にゃんにゃん☆ぱにっく!
「ニャーン」
メイルの腕はあの白い子猫を抱えていて、とても熱斗に手出しできるような状況ではなかった。
また、またあの仔猫だ、またあの猫畜生が自分の邪魔をする、そしてそんな猫畜生にメイルは現を抜かしている、そう思うと熱斗の身体の中心をもはやどうにも表現出来ない苛立ちが駆け抜けて、熱斗はチッと舌打ちをした後メイルから視線を離し、再び壁に視線を向けてその鋭い刃先を壁に立てた。
そして、先ほどまでよりも強い力を込めて壁を削る。
勿論、メイルはそんな熱斗を叱りに出る。
そして、
「ちょっと!! 止めてって言ってるで、しょ!!」
メイルはそう言いながら、熱斗の背中を思い切り蹴りつけた。
「い゛っ……!」
その痛みに熱斗は思わず猫の鳴きまね以外の声――呻き声を漏らし、床に手を着いた。
どうやらメイルは相当強い力で熱斗の背中を蹴ったらしい。
キッチン付近で様子を見守っていたラッシュが、見てられない、と言わんばかりに顔を手で覆いながら二人から視線をそむけるのを視界の端に入れながら、熱斗は本日最高の憤りを感じた。
何故自分が蹴られなくてはならない、正直言って蹴られるべきはその仔猫とメイルの方だ、という、冷静に考えれば少し、いやかなり理不尽な怒りが熱斗の脳裏を駆け抜けていく。
そして遂には、許さない、という一言まで浮かんで、熱斗はほぼ反射的に右手を振り上げながらメイルへ振り返った。
突然のそれに、えっ? 何? と言いたげなメイル、その脚をめがけて、熱斗は右手を振り下ろす。
するとその手は膝の少し上あたりに当たり、爪の代わりの刃がニーハイソックスをの布を突き破り表皮に鋭く刺さった。
その痛みにメイルが短い悲鳴を上げる。
「痛っ!?」
思わず力が抜けた腕の間から仔猫が落ちて、しかし猫らしい動きで無事着地し、また何処かへ消えていった。
しかしそんな事には構わず、熱斗は中途半端に振り下ろした右手を完全に振り下ろす。
すると熱斗の手には先ほどラッシュを引っ掻いた時と同じような、でももう少し生々しい感覚が伝わり、同時にメイルが甲高い悲鳴を上げるのが聞こえた。
「あぁぁぁああっ!!」
熱斗が手を振り下ろすという事、それはすなわちメイルの脚に刺さった刃がその位置を変える事、つまり皮膚を引き裂いて移動することを意味していて、メイルは引き裂くように切られる痛みに耐えきれず、尻餅を着くように後ろに転んだ。
転んで脚を曲げた事でソックスが伸び、切られた部分から徐々にピリピリと破け、同じように切られた白い皮膚を露出させる。
傷口は赤い血がじわじわと溢れだしていてかなり痛々しかったが、その時熱斗が考えていた事は謝罪でなければ逃走でもなく、焦りでなければ罪の意識でもなく、本物の猫に引っ掻かれてもこういう傷になるのかな、という事だった。
そして熱斗は四足歩行のままで、尻餅を着いたメイルのその切られた脚に近付いて行き、その傷跡に口を近づけると舌の先で傷口をなぞる様に舐めた。
熱斗の舌先にメイルの血液の塩っぽく鉄っぽい普段感じる事の無い味が伝わり、メイルは傷口に唾液がしみるのか僅かに呻き声を漏らし、床に着いた両手の平を強く握りしめる。
それを感じて、熱斗はその顔に薄っすらと、薄気味悪い微笑みを浮かべた。
今メイルは自分――熱斗がつけた傷口に痛みを感じていて、その上を熱斗の舌が這う事にまた違う痛みを感じている、そしてメイルの神経は今その痛みに支配されている、つまり、それは、今メイルを支配しているのはこの自分、光 熱斗だという事なのだ。
熱斗は身体の奥に全身を突き上げるような快感を覚えながら、その血の味さえ愛おしく想う様にゆっくりと、先ほど舐めた傷とはまた別の傷に舌を伝わせる。
その時また何処かで仔猫が鳴く声と、ラッシュが必死に抵抗している様な声が二人の耳に届いたが、今度こそメイルは立ちあがってその場を去る事が出来なかった。
唾液が浸み入る痛みに耐えながら、メイルは今自分の脚を丁寧に舐め続ける大きな猫――熱斗に問いかける。
「ね、熱斗……どうして、こんな事……。」
メイルの問いかけの声に、熱斗は赤く染まった舌を傷口から浮かせてメイルの顔を見た。
同時にメイルの視界に熱斗の表情が映る。
嬉しそうに吊り上がる口の端、喜びに満ちて細められた目、メイルに見せつけるように出された赤い血の付いた舌、全てがメイルを怯えさせ、熱斗が目指した猫の姿は悪戯仔猫などという称号では足りない、もっと悪魔的で、強力な、確実にメイルの気を惹けるものだったのだと気付かせる。
此処に至ってもメイルはまだ、どうして熱斗はそんなものを目指してしまったのかは分かっていない、それでも、ただ一つだけ分かるのは、この猫はあの悪戯仔猫以上に放置したり乱暴に扱ったりしてはいけないという事。
放置をすればこの家に、乱暴をすればこの自分に、この猫は銀色の爪を立てて主張するのだ、これは自分にふさわしい扱いではないと。
そして、
「にゃーにゃー。」
今尚楽しそうな鳴き声に、メイルはこの猫――熱斗へは反抗しない事を決めた、いや、決めざるをえなかった。
メイルはあの悪戯仔猫の事はラッシュに押し付ける様に任せる事を決意し、自分はこの天使の様に笑う悪魔のような猫の相手をしなければならないと思うのであった。
そしてメイルが緊張に高まっている間にも、熱斗はまた、幸せそうな笑顔でメイルの脚の傷口に舌を這わせる。
溢れ出る血の一滴も残さないと言いたげなその姿勢に、メイルは更にゾッとするものを感じたが、声に出す事はできなかった。
メイルの腕はあの白い子猫を抱えていて、とても熱斗に手出しできるような状況ではなかった。
また、またあの仔猫だ、またあの猫畜生が自分の邪魔をする、そしてそんな猫畜生にメイルは現を抜かしている、そう思うと熱斗の身体の中心をもはやどうにも表現出来ない苛立ちが駆け抜けて、熱斗はチッと舌打ちをした後メイルから視線を離し、再び壁に視線を向けてその鋭い刃先を壁に立てた。
そして、先ほどまでよりも強い力を込めて壁を削る。
勿論、メイルはそんな熱斗を叱りに出る。
そして、
「ちょっと!! 止めてって言ってるで、しょ!!」
メイルはそう言いながら、熱斗の背中を思い切り蹴りつけた。
「い゛っ……!」
その痛みに熱斗は思わず猫の鳴きまね以外の声――呻き声を漏らし、床に手を着いた。
どうやらメイルは相当強い力で熱斗の背中を蹴ったらしい。
キッチン付近で様子を見守っていたラッシュが、見てられない、と言わんばかりに顔を手で覆いながら二人から視線をそむけるのを視界の端に入れながら、熱斗は本日最高の憤りを感じた。
何故自分が蹴られなくてはならない、正直言って蹴られるべきはその仔猫とメイルの方だ、という、冷静に考えれば少し、いやかなり理不尽な怒りが熱斗の脳裏を駆け抜けていく。
そして遂には、許さない、という一言まで浮かんで、熱斗はほぼ反射的に右手を振り上げながらメイルへ振り返った。
突然のそれに、えっ? 何? と言いたげなメイル、その脚をめがけて、熱斗は右手を振り下ろす。
するとその手は膝の少し上あたりに当たり、爪の代わりの刃がニーハイソックスをの布を突き破り表皮に鋭く刺さった。
その痛みにメイルが短い悲鳴を上げる。
「痛っ!?」
思わず力が抜けた腕の間から仔猫が落ちて、しかし猫らしい動きで無事着地し、また何処かへ消えていった。
しかしそんな事には構わず、熱斗は中途半端に振り下ろした右手を完全に振り下ろす。
すると熱斗の手には先ほどラッシュを引っ掻いた時と同じような、でももう少し生々しい感覚が伝わり、同時にメイルが甲高い悲鳴を上げるのが聞こえた。
「あぁぁぁああっ!!」
熱斗が手を振り下ろすという事、それはすなわちメイルの脚に刺さった刃がその位置を変える事、つまり皮膚を引き裂いて移動することを意味していて、メイルは引き裂くように切られる痛みに耐えきれず、尻餅を着くように後ろに転んだ。
転んで脚を曲げた事でソックスが伸び、切られた部分から徐々にピリピリと破け、同じように切られた白い皮膚を露出させる。
傷口は赤い血がじわじわと溢れだしていてかなり痛々しかったが、その時熱斗が考えていた事は謝罪でなければ逃走でもなく、焦りでなければ罪の意識でもなく、本物の猫に引っ掻かれてもこういう傷になるのかな、という事だった。
そして熱斗は四足歩行のままで、尻餅を着いたメイルのその切られた脚に近付いて行き、その傷跡に口を近づけると舌の先で傷口をなぞる様に舐めた。
熱斗の舌先にメイルの血液の塩っぽく鉄っぽい普段感じる事の無い味が伝わり、メイルは傷口に唾液がしみるのか僅かに呻き声を漏らし、床に着いた両手の平を強く握りしめる。
それを感じて、熱斗はその顔に薄っすらと、薄気味悪い微笑みを浮かべた。
今メイルは自分――熱斗がつけた傷口に痛みを感じていて、その上を熱斗の舌が這う事にまた違う痛みを感じている、そしてメイルの神経は今その痛みに支配されている、つまり、それは、今メイルを支配しているのはこの自分、光 熱斗だという事なのだ。
熱斗は身体の奥に全身を突き上げるような快感を覚えながら、その血の味さえ愛おしく想う様にゆっくりと、先ほど舐めた傷とはまた別の傷に舌を伝わせる。
その時また何処かで仔猫が鳴く声と、ラッシュが必死に抵抗している様な声が二人の耳に届いたが、今度こそメイルは立ちあがってその場を去る事が出来なかった。
唾液が浸み入る痛みに耐えながら、メイルは今自分の脚を丁寧に舐め続ける大きな猫――熱斗に問いかける。
「ね、熱斗……どうして、こんな事……。」
メイルの問いかけの声に、熱斗は赤く染まった舌を傷口から浮かせてメイルの顔を見た。
同時にメイルの視界に熱斗の表情が映る。
嬉しそうに吊り上がる口の端、喜びに満ちて細められた目、メイルに見せつけるように出された赤い血の付いた舌、全てがメイルを怯えさせ、熱斗が目指した猫の姿は悪戯仔猫などという称号では足りない、もっと悪魔的で、強力な、確実にメイルの気を惹けるものだったのだと気付かせる。
此処に至ってもメイルはまだ、どうして熱斗はそんなものを目指してしまったのかは分かっていない、それでも、ただ一つだけ分かるのは、この猫はあの悪戯仔猫以上に放置したり乱暴に扱ったりしてはいけないという事。
放置をすればこの家に、乱暴をすればこの自分に、この猫は銀色の爪を立てて主張するのだ、これは自分にふさわしい扱いではないと。
そして、
「にゃーにゃー。」
今尚楽しそうな鳴き声に、メイルはこの猫――熱斗へは反抗しない事を決めた、いや、決めざるをえなかった。
メイルはあの悪戯仔猫の事はラッシュに押し付ける様に任せる事を決意し、自分はこの天使の様に笑う悪魔のような猫の相手をしなければならないと思うのであった。
そしてメイルが緊張に高まっている間にも、熱斗はまた、幸せそうな笑顔でメイルの脚の傷口に舌を這わせる。
溢れ出る血の一滴も残さないと言いたげなその姿勢に、メイルは更にゾッとするものを感じたが、声に出す事はできなかった。