Re_やり過ぎ注意!
「桜井、何故お前がそんな事を……?」
「……。」
メイルはしばしの間俯いたまま膝を抱えて顔を隠していたが、長い沈黙の末にようやく視線だけを膝の影から覗かせた。
そして、本当に、本当に恥ずかしくて仕方が無いと言いたげな顔をしながらも口を開く。
「……だって、家だと熱斗が止まってくれないから……。」
ボソボソと小さな声で告げられた答えに炎山は目眩を覚え、熱斗の体制を戻してやることを忘れたままでその胸ぐらから手を放した。
身体の左側で熱斗が勢い良くソファーに倒れた音と、いてっ、という声が聞こえたが、もはやそんなものは気にならない。
炎山はメイルの言葉の意味を察し、改めて熱斗へ怒り、いや、もはや殺意を持ち始めていた。
同時に、好きという恋愛感情と年齢的な道徳・倫理の間で苦心するメイルには少し同情と哀れみを向ける。
そうして炎山が大きな溜息を吐くと、一度は炎山の手から逃れソファーに倒れた熱斗が呑気に笑いながら上半身を起こして会話に加わってきた。
「だって、俺に押し倒されて嫌がってる時のメイルちゃん、とぉーっても可愛いんだから、しょうがないだろ?」
「お前な……」
炎山に殴られて、メイルに変態扱いをされて、それでもまだ何のダメージも無いと言わんばかりに呑気で変態らしい言葉を並べた熱斗に、炎山は一瞬怒る気力すら失い、何とも脱力した声が漏れた。
しかも、それを聞いて尚、熱斗は止まろうとしない。
ソファーの左端で体勢を立て直し、ソファー右端に居るメイルに少しずつにじり迫りながら、熱斗は勝ち誇ったような笑みを浮かべて言う。
「それに、メイルちゃんだって本音じゃ嫌がって無いく、せ、に!」
そう言ってメイルを再び組み敷こうとする熱斗を見て、怒りと哀れみと危機感と同情とその他諸々と、とにかく一括してしまえば憤怒の一言に尽きる感情が頂点を越えた炎山は再び熱斗の頭部に思い切り殴りかかった。
再びゴスッと鈍い打撃音がして、熱斗は後方へ体勢を崩す。
メイルはその隙にソファーから飛び退いた。
「いってぇぇえ!! ホントに何すんだよ炎山!!」
この期に及んでもまだ自分はそうされるだけの事していると言う自覚が無いらしい熱斗に、炎山はもはや殺意となった怒りを向け、刺すような視線で熱斗を睨みつけた。
これには熱斗もさすがに怯み、少し緊張した面持ちになったが時すでに遅し、炎山はソファーの下の部分に指をかけると、
「この、大馬鹿がぁぁぁああっ!!」
「だぁぁあ!?」
熱斗をその大きなソファーごと床に突き飛ばした。
一体炎山の何処にそんな力があったのかは分からない、おそらく火事場の馬鹿力に似たような何かであろう。
炎山の背後ではメイルがそのあまりの力、迫力、怒りのオーラに軽く、いや酷く怯えている。
しかし炎山はそんな事には構わずPETを取り出すと、それをこの副社長室の扉とその鍵を管理するコントロールパネルに向けてブルースをプラグインした。
「プラグイン! ブルース、トランスミッション!!」
ブルースは既に主人――炎山の考えを察しているのか、プラグインされると直ちに副社長室と廊下を繋ぐ扉を開いた。
それを確認すると炎山は戸惑うメイルの左手首を掴んで扉へ向けて速足で歩きだす。
それを見て、何が何だか分からないがこのままではメイルと引き離されてしまうと直感した熱斗は横転したソファーから飛び上がるように立ちあがり二人の背を追った。
だが、あと少しでメイルに届くという所で炎山が急に振り向き、その振り向きざまに強烈な蹴りを腹部に入れてきたため、熱斗はその衝撃に耐えられず後退しながら倒れてしまった。
「ゲッホ、ゲホッ……え、えんざ……」
むせ込みながら倒れ込み、それでもなお二人を追い掛けようと顔上げた熱斗に、炎山は吐き捨てる。
「お前は少し此処で頭を冷やしていろ!」
何がどうなっていると言うのだと言いたげな熱斗を見下しながら、炎山はPETに向けて、PETで繋がるブルースに向けて指示を出す。
「ブルース、しばらくの間、光 熱斗を閉じ込めておけ。もしもロックマンが解放を要求してきたら応戦しろ、全力でな。」
「はい、了解しました、炎山様。」
ブルースはPET画面の中で丁寧に一礼し、それを確認すると炎山はPETをポケットに仕舞いなおした。
そして、やはり何がどうなっているのか分からず混乱したまま地面に這いつくばっている熱斗を完全に見下して睨みつけると、そのままメイルの手を引いて副社長室を出てしまう。
何がどうなっている、どうしてこうなっている、それは分からないがとにかく追わなくては、と思った痛みを振り払って熱斗が立ちあがった時には、既に部屋の扉は閉まり、鍵がしっかりとかけられた後となっていた。
言うまでも無いが、熱斗は焦る。
「え、ちょ……!」
これは所謂閉じ込められた状態なのではないだろうか、と気付いた熱斗は、メイルが炎山と共に何処か遠くに行ってしまう事を危惧して更に焦り、自分も腕のホルダーからPETを取り外しコントロールパネルに向けた。
「プラグイン! ロックマンエグゼ、トランスミッション!」
熱斗の持つ青いPETから赤外線が伸び、それに乗ってロックマンがコントロールパネルの電脳に入り込む。
これでどうにかブルースを倒してロックマンに鍵を開けさせなければ、と考えた熱斗であったが、実はそれが最大の間違いであった事にはまだ気付かない。
コントロールパネルの電脳の中でブルースの目の前へと降り立ったロックマンに、熱斗は指示を飛ばす。
「ロックマン! この扉の鍵を開けてくれ!」
熱斗は相当切羽詰まった様子でそう言ったが、ロックマンはブルースと戦闘をするどころか鍵に近付くそぶりを一切見せない。
それどころかロックマンはゆっくりと背後、熱斗の映っているウインドウに向かって振り向くと、やや不機嫌そうな顔で溜息を吐いて見せる。
それは一体どういう意味だというのか、熱斗が気付くよりも先に、ロックマンは軽いステップでブルースに駆け寄ると、満面の笑みを浮かべてブルースへ宣言した。
「ブルース! 僕も熱斗くん監禁手伝うよ!」
熱斗がショックを受けた顔で固まったのは言うまでも無い。
ブルースは熱斗のその哀れさに少し笑いつつ、
「聞こえは悪いが、是非頼もうか。」
と答えた。
熱斗の落胆に満ちた、えぇぇぇ!? という声が副社長室に響き渡る。
するとロックマンはもう一度熱斗の映っているウインドウに向かって軽いステップで振り向くと、軽くざまぁみろとでも言いたげな表情を見せながら言った。
「熱斗くん、君は少し、やり過ぎ注意だよ!」
その後、炎山とメイルが外で時間を潰して帰ってきたときには、ロックマンの説教がまだ続いていたとか何とか……。
End.
「……。」
メイルはしばしの間俯いたまま膝を抱えて顔を隠していたが、長い沈黙の末にようやく視線だけを膝の影から覗かせた。
そして、本当に、本当に恥ずかしくて仕方が無いと言いたげな顔をしながらも口を開く。
「……だって、家だと熱斗が止まってくれないから……。」
ボソボソと小さな声で告げられた答えに炎山は目眩を覚え、熱斗の体制を戻してやることを忘れたままでその胸ぐらから手を放した。
身体の左側で熱斗が勢い良くソファーに倒れた音と、いてっ、という声が聞こえたが、もはやそんなものは気にならない。
炎山はメイルの言葉の意味を察し、改めて熱斗へ怒り、いや、もはや殺意を持ち始めていた。
同時に、好きという恋愛感情と年齢的な道徳・倫理の間で苦心するメイルには少し同情と哀れみを向ける。
そうして炎山が大きな溜息を吐くと、一度は炎山の手から逃れソファーに倒れた熱斗が呑気に笑いながら上半身を起こして会話に加わってきた。
「だって、俺に押し倒されて嫌がってる時のメイルちゃん、とぉーっても可愛いんだから、しょうがないだろ?」
「お前な……」
炎山に殴られて、メイルに変態扱いをされて、それでもまだ何のダメージも無いと言わんばかりに呑気で変態らしい言葉を並べた熱斗に、炎山は一瞬怒る気力すら失い、何とも脱力した声が漏れた。
しかも、それを聞いて尚、熱斗は止まろうとしない。
ソファーの左端で体勢を立て直し、ソファー右端に居るメイルに少しずつにじり迫りながら、熱斗は勝ち誇ったような笑みを浮かべて言う。
「それに、メイルちゃんだって本音じゃ嫌がって無いく、せ、に!」
そう言ってメイルを再び組み敷こうとする熱斗を見て、怒りと哀れみと危機感と同情とその他諸々と、とにかく一括してしまえば憤怒の一言に尽きる感情が頂点を越えた炎山は再び熱斗の頭部に思い切り殴りかかった。
再びゴスッと鈍い打撃音がして、熱斗は後方へ体勢を崩す。
メイルはその隙にソファーから飛び退いた。
「いってぇぇえ!! ホントに何すんだよ炎山!!」
この期に及んでもまだ自分はそうされるだけの事していると言う自覚が無いらしい熱斗に、炎山はもはや殺意となった怒りを向け、刺すような視線で熱斗を睨みつけた。
これには熱斗もさすがに怯み、少し緊張した面持ちになったが時すでに遅し、炎山はソファーの下の部分に指をかけると、
「この、大馬鹿がぁぁぁああっ!!」
「だぁぁあ!?」
熱斗をその大きなソファーごと床に突き飛ばした。
一体炎山の何処にそんな力があったのかは分からない、おそらく火事場の馬鹿力に似たような何かであろう。
炎山の背後ではメイルがそのあまりの力、迫力、怒りのオーラに軽く、いや酷く怯えている。
しかし炎山はそんな事には構わずPETを取り出すと、それをこの副社長室の扉とその鍵を管理するコントロールパネルに向けてブルースをプラグインした。
「プラグイン! ブルース、トランスミッション!!」
ブルースは既に主人――炎山の考えを察しているのか、プラグインされると直ちに副社長室と廊下を繋ぐ扉を開いた。
それを確認すると炎山は戸惑うメイルの左手首を掴んで扉へ向けて速足で歩きだす。
それを見て、何が何だか分からないがこのままではメイルと引き離されてしまうと直感した熱斗は横転したソファーから飛び上がるように立ちあがり二人の背を追った。
だが、あと少しでメイルに届くという所で炎山が急に振り向き、その振り向きざまに強烈な蹴りを腹部に入れてきたため、熱斗はその衝撃に耐えられず後退しながら倒れてしまった。
「ゲッホ、ゲホッ……え、えんざ……」
むせ込みながら倒れ込み、それでもなお二人を追い掛けようと顔上げた熱斗に、炎山は吐き捨てる。
「お前は少し此処で頭を冷やしていろ!」
何がどうなっていると言うのだと言いたげな熱斗を見下しながら、炎山はPETに向けて、PETで繋がるブルースに向けて指示を出す。
「ブルース、しばらくの間、光 熱斗を閉じ込めておけ。もしもロックマンが解放を要求してきたら応戦しろ、全力でな。」
「はい、了解しました、炎山様。」
ブルースはPET画面の中で丁寧に一礼し、それを確認すると炎山はPETをポケットに仕舞いなおした。
そして、やはり何がどうなっているのか分からず混乱したまま地面に這いつくばっている熱斗を完全に見下して睨みつけると、そのままメイルの手を引いて副社長室を出てしまう。
何がどうなっている、どうしてこうなっている、それは分からないがとにかく追わなくては、と思った痛みを振り払って熱斗が立ちあがった時には、既に部屋の扉は閉まり、鍵がしっかりとかけられた後となっていた。
言うまでも無いが、熱斗は焦る。
「え、ちょ……!」
これは所謂閉じ込められた状態なのではないだろうか、と気付いた熱斗は、メイルが炎山と共に何処か遠くに行ってしまう事を危惧して更に焦り、自分も腕のホルダーからPETを取り外しコントロールパネルに向けた。
「プラグイン! ロックマンエグゼ、トランスミッション!」
熱斗の持つ青いPETから赤外線が伸び、それに乗ってロックマンがコントロールパネルの電脳に入り込む。
これでどうにかブルースを倒してロックマンに鍵を開けさせなければ、と考えた熱斗であったが、実はそれが最大の間違いであった事にはまだ気付かない。
コントロールパネルの電脳の中でブルースの目の前へと降り立ったロックマンに、熱斗は指示を飛ばす。
「ロックマン! この扉の鍵を開けてくれ!」
熱斗は相当切羽詰まった様子でそう言ったが、ロックマンはブルースと戦闘をするどころか鍵に近付くそぶりを一切見せない。
それどころかロックマンはゆっくりと背後、熱斗の映っているウインドウに向かって振り向くと、やや不機嫌そうな顔で溜息を吐いて見せる。
それは一体どういう意味だというのか、熱斗が気付くよりも先に、ロックマンは軽いステップでブルースに駆け寄ると、満面の笑みを浮かべてブルースへ宣言した。
「ブルース! 僕も熱斗くん監禁手伝うよ!」
熱斗がショックを受けた顔で固まったのは言うまでも無い。
ブルースは熱斗のその哀れさに少し笑いつつ、
「聞こえは悪いが、是非頼もうか。」
と答えた。
熱斗の落胆に満ちた、えぇぇぇ!? という声が副社長室に響き渡る。
するとロックマンはもう一度熱斗の映っているウインドウに向かって軽いステップで振り向くと、軽くざまぁみろとでも言いたげな表情を見せながら言った。
「熱斗くん、君は少し、やり過ぎ注意だよ!」
その後、炎山とメイルが外で時間を潰して帰ってきたときには、ロックマンの説教がまだ続いていたとか何とか……。
End.