君だけ見てる、僕を見て。
黄色をメインにしたボディカラー、ロックマンよりもずっとロボット的でがっしりとした体格、パンチを繰り出す事に特化している特徴的な大きな両手。
桃色で人間的なロールの隣には、黄色でロボット的なガッツマンが立っていたのだ。
え、なんで、どうして? と言いたい気持ちを抑えて、ロックマンもやっとの思いで挨拶を返す。
「お、おはよう、二人とも……。」
なんとか沈黙だけは免れたが、語尾の方はどうにも力が抜けてしまっている気がする。
幸か不幸か、ロールはあまり気に留めずにいてくれたようだが。
ロックマンは動揺しながらもこうなった理由を探ろうと、PETのマイクが拾う現実世界の音に耳を傾けた。
すると、熱斗とメイルとデカオの三人が宿題の話で談笑している声が聞こえてくる。
ロックマンは、何故、どうして、メイルが来た時にもその前にもずっと現実世界の音を訊き逃さないようにしていたと言うのに、その時にはデカオの声など聞こえなかったというのに、今日一番最初にこの教室に着いた児童は熱斗で間違いないのに、どうしてロールとガッツマンが共にいるのと言うのか、と、その理由が分からず内心でパニックを起こしかけた。
と、その時、
「熱斗、今日はとっても早かったのね。いつもより少し早いぐらいだったら私やデカオくんと会えたかもしれないのに。」
メイルの声が予期せずもその答えを教えてくれた。
そう、ロックマンは確かにメイルが来るまでは現実世界の音に耳を傾けていたが、その後すぐに現実世界から意識を離し、電脳世界の音へと意識を集中させてしまった為、メイルと熱斗の挨拶の後の、デカオと熱斗の挨拶を聞き逃していたのだ。
とはいっても、それは所詮ロールとガッツマンが一緒にいる可能性に気付く為の情報でしか無い、だから問題はそこではない。
ロックマンはそれよりも、メイルが発した言葉、“いつもより少し早いぐらいだったら私やデカオくんと会えたかもしれないのに”という言葉の意味に注目する。
――そんなの、反則だ……。――
メイルの言葉の意味を理解した瞬間、ロックマンは今すぐにでも大声で泣き叫びたいような絶望感に襲われた。
別に、通学途中に友人に会うという事はおかしなことではなく、ロックマンのオペレーターである熱斗もメイルと会ったりデカオと会ったり、やいとや透と会うなどを日常的に何度も経験してきている。
だから、今日はそれがメイルとデカオの間で起こっただけで、別段おかしなことなど何も無い事はロックマンも解っている、解っているのだが……それでも、ロールが学校で一番最初に、つまりオペレーターであるメイル以外に一番最初に会話をするナビになりたくて、その為に熱斗の行動を自分の理想へ強制的に合わせてまでその準備をしていたはずのロックマンにとって、今日この事実はそう簡単に受け入れられるものではなない。
――どうして……。――
本当は声に出して言いたいその台詞は音を持たず、ロックマンはただ唇を動かすだけで精一杯だった。
――どうして、どうしてもうロールちゃんは誰かと一緒にいるの? しかも、どうしてガッツマンなの? どうして、僕、今日、こんなにも頑張ったんだよ……?――
一言で言って絶望、もう少し細かく言うならば悔しさや寂しさ、驚愕が混ざり合った波がロックマンの頭の中をグラグラと揺らす。
顔に張り付けた笑みがぎこちない、こんな顔ではロールに不信がられてしまう、キチンと笑わなければ、あぁなのにどうして顔が強張って……そんなどうしようもない想いが、ロックマンの肩に重く重く圧し掛かり、気を抜けば膝がカクンと折れてしまいそうな重圧、倦怠感を孕ませる。
しかしロールは幸か不幸か、それはどちらとも言い切れないが、そんなロックマンの想いには気付かない。
嗚呼そしてやはりそれは不幸なことなのか、ロールはロックマンの想いに気付かないばかりか、登校中から続いていたと思われるガッツマンとの会話を再開するのである。
「それでね、昨日のおけいこは少しテンポの速い曲を練習してたのよ。メイルちゃん頑張ってるんだから!」
ロックマンの視界に、ロールの笑顔が見える。
ガッツマンに向けた、ロールの笑顔が。
そして、ロールに向けられるガッツマンの笑顔が。
「デカオは昨日ガッツマンのカスタマイズを研究してくれたでガス! 放課後はMaHa壱番´の厨房で忙しいでガスから、こっちは寝る前にでガッツ。」
「デカオくんの寝る前の楽しみはガッツマンのカスタマイズなのね。あ、そう言えばね――。」
ずっと羨ましいと思いながら見ていた、ロールと自分以外のナビの談笑が、今此処で、無情にもまた繰り返される。
それでも普段ならば多少の距離を感じながらも必死に話を聴いて、自分も談笑に溶け込むチャンスを探す事が出来ただろう。
しかし、今日はまるで別の世界の言葉を聞いているように感じて、それができない。
ガッツマンの声、周囲のわざつき、熱斗とメイルとデカオの談笑、一番聞きたかったはずのロールの声、それらすべてが自分の知っている言語に聞こえない。
もし今のロックマンに誰かが注目していたとして、後々その誰かに対して当時のロックマンの状態を簡単に表すとどう表せるか? と聞けばその誰かは一言「放心状態」とだけ答えただろう。
確かに、ロックマンはホームルームが始まるまで談笑する二人に視線を向けて、ただ呆然と、笑顔も忘れ、無言で立ち尽くしていたのだから。
桃色で人間的なロールの隣には、黄色でロボット的なガッツマンが立っていたのだ。
え、なんで、どうして? と言いたい気持ちを抑えて、ロックマンもやっとの思いで挨拶を返す。
「お、おはよう、二人とも……。」
なんとか沈黙だけは免れたが、語尾の方はどうにも力が抜けてしまっている気がする。
幸か不幸か、ロールはあまり気に留めずにいてくれたようだが。
ロックマンは動揺しながらもこうなった理由を探ろうと、PETのマイクが拾う現実世界の音に耳を傾けた。
すると、熱斗とメイルとデカオの三人が宿題の話で談笑している声が聞こえてくる。
ロックマンは、何故、どうして、メイルが来た時にもその前にもずっと現実世界の音を訊き逃さないようにしていたと言うのに、その時にはデカオの声など聞こえなかったというのに、今日一番最初にこの教室に着いた児童は熱斗で間違いないのに、どうしてロールとガッツマンが共にいるのと言うのか、と、その理由が分からず内心でパニックを起こしかけた。
と、その時、
「熱斗、今日はとっても早かったのね。いつもより少し早いぐらいだったら私やデカオくんと会えたかもしれないのに。」
メイルの声が予期せずもその答えを教えてくれた。
そう、ロックマンは確かにメイルが来るまでは現実世界の音に耳を傾けていたが、その後すぐに現実世界から意識を離し、電脳世界の音へと意識を集中させてしまった為、メイルと熱斗の挨拶の後の、デカオと熱斗の挨拶を聞き逃していたのだ。
とはいっても、それは所詮ロールとガッツマンが一緒にいる可能性に気付く為の情報でしか無い、だから問題はそこではない。
ロックマンはそれよりも、メイルが発した言葉、“いつもより少し早いぐらいだったら私やデカオくんと会えたかもしれないのに”という言葉の意味に注目する。
――そんなの、反則だ……。――
メイルの言葉の意味を理解した瞬間、ロックマンは今すぐにでも大声で泣き叫びたいような絶望感に襲われた。
別に、通学途中に友人に会うという事はおかしなことではなく、ロックマンのオペレーターである熱斗もメイルと会ったりデカオと会ったり、やいとや透と会うなどを日常的に何度も経験してきている。
だから、今日はそれがメイルとデカオの間で起こっただけで、別段おかしなことなど何も無い事はロックマンも解っている、解っているのだが……それでも、ロールが学校で一番最初に、つまりオペレーターであるメイル以外に一番最初に会話をするナビになりたくて、その為に熱斗の行動を自分の理想へ強制的に合わせてまでその準備をしていたはずのロックマンにとって、今日この事実はそう簡単に受け入れられるものではなない。
――どうして……。――
本当は声に出して言いたいその台詞は音を持たず、ロックマンはただ唇を動かすだけで精一杯だった。
――どうして、どうしてもうロールちゃんは誰かと一緒にいるの? しかも、どうしてガッツマンなの? どうして、僕、今日、こんなにも頑張ったんだよ……?――
一言で言って絶望、もう少し細かく言うならば悔しさや寂しさ、驚愕が混ざり合った波がロックマンの頭の中をグラグラと揺らす。
顔に張り付けた笑みがぎこちない、こんな顔ではロールに不信がられてしまう、キチンと笑わなければ、あぁなのにどうして顔が強張って……そんなどうしようもない想いが、ロックマンの肩に重く重く圧し掛かり、気を抜けば膝がカクンと折れてしまいそうな重圧、倦怠感を孕ませる。
しかしロールは幸か不幸か、それはどちらとも言い切れないが、そんなロックマンの想いには気付かない。
嗚呼そしてやはりそれは不幸なことなのか、ロールはロックマンの想いに気付かないばかりか、登校中から続いていたと思われるガッツマンとの会話を再開するのである。
「それでね、昨日のおけいこは少しテンポの速い曲を練習してたのよ。メイルちゃん頑張ってるんだから!」
ロックマンの視界に、ロールの笑顔が見える。
ガッツマンに向けた、ロールの笑顔が。
そして、ロールに向けられるガッツマンの笑顔が。
「デカオは昨日ガッツマンのカスタマイズを研究してくれたでガス! 放課後はMaHa壱番´の厨房で忙しいでガスから、こっちは寝る前にでガッツ。」
「デカオくんの寝る前の楽しみはガッツマンのカスタマイズなのね。あ、そう言えばね――。」
ずっと羨ましいと思いながら見ていた、ロールと自分以外のナビの談笑が、今此処で、無情にもまた繰り返される。
それでも普段ならば多少の距離を感じながらも必死に話を聴いて、自分も談笑に溶け込むチャンスを探す事が出来ただろう。
しかし、今日はまるで別の世界の言葉を聞いているように感じて、それができない。
ガッツマンの声、周囲のわざつき、熱斗とメイルとデカオの談笑、一番聞きたかったはずのロールの声、それらすべてが自分の知っている言語に聞こえない。
もし今のロックマンに誰かが注目していたとして、後々その誰かに対して当時のロックマンの状態を簡単に表すとどう表せるか? と聞けばその誰かは一言「放心状態」とだけ答えただろう。
確かに、ロックマンはホームルームが始まるまで談笑する二人に視線を向けて、ただ呆然と、笑顔も忘れ、無言で立ち尽くしていたのだから。