Re_苦くて甘い Valentine's Day
「なぁブルース、お前はさっきから何が言いたいんだ、どうにも嫌味ばかり言って、何が目的だ?」
「何がって……」
まさかサーチマンからその問いかけをされるとは想定していなかったブルースは答えに困り、しばしの間言葉を詰まらせた。
こんな状況で“あれ”の事を告白して良いのか、ブルースには分からない。
しかし、このまま“あれ”の事を告げずに帰還してしまうのは今日という日の今この瞬間にこの電脳空間に来た意味を全く無しにしてしまう。
だからブルースは、思い切ってその嫌味の意味をサーチマンに今告げてしまう事にした。
「……おい! サーチマン、此方を見ろ!」
ブルースは意を決してサーチマンに呼びかけた。
サーチマンはブルースの何時に無く緊張した、それでいて何処か緊張感の無い、そんな不安定な態度を不思議に想いながらもゆっくりとブルースに振り返る。
そしてサーチマンが完全にブルースに振り返ると、ブルースはその目前に赤くて四角い小さめの箱を突き出した。
突然の出来事に呆然とするサーチマン、それにブルースは告げる。
「バレンタインのチョコレートだ。」
訪れたのは先ほどと同じしばしの沈黙、違う事はサーチマンが苛立ちではなくきょとんとした表情を見せている事。
「……えっと……ありがとう。」
しばしポカンとして沈黙した後、サーチマンはそういってブルースの右手から赤く小さめの箱、バレンタインデーのチョコレートを受け取った。
それを受け取りながら、サーチマンはようやくブルースが苛立っていた訳――自分もチョコレートを用意したのに他の女に先を越された上に恋人がその女の作ったチョコレートを食べているのが悔しかったという事に気付き、赤く小さめの箱を凝視した後に、ゆっくりと顔を上げ、ゆっくりと微笑んで見せてやった。
ブルースは恥ずかしそうに視線逸らす、その顔はきっと、メットの下で赤く染まっている事だろう。
「も、勿論手作りだからな! ……頑張ってみたんだ、今食べてみてくれるか?」
あのブルースが手作りとは何とも意外、ブルースならもっと金に物を言わせて高級の、しかし市販の物を用意するかと思っていたサーチマンはこれまた一瞬驚いたが、次の瞬間にはブルースの愛情が嬉しくてふと笑顔になって頷いた。
そしてサーチマンはブルースから貰った赤く小さめの箱を開ける。
箱の中にはロール達のチョコレートとは違い、大きめでハート型のチョコレートが一つ入っていた。
サーチマンはブルースの意外な一面を見た気がして何だか嬉しくなり、フフッと小さく笑ってから、そのチョコレートを手に取り、ハートの先端部分を齧った。
パキッっと軽い音を立てて先端部分を割り、口の中に運ぶ。
すると口の中に広がったのは、ほのかな甘みと強めの苦みだった。
先ほどと同じように、思わず感想が漏れる。
「苦い……。」
先ほどとはずいぶん違う感想を漏らしたサーチマンに、ブルースが少し不安そうに声をかける。
「苦いのは嫌いか?」
サーチマンは少し苦戦しながらもチョコレートを咀嚼し、飲み込んでから答える。
「いや、別にそういう訳では……ただ、ロール達から貰った物は甘かったから、少し意外だっただけだ。嫌いでは……ない。」
嫌いではない、とは言ったものの、どうやらサーチマンの味覚は甘党の方にシフトしているらしく、先端を齧った後はなかなか次に進もうとする様子が見受けられない。
やがて意を決したようにもう一口チョコレートを齧ったサーチマンを見て、ちょっとしたサプライズを思い付いたブルースは静かに自分のメットを外した。
そしてサーチマンに数歩近づき、苦めのチョコレートに苦戦しているサーチマンに呼びかける。
「サーチマン、此方を向け。」
ブルースの呼びかけに反応して、サーチマンが顔を上げる。
「え? なん」
そしてブルースはサーチマンの返答を遮り、
「んっ!?」
そのままその唇に口付けを落した。
しかもそれは軽く触れるだけのものではなく、口内を荒らす深いものをである。
まさか突然そんなキスをされるとは思っていなかったサーチマンは混乱し、ブルースにされるがままに口内を荒らされる。
「んっ……う……ぅ……」
やがてブルースが舌と唇をサーチマンの舌と唇から離した時、サーチマンの顔は赤く色っぽく染まっていた。
「っは、いきなり何をするんだいきなり!!」
ブルースが唇を離すと突然の事に困惑していたサーチマンはすぐさま怒る様に騒ぎ出した。
そんなサーチマンを見てブルースは得意げに笑うと、
「苦いのは苦手なんだろう? 甘くしてやっただけだ。」
と抜かす。
その得意げな態度に何だか少し腹が立ったサーチマンが、
「甘過ぎだ! 馬鹿!」
と怒ると、ブルースはこれまた得意げに笑って、
「甘いのは好きだと言っていたじゃないか。」
と言った。
サーチマンには返せる言葉が無く、その無茶苦茶な甘さを誤魔化すようにブルースから貰ったチョコレートを齧ったという。
二人のバレンタインデーは、こうして過ぎていくのであった。
End.
「何がって……」
まさかサーチマンからその問いかけをされるとは想定していなかったブルースは答えに困り、しばしの間言葉を詰まらせた。
こんな状況で“あれ”の事を告白して良いのか、ブルースには分からない。
しかし、このまま“あれ”の事を告げずに帰還してしまうのは今日という日の今この瞬間にこの電脳空間に来た意味を全く無しにしてしまう。
だからブルースは、思い切ってその嫌味の意味をサーチマンに今告げてしまう事にした。
「……おい! サーチマン、此方を見ろ!」
ブルースは意を決してサーチマンに呼びかけた。
サーチマンはブルースの何時に無く緊張した、それでいて何処か緊張感の無い、そんな不安定な態度を不思議に想いながらもゆっくりとブルースに振り返る。
そしてサーチマンが完全にブルースに振り返ると、ブルースはその目前に赤くて四角い小さめの箱を突き出した。
突然の出来事に呆然とするサーチマン、それにブルースは告げる。
「バレンタインのチョコレートだ。」
訪れたのは先ほどと同じしばしの沈黙、違う事はサーチマンが苛立ちではなくきょとんとした表情を見せている事。
「……えっと……ありがとう。」
しばしポカンとして沈黙した後、サーチマンはそういってブルースの右手から赤く小さめの箱、バレンタインデーのチョコレートを受け取った。
それを受け取りながら、サーチマンはようやくブルースが苛立っていた訳――自分もチョコレートを用意したのに他の女に先を越された上に恋人がその女の作ったチョコレートを食べているのが悔しかったという事に気付き、赤く小さめの箱を凝視した後に、ゆっくりと顔を上げ、ゆっくりと微笑んで見せてやった。
ブルースは恥ずかしそうに視線逸らす、その顔はきっと、メットの下で赤く染まっている事だろう。
「も、勿論手作りだからな! ……頑張ってみたんだ、今食べてみてくれるか?」
あのブルースが手作りとは何とも意外、ブルースならもっと金に物を言わせて高級の、しかし市販の物を用意するかと思っていたサーチマンはこれまた一瞬驚いたが、次の瞬間にはブルースの愛情が嬉しくてふと笑顔になって頷いた。
そしてサーチマンはブルースから貰った赤く小さめの箱を開ける。
箱の中にはロール達のチョコレートとは違い、大きめでハート型のチョコレートが一つ入っていた。
サーチマンはブルースの意外な一面を見た気がして何だか嬉しくなり、フフッと小さく笑ってから、そのチョコレートを手に取り、ハートの先端部分を齧った。
パキッっと軽い音を立てて先端部分を割り、口の中に運ぶ。
すると口の中に広がったのは、ほのかな甘みと強めの苦みだった。
先ほどと同じように、思わず感想が漏れる。
「苦い……。」
先ほどとはずいぶん違う感想を漏らしたサーチマンに、ブルースが少し不安そうに声をかける。
「苦いのは嫌いか?」
サーチマンは少し苦戦しながらもチョコレートを咀嚼し、飲み込んでから答える。
「いや、別にそういう訳では……ただ、ロール達から貰った物は甘かったから、少し意外だっただけだ。嫌いでは……ない。」
嫌いではない、とは言ったものの、どうやらサーチマンの味覚は甘党の方にシフトしているらしく、先端を齧った後はなかなか次に進もうとする様子が見受けられない。
やがて意を決したようにもう一口チョコレートを齧ったサーチマンを見て、ちょっとしたサプライズを思い付いたブルースは静かに自分のメットを外した。
そしてサーチマンに数歩近づき、苦めのチョコレートに苦戦しているサーチマンに呼びかける。
「サーチマン、此方を向け。」
ブルースの呼びかけに反応して、サーチマンが顔を上げる。
「え? なん」
そしてブルースはサーチマンの返答を遮り、
「んっ!?」
そのままその唇に口付けを落した。
しかもそれは軽く触れるだけのものではなく、口内を荒らす深いものをである。
まさか突然そんなキスをされるとは思っていなかったサーチマンは混乱し、ブルースにされるがままに口内を荒らされる。
「んっ……う……ぅ……」
やがてブルースが舌と唇をサーチマンの舌と唇から離した時、サーチマンの顔は赤く色っぽく染まっていた。
「っは、いきなり何をするんだいきなり!!」
ブルースが唇を離すと突然の事に困惑していたサーチマンはすぐさま怒る様に騒ぎ出した。
そんなサーチマンを見てブルースは得意げに笑うと、
「苦いのは苦手なんだろう? 甘くしてやっただけだ。」
と抜かす。
その得意げな態度に何だか少し腹が立ったサーチマンが、
「甘過ぎだ! 馬鹿!」
と怒ると、ブルースはこれまた得意げに笑って、
「甘いのは好きだと言っていたじゃないか。」
と言った。
サーチマンには返せる言葉が無く、その無茶苦茶な甘さを誤魔化すようにブルースから貰ったチョコレートを齧ったという。
二人のバレンタインデーは、こうして過ぎていくのであった。
End.