Re_そばにいて……
「弱さが必要だと? 笑わせるな!! 誰もそんな俺は求めていない事は、お前もよく知っているだろう!? 俺は、強くなければならないんだ!! そうでなければ、俺は……誰にも……必要になど……」
風の音で掻き消えそうなほど弱くなった言葉の中に、ブルースは炎山の本音を感じ取った。
自分の一部の能力だけではなく、自分全体を必要とされたいという願いと、その願いに反して誰もが炎山の強く賢く大人びて見せている部分だけを求め、弱く幼い部分は要らないと思っている事への悲観、そして、そんな悲観に浸る自分への嫌悪……それが炎山の本音であり、強くあろうとする炎山によってその首を締め上げられて息を詰まらせ苦しむ、弱い炎山の音の無い悲鳴なのだ。
それを思考回路に刻み込んだ上で、ブルースは炎山にどのような言葉をかけるべきか考える。
黙り込む事や、炎山の意見に自分の意見を合わせてしまう事は簡単ではあるが、おそらく……いや、絶対に正解ではない。
自分がするべき事は、弱い炎山も強い炎山もどちらも肯定する事であり、強かろうが弱かろうがそれが炎山である限り自分には必要不可欠な存在である事を明確に伝える事だ、と思った時、ブルースの口は自然と動いていた。
「私には、炎山様の全てが必要です。私は貴方とお会いしたその瞬間から、貴方の全てをお慕いしているのです。私が闇に呑まれても、貴方が私を諦めないでくださったように……。」
嘲笑に歪んでいた炎山の顔から、その嘲笑が消えた。
そして、何か虚を突かれたような、とても驚いた様子で、少しきょとんとしているようにも見える表情を浮かべる炎山を、ブルースは視線を逸らす事なく見詰め続ける。
その目はいつも通り黒いサングラスに隠れてしまっているが、それでもブルースの目はとても真っ直ぐ自分を見つめているのだろうと感じられて、炎山は荒れ狂っていた自身の心が徐々に落ち着いていくのを感じた。
ブルースは決して綺麗事を言いたい訳ではなく、本当に、真剣に、炎山に自分の想いを伝えたいだけなのだ、という事が、炎山に伝わり始めているのだろう。
「貴方の敵に回り、貴方に何度も辛い思いをさせたでしょう私を、貴方はもう一度迎え入れてくださいました。どんな姿になっても私は貴方のナビだと言ってくださいました。今度は、私が誓う番なのです。どんな貴方であっても、貴方は私の大切なオペレーターです、と。」
炎山の目が、涙に潤む。
それは決して悲しみによるものではない事は、おそらく言うまでもないだろう。
かつて自分がブルースに向けて手を伸ばす事を諦めなかったように、ブルースもまた自分に向けて手を伸ばしてくれている、それを思うと、胸の奥に温かい感覚が広がると同時に、強くなる事だけに固執して狭く暗くなっていた視野を一気に広げられ、尚且つ明るく広い場所に連れ出されるような感覚がした。
綺麗事ではなく、自らの実体験に基づいた重みのあるブルースの言葉に、炎山は耳を傾ける。
「どうか、私を信じてください、炎山様。私は、これからも炎山様の傍にいて、炎山様の全てを愛し、必要としていくと誓います。ですから、どうか、ご自身をお嫌いにならないでください……。」
一瞬たりとも視線を外す事なく、真摯に語りかけてくるブルースの言葉に嘘は一欠片も無い、と確信した炎山の表情が、嬉しそうな微笑に変わっていった。
正直、まだ心の隅には、それでも多くの人間は弱い自分を必要としてくれるとは思えない、という気持ちがあるのも事実である。
だが、少なくともブルースは、強い自分も弱い自分も必要として、受け入れて、愛してくれるのだという事に気付けただけで、炎山は十分に幸せだった。
自分の傍にはいつもブルースがいてくれるという、当たり前の様に見えて実はとても尊い奇跡を大切にしていこうと、炎山は強く思う。
「……ありがとう、ブルース。」
炎山のその言葉を聞いて、ブルースの表情は微かに柔らかく、嬉しそうな雰囲気を帯びた。
いや、嬉しそうな雰囲気などではなく、実際に嬉しかったのだ。
あの冷たい大人ばかりの社会の中で、大人相応として生きる事を強いられ、いつしか冷たく凍っていた炎山の心に、自分の言葉が届き、その氷を融かせた事が、とても、嬉しかったのである。
これからも、炎山の事は自分が支えていこう、強さも弱さも同じ炎山だとして受け入れ、一欠片も余す事なく大切にしていこう、と、ブルースも決意を新たにした。
そうして、自分には大切なパートナーがいるのだと再認識した二人は、それを一層強く確認するかのように、出会った時の言葉の様で、しかしそこから少し進んだような言葉を交わす。
「これからもずっと、俺の傍にいてくれよ。」
「はい、勿論です。私はずっと、炎山様の傍にいます。」
「ありがとう。俺もずっと、ブルースの傍にいるからな。」
そうして二人は、自然と微笑みあった。
北風は冷たく、降り止まぬ雪も冷たく、そしてその公園には炎山とブルース以外の人影は無く、空気はまるで社会の様に冷たかったが、炎山とブルースの周りだけは、暖かで穏やかな時間が流れているように見えた。
End.
風の音で掻き消えそうなほど弱くなった言葉の中に、ブルースは炎山の本音を感じ取った。
自分の一部の能力だけではなく、自分全体を必要とされたいという願いと、その願いに反して誰もが炎山の強く賢く大人びて見せている部分だけを求め、弱く幼い部分は要らないと思っている事への悲観、そして、そんな悲観に浸る自分への嫌悪……それが炎山の本音であり、強くあろうとする炎山によってその首を締め上げられて息を詰まらせ苦しむ、弱い炎山の音の無い悲鳴なのだ。
それを思考回路に刻み込んだ上で、ブルースは炎山にどのような言葉をかけるべきか考える。
黙り込む事や、炎山の意見に自分の意見を合わせてしまう事は簡単ではあるが、おそらく……いや、絶対に正解ではない。
自分がするべき事は、弱い炎山も強い炎山もどちらも肯定する事であり、強かろうが弱かろうがそれが炎山である限り自分には必要不可欠な存在である事を明確に伝える事だ、と思った時、ブルースの口は自然と動いていた。
「私には、炎山様の全てが必要です。私は貴方とお会いしたその瞬間から、貴方の全てをお慕いしているのです。私が闇に呑まれても、貴方が私を諦めないでくださったように……。」
嘲笑に歪んでいた炎山の顔から、その嘲笑が消えた。
そして、何か虚を突かれたような、とても驚いた様子で、少しきょとんとしているようにも見える表情を浮かべる炎山を、ブルースは視線を逸らす事なく見詰め続ける。
その目はいつも通り黒いサングラスに隠れてしまっているが、それでもブルースの目はとても真っ直ぐ自分を見つめているのだろうと感じられて、炎山は荒れ狂っていた自身の心が徐々に落ち着いていくのを感じた。
ブルースは決して綺麗事を言いたい訳ではなく、本当に、真剣に、炎山に自分の想いを伝えたいだけなのだ、という事が、炎山に伝わり始めているのだろう。
「貴方の敵に回り、貴方に何度も辛い思いをさせたでしょう私を、貴方はもう一度迎え入れてくださいました。どんな姿になっても私は貴方のナビだと言ってくださいました。今度は、私が誓う番なのです。どんな貴方であっても、貴方は私の大切なオペレーターです、と。」
炎山の目が、涙に潤む。
それは決して悲しみによるものではない事は、おそらく言うまでもないだろう。
かつて自分がブルースに向けて手を伸ばす事を諦めなかったように、ブルースもまた自分に向けて手を伸ばしてくれている、それを思うと、胸の奥に温かい感覚が広がると同時に、強くなる事だけに固執して狭く暗くなっていた視野を一気に広げられ、尚且つ明るく広い場所に連れ出されるような感覚がした。
綺麗事ではなく、自らの実体験に基づいた重みのあるブルースの言葉に、炎山は耳を傾ける。
「どうか、私を信じてください、炎山様。私は、これからも炎山様の傍にいて、炎山様の全てを愛し、必要としていくと誓います。ですから、どうか、ご自身をお嫌いにならないでください……。」
一瞬たりとも視線を外す事なく、真摯に語りかけてくるブルースの言葉に嘘は一欠片も無い、と確信した炎山の表情が、嬉しそうな微笑に変わっていった。
正直、まだ心の隅には、それでも多くの人間は弱い自分を必要としてくれるとは思えない、という気持ちがあるのも事実である。
だが、少なくともブルースは、強い自分も弱い自分も必要として、受け入れて、愛してくれるのだという事に気付けただけで、炎山は十分に幸せだった。
自分の傍にはいつもブルースがいてくれるという、当たり前の様に見えて実はとても尊い奇跡を大切にしていこうと、炎山は強く思う。
「……ありがとう、ブルース。」
炎山のその言葉を聞いて、ブルースの表情は微かに柔らかく、嬉しそうな雰囲気を帯びた。
いや、嬉しそうな雰囲気などではなく、実際に嬉しかったのだ。
あの冷たい大人ばかりの社会の中で、大人相応として生きる事を強いられ、いつしか冷たく凍っていた炎山の心に、自分の言葉が届き、その氷を融かせた事が、とても、嬉しかったのである。
これからも、炎山の事は自分が支えていこう、強さも弱さも同じ炎山だとして受け入れ、一欠片も余す事なく大切にしていこう、と、ブルースも決意を新たにした。
そうして、自分には大切なパートナーがいるのだと再認識した二人は、それを一層強く確認するかのように、出会った時の言葉の様で、しかしそこから少し進んだような言葉を交わす。
「これからもずっと、俺の傍にいてくれよ。」
「はい、勿論です。私はずっと、炎山様の傍にいます。」
「ありがとう。俺もずっと、ブルースの傍にいるからな。」
そうして二人は、自然と微笑みあった。
北風は冷たく、降り止まぬ雪も冷たく、そしてその公園には炎山とブルース以外の人影は無く、空気はまるで社会の様に冷たかったが、炎山とブルースの周りだけは、暖かで穏やかな時間が流れているように見えた。
End.