Re_夢の中で貴方に会うから
その時、桜井 メイルは秋原小学校の六年A組の教室の中にある自分の席で、筆記用具やノートを四角いリュックの中に仕舞っていた。
教室前方にある見慣れたブラックボードと教卓の間に担任教師であるまり子の姿はもう無く、教室の中のクラスメイト達の数もどこか疎らな帰りの会の後の教室。
窓ガラス越しに見える空は、綺麗過ぎる青の中に所々白い雲を漂わせており、西日は鋭い眩しさと柔らかい暖かさを両方備えながら、帰路に付く生徒達を見守りっている。
その西日は窓際にあるメイルの席にも窓を通り抜けて届き、白っぽい机を薄いオレンジ色に光らせていて、メイルはそれに少しだけ眩しい思いをしていたが、これも一日の大半が終わった合図だと思うと、そう嫌な気分にはならなかった。
自分も早く帰って好きな事をしよう、今日は何をしようか、夕飯はどうしよう、そろそろ片付けもしたいし、ロールと一緒に買い物に行くのもきっと楽しいはずだ。
メイルがそんな事を考えている間にも、教室の中のクラスメイト達の数は徐々に減り続け、喧騒が遠く窓の外にばかり感じられるようになる。
喧騒がほぼ完全に教室から去った時、メイルはようやく机の上に置いていた勉強道具をリュックに仕舞い終え、静かに席を立った、その瞬間。
「メイルちゃん!」
メイルは背後から誰かに名前を呼ばれ、少し驚いて振り向いた。
振り向いた先にいるのは、柔らかな茶髪に水色のバンダナが似合う、クラスメイトで幼馴染の少年の光 熱斗だ。
熱斗もどうやら今から帰るらしく、背中にはメイルのリュックと同じ学校指定のリュックを背負っていて、身体の左脇には靴の裏に取り付けるインラインスケートの車輪を抱えている。
わりとよくある日常の一コマ、そのはずなのだが、メイルは何故か熱斗が声をかけてきた事を意外に思った。
なんとなく、熱斗が学校帰りに声をかけてくる事は久しぶりのように思えたのだ。
だからメイルは、少しポカンとした表情で、熱斗の真意を確かめるように訊く。
「……熱斗? どうしたの?」
すると熱斗は昔から変わらない少しやんちゃな笑みを見せながら、
「一緒に帰ろうぜ!」
と、言ってきた。
メイルはなんとなく、普段ならば自分が熱斗にこの言葉をかける事の方が多いのに、熱斗から自分にこの言葉をかけてくるなど珍しい事もあるものだ、と思って、そこに何か違和感を覚えない事もなかったが、熱斗から声をかけてもらえた事は嬉しいので、その違和感にあえて触れようとはしなかった。
机の上に置いていたリュックを背負ってから、明るい笑顔の熱斗に視線を向け直し、メイルも笑顔になって返事をする。
「えぇ、いいわよ。」
「やった! それじゃあ、行こうぜ!」
メイルの返事に、熱斗は嬉しそうに笑ってから教室前方の扉に向けて歩きだした。
それを見て、メイルもさっきまで座っていた椅子を机の下に仕舞ってからその後を追いかける。
教卓の前の辺りでメイルは熱斗に追いついたが、その瞬間、何故かメイルの胸に不安のような恐怖のような、得体のしれない冷たい感覚が走った。
一瞬メイルの足が止まるが、熱斗はそれに合わす事なく扉に向かって歩き続ける。
それを見たメイルは、このままでは熱斗が何処か自分には分からない所に行ってしまうような気がして怖くなり、咄嗟に熱斗を追いかけ、インラインスケートの車輪を抱えていない方の手を掴んで寄り添った。
そんなメイルの行動を不思議に思ったのか、熱斗が振り向く。
「メイルちゃん、どうしたの?」
「え、その……た、たまには良いじゃない! こういうのも、ね! ほら、行きましょ!」
メイルは曖昧に笑って誤魔化すと、熱斗はしばし不思議なものを見るような顔をしていたが、だからと言ってそれほど問い詰める事でもないと思ったのか、再び歩き出した。
熱斗の手を握るメイルもそれに合わせて歩きだし、二人は目の前の開いた自動扉から教室を出る。
廊下にはもう、メイルと熱斗以外の生徒は誰もいなかった。
皆、もう校舎を出てしまったというのだろうか?
二人の足音だけが静かな廊下に響き渡る。
まるで熱斗とメイル以外の人間が世界から消え去ってしまったようなその静けさに、メイルはやがて寂しさと恐怖を感じ始めた。
隣にいる熱斗の腕を抱き締める感触だけが自分をこの世界に留めているような感覚と、自分がその腕を抱きしめる力を弱めたら熱斗さえも消えてしまいそうな恐怖。
そんなはずは無い、と思わない事もないのだが、それ以上に何か胸騒ぎがしてしかたがない。
「ねぇ、熱斗……」
やがてそんな寂しさと恐怖に耐えられなくなったメイルは、熱斗の存在を確かめることで寂しさと恐怖を打ち消そうと、とりあえず熱斗に話しかけてみた。
話題などというものはこれっぽっちも浮かんでおらず、話しかけたところで何を話せばいいかなど分からなかったが、足音しか響かない静寂の世界が怖くなったメイルは話しかけずにはいられなかったのだ。
熱斗の声が聞きたい、熱斗はそこにいると、自分のすぐそばにいると安心したい。
そんな思いがメイルを突き動かしていた。
教室前方にある見慣れたブラックボードと教卓の間に担任教師であるまり子の姿はもう無く、教室の中のクラスメイト達の数もどこか疎らな帰りの会の後の教室。
窓ガラス越しに見える空は、綺麗過ぎる青の中に所々白い雲を漂わせており、西日は鋭い眩しさと柔らかい暖かさを両方備えながら、帰路に付く生徒達を見守りっている。
その西日は窓際にあるメイルの席にも窓を通り抜けて届き、白っぽい机を薄いオレンジ色に光らせていて、メイルはそれに少しだけ眩しい思いをしていたが、これも一日の大半が終わった合図だと思うと、そう嫌な気分にはならなかった。
自分も早く帰って好きな事をしよう、今日は何をしようか、夕飯はどうしよう、そろそろ片付けもしたいし、ロールと一緒に買い物に行くのもきっと楽しいはずだ。
メイルがそんな事を考えている間にも、教室の中のクラスメイト達の数は徐々に減り続け、喧騒が遠く窓の外にばかり感じられるようになる。
喧騒がほぼ完全に教室から去った時、メイルはようやく机の上に置いていた勉強道具をリュックに仕舞い終え、静かに席を立った、その瞬間。
「メイルちゃん!」
メイルは背後から誰かに名前を呼ばれ、少し驚いて振り向いた。
振り向いた先にいるのは、柔らかな茶髪に水色のバンダナが似合う、クラスメイトで幼馴染の少年の光 熱斗だ。
熱斗もどうやら今から帰るらしく、背中にはメイルのリュックと同じ学校指定のリュックを背負っていて、身体の左脇には靴の裏に取り付けるインラインスケートの車輪を抱えている。
わりとよくある日常の一コマ、そのはずなのだが、メイルは何故か熱斗が声をかけてきた事を意外に思った。
なんとなく、熱斗が学校帰りに声をかけてくる事は久しぶりのように思えたのだ。
だからメイルは、少しポカンとした表情で、熱斗の真意を確かめるように訊く。
「……熱斗? どうしたの?」
すると熱斗は昔から変わらない少しやんちゃな笑みを見せながら、
「一緒に帰ろうぜ!」
と、言ってきた。
メイルはなんとなく、普段ならば自分が熱斗にこの言葉をかける事の方が多いのに、熱斗から自分にこの言葉をかけてくるなど珍しい事もあるものだ、と思って、そこに何か違和感を覚えない事もなかったが、熱斗から声をかけてもらえた事は嬉しいので、その違和感にあえて触れようとはしなかった。
机の上に置いていたリュックを背負ってから、明るい笑顔の熱斗に視線を向け直し、メイルも笑顔になって返事をする。
「えぇ、いいわよ。」
「やった! それじゃあ、行こうぜ!」
メイルの返事に、熱斗は嬉しそうに笑ってから教室前方の扉に向けて歩きだした。
それを見て、メイルもさっきまで座っていた椅子を机の下に仕舞ってからその後を追いかける。
教卓の前の辺りでメイルは熱斗に追いついたが、その瞬間、何故かメイルの胸に不安のような恐怖のような、得体のしれない冷たい感覚が走った。
一瞬メイルの足が止まるが、熱斗はそれに合わす事なく扉に向かって歩き続ける。
それを見たメイルは、このままでは熱斗が何処か自分には分からない所に行ってしまうような気がして怖くなり、咄嗟に熱斗を追いかけ、インラインスケートの車輪を抱えていない方の手を掴んで寄り添った。
そんなメイルの行動を不思議に思ったのか、熱斗が振り向く。
「メイルちゃん、どうしたの?」
「え、その……た、たまには良いじゃない! こういうのも、ね! ほら、行きましょ!」
メイルは曖昧に笑って誤魔化すと、熱斗はしばし不思議なものを見るような顔をしていたが、だからと言ってそれほど問い詰める事でもないと思ったのか、再び歩き出した。
熱斗の手を握るメイルもそれに合わせて歩きだし、二人は目の前の開いた自動扉から教室を出る。
廊下にはもう、メイルと熱斗以外の生徒は誰もいなかった。
皆、もう校舎を出てしまったというのだろうか?
二人の足音だけが静かな廊下に響き渡る。
まるで熱斗とメイル以外の人間が世界から消え去ってしまったようなその静けさに、メイルはやがて寂しさと恐怖を感じ始めた。
隣にいる熱斗の腕を抱き締める感触だけが自分をこの世界に留めているような感覚と、自分がその腕を抱きしめる力を弱めたら熱斗さえも消えてしまいそうな恐怖。
そんなはずは無い、と思わない事もないのだが、それ以上に何か胸騒ぎがしてしかたがない。
「ねぇ、熱斗……」
やがてそんな寂しさと恐怖に耐えられなくなったメイルは、熱斗の存在を確かめることで寂しさと恐怖を打ち消そうと、とりあえず熱斗に話しかけてみた。
話題などというものはこれっぽっちも浮かんでおらず、話しかけたところで何を話せばいいかなど分からなかったが、足音しか響かない静寂の世界が怖くなったメイルは話しかけずにはいられなかったのだ。
熱斗の声が聞きたい、熱斗はそこにいると、自分のすぐそばにいると安心したい。
そんな思いがメイルを突き動かしていた。
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