君だけ見てる、僕を見て。

やがてアイスマンはその足をワープホールへと着地させ、熱斗の居るクラスの教室の電脳から去っていった。
それを確認するとロックマンは改めてロールに向き直り、話しかける。

「ねぇロールちゃん、さっきの話、ロールちゃんはいつ手伝いに行こうと思うの?」

できる限り、同じ日付の同じ時間に手伝いに行きたい、そう思ったロックマンはロールに尋ねた。
ロールはしばらく、うーん、と考え込む動作を見せて、それから、そうねぇ……と口を開く。

「メイルちゃんのスケジュールにもよるけど、できる限り早く行こうかしら。アイスマンが言ってたように、さっきアクアマンからメールが来たなら、今が一番大変ってことでしょう?」

熱斗に比べて忙しい事が多いメイルのナビであるロールは何日の何時に行くとはまだ決められないようだったが、なるべく早く行く気がある事をロックマンに伝えた。
それを聞いてロックマンは、これは熱斗の行動をまたコントロールしてでも同じ日付を選ばせなければ、と考える。
どうせ同じ事をするのなら同じ日付の同じ時間が良い、少しでも長く、少しでも多くロールと一緒に居たい、例え何を捻じ曲げたとしてもだ。
だから、

「うん、そうだね、なるべく早い方がいいかもね。後で一緒に訊いてみようか?」

ロールが自分の知らない所で自分の知らない日時に決めないように、自分とロールと熱斗とメイルの四人で相談して決める事を勧めた。
そうすることでロックマンは遠回しにロールの行動をコントロールしようとしているのだ。
それをロックマンが自覚しているかどうかはまだ少し曖昧なところがあるが。
ともかく、ロックマンのそんな思惑を知らないロールは普段通りに笑い、

「そうね、そうしましょうか!」

と同意するのであった。
そしてロールが同意した丁度その瞬間、現実世界で休み時間の終わりを告げるチャイムの音が鳴り始めた。
ロックマンとロールは、あっ、と何かに気付いたような顔をした後、お互いの顔を見合わせる。
あぁもう休み時間は終わりか、まだロールと離れたくないのに、などとロックマンが考えていると、ロールは自分の顔をロックマンの顔の目の前までぐっと近づけてきた。
それに少し吃驚して思わず背を反らせたロックマンへ、ロールは訊く。

「ロックマン? もう大丈夫よね?」
「え? ……あぁ、さっきの事、だよね?」
「えぇ、そうよ。」

どうやらロールはアイスマンと話していた間も、それが終わってヒグレヤに何時手伝いに行くかという話題になった時も、ロックマンの事を心配してくれていたらしい。
それはロックマンには思いがけぬ幸運で、これならもう朝の事はチャラにしてもいいかもしれない、と思う程の幸せを感じた。
だからロックマンは驚きの色を顔から消して、ふと柔らかく微笑んで言う。

「うん、大丈夫だよ。ロールちゃんが来てくれたら、なんだか元気が出てきたみたい。」

ロックマンがそう言うと、ロールは一瞬で頬を赤く染め、少しぼうっとした表情で顔を離し、数秒後には何か恥ずかしそうにソワソワとしだした。
どうやらロールには、ロールが来てくれたから元気が出たという台詞がかなり意外であり、同時に嬉しくあり、しかし直球過ぎて少し恥ずかしいものであったようだ。
そんなロールの様子をロックマンは、可愛らしいなぁ、と思いながらのほほんとした様子で見つめる。
そしてロックマンのその表情を見たロールは何を思ったのか、やはり顔を真っ赤にして反論するのであった。

「も、もう! からかわないでっ!」
「えー、ホントなのになぁー。」

いつもは積極的なロールが珍しく恥ずかしがるものだから、ロックマンは面白くなって更にロールを褒め称えた。
ロールはやはりからかわれていると思って、悔しさ半分嬉しさ半分に、もういい加減にして頂戴、などと言うが、ロックマンはやめず、だってホントの事だもの、等と言ってまたロールを褒め称える。
そして内心で、からかいじゃなくて嘘偽りない本音なんだけどなぁ、と思い、恥ずかしそうなロールを見て小さく笑う。
それが嬉しいのか恥ずかしいのか、もはや分からなくなってきたロールは逃げるように口走った。

「もう、私はメイルちゃんの所に戻るからね!」

ロールはそう言うと教室の電脳からプラグアウトして、メイルのPETの中へと戻って行ってしまった。
ロックマンはそれを見送り、しばしロールの居た場所を凝視していたが、やがてふと背筋から力を抜き、ふぅ……と幸せそうな溜息を吐く。
嗚呼今、ロールの思考の中は自分――ロックマンの行動で占められているのだろうと思うと、表情が緩むのを抑えきれない。
もうロールは此処には居ない、それは分かっているのに、それでも心は今も直結しているのではないかという気持ちが強まって、今ならテレパシーさえも使えるような気がする。
それぐらい、自分はロールの傍に居るのだと感じ、ロックマンは幸せそうに笑うのであった。
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