この世で最も気持ちの悪い物
天上に取り付けられた蛍光灯の明かりが消えた部屋で、私はこの文章を綴る。
明かりが付けられないのは、自分が今どのような顔をしているかを、ふとした瞬間に認識してしまうことが怖いからだ。
明かりを点けて、鏡を見れば、鏡の中には私のそもそも醜い顔が、更に醜く歪んだ姿が見える事だろう。
情けなくて不甲斐ない、醜い泣き顔。
もしも今、この場で誰かに、「“この世で最も気持ちの悪い物”はなんですか?」と訊かれたら、私は迷わず「私の精神」と答えるだろう。
初めてそれを自覚したのは、中学一年生の冬だった。
その時何が起こったのか、私はまだかなり明確に覚えている。
友人、と思っていた人間からの、全力の拒絶。
元々私は人に好かれる方ではなく、むしろ嫌われる事の方が多い人間だったが、自分が好きだと思って友人の枠に入れていた人間からの拒絶は、たとえネット上での出来事だとしても、私の中に大きな影を残した。
例え、原因が“距離感を詰め過ぎた私にあった”としても、である。
大きな影はいつしかまるで実態を持ったかのように私を食い散らし、私と影は同一の存在となっていった。
私には常にあの時刻まれた不安の影が付き纏っている。
だから私は中学二年生の時、小学校にいた頃には信じなかった周囲の戯言を、いとも簡単に信じる事が出来たのだ。
私と私が親友だと言っている女子生徒は親友ではない、という周囲の戯言を。
今となっては、その言葉の真偽を確かめる術はないが、実際その女子生徒とはもう別の道を歩いている事を考えれば、私とその女子生徒は、確かに親友などではなかったのだろう。
もしも周囲の言葉が本当で、彼女が私を鬱陶しく思っていたというのなら、私は、何処に何を懺悔すればいいのだろうか。
そんな不安の影に苛まれながらも、私はまだ友人というものを欲していた。
誰かと仲良くなって、誰かの傍にいて、誰かに受け入れられる……今思えば夢物語もほどほどにしろという話だが、本気でそんな夢を抱いていた。
だが、私を食らった影は、それを許さない。
これは過去形ではなく、現在進行形である。
あれから何回繰り返し、あれから何人失った事か。
今度こそは失敗などしない、と思って挑んだとしても、結局は失敗に終わってしまう、それの繰り返し。
どうやら影は私のこの膨れ上がった肥満体の様に膨張を続けているらしく、私の失敗は回数を追うごとに酷くなっていく。
胃から胃酸が上がりつつ心臓が握りつぶされるような息苦しさから逃れようと、私は堤防を築き上げてみたが、こんな時に限って、堤防は相手から壊される。
正直なところ、堤防を壊した事を後悔すればいいと思ってしまう私がいて、そんな私に吐き気を覚える私がいた。
執着心。
それが私の、最大の欠点である。
嗚呼、今回も失敗か。
そう思った時、私の醜い顔は更に醜く歪んだ。
end.
明かりが付けられないのは、自分が今どのような顔をしているかを、ふとした瞬間に認識してしまうことが怖いからだ。
明かりを点けて、鏡を見れば、鏡の中には私のそもそも醜い顔が、更に醜く歪んだ姿が見える事だろう。
情けなくて不甲斐ない、醜い泣き顔。
もしも今、この場で誰かに、「“この世で最も気持ちの悪い物”はなんですか?」と訊かれたら、私は迷わず「私の精神」と答えるだろう。
初めてそれを自覚したのは、中学一年生の冬だった。
その時何が起こったのか、私はまだかなり明確に覚えている。
友人、と思っていた人間からの、全力の拒絶。
元々私は人に好かれる方ではなく、むしろ嫌われる事の方が多い人間だったが、自分が好きだと思って友人の枠に入れていた人間からの拒絶は、たとえネット上での出来事だとしても、私の中に大きな影を残した。
例え、原因が“距離感を詰め過ぎた私にあった”としても、である。
大きな影はいつしかまるで実態を持ったかのように私を食い散らし、私と影は同一の存在となっていった。
私には常にあの時刻まれた不安の影が付き纏っている。
だから私は中学二年生の時、小学校にいた頃には信じなかった周囲の戯言を、いとも簡単に信じる事が出来たのだ。
私と私が親友だと言っている女子生徒は親友ではない、という周囲の戯言を。
今となっては、その言葉の真偽を確かめる術はないが、実際その女子生徒とはもう別の道を歩いている事を考えれば、私とその女子生徒は、確かに親友などではなかったのだろう。
もしも周囲の言葉が本当で、彼女が私を鬱陶しく思っていたというのなら、私は、何処に何を懺悔すればいいのだろうか。
そんな不安の影に苛まれながらも、私はまだ友人というものを欲していた。
誰かと仲良くなって、誰かの傍にいて、誰かに受け入れられる……今思えば夢物語もほどほどにしろという話だが、本気でそんな夢を抱いていた。
だが、私を食らった影は、それを許さない。
これは過去形ではなく、現在進行形である。
あれから何回繰り返し、あれから何人失った事か。
今度こそは失敗などしない、と思って挑んだとしても、結局は失敗に終わってしまう、それの繰り返し。
どうやら影は私のこの膨れ上がった肥満体の様に膨張を続けているらしく、私の失敗は回数を追うごとに酷くなっていく。
胃から胃酸が上がりつつ心臓が握りつぶされるような息苦しさから逃れようと、私は堤防を築き上げてみたが、こんな時に限って、堤防は相手から壊される。
正直なところ、堤防を壊した事を後悔すればいいと思ってしまう私がいて、そんな私に吐き気を覚える私がいた。
執着心。
それが私の、最大の欠点である。
嗚呼、今回も失敗か。
そう思った時、私の醜い顔は更に醜く歪んだ。
end.
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