいぶ早くなった、トントントントンという音が部屋に響く。
そしてメイルはあっという間に三枚のチョコレートを刻み終え、最後の空のボウルの中にまとめて入れた。
これもあとはそれまでの三種類と同じように湯煎にかけ、溶けた所をカップに流し込むだけだ。
湯煎にかけるとチョコレートはそれまでの三種類と同じように溶けだし、甘く、しかしミルクとはまた少しだけ違うカカオ感の強い匂いを漂わせ始めた。
「これもなかなか良い匂いね。」
ミルクチョコレートより少し黒さの強いチョコレートを溶かしながら、メイルは呟いた。
片の上ではロールがそれを見学している。
そしてメイルは溶けたチョコレートをスプーンですくい上げ、アルミのカップへと慎重に流し込んだ。
今度は三層や二層にはしないのでカップの淵ギリギリまでチョコレートを流し込む。
そうしてメイルは空のままだった少量のカップ全てにカカオ多目のチョコレートを流し込むと、そのチョコレート達の乗った皿に柔らかくラップをかけた。
「よしっ、これで完成よ。」
「メイルちゃん、お疲れ様!」
メイルがチョコレートの完成を宣言すると、ロールがその労をねぎらってくれた。
メイルはチョコレートが思ったより上手く出来た事と、ロールがそれを褒めてくれた事が嬉しくて笑顔を見せる。
「ありがと、ロール。じゃあコレはこのままゆっくり冷ますとして、そろそろ夕飯の準備に取り掛かりましょっか。」
そしてメイルはチョコレート作り用の器具を片付け始め、同時に夕飯の準備に取り掛かり始めたのであった。
それからレジ袋を置いたテーブルへと戻り、袋の中身をテーブルに並べる。
袋の中身はその多くが普通の食材、つまり野菜や魚、肉等だが、それらをとりだす途中でところどころ普通の食事とは縁遠い物――先ほどのバレンタインコーナーで手にしたチョコレートやアルミのカップが出てくる。
そしてメイルはやはり、カカオ多目の少しだけ苦いチョコレートを手にした時に限ってそれをしみじみと見詰めるのである。
そうこうしながら、メイルはレジ袋の中身を全てテーブルに並べ、その中から野菜や肉、魚などは冷蔵庫へ押し込んでいく。
そして最後に残ったのは、最初に手に取った普通のチョコレートとホワイトチョコレートとイチゴチョコレートの板チョコと、アルミでできたハート型のカップと、カカオ多目のチョコレートである。
「メイルちゃん、さっそく作っちゃう?」
いつの間にかメイルの肩の上に立っていたロールが、メイルにそう問いかけてきた。
メイルはその声に反応して、今がそれにふさわしい時間かどうかを確認する為、壁にかかっている時計を見る。
時刻は午後五時十三分を指していた。
メイルは少し悩んだ末に、
「そうね、作っちゃいましょうか!」
と返しながら、キッチンに入り、ゴム製のヘラやいくつかのボウルなど、チョコレート作りに必要な器具を集め始めた。
カチャカチャと音をさせながら、ボウルやヘラ、スプーン、包丁、まな板など色々な器具を集め、それをリビングの広いテーブルに持っていく。
まずは最初に使わない器具はボウルにまとめ、プラスチック製のまな板と一般的な包丁を用意し、メイルはまな板の上に包装を解いたミルクチョコレートを乗せる。
そしてゆっくりと、怪我をしないように注意しながら、包丁でチョコレートを刻み始めた。
トントン、トントン、と規則正しい音がして、チョコレートが細かく削れていく。
正直な所、チョコレートを細かくする作業は手で乱雑に行ってもいいのだが、メイルは今回細かい所まで気を回し、愛情を込めて作りたかったので包丁で刻むという手段を選んでいた。
「うんうん、良い感じ良い感じ。」
メイルのからの上に座ってその様子を見守るロールがメイルの手腕を褒める。
包装の解かれたチョコレートは半分程が刻み終えられていた。
現実世界では薄っすらとチョコレートの香りが漂い、メイルは熱斗や祐一朗だけでなく自分ようにも少し何か買っておけばよかったな、などと思う。
そんな事を考えながら包丁を動かしていると、チョコレートはあっという間に削れ、包丁で削りにくい程小さい欠片へと変化した。
削ったチョコレートをボウルに移しながら、メイルは残ったチョコレートの向きを変えて再び刻み始める。
先ほどよりも少しゆっくりな、トン、トン、トン、トン、という音と共に、小さなチョコレートは更に小さな欠片へと姿を変えた。
「このくらいならこのまま入れても大丈夫かしら。」
親指よりも少し小さい欠片になったチョコレートを見てメイルは呟く。
ロールが肩の上からその様子を窺って、一度一人で勝手に頷いてからメイルの方を向く。
「そうね、このくらいならきっと大丈夫よ。」
ロールの助言もあって、メイルはチョコレートの欠片を刻んだチョコレートを溜めているボウルの中に入れた。
そして新たにもう一枚のミルクチョコレートの包装を解き始める。
紙を破いて、銀紙をはがして、裸にしたチョコレートをもう一度まな板の上に置き、メイルはまた包丁を握ってチョコレートを刻み始めた。
先ほどよりも少しだけ早くなったトントンという包丁とまな板が当たる音が、メイルの慣れの速さを物語っている。
そしてチョコレートはあっという間に刻まれ細かくなり、メイルはそのチョコレートを再びボウルの中に入れた。
これで、ミルクチョコレートの下準備は完了である。
メイルは小さく溜息を吐き、それからミルクチョコレートを入れたボウルより一回り大きい空のボウルを持ってキッチンの流しへと向かって歩きだした。
ロールはテーブルの上でチョコレートを観察している。
キッチンの流しへと着いたメイルは、蛇口から流れる水の温度を高めに設定し、それを空のボウルに汲みとった。
そしてそのお湯をこぼさないように慎重にボウルをテーブルまで運ぶ。
メイルはお湯の入ったボウルをテーブルの上に置くと、その中にミルクチョコレートの入ったボウルを浮かすように、そしてお湯が入らないように慎重に入れた。
すぐさまお湯の熱が伝わってミルクチョコレートが溶け始める、コレは湯煎だ。
溶けはじめたチョコレートをゴム製のヘラでかき混ぜる、するとチョコレートはすぐさま一杯の液体に変わり、その香りを部屋に充満させ始めた。
「んー、良い匂い。」
思わずメイルの口からそんな感想が零れる。
そしてメイルは近くに置いていたアルミのカップの包装を解き大きな皿に並べて載せると、これまた近くに置いていたスプーンでミルクチョコレートを一杯すくった。
すくったチョコレートはすぐにアルミのカップに流し込み、三層になる予定の一番下の段を作る。
メイルはそれを何度も繰り返し、やがて買ってきたカップの約九割にカップの容量の三分の一程度の分量のミルクチョコレートを流し込み終えた。
「さて、次はイチゴチョコレートね。」
そしてメイルはまだ包装を解いていない残りのチョコレートからイチゴチョコレートを取り上げるとその包装を解き、まな板の上に載せた。
先ほどミルクチョコレートを刻んだようにリズム良くイチゴチョコレートを刻む音が室内に響く。
イチゴチョコレートを刻んでいる間に先ほどカップに流し込んだミルクチョコレートは程良く冷えて固まっていく。
それからメイルはイチゴチョコレートを刻み終えると、先ほどと同じように湯煎にかけ溶かしてカップに流し込み、今度はホワイトチョコレートの準備に取りかかる。
同じように刻み、溶かし、流し込んで、メイルは熱斗へプレゼントする分のチョコレートを全て作り終えた。
皿の上に並んだハート型のチョコレートを見詰めながら、ロールがうんうんと一人頷いてその出来栄えを褒める。
「うんうん、いい感じいい感じ。これで熱斗さんの分は完成ね!」
ロールがくるりとメイルに向けて振り向いて笑顔を見せる。
メイルもそれなりの出来栄えの物ができた事に満足し、ロールへ向けて頷いて見せた。
それから、まだ今は空の残りのカップに視線を向ける。
「あ、今日はもう一人分作るのよね。」
ロールが何かに気が付いた様にそういうと、メイルは小さく頷いて今日最後に刻むチョコレート――カカオ多目のチョコレートの包装を解き始めた。
部屋には既にミルク、ホワイト、イチゴのチョコレートの香りが広がっているが、このチョコレートはどんな香りがするのだろうか。
そしてこのチョコレートで作るチョコレートを受け取る人はそれを喜んでくれるだろうか、メイルは熱斗へのチョコレートを作る時とは少し別の胸の高鳴りを感じる。
それから包装を解いたチョコレートをまな板に置いて、メイルは先ほどまでと同じようにチョコレートを包丁で刻み始めた。
最初よりだいぶ早くなった、トントントントンという音が部屋に響く。
そしてメイルはあっという間に三枚のチョコレートを刻み終え、最後の空のボウルの中にまとめて入れた。
これもあとはそれまでの三種類と同じように湯煎にかけ、溶けた所をカップに流し込むだけだ。
湯煎にかけるとチョコレートはそれまでの三種類と同じように溶けだし、甘く、しかしミルクとはまた少しだけ違うカカオ感の強い匂いを漂わせ始めた。
「これもなかなか良い匂いね。」
ミルクチョコレートより少し黒さの強いチョコレートを溶かしながら、メイルは呟いた。
片の上ではロールがそれを見学している。
そしてメイルは溶けたチョコレートをスプーンですくい上げ、アルミのカップへと慎重に流し込んだ。
今度は三層や二層にはしないのでカップの淵ギリギリまでチョコレートを流し込む。
そうしてメイルは空のままだった少量のカップ全てにカカオ多目のチョコレートを流し込むと、そのチョコレート達の乗った皿に柔らかくラップをかけた。
「よしっ、これで完成よ。」
「メイルちゃん、お疲れ様!」
メイルがチョコレートの完成を宣言すると、ロールがその労をねぎらってくれた。
メイルはチョコレートが思ったより上手く出来た事と、ロールがそれを褒めてくれた事が嬉しくて笑顔を見せる。
「ありがと、ロール。じゃあコレはこのままゆっくり冷ますとして、そろそろ夕飯の準備に取り掛かりましょっか。」
そしてメイルはチョコレート作り用の器具を片付け始め、同時に夕飯の準備に取り掛かり始めたのであった。