Re_それは些細な幸せと大きな悲しみと共に
モニターの電脳から名人の研究室のパソコンの電脳に景色が切り替わった時、サーチマンは意外なネットナビをその電脳の中に見つけた。
赤と黒をメインカラーにしていて、ほぼフルフェイスで黒いサングラスの付いたヘルメットを被ったそのナビは、ブルースだった。
名人は飽く迄もニホン人では無いオペレーターとナビのクロスフュージョンのデータを取りたいと言っていたのに、何故ブルースが此処にいるのだろうか? とサーチマンが疑問に思っていると、ブルースが口を開く。
「桜井との話は終わったのか?」
「えっ? ……ああ、終わったが。」
突然メイルの名前を出されて、サーチマンは一瞬返事が出来なかったが、すぐに気を取り直して話が終わった事を告げる。
しかし何故メイルの名前がブルースの口から出てきて、そもそも何故ブルースは自分がメイルと話していた事を知っているのか、サーチマンはすぐには分からず少し考え込んだ。
おそらく、ブルースに自分とメイルの関係性を教えたのはライカなのだろう、という所まではすぐに考え付いたのだが、それで何故ブルースが此処に来る事になるのか、そこの話が上手くつながらない。
それに、本来自分とメイルだけの秘密にするべき事をライカだけでなく完全な部外者であるブルースに知られているというのは、あまり気分のいいものではない。
とはいえ、ブルースなら他のナビや人間――特にロックマンや光 熱斗には公言しない程度の配慮はできるだろうと思い、サーチマンはブルースに対して何故自分がメイルと話していた事を知っているのかを問い詰めようとはしなかった。
ブルースはただそこにいるだけで、特に用は無いのかもしれない、と思ったサーチマンがライカとの通信を繋げようとした瞬間、それまで黙りこんでいたブルースが再び口を開く。
「炎山様からの伝言だ、“ライカには話しにくいなら、俺が相談相手か愚痴の聞き手になってもいいぞ。”との事だ。なんなら、俺も話を聞いてもいい。上手いアドバイスは、できないと思うがな。」
サーチマンが驚いてブルースに視線を向け直すと、ブルースの雰囲気はいつもより何処か棘が少なく、ブルースなりにサーチマンを心配している様子が見て取れた。
サーチマンはそこに至ってようやく、ブルースは自分の抱えるメイルへの想いを知っていて、叶わぬ恋をした上にその相手から別の恋の相談をされる自分の事を心配してくれていて、それでわざわざ此処にいたのだと気が付いた。
しかも、ブルースだけではなくそのオペレーターの炎山まで自分を心配してくれているとは、と思うと、少し嬉しいと同時に、その恋は叶わないと遠回しに言われているようで悲しく、なんとも複雑な気持ちになる。
それでも、二人は本当に心配してくれているのだろうという事はなんとなく信じられるので、サーチマンは寂しげな笑みをブルースに向けて言う。
「そうだな、耐えきれなくなりそうになったら、頼もうか。」
「……そうか、炎山様にも伝えておこう。」
ブルースは返事をしてからプラグアウトしていき、サーチマンはライカとの通信用のウインドウを開いた。
サーチマンの目の前に現れた大きめのスクリーンのようなウインドウに、ライカの顔が映る。
「ライカ様、ただ今戻りました。」
「そうか。それじゃあ、俺のPETに戻ってこい。丁度、名人達の実験準備が整ったところだ。」
「了解。」
サーチマンはライカと普段通りのやや無機質な会話をした後、ライカの持つPETの中に戻っていく。
殺風景なPETの中に戻っても尚、脳裏にはあの柔らかな笑顔や愁いを帯びた瞳、自分に口説かれた時の少し恥ずかしそうな怒り顔が焼き付いていたが、サーチマンはそれを振り払うように小さく頭を左右に振って、それからライカの肩の上に現れる。
叶わぬ恋に揺れる心では良いシンクロ率など出せないだろう、と思い、気持ちを切り替える為に実験機器を見に来たのだ。
「なぁ、サーチマン。」
突如、サーチマンは何故かライカから呼びかけられ、少し驚いてライカを見上げた。
ライカの視線は真っ直ぐにサーチマンに向けられている。
「なんでしょうか、ライカ様。」
サーチマンが応えると、ライカは少し考え込むような様子を見せたが、すぐにそれを振り払うように視線を目の前の実験器具に向けて言う。
「……いや、なんでもない。さて、行こうか。」
ライカはおそらくブルースやブルースに伝言を頼んだ炎山のような事を言おうとしたのだろう。
それを察したサーチマンは、その事について自分から何か言及すべきか少しだけ迷った後、
「……はい、ライカ様。」
と、自分では触れずに、普段通りの返事をした。
End.
赤と黒をメインカラーにしていて、ほぼフルフェイスで黒いサングラスの付いたヘルメットを被ったそのナビは、ブルースだった。
名人は飽く迄もニホン人では無いオペレーターとナビのクロスフュージョンのデータを取りたいと言っていたのに、何故ブルースが此処にいるのだろうか? とサーチマンが疑問に思っていると、ブルースが口を開く。
「桜井との話は終わったのか?」
「えっ? ……ああ、終わったが。」
突然メイルの名前を出されて、サーチマンは一瞬返事が出来なかったが、すぐに気を取り直して話が終わった事を告げる。
しかし何故メイルの名前がブルースの口から出てきて、そもそも何故ブルースは自分がメイルと話していた事を知っているのか、サーチマンはすぐには分からず少し考え込んだ。
おそらく、ブルースに自分とメイルの関係性を教えたのはライカなのだろう、という所まではすぐに考え付いたのだが、それで何故ブルースが此処に来る事になるのか、そこの話が上手くつながらない。
それに、本来自分とメイルだけの秘密にするべき事をライカだけでなく完全な部外者であるブルースに知られているというのは、あまり気分のいいものではない。
とはいえ、ブルースなら他のナビや人間――特にロックマンや光 熱斗には公言しない程度の配慮はできるだろうと思い、サーチマンはブルースに対して何故自分がメイルと話していた事を知っているのかを問い詰めようとはしなかった。
ブルースはただそこにいるだけで、特に用は無いのかもしれない、と思ったサーチマンがライカとの通信を繋げようとした瞬間、それまで黙りこんでいたブルースが再び口を開く。
「炎山様からの伝言だ、“ライカには話しにくいなら、俺が相談相手か愚痴の聞き手になってもいいぞ。”との事だ。なんなら、俺も話を聞いてもいい。上手いアドバイスは、できないと思うがな。」
サーチマンが驚いてブルースに視線を向け直すと、ブルースの雰囲気はいつもより何処か棘が少なく、ブルースなりにサーチマンを心配している様子が見て取れた。
サーチマンはそこに至ってようやく、ブルースは自分の抱えるメイルへの想いを知っていて、叶わぬ恋をした上にその相手から別の恋の相談をされる自分の事を心配してくれていて、それでわざわざ此処にいたのだと気が付いた。
しかも、ブルースだけではなくそのオペレーターの炎山まで自分を心配してくれているとは、と思うと、少し嬉しいと同時に、その恋は叶わないと遠回しに言われているようで悲しく、なんとも複雑な気持ちになる。
それでも、二人は本当に心配してくれているのだろうという事はなんとなく信じられるので、サーチマンは寂しげな笑みをブルースに向けて言う。
「そうだな、耐えきれなくなりそうになったら、頼もうか。」
「……そうか、炎山様にも伝えておこう。」
ブルースは返事をしてからプラグアウトしていき、サーチマンはライカとの通信用のウインドウを開いた。
サーチマンの目の前に現れた大きめのスクリーンのようなウインドウに、ライカの顔が映る。
「ライカ様、ただ今戻りました。」
「そうか。それじゃあ、俺のPETに戻ってこい。丁度、名人達の実験準備が整ったところだ。」
「了解。」
サーチマンはライカと普段通りのやや無機質な会話をした後、ライカの持つPETの中に戻っていく。
殺風景なPETの中に戻っても尚、脳裏にはあの柔らかな笑顔や愁いを帯びた瞳、自分に口説かれた時の少し恥ずかしそうな怒り顔が焼き付いていたが、サーチマンはそれを振り払うように小さく頭を左右に振って、それからライカの肩の上に現れる。
叶わぬ恋に揺れる心では良いシンクロ率など出せないだろう、と思い、気持ちを切り替える為に実験機器を見に来たのだ。
「なぁ、サーチマン。」
突如、サーチマンは何故かライカから呼びかけられ、少し驚いてライカを見上げた。
ライカの視線は真っ直ぐにサーチマンに向けられている。
「なんでしょうか、ライカ様。」
サーチマンが応えると、ライカは少し考え込むような様子を見せたが、すぐにそれを振り払うように視線を目の前の実験器具に向けて言う。
「……いや、なんでもない。さて、行こうか。」
ライカはおそらくブルースやブルースに伝言を頼んだ炎山のような事を言おうとしたのだろう。
それを察したサーチマンは、その事について自分から何か言及すべきか少しだけ迷った後、
「……はい、ライカ様。」
と、自分では触れずに、普段通りの返事をした。
End.