君だけ見てる、僕を見て。
翌日の朝。
前日の朝に、どれだけ頑張ったとしてもそれが報われる事はないのだろうと知ったロックマンは今までとは正反対に、熱斗を無理矢理起こすことへの熱意を失っていた。
よって、熱斗は前日とは逆に遅刻寸前の時間に起きる事となり、教室に着いた時には既にホームルームが始まっていた。
熱斗はそれに関してロックマンへ多少の文句を零したが、ロックマンは冷静に“いつもこんな感じじゃないか”と返し、話はそれ以上発展しなかった。
休み時間。
ロックマンは最初こそロールに声をかけようと思ったものの、前日のヒグレヤでの会話が心のどこかに引っかかって身体を重くして、それが原因で結局ロールに声をかける事はなかった。
そして何の運の悪さか、ロールからロックマンへ声がかけられることも無く、ロールはガッツマンやグライド、アイスマンといった他のナビとばかり会話をしていた。
それに関してロールを責めるのは多少筋違いかもしれない事はロックマンも知っている、都合のいい時に都合よく話しかけてくれるナビ、または人間など、エスパーでもない限りあり得はしないと知っている。
それでもロックマンはロールの目が、心が、自分――ロックマン.EXEを見る事を望み、自分の目と心は常にロールを見続ける。
そして自分では話しかけられないという弱気な意思と反対に、ロールに話しかける夢を強く強く見続ける。
暗く重い想いを抱えたまま、ロックマンは学校での時間を過ごしていた。
そして放課後、熱斗が自宅に帰ってからの事である。
昨日の内にロールに用事があると知り、ヒグレヤに手伝いに行くその意味すらも失ったロックマンは、熱斗を勉強机に向かわせたまま、自分は一人インターネットシティを意味も無く徘徊していた。
銀色の建物、現実世界とは関係なく常に青く明るい空、それらの間を縫うように通る道を独り、当ても無く歩く。
脚が疲れても、息が切れかけても、ロックマンはただただ歩き続けた。
やがて全身が疲れたロックマンは、いつもよく仲間と集まる小さな公園のベンチに腰掛け、休憩を取り始めた。
「はぁ……。」
ベンチに腰掛けたまま、ロックマンは大きな溜息を吐く。
本当なら、もしくはもしも未来が違ったなら、自分は今頃ロールと共にこの街を歩いて、何処かのお店でショッピングでも楽しんで、カフェか何かで休息を取りながら会話に花を咲かせていたはずなのだ、そう思うとどうにも悔しくて、ロールの言う用事とやらが憎らしくなってくる。
今頃ロールは何をしているのだろう? メイルと共にピアノのお稽古でもしているのだろうか? それとも何かの勉強の手伝いでもしているのだろうか?
ロックマンの頭の中はロールの事だけで埋めくされていく。
そして最後に、嗚呼こんなにも自分はロールの事を想っているのに、どうしてロールは同じように自分を想ってくれないのだろうという不満がふつふつと湧き上がってくるのだ。
そうすると、その代表例である昨日の教室の電脳での出来事を思い出し、気分が自然と暗くなる。
「ロールちゃん……。」
愛しい相手の名前をぽつりと呼んで、ロックマンはもう一度溜息を吐いた。
どんなに愛しく思っても、どんなに一番だと言っても、届かないのでは意味が無い。
どうしてこの声はロールに届かないのだろう、と思いながらロックマンは前方の噴水を見つめる。
すると、噴水の水が一瞬桃色に染まった。
「えっ?」
いや、正しくは噴水の後ろを桃色の何かが通過して、それが噴水を通してロックマンへぼんやり見えたのだ。
ロックマンは一瞬目を見張り、反射的にベンチから立ちあがっていた。
桃色の影はもう見えなかったが、ロックマンの中には一つの可能性が浮かんで消えなくなる。
あれは、ロールの影だったのではないだろうか。
勿論別のナビや見間違いの可能性もあったが、一度ロールではないかと思ってしまうともう居ても立っても居られなくて、ロックマンはしばし悩んだ末、その脚を噴水の後ろへと、そしてその先の通路へと急いで進めた。
噴水の後ろに延びる道を、一本一本丁寧に観察しながら走り抜ける。
走っているうちに、ロックマンの中では先ほどの桃色の影の正体がロールであるという意識が強まり、気が付けばロックマンはロールかどうかの確認ではなく、ロールを探すためにインターネットシティを駆け抜けていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
もう何本の道を走っただろうか、息が切れて脚が痛くなる。
身体は一度止まれと言っている、活動したくないと叫んでいる、それでもロックマンはそんな身体を無理矢理動かして走り続けた。
もしも、もしもあの影がロールなら、今すぐに逢いたい、逢って、それで……それでどうするのだ、という所にまでは、上手く考えが至らなかった。
とにかく逢いたい、逢わなければ、用事の途中かもしれないが、それでもそれがインターネットシティでの事ならばやはり付き添いたい、折角チャンスがあるのならそのチャンスは全て物にしたい、そう考えてロックマンは脚を動かし続ける。
そして、走り続けて数分後、ロックマンは女子に人気の小物店や洋服店、家具店が並ぶエリアへと到達していた。
周囲は女性ナビが多く、たまに男性ナビが居ても大抵彼女連れで、現在独りのロックマンには何処か薄っすらと居心地が悪い。
たまに、残念な何かを見るような目を向けられるのはどうしてか、ロックマンには分からなかったが、同時に分かりたくも無いと思う。
そんなことより、今はロールを探さなければならない、その使命感に突き動かされて、ロックマンは一つ一つの店の中を外から観察しながらそのストリートを歩きだした。
「此処でもない……此処も違う……」
そんな事をぼそぼそと口にしながら歩くロックマンを周囲に居るナビの一部は気味悪がっていたが、この時ロックマンには既にそれらの音は聞こえないに等しくなっていた。
好感だろうが嫌悪だろうが、赤の他人の評価などどうでもいい、今自分が探しているのはロールただ一人なのだから、と、自分でも分からない深い場所でロックマンは思い始めていたのだろう。
そう、正にこの時、ロックマンはロールの事だけを考え、ロールの事だけを探し、ロールの事だけを欲し、ロールの事だけを追っていたのだ。
前日の朝に、どれだけ頑張ったとしてもそれが報われる事はないのだろうと知ったロックマンは今までとは正反対に、熱斗を無理矢理起こすことへの熱意を失っていた。
よって、熱斗は前日とは逆に遅刻寸前の時間に起きる事となり、教室に着いた時には既にホームルームが始まっていた。
熱斗はそれに関してロックマンへ多少の文句を零したが、ロックマンは冷静に“いつもこんな感じじゃないか”と返し、話はそれ以上発展しなかった。
休み時間。
ロックマンは最初こそロールに声をかけようと思ったものの、前日のヒグレヤでの会話が心のどこかに引っかかって身体を重くして、それが原因で結局ロールに声をかける事はなかった。
そして何の運の悪さか、ロールからロックマンへ声がかけられることも無く、ロールはガッツマンやグライド、アイスマンといった他のナビとばかり会話をしていた。
それに関してロールを責めるのは多少筋違いかもしれない事はロックマンも知っている、都合のいい時に都合よく話しかけてくれるナビ、または人間など、エスパーでもない限りあり得はしないと知っている。
それでもロックマンはロールの目が、心が、自分――ロックマン.EXEを見る事を望み、自分の目と心は常にロールを見続ける。
そして自分では話しかけられないという弱気な意思と反対に、ロールに話しかける夢を強く強く見続ける。
暗く重い想いを抱えたまま、ロックマンは学校での時間を過ごしていた。
そして放課後、熱斗が自宅に帰ってからの事である。
昨日の内にロールに用事があると知り、ヒグレヤに手伝いに行くその意味すらも失ったロックマンは、熱斗を勉強机に向かわせたまま、自分は一人インターネットシティを意味も無く徘徊していた。
銀色の建物、現実世界とは関係なく常に青く明るい空、それらの間を縫うように通る道を独り、当ても無く歩く。
脚が疲れても、息が切れかけても、ロックマンはただただ歩き続けた。
やがて全身が疲れたロックマンは、いつもよく仲間と集まる小さな公園のベンチに腰掛け、休憩を取り始めた。
「はぁ……。」
ベンチに腰掛けたまま、ロックマンは大きな溜息を吐く。
本当なら、もしくはもしも未来が違ったなら、自分は今頃ロールと共にこの街を歩いて、何処かのお店でショッピングでも楽しんで、カフェか何かで休息を取りながら会話に花を咲かせていたはずなのだ、そう思うとどうにも悔しくて、ロールの言う用事とやらが憎らしくなってくる。
今頃ロールは何をしているのだろう? メイルと共にピアノのお稽古でもしているのだろうか? それとも何かの勉強の手伝いでもしているのだろうか?
ロックマンの頭の中はロールの事だけで埋めくされていく。
そして最後に、嗚呼こんなにも自分はロールの事を想っているのに、どうしてロールは同じように自分を想ってくれないのだろうという不満がふつふつと湧き上がってくるのだ。
そうすると、その代表例である昨日の教室の電脳での出来事を思い出し、気分が自然と暗くなる。
「ロールちゃん……。」
愛しい相手の名前をぽつりと呼んで、ロックマンはもう一度溜息を吐いた。
どんなに愛しく思っても、どんなに一番だと言っても、届かないのでは意味が無い。
どうしてこの声はロールに届かないのだろう、と思いながらロックマンは前方の噴水を見つめる。
すると、噴水の水が一瞬桃色に染まった。
「えっ?」
いや、正しくは噴水の後ろを桃色の何かが通過して、それが噴水を通してロックマンへぼんやり見えたのだ。
ロックマンは一瞬目を見張り、反射的にベンチから立ちあがっていた。
桃色の影はもう見えなかったが、ロックマンの中には一つの可能性が浮かんで消えなくなる。
あれは、ロールの影だったのではないだろうか。
勿論別のナビや見間違いの可能性もあったが、一度ロールではないかと思ってしまうともう居ても立っても居られなくて、ロックマンはしばし悩んだ末、その脚を噴水の後ろへと、そしてその先の通路へと急いで進めた。
噴水の後ろに延びる道を、一本一本丁寧に観察しながら走り抜ける。
走っているうちに、ロックマンの中では先ほどの桃色の影の正体がロールであるという意識が強まり、気が付けばロックマンはロールかどうかの確認ではなく、ロールを探すためにインターネットシティを駆け抜けていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
もう何本の道を走っただろうか、息が切れて脚が痛くなる。
身体は一度止まれと言っている、活動したくないと叫んでいる、それでもロックマンはそんな身体を無理矢理動かして走り続けた。
もしも、もしもあの影がロールなら、今すぐに逢いたい、逢って、それで……それでどうするのだ、という所にまでは、上手く考えが至らなかった。
とにかく逢いたい、逢わなければ、用事の途中かもしれないが、それでもそれがインターネットシティでの事ならばやはり付き添いたい、折角チャンスがあるのならそのチャンスは全て物にしたい、そう考えてロックマンは脚を動かし続ける。
そして、走り続けて数分後、ロックマンは女子に人気の小物店や洋服店、家具店が並ぶエリアへと到達していた。
周囲は女性ナビが多く、たまに男性ナビが居ても大抵彼女連れで、現在独りのロックマンには何処か薄っすらと居心地が悪い。
たまに、残念な何かを見るような目を向けられるのはどうしてか、ロックマンには分からなかったが、同時に分かりたくも無いと思う。
そんなことより、今はロールを探さなければならない、その使命感に突き動かされて、ロックマンは一つ一つの店の中を外から観察しながらそのストリートを歩きだした。
「此処でもない……此処も違う……」
そんな事をぼそぼそと口にしながら歩くロックマンを周囲に居るナビの一部は気味悪がっていたが、この時ロックマンには既にそれらの音は聞こえないに等しくなっていた。
好感だろうが嫌悪だろうが、赤の他人の評価などどうでもいい、今自分が探しているのはロールただ一人なのだから、と、自分でも分からない深い場所でロックマンは思い始めていたのだろう。
そう、正にこの時、ロックマンはロールの事だけを考え、ロールの事だけを探し、ロールの事だけを欲し、ロールの事だけを追っていたのだ。