にゃんにゃん☆ぱにっく!

さてさて、大通りを駆けだした熱斗はその後どうしたかというと、はる香からの追及などもはや恐れるに足らんと言わんばかりに自宅へ帰り、ざっと手を洗うとはる香への帰宅報告もそこそこに自室へと階段を駆け上がっていってしまった。
外出時に閉めた扉を開いて自室に入り、熱斗は手に抱えていた残りの部品の入った包装紙を机の上に置く。
包装紙の中にはまだ猫の尻尾を模したアイテムと、猫の手を模様で模した手袋が入っている。
熱斗はそのうちの片方、手袋の方を取りだした後に、自分の机の引き出しを開き、“ある物”を探し始めた。
普段からあまり整理されていない引き出しの中には色々な文房具やバトルチップがごちゃごちゃになって入っている、その中から熱斗がお目当ての物を見つけた時、ロックマンは元々ないはずの血の気が更にさぁっと退いて行くのを感じた。

「熱斗くん、なんでそんな物……」

ロックマンの視線の先、熱斗の右手には一本のカッターナイフが握られていたのだ。
そして熱斗はカッターナイフを机の上に置くとまた机の引き出しの中をガサゴソと漁り、今度は接着剤らしきものを取りだす。
一体そんな物を使って何をする気だというのか、ロックマンがヒヤヒヤしながら見守っていると、熱斗は何故かカッターナイフの刃を一つ一つ折り始めたではないか。
まだ碌に使われていない刃を折る必要が何故あるのか、それが分からないロックマンは熱斗に問いかける。

「ね、ねぇ熱斗くん、か、カッターの刃なんて折って、何に使うの?」

何かは分からないがとてつもなく嫌な予感がしたロックマンの声は少し震えていた。
そんなロックマンに、熱斗はカッターの刃を折り続けながら平然として答える。

「猫の手は爪が鋭いってのは当たり前だろ。」

そうして熱斗はカッターの刃を折りつくし、更には予備の刃も出して折り、丁度十個の小さな刃を準備すると、それに接着剤をつけて先ほど入手した猫耳変身セットの手袋の指先へと貼りつけ始めた。
綺麗に折られた刃は小さくなってもその鋭利さを失わず、確かに猫の爪のように、いや猫の爪よりも鋭く光る。
その光を見て、熱斗は薄っすらと微笑し、ロックマンはそんな熱斗に悪寒を感じるのであった。

やがて小さな刃は全てが手袋の先に貼りつき其処に固定された。
熱斗はそれを満足げに見詰めて何度か頷くと、今度は最後の部品であるしっぽの部分を取りだした。
どうやらこの尻尾は根元にプラスチックの部品が付いていて、ズボンやスカートのウエストかベルトをプラスチックの部品で挟んで留めるようになっているらしい。
また、尻尾の内部には細い針金が入っている為、尻尾の形を自分の好きな形に固定できるようだ。
熱斗は尻尾を上向きに固定すると半ズボンのウエスト部分に取り付け、しっかりと固定された事を確認すると、先ほどカッターの刃をつけた手袋を自分の手が怪我ををしないようにゆっくりとはめて、ニッコリと満足げに笑った。
その後の熱斗の行動をロックマンはある程度予想することができたが、それでもそれが信じたくないロックマンは問いかける。

「ねぇ、熱斗くん……その格好で、何をするつもり……?」

本当に、緊張して、恐る恐る問いかけると、熱斗は満面の笑みを浮かべて自分の肩の上のロックマンに視線を向け、

「何って、メイルちゃんの家に行くに気まってるじゃん!」

と答えた。
それはある意味とても予想しやすく、とても当たり前で、とてもあり得る答えではあったが、ロックマンはそれをあまりにも信じたくなかったのか、そんなの聞いていないと言いたげな驚いた顔で固まる。
そんなロックマンの態度をよそに、熱斗はその格好のまま階段を駆け降りて、またはる香に外出報告をする事もなく玄関のドアを開き、外に出ていった。
外に出ると、買い物帰りなと思われる近所の主婦が熱斗の家の前を通っており、あらあら可愛い猫さんね、等と呟いたが、熱斗の手の指先になにか光る物(主婦はそれが刃物だとは気付かなかった)を見つけて、それを何かと考えるような少し怪訝そうな表情を見せた。
そんな主婦の近くを通り過ぎながら熱斗は想う、そう、俺は今人間じゃない、猫なんだ、と。

そして熱斗は住宅街を駆け抜け、やがてメイルの家へと戻ってきていた。
走ったせいで乱れた呼吸を整えて、熱斗はメイルの家のインターホンを押す。
すると、ピンポーンというありふれた音の後にガチャリと何かを取る音がして、スピーカーからメイルの声が聞こえてきた。

「はーい、どちら様ですかー?」

相手が熱斗だとまだ気付いていない呑気な声に、熱斗は僅かな苛立ちをと期待を感じた。
メイルはモニターを見ていないのか、それともメイルの家のインターホンにはモニターが付いていないのか、そのどちらだったかは忘れたが、とにかく都合が良い。
熱斗は、俺だよ、熱斗だよ、と言いたい気持ちを堪えて、一言、

「にゃーん。」

とだけ口にした。
受話器越しに、メイルが、

「えっ?」

と困惑する声が漏れて聞こえる。
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