君だけ見てる、僕を見て。
ロックマンをプラグアウトした熱斗は、そのPETを見つめながら、酷い後悔に襲われていた。
気付こうと思えば気付けていたかもしれないロックマンの異常性、それに気付けなかった、気付かなかった、いやもしかしたら気付いていて目を逸らしていたかもしれない事を、熱斗は酷く後悔し、片手で頭を抱える。
PETの中では、ロックマンが喚いている。
「熱斗くん!! どういうつもりなの!? ねぇ熱斗くん!! 僕をロールちゃんの所に戻してよぉ!!」
真辺から連絡と同時に送られてきたトランスミッション阻止用のプログラムが、ロックマンが勝手にロールの元へ戻る事を禁じている。
そしてロックマンはそれに反感を覚え喚いている。
まさか、という薄い確信を抱きながら、熱斗は喚くロックマンを閉じ込めたままのPETを左肩に装着し、急いで部屋を出て階段を駆け降りた。
いつもなら、何処に行くの? と声をかけてくるはる香は、その時の熱斗が纏っていた緊迫感に押されてか、それを訊いてこなかった。
熱斗は母親に声をかける事も無いまま玄関を出て、インラインスケートで走り出す。
走る途中で一度PETを肩から外し、ロックマンの様子をチラリと見る。
するとロックマンは喚く事に疲れたのか、今度は脱力した様子で床に座り込んでいた。
そして熱斗が自分を見ている事に気付くと小さな声でぼそりと、
「どうして……。」
とだけ言った。
どうして、なんてことは此方が訊きたい、という言葉を飲み込み、熱斗は手動で電話ツールを開く。
そしてアドレス帳の中から父親の研究室のパソコンのアドレスを選び出し、走りながら電話をかけた。
一、二回のコールの後、PETの小さな画面に父親――祐一朗の顔が映る。
その表情は既に何処か神妙で、そして驚きと非常に残念そうな複雑さを合わせ持っていた。
「熱斗……ロックマンは……」
どうやら、真辺から熱斗に連絡があった際に、同じく真辺から祐一朗にも連絡が行っていたらしく、祐一朗の状況の理解は早かった。
熱斗は一瞬言葉に詰まり、祐一朗以上に悔しそうな表情を見せながらもやっとの思いで頷いて見せる。
「……これから科学省にロックマンを連れていくから……だから……」
頷く事と同じぐらいやっとの思いで絞り出した言葉は何処か頼りなく、熱斗はだからの後に続く言葉を思い付く事が出来なかった。
だから、何なのだろう。
これはバグかウイルス感染か何かなのだろうか、それとも人と同じ感情を持ってしまった故の誤算なのだろうか、もし後者だとしたら例え科学省のトップとも言える祐一朗でもそれを操作することはできないのではないだろうか、そんな疑問と不安が熱斗の脳裏をよぎる。
人を想う事は良い事のハズなのに、ロックマンはどうして此処までおかしくなってしまったのだろうか、それが分からない熱斗はただただ悔しい想いで胸をいっぱいにしながら科学省へ向けて駆け抜けることしかできない。
「そうか、わかった。私も出来る限りの事をしよう……。」
熱斗と同じく何かを悔やむ様な悲しげな声で祐一朗が言った。
そして通信はそこでプツリと切れ、PETの画面は黄緑色の待機画面に戻り、その中央にへたりこむように座るロックマンの姿を映す。
ロックマンはもう騒ごうとはしなかった、騒ごうとがしなかったがその代わり、熱斗に何か伝えようともしなかった。
それは伝える程の気力が残っていないからなのか、それとも熱斗には伝えたところで分からないと思っているからのか、はたまた熱斗やその他誰かには伝えたくないからなのかは分からない。
その様子を悲しげに見つめる熱斗にできる事は、出来るだけ早く科学省に着く事、それだけであった。
熱斗はそれを自覚してPETを左肩のベルトに戻し、走る速度を極限まで上げる。
一方、PETの中のロックマンは酷い喪失感に襲われていた。
自分はただロールに愛して欲しかっただけなのに、何故こんなにもそれは難しい事なのか、その理由がロックマンには解らない。
昨日の朝はガッツマンに邪魔をされて、昨日の放課後は知らないナビに邪魔をされて、今日の放課後はブルースと熱斗に邪魔をされた。
人を想う事は良い事のハズだというのに、どうしてこんなにも邪魔をされるのか、ロックマンは内面でそれを悲しみ嘆く。
「どうして……どうして……どうして……どうして……」
内面だけでは収まりきらない想いがぽつぽつと口をついて零れ落ちる。
どうして今自分の傍にはロールがいないのだろう、どうして今自分のこの悲しみはロールに届かないのだろう、どうして自分はあと少しの所でロールを殺せなかったのだろう、そもそもどうして自分はこんな事を想っているのだろう、それら全ての理由はもはやロックマン自身にも分からなくなりかけていた。
先ほどまでバスターになっていた自分の右腕を見つめ、その手を握り締める。
先ほどはこの手でロールを終わらせようとしたのだと思うと、それに関する肯定と否定が一気に湧きあがってきて、ロックマンの目から涙を溢れさせた。
自分は一体何をやっている、最愛の人物を自分の手で終わらせようなど馬鹿な真似をするべきではない、という否定意見。
自分は間違ってはいなかった、ロールがこれ以上罪を重ねて自分から離れて行く前に、もう罪を重ねなくて良いようにしてやるべきだったのだ、という肯定意見。
二つが混ざり合って胸を締め付ける、人間でいう心臓が痛い、人間でいう脳が揺れる、人間でもナビでも同じ四肢が震える。
全てが真っ白か真っ黒に染まる様に、細かい事が分からなくなって、ロックマンは頭を抱えた。
最初は、ただ愛しい、それだけだったはずなのに、どうしてこんな想いを抱えなければいけなくなったのだろう、と。
気付こうと思えば気付けていたかもしれないロックマンの異常性、それに気付けなかった、気付かなかった、いやもしかしたら気付いていて目を逸らしていたかもしれない事を、熱斗は酷く後悔し、片手で頭を抱える。
PETの中では、ロックマンが喚いている。
「熱斗くん!! どういうつもりなの!? ねぇ熱斗くん!! 僕をロールちゃんの所に戻してよぉ!!」
真辺から連絡と同時に送られてきたトランスミッション阻止用のプログラムが、ロックマンが勝手にロールの元へ戻る事を禁じている。
そしてロックマンはそれに反感を覚え喚いている。
まさか、という薄い確信を抱きながら、熱斗は喚くロックマンを閉じ込めたままのPETを左肩に装着し、急いで部屋を出て階段を駆け降りた。
いつもなら、何処に行くの? と声をかけてくるはる香は、その時の熱斗が纏っていた緊迫感に押されてか、それを訊いてこなかった。
熱斗は母親に声をかける事も無いまま玄関を出て、インラインスケートで走り出す。
走る途中で一度PETを肩から外し、ロックマンの様子をチラリと見る。
するとロックマンは喚く事に疲れたのか、今度は脱力した様子で床に座り込んでいた。
そして熱斗が自分を見ている事に気付くと小さな声でぼそりと、
「どうして……。」
とだけ言った。
どうして、なんてことは此方が訊きたい、という言葉を飲み込み、熱斗は手動で電話ツールを開く。
そしてアドレス帳の中から父親の研究室のパソコンのアドレスを選び出し、走りながら電話をかけた。
一、二回のコールの後、PETの小さな画面に父親――祐一朗の顔が映る。
その表情は既に何処か神妙で、そして驚きと非常に残念そうな複雑さを合わせ持っていた。
「熱斗……ロックマンは……」
どうやら、真辺から熱斗に連絡があった際に、同じく真辺から祐一朗にも連絡が行っていたらしく、祐一朗の状況の理解は早かった。
熱斗は一瞬言葉に詰まり、祐一朗以上に悔しそうな表情を見せながらもやっとの思いで頷いて見せる。
「……これから科学省にロックマンを連れていくから……だから……」
頷く事と同じぐらいやっとの思いで絞り出した言葉は何処か頼りなく、熱斗はだからの後に続く言葉を思い付く事が出来なかった。
だから、何なのだろう。
これはバグかウイルス感染か何かなのだろうか、それとも人と同じ感情を持ってしまった故の誤算なのだろうか、もし後者だとしたら例え科学省のトップとも言える祐一朗でもそれを操作することはできないのではないだろうか、そんな疑問と不安が熱斗の脳裏をよぎる。
人を想う事は良い事のハズなのに、ロックマンはどうして此処までおかしくなってしまったのだろうか、それが分からない熱斗はただただ悔しい想いで胸をいっぱいにしながら科学省へ向けて駆け抜けることしかできない。
「そうか、わかった。私も出来る限りの事をしよう……。」
熱斗と同じく何かを悔やむ様な悲しげな声で祐一朗が言った。
そして通信はそこでプツリと切れ、PETの画面は黄緑色の待機画面に戻り、その中央にへたりこむように座るロックマンの姿を映す。
ロックマンはもう騒ごうとはしなかった、騒ごうとがしなかったがその代わり、熱斗に何か伝えようともしなかった。
それは伝える程の気力が残っていないからなのか、それとも熱斗には伝えたところで分からないと思っているからのか、はたまた熱斗やその他誰かには伝えたくないからなのかは分からない。
その様子を悲しげに見つめる熱斗にできる事は、出来るだけ早く科学省に着く事、それだけであった。
熱斗はそれを自覚してPETを左肩のベルトに戻し、走る速度を極限まで上げる。
一方、PETの中のロックマンは酷い喪失感に襲われていた。
自分はただロールに愛して欲しかっただけなのに、何故こんなにもそれは難しい事なのか、その理由がロックマンには解らない。
昨日の朝はガッツマンに邪魔をされて、昨日の放課後は知らないナビに邪魔をされて、今日の放課後はブルースと熱斗に邪魔をされた。
人を想う事は良い事のハズだというのに、どうしてこんなにも邪魔をされるのか、ロックマンは内面でそれを悲しみ嘆く。
「どうして……どうして……どうして……どうして……」
内面だけでは収まりきらない想いがぽつぽつと口をついて零れ落ちる。
どうして今自分の傍にはロールがいないのだろう、どうして今自分のこの悲しみはロールに届かないのだろう、どうして自分はあと少しの所でロールを殺せなかったのだろう、そもそもどうして自分はこんな事を想っているのだろう、それら全ての理由はもはやロックマン自身にも分からなくなりかけていた。
先ほどまでバスターになっていた自分の右腕を見つめ、その手を握り締める。
先ほどはこの手でロールを終わらせようとしたのだと思うと、それに関する肯定と否定が一気に湧きあがってきて、ロックマンの目から涙を溢れさせた。
自分は一体何をやっている、最愛の人物を自分の手で終わらせようなど馬鹿な真似をするべきではない、という否定意見。
自分は間違ってはいなかった、ロールがこれ以上罪を重ねて自分から離れて行く前に、もう罪を重ねなくて良いようにしてやるべきだったのだ、という肯定意見。
二つが混ざり合って胸を締め付ける、人間でいう心臓が痛い、人間でいう脳が揺れる、人間でもナビでも同じ四肢が震える。
全てが真っ白か真っ黒に染まる様に、細かい事が分からなくなって、ロックマンは頭を抱えた。
最初は、ただ愛しい、それだけだったはずなのに、どうしてこんな想いを抱えなければいけなくなったのだろう、と。