君だけ見てる、僕を見て。

「どう言うつもり、なんて、そんなの僕の台詞じゃないか……どうして、どうしてお前とロールちゃんが一緒にいるんだよ!!」

普段のロックマンより数段荒々しい言葉遣いに、さすがのブルースも一瞬だけ怯んだ。
そしてロックマンはその一瞬を見逃さず、ブルースのガードが薄くなった瞬間に速攻でバスターを構えて再び発砲する。
ブルースもすぐに防御をしながらロールを守るべくソードを掲げるが、一瞬の差で間に合わず、発砲された数初の内最初の一発をマトモにくらい、後ろへ突き飛ばされてしまう。
いつもよりバスターの威力が高く見えるのはロックマンの怒り故か、それともブルースとロールがそんなロックマンに恐怖を覚えている故か、それは分からないが、ブルースがその場から数メートル後ろへ突き飛ばされた事に驚いたロールは、ひっ、と短い悲鳴を漏らした。
ブルースは突き飛ばされた衝撃で数秒間だけ動きが止まったものの、すぐに上体を起こして立ちあがり、反撃だと言わんばかりにロックマンへ向けてソードを構えたまま駆けだす。
ロックマンの対応は早かった。
ロックマンはソードの攻撃圏内ギリギリまでブルースを引き寄せてから、ブルースがソードを振るう瞬間に素早くしゃがみ、そのままブルースの脇を通り抜けるように低い体勢を保ったまま前方へ跳躍する。
結果、ブルースのソードは空振りとなり、ロックマンはロールとブルースの間に着地すると素早く振り返り、普通のショットではなく、チャージショットをブルースへ浴びせた。
ロックマンは、ブルースを引き寄せている間。静かにチャージを進めていたのだ。
チャージショットを背後からマトモにくらったブルースはまたも数メートル突き飛ばされ、その場に倒れ込む。
ブルースが敗北した、そう思ったロールは悲鳴をあげた。

「嫌ああぁぁぁあっ!!」

ロックマンはゆっくりとロールへ振り返る。

「何、が、嫌、なの?」

単語を途切れ途切れに口にしたロックマンの纏う空気は異常性に満ちていて、ロールは床にへたりこんだままながらも少しでもロックマンから距離を取ろうと、ずるずると下半身を引き摺って後退しはじめる。
しかしそんなものは無駄な抵抗に等しく、普通に脚で歩くロックマンの速度に勝てる筈はなかった。
ロックマンは一瞬だけ後方のブルースに視線を向け、ブルースがまだ動けない事を確認すると前方のロールへと向き直り、その足をロールの方へと進める。
ロックマンが歩みを進める度にガクガクと震えて怯えるロールに、ロックマンは言いようのない苛立ちを感じた。

「どうして、逃げるの。」

嫌だ、嫌だと首を横に振りながら必死に後方へ逃げ続けるロールへ、ロックマンは容赦無く歩み寄る。
もう少し、もう少しでロールの目前へ立てる。
ロックマンは静かに音を立てないままバスターのエネルギーのチャージを始め、それをロールに向けようとした、その時、インターネットシティに一人の少年の声が響いた。

「ロックマン!! お前何やってんだよ!!」

ロックマンが驚いて後方へ振り返ると、そこには現実と電脳を繋ぐ窓が現れており、その窓には自分のオペレーター――光 熱斗の姿が映っていた。

「熱斗くん……どうして。」

ロックマンの口から漏れた声は、暴れている途中のナビの声とは思えないほど落ち着いていた。
反対に、熱斗はブルース以上の必死さと強さをもっている。

「真辺さんから連絡があったんだよ、インターネットシティでお前がやらかしてるって……」

心底困惑しているという様子の熱斗を見るロックマンの目からは、いつの間にか驚きが消えている。
逆に熱斗は何もかもが信じられないといった様子で荒々しく続ける。

「なぁ、本当に、どうしちまったんだよ!? ロックマン!!」

もうやめてくれ、とでも言いたげな様子の熱斗に、ロックマンは軽い軽蔑のような冷たい視線を向けた。
その視線を受けて、どうしてそんな目で見られなければいけないのかと、熱斗は更なる困惑と驚愕に目を見張る。
そしてもはやロックマン以上の混乱に突き落とされている熱斗へ、ロックマンは至極冷静な口調で、そして窓にバスターを向けながら言った。

「僕はどうにもしてないよ。ロールちゃんがどうにかしてる、それだけで。」
「ロック、マン……。」

どうして、どうしてそんな事をそんな冷静に言えるのだと混乱する熱斗の映る窓に向けて、ロックマンはそれまでチャージしていたエネルギーを解放したチャージショットを撃った。
すると熱斗の映った窓は一瞬砂嵐になり、すぐに黒いだけで四角い平面の板になり、そしてチャージショットの銃弾の当たった場所を中心にしてパキパキと割れ、ガラスが落ちるようにその場に崩れ落ちた。
窓が完全に消滅し、その向こうでブルースがまだ倒れている事を確認してから、ロックマンはロールへと向き直る。
ロールは、ひっ、と短い悲鳴を漏らし、今度は何とか立ちあがろうと両手を床について足をもがかせていた。
冷たいのに熱い怒りを宿したロックマンの視線と、ただただ恐怖を溢れさせるロールの視線がぶつかり合う。
先に口を開いたのはロックマンの方だった。

「ロールちゃん……僕、さすがに君を許せないよ……。」

大きな怒りと少しの寂しさを込めた声は、ロールには冷たい怒りだけに伝わったらしく、ロールは相変わらず身体をガタガタと震わせている。
そのせいで途切れ途切れになってしまう声で、ロールは問い返す。

「許せない、って、何、が……」

ロールはロックマンが自分を許せない理由を何も分かってはいなかった。
ロックマンの中で、何かがパキンッと軽い音を立てて割れる。
何かが壊れる感覚を覚えながら、ロックマンは、自分がどれだけロールを許さないと言いつつも少しだけロールの理解力、洞察力、そしてロールの心がちゃんと自分の傍にある事に期待していた事を感じ、一瞬だけ軽く自嘲した。
そしてすぐに表情を怒りを含む真剣なものに戻し、ゆっくりと口を開く。

「ねぇ……どうして僕じゃ駄目だったの……。」
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