Re_特別
「あ、その……光、」
さてどうしよう、此処は謝るべきか、それとも言い訳をするべきか、などと考えて焦り、熱斗の名字を呼ぶことだけが精一杯になっていると、叫ばれてからしばらくの間少し寂しげに黙っていた熱斗の方がそれを遮るように口を開いた。
「あぁ、うん……俺さ、忠誠だとか敬意だとか、そういうのはよく分かんないからさ、気に障ったならゴメン。けど……けどな、もし俺もそういう呼び方をしてもらえたら、なんかこう、お前の特別になれる気がしたんだ。」
少しだけ寂しげな表情で、少しだけ反省したと言うように謝ってから、熱斗はサーチマンに自分を様付けで呼ぶように迫ったその理由を教えた。
その訳がよく理解できなくて、サーチマンは怒りを忘れたきょとんとした顔で訊き返す。
「特別に……?」
熱斗は頷いて答える。
「そう、お前の特別に。だってさ、俺や炎山と違って、ライカはお前にとって特別だろ? さっき言ってた忠誠とかその辺でさ。だから……俺もお前の特別になりたかったんだけど……なんか、気に障ったみたいで、ごめんな。」
特別になりたい、その小さくも切なる願いを聞いて、サーチマンは少し黙りこんだ。
先ほどは、自分がライカだけはライカ様と様付けで呼ぶ理由と価値を熱斗は解っていないのだろう、と思っていたサーチマンだったが、熱斗がそれをある程度解っていた事を知って少し冷静になっていたのだ。
それに、熱斗が言った願い、お前の――サーチマンの特別になりたいという願い、それにもし自分が答えることであの寂しげな顔を笑顔にできるのなら、自分はどうするべきだろうかと考えてみる。
先ほど自分で熱斗に言ったように、様付けはライカにだけ向けた忠義と敬意の賜物だから使えないとして、だとしたら自分は、光 熱斗を光――名字以外のどんな呼びかたで親しみを込めてやればいいのだろう?
サーチマンがそれを考え込み、熱斗が少し寂しげでなおかつ真剣な表情をサーチマンに向けていると、何処からか――おそらく扉の外の廊下からか、少し遠くからコツコツと床を叩くような、つまりは固い靴で廊下を歩く音が聞こえてきた。
熱斗は少しつまらなそうな溜息をついてソファーを立ち、元のパイプ椅子へと足を進める。
足を進めながら、熱斗は溜息を吐いた。
「あーあ、誰か来るかぁ……はぁ、折角サーチマンと話してたのに……。」
そして熱斗は緑色のPETを最初に置かれていた机の上に置き直しながらパイプ椅子に座り、そろそろ自分のナビ――ロックマンも帰ってくる頃かと思って青色のPETを手に取った。
黄緑色の待機画面には、相棒の姿はまだない。
このまま他の誰かも含めて此処にいるのはなんだか気不味いなぁと思った熱斗は、一度座りなおしたパイプ椅子からも立ちあがり、緑色のPETに背を向けた。
「じゃ、俺行くよ。」
そして出入口に向かって歩き出し、ロックマンを迎えに行こうとした、その時、
「待て! 熱斗!」
熱斗は後ろから、先ほどまで少し無理矢理な会話を続けてきた相手に呼びとめられた。
しかもそれはそれまでの名字呼びではなく、今までされた事のない名前呼びで、熱斗は少し驚きながら振り返る。
するとサーチマンは振り返った熱斗と視線を合わせる為、PETの横に小さな立体映像で現れた。
そして彼はやや高らかに宣言する。
「今度から今のように名前で呼んでやる。お前は今から、ライカ様とはまた別の私の特別だ。」
少し芝居がかった強気な表情と、それに反してどこか恥ずかしさを感じていそうな薄っすら紅い頬に、熱斗はクスクスと笑いを洩らした。
するとサーチマンは頬を紅くしたままムッとした表情をみせたが、熱斗が笑顔になっていることを確認すると、自分もふと表情を緩める。
ライカとは別の特別を自分の中に設けた事、それは何処か恥ずかしく、何処か面倒でありながらも、どこか心が軽く弾んで、少しだけワクワクと、具体的には言えないけれど確かな期待が溢れる事だった。
と、サーチマンと熱斗が穏やかな雰囲気で笑顔を向け合っていると、ついに会議室のドアが開く音がした。
そう言えば、会議室に向かっているのは誰だったのだろう? と思った二人がドアの方向を向くと、そこには、サーチマンのそもそもの特別――ライカが息を切らせて立っているのが見えた。
少し息の切れたライカは、切らした息を整えながら会議室に入ると、サーチマンに向かっていきなり頭を下げる。
「すまなかった!!」
先ほどサーチマンが自分より上とした相手に頭を下げられる様子に、熱斗は勿論、頭を下げられたサーチマン自身もキョトンとして、何があったというのだろうと言いたげに熱斗と目を見合わせる。
するとライカは頭を上げて、その訳を説明しながら再度謝り始めた。
「ナビのメンテナンスなのに、PETを忘れるとは……すまなかった……。」
そう、今日この時熱斗と炎山とライカが科学省に来ていたのは何らかの事件があったからではなく、ネットナビの定期メンテナンスの為だったのだ。
その為、炎山はブルースと共に、ロックマンは一人で勝手に、そしてライカは炎山同様サーチマンと共にメンテナンスルームへ向かっていた、そのつもりだったのだが、その前に軍の書類仕事を片付けようとしたのが仇となったのか、なんとも間抜けな事に、PETを会議室に置いたままでメンテナンスルームへ向かっていたのだ。
そしてそこへ、ロックマンが一人で気ままに科学省へ向かった後に少し遅れて家を出て科学省に着いた熱斗が現れた結果、会議室の中には熱斗と緑のPETだけという妙な状況が出来上がった、というわけである。
普段はしっかり者のハズのライカの妙な失態に、熱斗は普通に笑いを隠せず、今回ばかりはサーチマンも完全には笑いを我慢できなかったのか、表面上は笑わないように気をつけつつも、含み笑いまでは我慢できずにいた。
そんな息の合っている二人を見て、ライカはただ頭上に疑問符を浮かべたような表情をするのであった。
End.
さてどうしよう、此処は謝るべきか、それとも言い訳をするべきか、などと考えて焦り、熱斗の名字を呼ぶことだけが精一杯になっていると、叫ばれてからしばらくの間少し寂しげに黙っていた熱斗の方がそれを遮るように口を開いた。
「あぁ、うん……俺さ、忠誠だとか敬意だとか、そういうのはよく分かんないからさ、気に障ったならゴメン。けど……けどな、もし俺もそういう呼び方をしてもらえたら、なんかこう、お前の特別になれる気がしたんだ。」
少しだけ寂しげな表情で、少しだけ反省したと言うように謝ってから、熱斗はサーチマンに自分を様付けで呼ぶように迫ったその理由を教えた。
その訳がよく理解できなくて、サーチマンは怒りを忘れたきょとんとした顔で訊き返す。
「特別に……?」
熱斗は頷いて答える。
「そう、お前の特別に。だってさ、俺や炎山と違って、ライカはお前にとって特別だろ? さっき言ってた忠誠とかその辺でさ。だから……俺もお前の特別になりたかったんだけど……なんか、気に障ったみたいで、ごめんな。」
特別になりたい、その小さくも切なる願いを聞いて、サーチマンは少し黙りこんだ。
先ほどは、自分がライカだけはライカ様と様付けで呼ぶ理由と価値を熱斗は解っていないのだろう、と思っていたサーチマンだったが、熱斗がそれをある程度解っていた事を知って少し冷静になっていたのだ。
それに、熱斗が言った願い、お前の――サーチマンの特別になりたいという願い、それにもし自分が答えることであの寂しげな顔を笑顔にできるのなら、自分はどうするべきだろうかと考えてみる。
先ほど自分で熱斗に言ったように、様付けはライカにだけ向けた忠義と敬意の賜物だから使えないとして、だとしたら自分は、光 熱斗を光――名字以外のどんな呼びかたで親しみを込めてやればいいのだろう?
サーチマンがそれを考え込み、熱斗が少し寂しげでなおかつ真剣な表情をサーチマンに向けていると、何処からか――おそらく扉の外の廊下からか、少し遠くからコツコツと床を叩くような、つまりは固い靴で廊下を歩く音が聞こえてきた。
熱斗は少しつまらなそうな溜息をついてソファーを立ち、元のパイプ椅子へと足を進める。
足を進めながら、熱斗は溜息を吐いた。
「あーあ、誰か来るかぁ……はぁ、折角サーチマンと話してたのに……。」
そして熱斗は緑色のPETを最初に置かれていた机の上に置き直しながらパイプ椅子に座り、そろそろ自分のナビ――ロックマンも帰ってくる頃かと思って青色のPETを手に取った。
黄緑色の待機画面には、相棒の姿はまだない。
このまま他の誰かも含めて此処にいるのはなんだか気不味いなぁと思った熱斗は、一度座りなおしたパイプ椅子からも立ちあがり、緑色のPETに背を向けた。
「じゃ、俺行くよ。」
そして出入口に向かって歩き出し、ロックマンを迎えに行こうとした、その時、
「待て! 熱斗!」
熱斗は後ろから、先ほどまで少し無理矢理な会話を続けてきた相手に呼びとめられた。
しかもそれはそれまでの名字呼びではなく、今までされた事のない名前呼びで、熱斗は少し驚きながら振り返る。
するとサーチマンは振り返った熱斗と視線を合わせる為、PETの横に小さな立体映像で現れた。
そして彼はやや高らかに宣言する。
「今度から今のように名前で呼んでやる。お前は今から、ライカ様とはまた別の私の特別だ。」
少し芝居がかった強気な表情と、それに反してどこか恥ずかしさを感じていそうな薄っすら紅い頬に、熱斗はクスクスと笑いを洩らした。
するとサーチマンは頬を紅くしたままムッとした表情をみせたが、熱斗が笑顔になっていることを確認すると、自分もふと表情を緩める。
ライカとは別の特別を自分の中に設けた事、それは何処か恥ずかしく、何処か面倒でありながらも、どこか心が軽く弾んで、少しだけワクワクと、具体的には言えないけれど確かな期待が溢れる事だった。
と、サーチマンと熱斗が穏やかな雰囲気で笑顔を向け合っていると、ついに会議室のドアが開く音がした。
そう言えば、会議室に向かっているのは誰だったのだろう? と思った二人がドアの方向を向くと、そこには、サーチマンのそもそもの特別――ライカが息を切らせて立っているのが見えた。
少し息の切れたライカは、切らした息を整えながら会議室に入ると、サーチマンに向かっていきなり頭を下げる。
「すまなかった!!」
先ほどサーチマンが自分より上とした相手に頭を下げられる様子に、熱斗は勿論、頭を下げられたサーチマン自身もキョトンとして、何があったというのだろうと言いたげに熱斗と目を見合わせる。
するとライカは頭を上げて、その訳を説明しながら再度謝り始めた。
「ナビのメンテナンスなのに、PETを忘れるとは……すまなかった……。」
そう、今日この時熱斗と炎山とライカが科学省に来ていたのは何らかの事件があったからではなく、ネットナビの定期メンテナンスの為だったのだ。
その為、炎山はブルースと共に、ロックマンは一人で勝手に、そしてライカは炎山同様サーチマンと共にメンテナンスルームへ向かっていた、そのつもりだったのだが、その前に軍の書類仕事を片付けようとしたのが仇となったのか、なんとも間抜けな事に、PETを会議室に置いたままでメンテナンスルームへ向かっていたのだ。
そしてそこへ、ロックマンが一人で気ままに科学省へ向かった後に少し遅れて家を出て科学省に着いた熱斗が現れた結果、会議室の中には熱斗と緑のPETだけという妙な状況が出来上がった、というわけである。
普段はしっかり者のハズのライカの妙な失態に、熱斗は普通に笑いを隠せず、今回ばかりはサーチマンも完全には笑いを我慢できなかったのか、表面上は笑わないように気をつけつつも、含み笑いまでは我慢できずにいた。
そんな息の合っている二人を見て、ライカはただ頭上に疑問符を浮かべたような表情をするのであった。
End.