君だけ見てる、僕を見て。
その後のロックマンの様子は、もはや言うまでもないかもしれない。
あの後ロックマンは、ホームルームは勿論、更に後の授業すらも遠い世界の言葉に聞こえてロクに頭に入らず、オペレーターであり長年のパートナーで親友の熱斗の声すらもまともに理解できず、その為正常な行動がとれない、むしろ行動を起こす事ができないという状況に陥っていた。
その為、熱斗は授業中、本来なら何も言わなくてもネットナビが協力してくれなければおかしいシーン、たとえば教科書や資料集のデータの展開などの度にロックマンの名前を何度も叫ぶように呼ぶ羽目になってしまった。
そして最終的には、熱斗のPETに装備されているマイクが拾った音が直接ロックマンの頭の中に届くようにする方法で、嫌でも頭の中に声が届くようにした、のだが、結果はあまり変わらなかった。
そんなロックマンに、熱斗はいよいよ背筋が凍りそうな悪い予感がし始めて、熱斗の他にもクラス担任であるまり子や一部のクラスメイト達が、何故ロックマンは熱斗の言葉に文字通り耳を貸さなくなってしまったのだろう? と疑問に思うのだった。
だが、当のロックマンは、当たり前かもしれないがそれらを全く気にしてはいなかった。
いや、気にしていないというのは少し違うかもしれない。
全ての言葉が遠い世界の言葉のように聞こえるようになってしまったロックマンは、熱斗の呼びかけは勿論、周囲の不思議そうな声すらも自分の事を騒いでいるのだと気付けなくなっているのだ。
それはまるで、ロールがロックマンの抱える悔しさに気付かないがごとく。
教室の電脳の中にある、熱斗の机のパソコンから入ってすぐの場所にある小さな段差。
ロックマンはそれに腰かけたままでホームルームと午前の授業を通り過ぎてしまい、今なおそこに腰かけてぼんやりと宙を凝視していた。
考える事は二つ、ガッツマンが妬ましい、そしてロールがこちらを向いてくれない事が悔しい、それだけだ。
普段のように熱斗が遅刻ギリギリに登校した日ならともかく、今日のロックマンには自分は相当頑張ったという自負があっただけ、悔しさも大きく重くて仕方が無い。
嗚呼どうして、どうして自分はあんなにも頑張ったのに報われなかったばかりか、会話に割り込むもしくは入りこむことすらできなかったのだろう?
思い出せば思い出す程悔しさが湧きあがって、ガッツマンへの嫉みが吹き上げて、ロールからの視線を渇望する衝動が身体の奥から染み出して突き上げて……。
と、ロックマンは急に頬へ強い痛みを感じて悲鳴を上げた。
「いひゃひゃひゃひゃ!?」
突然の痛みによって、もはや無いにも近かったぼんやりとした意識は急激に現実へ引き戻された。
周囲の音が突然自分の知っている言語として聞こえ始め、視界も一気に良好になり、頭は目の前で自分の頬をつねっているその存在を認識する。
それはまるで、人間でいう目が覚めるという感覚に近かっただろう。
ロックマンは目の前の人物が最愛の人物である事を確認し、頬をつねられたままで驚きと歓喜の合わさった声を上げた。
「ろーりゅひゃん!?」
ロックマンの目の前には先ほどから酷くその存在を渇望していた相手、ロールが立っていた。
しかしロールの表情は明らかに不機嫌そうで、立ち方もおしとやかというよりは圧迫感のある仁王立ちに近く、何よりその濃い桃色の右手はロックマンの左頬をこれでもかという程強くつねっている。
それを見て、え、どうしてそんなに不機嫌そうなの? と不信に思いながら、ロックマンは目覚めのサインにしては若干強烈過ぎるこの痛みに耐えかねて、脚と腕を小さくばたつかせ始める。
ロールはようやくロックマンの左頬をつねっていた見微手から力を抜き、指を離す。
指が離れるとロックマンは、強くつねられ過ぎて若干赤くなった左頬を左手でさすりながら、少し情けなく脱力した声で言った。
「ロールちゃん、酷いよー。」
どうしてそんな事をするの? 僕は既に中身が痛くなるような想いを散々しているのに、という意味も込めて訊くと、ロールはロックマンの中身の痛みには気付かなかったようだが、“どうして?”という疑問にだけは答えてくれた。
「酷くないわ。ロックマンがずーっと居眠りしてて、熱斗さんが困ってるから起こしてあげたのっ!」
「僕は居眠りなんかしてないもん……。」
「物の例えよ!」
つねられて赤くなった頬から手を離しながら小さく反論すると、更に追加で怒られた。
目の前で仁王立ちとも言える雰囲気を纏った立ち方のロールは明らかに不機嫌な顔をしていて、私は今怒っています、と言いたげだ。
しかし、ロックマンにはそれが何故なのか、そして何か理由があるとして何故ロールに怒られなければいけないのかが理解できなかった。
それには勿論、ロックマンの授業中の態度に多くの物が疑問や違和感を持っているという事をロックマン自身は知らないからという事もあるだろう。
しかしそれ以上、ロックマンの中にあったものは、怒りたいのはこちらの方のハズなのに、という反論的な想いであった。
しかも、今のロールの怒りは所詮、ロール自身の体験ではなく、熱斗への同情とも言える感情でしか無い。
一方、ロックマンがロールにぶつけてしまいたい怒りは、ロールに自分より他者を優先されたというロックマン自身の体験からきている。
そんな怒りが身の中にある今、自分が直接体験した不快感ではなくて熱斗の体験に同情して分かったつもりになっているだけのロールの怒りを素直に受け止めることなど、ロックマンにはできる訳がない。
きっと、同じやり方で同じ台詞でも熱斗が怒っていたのならロックマンはもう少し素直に話を聴くことができたはずだ。
ロールのぶつけてきた熱斗への同情に不満を隠しきれないまま、静かに視線を足元に向ける
あの後ロックマンは、ホームルームは勿論、更に後の授業すらも遠い世界の言葉に聞こえてロクに頭に入らず、オペレーターであり長年のパートナーで親友の熱斗の声すらもまともに理解できず、その為正常な行動がとれない、むしろ行動を起こす事ができないという状況に陥っていた。
その為、熱斗は授業中、本来なら何も言わなくてもネットナビが協力してくれなければおかしいシーン、たとえば教科書や資料集のデータの展開などの度にロックマンの名前を何度も叫ぶように呼ぶ羽目になってしまった。
そして最終的には、熱斗のPETに装備されているマイクが拾った音が直接ロックマンの頭の中に届くようにする方法で、嫌でも頭の中に声が届くようにした、のだが、結果はあまり変わらなかった。
そんなロックマンに、熱斗はいよいよ背筋が凍りそうな悪い予感がし始めて、熱斗の他にもクラス担任であるまり子や一部のクラスメイト達が、何故ロックマンは熱斗の言葉に文字通り耳を貸さなくなってしまったのだろう? と疑問に思うのだった。
だが、当のロックマンは、当たり前かもしれないがそれらを全く気にしてはいなかった。
いや、気にしていないというのは少し違うかもしれない。
全ての言葉が遠い世界の言葉のように聞こえるようになってしまったロックマンは、熱斗の呼びかけは勿論、周囲の不思議そうな声すらも自分の事を騒いでいるのだと気付けなくなっているのだ。
それはまるで、ロールがロックマンの抱える悔しさに気付かないがごとく。
教室の電脳の中にある、熱斗の机のパソコンから入ってすぐの場所にある小さな段差。
ロックマンはそれに腰かけたままでホームルームと午前の授業を通り過ぎてしまい、今なおそこに腰かけてぼんやりと宙を凝視していた。
考える事は二つ、ガッツマンが妬ましい、そしてロールがこちらを向いてくれない事が悔しい、それだけだ。
普段のように熱斗が遅刻ギリギリに登校した日ならともかく、今日のロックマンには自分は相当頑張ったという自負があっただけ、悔しさも大きく重くて仕方が無い。
嗚呼どうして、どうして自分はあんなにも頑張ったのに報われなかったばかりか、会話に割り込むもしくは入りこむことすらできなかったのだろう?
思い出せば思い出す程悔しさが湧きあがって、ガッツマンへの嫉みが吹き上げて、ロールからの視線を渇望する衝動が身体の奥から染み出して突き上げて……。
と、ロックマンは急に頬へ強い痛みを感じて悲鳴を上げた。
「いひゃひゃひゃひゃ!?」
突然の痛みによって、もはや無いにも近かったぼんやりとした意識は急激に現実へ引き戻された。
周囲の音が突然自分の知っている言語として聞こえ始め、視界も一気に良好になり、頭は目の前で自分の頬をつねっているその存在を認識する。
それはまるで、人間でいう目が覚めるという感覚に近かっただろう。
ロックマンは目の前の人物が最愛の人物である事を確認し、頬をつねられたままで驚きと歓喜の合わさった声を上げた。
「ろーりゅひゃん!?」
ロックマンの目の前には先ほどから酷くその存在を渇望していた相手、ロールが立っていた。
しかしロールの表情は明らかに不機嫌そうで、立ち方もおしとやかというよりは圧迫感のある仁王立ちに近く、何よりその濃い桃色の右手はロックマンの左頬をこれでもかという程強くつねっている。
それを見て、え、どうしてそんなに不機嫌そうなの? と不信に思いながら、ロックマンは目覚めのサインにしては若干強烈過ぎるこの痛みに耐えかねて、脚と腕を小さくばたつかせ始める。
ロールはようやくロックマンの左頬をつねっていた見微手から力を抜き、指を離す。
指が離れるとロックマンは、強くつねられ過ぎて若干赤くなった左頬を左手でさすりながら、少し情けなく脱力した声で言った。
「ロールちゃん、酷いよー。」
どうしてそんな事をするの? 僕は既に中身が痛くなるような想いを散々しているのに、という意味も込めて訊くと、ロールはロックマンの中身の痛みには気付かなかったようだが、“どうして?”という疑問にだけは答えてくれた。
「酷くないわ。ロックマンがずーっと居眠りしてて、熱斗さんが困ってるから起こしてあげたのっ!」
「僕は居眠りなんかしてないもん……。」
「物の例えよ!」
つねられて赤くなった頬から手を離しながら小さく反論すると、更に追加で怒られた。
目の前で仁王立ちとも言える雰囲気を纏った立ち方のロールは明らかに不機嫌な顔をしていて、私は今怒っています、と言いたげだ。
しかし、ロックマンにはそれが何故なのか、そして何か理由があるとして何故ロールに怒られなければいけないのかが理解できなかった。
それには勿論、ロックマンの授業中の態度に多くの物が疑問や違和感を持っているという事をロックマン自身は知らないからという事もあるだろう。
しかしそれ以上、ロックマンの中にあったものは、怒りたいのはこちらの方のハズなのに、という反論的な想いであった。
しかも、今のロールの怒りは所詮、ロール自身の体験ではなく、熱斗への同情とも言える感情でしか無い。
一方、ロックマンがロールにぶつけてしまいたい怒りは、ロールに自分より他者を優先されたというロックマン自身の体験からきている。
そんな怒りが身の中にある今、自分が直接体験した不快感ではなくて熱斗の体験に同情して分かったつもりになっているだけのロールの怒りを素直に受け止めることなど、ロックマンにはできる訳がない。
きっと、同じやり方で同じ台詞でも熱斗が怒っていたのならロックマンはもう少し素直に話を聴くことができたはずだ。
ロールのぶつけてきた熱斗への同情に不満を隠しきれないまま、静かに視線を足元に向ける