にゃんにゃん☆ぱにっく!

一方、熱斗の肩からずり落ちて、メイルの肩に登って、最終的にはメイルのPETに逃げ込んだロックマンは、友人であり恋人でありメイルのネットナビであるロールから質問攻めに遭い、状況説明の必要性に追われていた。
緑色の背景が綺麗な電脳空間の中、気まずそうに正座で床に行儀良くちょこんと座るロックマンに、立ったままのロールが正面からやや高圧的な態度で尋ねる。

「ロックマン、熱斗さんったら一体どうしちゃったの?」
「えっと……どう、しちゃったのかなぁ……」

答えられる事なら答えたいのは山々だが、実際問題どうしてそんな事になったのかはっきりとは分からないロックマンはその問いに答える事が出来ず、正座のままでややうつむいて頭を掻いた。
そんなロックマンの態度にロールは溜息を吐き、自分もその場でしゃがんでロックマンと目線を合わせてその顔を覗きこむ。
分かっていて黙っているなら意地でも話してもらわなくては、と思ってその顔を覗きこんだロールだったが、ロックマンの苦すぎるその表情から、ロックマンにも熱斗があんな事をしている理由は全く分からず、困惑しているのは此方と同じなのだろうという事を感じとった。
それなら少し言い過ぎたかも知れないと思ったロールはロックマンの頭に右手を乗せ、メット越しに優しく、小さな子供をあやすようにその頭を撫でながら語りかける。

「理由が分からなくて困ってるのはロックマンも同じなのね、分かったわ。」

そこまで言うと、ロックマンはロールが怒ってはいない事に気付いてホッとしたのか、少し弱々しい頼りない視線を床からロールに上目遣いで向け直した。
ロールはそんなロックマンに優しく、落ち着けるように微笑みかけながら続ける。

「でもどんな小さなことでもいいの、何か分かる事があったら教えてくれないかしら?」

その言葉に動かされ、ロックマンは少し考え込み、熱斗がああなる前の事をいくつか思い出してみた。
朝の事から思い出し、メイルの家に居た時の事、其処から出てしばらくの事、ゲームセンターに着いた時の事、それから一度自宅に帰った事、そして自宅であの手袋にカッターナイフの刃をつける作業をしてからこのメイルの家に戻ってきた事、全てを細かく思いだす。
朝からメイルの家に行く前までの熱斗は至って普通だった気がする、しかしメイルの家に着いてからしばらくの熱斗はとても不機嫌で、それを見た自分はロールと共に苦笑していた。
確かあの時、メイルは知人から預かった悪戯っ子の仔猫に夢中で、普段のように熱斗に構ってくれなくなっていたと思う。
それから――。

「えっとね、関係あるかどうか断言はできないんだけど、メイルちゃんの家を出た後に、熱斗くんはゲームセンターに行ったんだ。そうしたら、熱斗くんが今付けてる猫耳とか尻尾とかが景品のUFOキャッチャーがあって、なんでかは分からないけど、熱斗くん、急にそれをやる気になったみたいで……。」

ロックマンはロールとメイルが知らない時間、つまりメイルの家の外に居た時の事をロールに告げ始めた。
それが直接現状とつながっているのかどうかはロックマンには分からなかったが、それでもメイルとロールが知らない時間に原因があるとすれば、それしか思いつかないのだ。
少し躊躇いながらも状況説明するロックマンへ、ロールは更に問いかける。

「その時、熱斗さんの言動におかしい所はなかった?」
「おかしい所……。」

ロックマンはやや俯いて考え込んだ後、ハッとした表情でその顔を上げ、きっとこれが原因だ! と確信したかのようにハキハキと答えた。

「そう言えば熱斗くん、景品を取って自分に付けた後に、僕がどうして付ける気になったのか聞いたら、『これならメイルちゃんに構ってもらえると思ってな!』って言ってたんだ! 僕にはなんでそれがメイルちゃんに構ってもらえる事に繋がるのかは分からないけど、でも、多分、今の熱斗くんの行動原理はそこにあるはず!」

ロックマンがそう答えると、ロールは少し考え込んだ。
もしもロックマンが言う通り、熱斗の行動の理由がメイルに構ってもらう事だったとして、何故それと猫耳をつけて猫になりきる事が繋がるのか、ロールにも納得のいく答えが浮かばなかったからだ。
構ってもらう事と猫になりきる事はパズルのピースとしては上手く組み合わさるものではなく、間に別のピースがいくつか嵌まって初めて組み合わさる物の気がする。
しかしその間のピースとは一体何だろう? それが分からないで考え込むロールに、ロックマンは更に他のピースを渡す。

「あ、それとね、その前――UFOキャッチャーに気付いた時の熱斗くん、変な事を呟いてたんだ。『そっか……“猫と人間”だから駄目なんだ……。』……って。コレってどういう意味だと思う?」

しかしそのピースもやはり他のピースと複合してようやく形を成す気がして、ロールは更に悩み考え込むことしかできなかった。
ロックマンもそれ以上は思い当たる事が無いようで、他に何かあったかどうかを思い出そうと必死になって悩んでいる。
メイルに構ってもらえる、猫と人間だから駄目、そして猫になりきるという行為、それらが一体何で一つに繋がっているというのか、それがロックマンとロールにはまだ分からない。
と、その時、ロールがピースは見つからないにしてもそのピースの柄の想像はついたと言わんばかりに何か気がついたような表情で顔を上げ、その想像が本当に正しいのかどうかを確かめる為にロックマンへ問いかける。

「ねぇロックマン、熱斗さんはこれならメイルちゃんに構ってもらえると思ってって言ったのよね?」
「え? あ、うん、そうだね。」

しばし無言で考え込んでいた所に突然話しかけられて少し驚きながらも、ロックマンはそれを肯定した。
するとロールは解決の糸口、とまでは行かないものの、解明の糸口はつかんだと言わんばかりに自信を持って更に問いかける。

「それって、それまではメイルちゃんに構ってもらえていなかった、って事にならないかしら?」

ロックマンが、あっ、と言いたげな顔でロールを見る。

「つまり熱斗くんのあの行動は、メイルちゃんに構ってもらえなかった不満から来ている、ってこと?」

ロックマンがロールに問いかけ返すと、ロールは今度こそ正解のピースを掴んだとでも言いたげな表情でしっかりと頷いた。
それにはロックマンも、なるほどそういう事か、とやや納得がいった様子だったが、それでも次の瞬間には、また何かを悩むような顔をして何かを考え込み始めた。
どうやらロックマンには、メイルに構ってもらえなかった不満と猫になりきることの関連性がまだ見えてこないらしい。
それを察したロールは、まだいまいち状況の掴みきれていない表情のロックマンへ、自分の仮説を少し自慢げに説明し始める。

「ねぇロックマン、今日熱斗さんがメイルちゃんの家に来た時、メイルちゃんは熱斗さんを構っていたかしら?」

ロックマンは少し考えた後、首を横に振った。
ロックマンの記憶の中でも、今日のメイルは知人から預かった仔猫に夢中になっており、熱斗など眼中に無いと言いたげに見えていたのだ。
それを確認して、ロールは自信ありげにうんうんと二回頷き、話を続ける。

「でしょう? だから熱斗さんはメイルちゃんに構ってもらいたい。けれど敵は強大で、普通に当たっていっても熱斗さんの方が劣勢なのは目に見えている……そこできっと熱斗さんは思い付いたのよ。」

さてさて此処からが核心です、よーく聴いてくださいね? と言いたげなロールの威圧感に、ロックマンは緊張して息を飲み、そして覚悟を決めたように尋ねた。

「な、何を?」

物凄く緊張して少しだけ声が震えているロックマンに、ロールはフフフッと不敵に笑って見せて、それからもったいぶるようにゆっくりと口を開いて、

「それはね……自分も猫になってしまえばいいという事なのよ!」

と言った。
そのあまりに突拍子のない結論(しかし実は大体正解だったりする)に、ロックマンがしばし固まって声を出せなかった後、

「えぇぇぇ~!?」

と、落胆とも困惑ともつかない情けない声を長々漏らして酷く困った顔をしたのはいうまでも無い。
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