異世界から帰ってきたらライバルが百合厨になっていた件について

「――ということがあってだな、その状況から俺はこの二人はロールの方が積極的で桜井はそれを受け止める側、つまりはロール攻めメイル受けだと判断した訳だ。」
「……。」

なんとも偉そうな態度の炎山の長いビヨンダード思い出話を、熱斗は一つの相槌も入れずにただぼんやりと、そして不機嫌そうに聞いていた。
そして、長話を終えて、これならさすがのお前でも解ってくれるだろう、と言いたげな自信たっぷりの炎山を見て溜息を吐く。

「あのなぁ……確かにやってる事は恋人じみてるけど、ロール自身言ってんじゃん、普通の人間の女の子みたいな事って……お前の言う百合の楽園って、まぁぶっちゃけレズビアンだろ? それの何処が普通なんだよ。」

そのあたりから考えて、メイルとロールにその気はない、と言うつもりで、こちらも相変わらず偉そうに足を組んだままの熱斗はそう答えた。
全く、炎山は純粋なナビとオペレーターの絆を何だと思っているのやら、と熱斗はまた溜息を吐く。
だが、その瞬間炎山の目がギロリと強い眼光を帯び、それを見た熱斗は怯え……はしなかったが、これはまた面倒くさい反論が来るぞ、と身構える。
すると案の定、炎山は改めて熱斗の目の前で仁王立ちになると、人差し指を左右に揺らしながらご丁寧に口で、チッチッチッ、と言い、まったく熱斗はそれだから甘ちゃんなんだ、とでも言いたげな態度で話しだした。

「解っていないなぁ熱斗。これはどう見たって百合の花園の広がる光景じゃあないか。始めに桜井はロールのその行為に驚き拒否していた、が、後にロールの溢れ出る甘美な心情を聞いてからは素直にそれに従っているじゃないか!」
「いやそれ多分、オペレーターとしてだろ……。」

完全に呆れたと言いたくて仕方が無い、というか既に言っているに等しい、疲れの見える顔で熱斗がツッコミを入れた。
正直熱斗としては、そんなことより早く帰って夕飯でも食べたい、という思いが強いのだ。
しかし炎山は、そんなものは大した事ではないし知った事ではない、と言いたげに再び不敵な笑みを浮かべて続ける。

「ならば熱斗、お前はロックマンから同じ事をされたらそれを受け入れられるのか?」
「「えっ。」」

炎山の思わぬ角度の反論に、どうしてそうなるんだと思いつつも真面目に想像してしまった熱斗と、先ほどまで全くの無関係という立場に居たのにいきなり名前を出されたロックマンが同時に困惑の声を漏らした。
困惑の声と共に熱斗の右肩に現れたロックマンと、その状況を真面目に想像してしまった熱斗が顔を見合わせる。
窓の外はもう夕方らしい橙色の西日が差しこんでいて、そのせいで炎山の姿は熱斗とロックマンからは逆光になってしまいよく見えないが、自分の反論に思わず言葉を詰まらせた熱斗とロックマンを見る炎山は、先ほど浮かべた不敵な笑みを一層深めていた。
やがて、熱斗とロックマンは炎山に視線を向け直し、熱斗が答える。

「……無理、だな。」

例え自分のネットナビの、親友の、その頼みだとしても、自分はロールの行動を受け入れたメイルのようには行かないだろう、と思った熱斗の結論はそうなっていた。
また、どうやらロックマンはロックマンで自分がロールもしくはメイルの立場に立つ場合を考えていたらしく、

「……無理、だね。」

これまた無理だという答えを炎山へ返した。
これはある意味では熱斗とロックマンの息はぴったりだという証拠かもしれないが、またある意味では二人が一定以上のしつこい交流は遠慮したいと思っているという証でもあり、炎山は、ほれみろ、とでも言いたげに小さく不敵に笑った。
熱斗はそれが気に障り、とりあえず帰る際には炎山を一発殴るか蹴るかしておこうと心に決めた。
またロックマンは、今日の炎山の酷い様子を改めて直視した為、後でブルースの様子を見に行く事を心に決めた。
そしてそんな二人の心情を知ってか知らずか知る気はないのか、ともかく炎山は自信たっぷりに酷く偉そうに、つまりは随分と滑稽な様子で話を続ける。

「だろう? やはりお前達に恋人同士にも似た行動は無理な訳だ、友人や親友でしか無いお前達にはな……だが、ロールと桜井は違うッ!! あ、ちなみに俺も無理だからそこは安心しておけ。」
「炎山とブルースだと正直親子の方が近そうだよね。」
「ロックマン、そこ、今どうでもいいから。つーか想像すんなよ……。」

自信満々過ぎる炎山の空気に毒されてロックマンまでおかしくなってきたのではないか、そう感じた熱斗は一刻も早く此処から立ち去るべきだと思い、組んだ足をほどいてゆっくりと椅子から立ち上がった。
それを見て、まだ話し足りない炎山が焦る。

「オイ熱斗! まだ話は終わっていないぞ! 結局のところお前から見てロールは攻めで桜井は受、け……」

熱斗は椅子から立ち上がった後一瞬そのまま立ち去るそぶりを見せたが、すぐに何かを思い出したように立ち止って振り返り、炎山に向けてツカツカと忙しいOLのように足を進め直した。
それを見て頭上にハテナマークを浮かべたような顔をする炎山へ、熱斗はその胸座をつかむ。
そして、なにをするんだ! と言わんばかりの焦りを見せた炎山へ、熱斗はその耳元に口を近づけ、



「二人は普通の友達でレズビアンじゃねぇぇぇぇぇぇえええええ!!」



と叫んだ。
そして次の瞬間、耳元で叫ばれたことで耳が痛くなり頭がグラグラしている炎山の、その腹部へ、強烈な一撃――所謂腹パンをかまし、崩れ落ちた炎山をその場に放置して、熱斗は副社長室を後にした。
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