Re_夢の中で貴方に会うから

あれはそう、中学生活に別れを告げる日――卒業式の日の夕方の事。
卒業式の後、メイルは熱斗やデカオ、やいとや透と共に、皆揃って中学を卒業できた事を祝うパーティを行っていた。
そしてそれは、そのパーティが終わった午後六時過ぎ、家が一番近い熱斗と共に、やいとの家から自宅へ向けた帰路についていた時の事だ。
二人は最初、パーティがどれだけ楽しかったか、中学生活の一番の思い出はなんだったか、等といった話をして歩いていた。
だが、やがて二人の進行方向にメイルの家が見えてきて、そろそろ別れなければいけないという状況になってきた時、メイルはそのまま帰ろうとする熱斗を思いきって呼び止めたのだ。

「どうしたの? メイルちゃん。」

それが、熱斗に何の躊躇いも無く名前を呼んでもらえた最後の会話だった。
今思えば、あの時呼び止めたりしなければ自分は熱斗と今も友人でいられたのかもしれない、とメイルは思う。
しかし、記憶の中のメイルは普段通りの熱斗の顔を見て少し躊躇しながらも、言わずにはいられないと言った様子で話しだすのだ。

「あのね、これから私達、別の進路になっちゃうでしょ? だから、その、言っておきたい事があるの。」
「何?」

その時の熱斗はまだ状況が読めていないような表情をしていて、その時のメイルは、熱斗はどこまで鈍感なのだろう、と思ったものだったが、やはりこれも今思い出せば、そういう事では無かった事に気付くべきだったのだろうと今のメイルは思う。
熱斗が状況を読めていないような顔をしていたのは恐らく、鈍感だからではない、という事を、今のメイルは想像する事ができるからだ。
それでも記憶の中のメイルは、まだ状況が読めていないらしい熱斗に向けて、一生分の勇気を振り絞って言う。

「私、熱斗が好きなの! だから、もし熱斗がよければ、私を熱斗の……か、彼女にしてほしいの!」

メイルがそう言って熱斗の表情を窺うと、熱斗は一瞬だけ虚を突かれたような顔をしていたが、すぐに難しそうな顔になっていくのが見えた。
その悩ましげな表情に、嫌な予感がメイルの胸を刺す。
もしも答えがYesならば、こんなにも悩ましく、苦しそうな表情をする訳が無いということは、当時のメイルにも容易に想像できたからだ。
それでも当時のメイルは、その悩ましさがメイルにNoの答えを突き返したいからでは無い事を必死で祈り、縋るような熱斗を見詰めたものだった。
だが、その祈りは誰にも届かず儚く散ってしまう。

「……ごめん。確かに俺は、メイルちゃんの事大切だと思ってるけど、それは友達とか幼馴染としてでさ……メイルちゃんを彼女にしたいとか、俺がメイルちゃんの彼氏になりたいとか、思った事は無いんだ……だから、ごめん。」

熱斗は、今までメイルに対して行ってきたどの謝罪よりも申し訳なさそうで苦い表情を浮かべながら、要約するとNoの一言になる答えを返してきた。
それはメイルにとって、あの悩ましげな表情からある程度予想できた事だったとはいえ、やはりショックな事には違い無く、即座に言葉を発する事ができなかった。
とても昔から傍にいて、もはや傍にいる事が普通で、これからもずっと傍にいられると思っていた、そんな相手に告白してその結果Noをもらうというのは、“もうこれ以上は近寄らないで”と言われるにも等しく、とても重い意味を持っている。
その重みに即座に対応できるほど、メイルの心はタフではなかったのだ。
空が夕焼け橙色を徐々に深い青色に変え始めていく中、二人の間には永遠にも思えるほど長い沈黙が舞い降りていた。
きっと、それぞれのナビも気まずい思いでいっぱいだった事だろう、と今のメイルは思うが、当時のメイルには熱斗がNoという返事をしてきた事を理解し、受け止める準備だけで精一杯で、そこまで気をまわす余裕などありはしなかった。
沈黙は続く。

「……そっか、そうなんだ……。」

沈黙の中にメイルの受けたショックを感じ取った熱斗が気まずそうに俯き始めた頃、メイルはやっと声を出し、沈黙を破る事ができた。
熱斗が恐る恐るメイルの表情を窺ってくる、その視線に向けて、メイルは精一杯微笑んで見せた。

「真剣に答えてくれて、ありがとう。……それと、ごめんね。」

メイルが謝ると、熱斗は酷く驚いた顔をして、それから混乱したような困惑したような、とにかく焦った表情を見せた。
メイルはそれを、熱斗としては謝るべきはメイルの想いを跳ね除けた自分だという意識があったのかもしれない、と思う事でせめてもの救いにして涙をせき止める。
それは多少自分勝手な想像だったかもしれないが、そうでもしないとメイルは、泣かない事はおろか、立っている事さえできなくなりそうなほど悲しかったのだ。
嗚呼、もしかしたら熱斗が焦っているのは私が泣きそうになっているからかもしれない、と思いながらも、メイルはその瞬間にできる最大限の笑みを浮かべた。
少しの沈黙を挟んでから、熱斗が焦りつつも申し訳なさそうに口を開く。
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