君だけ見てる、僕を見て。
無駄に外見のカスタマイズにだけ凝っているであろうそのナビは、妙にロールに馴れ馴れしい。
「いやぁマジ可愛いしぃ、アンタが何時もいたらオレマジまいんちこの店かよっちゃうっつーかぁー、」
現実世界でいうチャラ男と思われるナビの媚びた態度に、ロックマンは酷い嫌悪感を覚えた。
明らかに女慣れしてそうな、いつでも何処でも誰にでも言っていそうな、そんな薄汚れた台詞に苛立ちが募り、そんな台詞をロールにかけるな、という思いがロックマンの中に広がる。
これではきっとロールもさぞ困っているだろう、そう思ってすぐにロールに声をかけようとしたその時、
「もう、お世辞はやめてちょーだい!」
ロールの普段通りの楽しそうな声が、ロックマンの耳に刺さった。
一瞬身体が固まって、脳はその意味――ロールがこの気持ち悪い男との会話を楽しんでいる事の理解を拒む。
ロールの斜め背後から、僅かに見えるロールの笑顔が視覚を刺す。
何故ロールは笑っているのだろう、ロールはこんなロクデナシにしか見えない男からロクデナシ特融の舌先だけ甘い台詞をかけられて嬉しいのだろうか?
アクアマンやナンバーマンといった仲間や誠実な客にならまだしも、こんなふざけたクソ男にまで笑顔を振りまく事は必要ないのではないだろうか?
色々な思考が頭の中を巡りだしたその時、立ちつくすロックマンの左脇をアクアマンが通り過ぎた。
「ロールちゃん、持ってきたっぴゅ!」
ロックマンが硬直している間に、アクアマンがロールへと声をかけ、ロールがロックマンとアクアマンへ振り返る。
「あ、注文が揃ったみたいよ。」
それにハッとして、ロックマンも一度は現実から剥離しかけていた意識を元に戻し、身体の硬直をやっとの思いで解いた。
そしてロールにチップデータを手渡す。
ロールはロックマンとアクアマンの手からバトルチップデータを受け取るとそれをカウンターへ置き、パチパチと軽い音を立てながらレジを打った。
ロックマンはそれをじっと見つめる。
気持ちの悪い男性客も、レジを打つロールをじいっと見つめていた。
それに気付いて、ロックマンは客から見えない位置、自分の身体の両脇で両手を握りしめる。
気持ち悪い目でロールを見るな、ロールはお前に気なんて無いのだから、砂糖水に見せかけた精液の台詞でロールを汚すな、この屑男が、と、ロックマンの中ではこの男性客への怒りが徐々に腫れあがっていく。
男性客の舐めるような視線が気持ち悪くて、ロックマンは小さく舌打ちをした。
やがてロールがレジを打ち終え、男性客に向き直り代金を請求する。
「合計、三万六千二百ゼニーです。」
それが営業スマイルなのか、それとも心の底からの笑顔なのか、ロックマンには分からなかったが、ロールが例え接客といえど自分以外で更には仲間以外、そしてどうしようもなく屑の素質のある男に綺麗な笑顔を向けている所を見るとやはり胸が痛む。
多分、営業スマイルだ、そう思って痛みを抑えようにも、営業スマイルでも嫌だ、という思いの方が大きくて上手くいかない。
ロックマンは自分の強く握りしめられた左手にアクアマンの右手が触れている事も気付けずにロールと男性客のやりとりを見守る。
ロールが代金を請求して右手を出すと、なんと男性客はわざわざその手の下に左手を重ね、右手でデータ化された代金を落した。
これにはロールも吃驚して軽く目を見開き、その後ろに居たロックマンなどは酷い驚きと怒りを感じて大きく目を見開いた。
だが男性客はそんな事は知った事ではないのか、ロールに代金をしっかり握らせてからその手を離し、
「じゃ~な~、また来るぜ~。」
等と言いながら投げキッスまでして見せながら去っていった。
「な……、」
なんだよあれ!! という叫びを、ロックマンは何とかギリギリで飲み込んだ。
その叫びは相当尖ったものだったのか、ロックマンは人間でいう気管もしくは食道の辺りが焼けつくように熱くなるのを感じる。
人間でいう心臓もしくは胃に当たる場所から込み上げるのは怒りか、嫉妬か、嫌悪感か、それら全てなのか、ロックマンは今すぐにでもロールに手を洗わせたいと思う。
しかし、男性客の後にも他の客が沢山並ぶ今この状況でそんな事、ナンバーマンや日暮が許さないような気もして、ロックマンは一旦それを意識から弾き出す事を決めた。
ただそれでも一つ、もうこれ以上同じような被害が出ない為に、ロックマンは左手に触れるアクアマンの手に気付きながらも、ロールの耳もとへと口を近づける。
ロールの不思議そうな表情が一瞬見えた。
「ロックマン? どうしたの?」
「……ロールちゃん、代金はカウンターに置いてもらえばいいよ。」
ロールの問いかけに、ロックマンはそれだけ答えるとアクアマンの意思とは無関係に奥の部屋へと足を進めた。
自分の呼びかけに答えてくれないまま部屋に戻っていってしまったロックマンを追って、アクアマンもぴょこぴょこと足音を立てながら部屋へと戻る。
ロールはしばしそれを不思議な物を見るような目で見つめていたが、すぐに次の客へと振り返る。
「いらっしゃいませ!」
「あ、どうも。えっと僕の注文は――。」
次の客も、男性客だった。
「いやぁマジ可愛いしぃ、アンタが何時もいたらオレマジまいんちこの店かよっちゃうっつーかぁー、」
現実世界でいうチャラ男と思われるナビの媚びた態度に、ロックマンは酷い嫌悪感を覚えた。
明らかに女慣れしてそうな、いつでも何処でも誰にでも言っていそうな、そんな薄汚れた台詞に苛立ちが募り、そんな台詞をロールにかけるな、という思いがロックマンの中に広がる。
これではきっとロールもさぞ困っているだろう、そう思ってすぐにロールに声をかけようとしたその時、
「もう、お世辞はやめてちょーだい!」
ロールの普段通りの楽しそうな声が、ロックマンの耳に刺さった。
一瞬身体が固まって、脳はその意味――ロールがこの気持ち悪い男との会話を楽しんでいる事の理解を拒む。
ロールの斜め背後から、僅かに見えるロールの笑顔が視覚を刺す。
何故ロールは笑っているのだろう、ロールはこんなロクデナシにしか見えない男からロクデナシ特融の舌先だけ甘い台詞をかけられて嬉しいのだろうか?
アクアマンやナンバーマンといった仲間や誠実な客にならまだしも、こんなふざけたクソ男にまで笑顔を振りまく事は必要ないのではないだろうか?
色々な思考が頭の中を巡りだしたその時、立ちつくすロックマンの左脇をアクアマンが通り過ぎた。
「ロールちゃん、持ってきたっぴゅ!」
ロックマンが硬直している間に、アクアマンがロールへと声をかけ、ロールがロックマンとアクアマンへ振り返る。
「あ、注文が揃ったみたいよ。」
それにハッとして、ロックマンも一度は現実から剥離しかけていた意識を元に戻し、身体の硬直をやっとの思いで解いた。
そしてロールにチップデータを手渡す。
ロールはロックマンとアクアマンの手からバトルチップデータを受け取るとそれをカウンターへ置き、パチパチと軽い音を立てながらレジを打った。
ロックマンはそれをじっと見つめる。
気持ちの悪い男性客も、レジを打つロールをじいっと見つめていた。
それに気付いて、ロックマンは客から見えない位置、自分の身体の両脇で両手を握りしめる。
気持ち悪い目でロールを見るな、ロールはお前に気なんて無いのだから、砂糖水に見せかけた精液の台詞でロールを汚すな、この屑男が、と、ロックマンの中ではこの男性客への怒りが徐々に腫れあがっていく。
男性客の舐めるような視線が気持ち悪くて、ロックマンは小さく舌打ちをした。
やがてロールがレジを打ち終え、男性客に向き直り代金を請求する。
「合計、三万六千二百ゼニーです。」
それが営業スマイルなのか、それとも心の底からの笑顔なのか、ロックマンには分からなかったが、ロールが例え接客といえど自分以外で更には仲間以外、そしてどうしようもなく屑の素質のある男に綺麗な笑顔を向けている所を見るとやはり胸が痛む。
多分、営業スマイルだ、そう思って痛みを抑えようにも、営業スマイルでも嫌だ、という思いの方が大きくて上手くいかない。
ロックマンは自分の強く握りしめられた左手にアクアマンの右手が触れている事も気付けずにロールと男性客のやりとりを見守る。
ロールが代金を請求して右手を出すと、なんと男性客はわざわざその手の下に左手を重ね、右手でデータ化された代金を落した。
これにはロールも吃驚して軽く目を見開き、その後ろに居たロックマンなどは酷い驚きと怒りを感じて大きく目を見開いた。
だが男性客はそんな事は知った事ではないのか、ロールに代金をしっかり握らせてからその手を離し、
「じゃ~な~、また来るぜ~。」
等と言いながら投げキッスまでして見せながら去っていった。
「な……、」
なんだよあれ!! という叫びを、ロックマンは何とかギリギリで飲み込んだ。
その叫びは相当尖ったものだったのか、ロックマンは人間でいう気管もしくは食道の辺りが焼けつくように熱くなるのを感じる。
人間でいう心臓もしくは胃に当たる場所から込み上げるのは怒りか、嫉妬か、嫌悪感か、それら全てなのか、ロックマンは今すぐにでもロールに手を洗わせたいと思う。
しかし、男性客の後にも他の客が沢山並ぶ今この状況でそんな事、ナンバーマンや日暮が許さないような気もして、ロックマンは一旦それを意識から弾き出す事を決めた。
ただそれでも一つ、もうこれ以上同じような被害が出ない為に、ロックマンは左手に触れるアクアマンの手に気付きながらも、ロールの耳もとへと口を近づける。
ロールの不思議そうな表情が一瞬見えた。
「ロックマン? どうしたの?」
「……ロールちゃん、代金はカウンターに置いてもらえばいいよ。」
ロールの問いかけに、ロックマンはそれだけ答えるとアクアマンの意思とは無関係に奥の部屋へと足を進めた。
自分の呼びかけに答えてくれないまま部屋に戻っていってしまったロックマンを追って、アクアマンもぴょこぴょこと足音を立てながら部屋へと戻る。
ロールはしばしそれを不思議な物を見るような目で見つめていたが、すぐに次の客へと振り返る。
「いらっしゃいませ!」
「あ、どうも。えっと僕の注文は――。」
次の客も、男性客だった。