にゃんにゃん☆ぱにっく!

「コスプレUFOキャッチャーシリーズ第3段、猫耳変身セット、稼働してまーす!」

猫、と聞いて熱斗は一瞬先ほどの苛立ちを思い出して顔をしかめた。
脳裏に、メイルから優しく撫でられあまつさえ頬ずりさえしてもらっている仔猫の姿が浮かび上がり、熱斗は唇を噛む。
折角あの猫の事を忘れる気で此処に来たのに此処にも猫か、と思うと、例えそれがコスプレ用の猫耳だと言っても苛立ちが湧きあがるのを熱斗は抑えきれなかった。
妬ましい、非常に妬ましい、あの白い仔猫が非常に異常にどうしようもなく妬ましい、そのポディションはお前のものではなく俺のものだ、クソが! という罵倒じみた感情が身体の奥から脳へと突き上げる。
どうしたら、どうしたらあの仔猫から自分の居場所を取り返せるのか、そう考え悩み苛立ちに耐えきれず熱斗は親指の爪を噛んだ、その時、再び聞こえてきた店員の声が熱斗にある行動を閃かせた。

「これを付ければあなたもあの子もにゃんにゃんにゃん、素敵なあの子に付けるもよし、あなたが付けて甘えるもよし、猫耳変身セットでーす! 尻尾と手袋も付いてますよー!」

あぁ、それだ、と熱斗は思った。

「そっか……“猫と人間”だから駄目なんだ……。」
「熱斗くん?」

熱斗の突然の独り言を疑問に思ったロックマンが熱斗に問いかけるが、熱斗はそれには何も答えずにいきなり店員の声のする方へと走り出した。
不思議に思ったロックマンが熱斗の肩の上に現れて周囲を見回すと、熱斗は先ほどから店員が横に立って宣伝しているそれ、UFOキャッチャーの前へと進んでいる事に気がつく。
そのUFOキャッチャーの景品が何なのかはロックマンも先ほどの店員の声を聞いていた事もあって知っている、が、それがどうしたというのかは分からない。
あれが一体なんだというのだろう、と不思議に思いつつロックマンが熱斗の表情を窺うと、熱斗は先ほどの苛立ちに満ちた表情とは違い、何か期待に満ちた表情をしている。
しかし、期待に満ちた表情の割にはあまり輝いて見えず、むしろダークチップを使う直前のダークロイドの笑みのように見えるのはどうしてか、これまたロックマンには分からないが、ロックマンはあまり良くない予感がする事だけは確かだと思った。

やがて熱斗は店員が大声で宣伝するUFOキャッチャーの前へとたどり着き、その足を止めた。
そして手もとのパネルにPETをかざして料金を払うとお目当ての景品を取るべくキャッチャーを動かし始める。
景品は少量がまばらに置いてあるのではなく大量に山積みにされており、キャッチャーの腕に引っかかる所も一応は有りそうだ。
白色以外なら何色でもいいと思いつつ熱斗は緊張して何か取れる事を祈る。
すると、

「あ、熱斗くん、一つ取れたみたいだよ!」

いつの間にか楽しげに観戦していたロックマンがそう告げてきて、熱斗は何色の景品が引っ掛かったのかを確認した。
包装を見ると、どうやら自分の髪色と同じ茶色の景品が取れたらしい。
クレーンはそのまま滑らかな動きで景品を持ったまま取り出し口へと進み、その穴に景品を落した。
熱斗が軽くガッツポーズをしながらウキウキとした表情でそれを取ると、先ほどまですぐ近くで宣伝していた店員がそれに気が付き、近付いてきて声をかけてきた。

「おめでとうございまーす! お目当ての色は取れたかしら?」
「うん、取れたよ! それで……」

熱斗は定員の前で景品の包装を解き、茶色の猫耳の付いたカチューシャを取りだすと自分の頭に付けた。
それを見て、メイルか誰かにプレゼントするのだろうかと思っていたロックマン、またおそらく彼女にでもプレゼントするのだろうと思っていた店員は一瞬驚いてキョトンとする。
そんな二人へ、熱斗は問いかけた。

「どうかな? 似合ってる?」

茶色でふわふわの猫耳は熱斗の髪色に上手く調和し、まるでそこに本当に耳が生えているかのように錯覚させる。
熱斗は猫耳をつけた状態のままその場でくるりと一回転して見せてから、改めて感想を求めるように店員へ視線を向けた。
ロックマンと店員はしばしの間そんな熱斗の行動を少し呆然とするようにして見ていたが、やがて店員は小さく手を叩きながら笑顔を作って熱斗の姿を褒める。

「うん、とっても似あってるわよ!」

店員が褒めると、熱斗は嬉しそうに微笑んで、サンキュ! と言った。
そうして店員にお辞儀をすると、熱斗は猫耳を外す事もしないままで残りの部品を持ってUFOキャッチャーの傍を離れ、出口に向かって歩き出す。
その肩の上ではロックマンが何か不思議なものでも見るかのように訝しげな視線で熱斗を見ていた。
一体、熱斗はこれから何をしようというのだろう? それが気になって仕方がない、むしろ少し心配になってきたロックマンは、遂に熱斗に猫耳を自分でつけた意味を尋ねる事にする。

「ねぇ、熱斗くん。どうして急に猫耳なんて付ける気になったの?」

ロックマンがやや恐る恐る不安そうに問いかけると、熱斗はメイルの家を出た時の不機嫌な顔とは全く違う、自信や希望、期待に満ちた笑顔で肩の上のロックマンを見た。
その笑顔が余計にロックマンを混乱させ、不安に引き摺りこんでいる事を熱斗は知っているだろうか?
いや、もしかしたら知っていて無視をしているのかもしれないし、そんな事は知った事ではないのかもしれない。
ともかく熱斗は、ゲームセンターから外に出る為に歩きながらロックマンの問いかけに答える。

「ふっふーん、これならメイルちゃんに構ってもらえると思ってな!」
「メイルちゃんに?」

熱斗の答えに、ロックマンは首を傾げた。
何故なら、ロックマンの頭の中では、猫耳をつけることとメイルに構ってもらう事の二つを繋ぐ理由が何も見つからないからだ。
一体どうして猫耳をつけるとメイルに構ってもらえるというのだろう、訳が分からない、と思うロックマンがその理由を考え込んでいる間にも、熱斗はゲームセンターを速足で後にして、先ほども通った大通りを駆けだし始める。
それはまるで何かを期待して動かずにはいられないと言いたげで、ロックマンは本当に熱斗はどうしてしまったのかと心配にならずにはいられないのであった。
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