謎会話ログ≪1≫

【解剖台の上で取り出された不格好な臓腑さえ何らかの理由から受け入れられているのだとすれば、例えその理由が俗に言う好意ではなかったとしても結果自体は悪くはないし助かる事……なのかもしれない、と彼女は解剖台の上で思う】


論名「あはは。そういう事だから、頑張ってね?」
未彩「あぁもう、分かった分かった、早く行け。」
論名「フフッ、じゃあまたね?」
未彩「はぁ……全く、アイツは……。」

満「……未彩ちゃん?」
未彩「えっ?……あぁ、藤咲先生。何か用事ですか?」
満「あ、いや、用事という訳じゃないんだけど……論名ちゃんって結構辛辣な事を言うよね、って……。」
未彩「あぁ……論名は昔からああいう奴なんで……。」
満「未彩ちゃん、大変だったり辛かったりしない?」
未彩「それは、まぁ……否定はしませんけど……それでも、あれはあれで案外気楽な部分もあるんで、別にいいかとも思うんです。」
満「気楽な部分……?どんなところが?」
未彩「アイツの前では、どんな装いも無駄なんです。何をどう隠そうとしても、アイツは簡単に暴いてしまうんで……ですから、そもそも装う意味が無い、必要が無い……良くも悪くも、完全なありのままで済むんですよ、アイツと……論名と話す時だけは。」
満「へぇ……まぁ、確かに論名ちゃんって妙に鋭いと言うか、何かを隠した箱の微かな隙間に千枚通しを差し込んで中身を引きずり出してくる様な印象がある気はするよね。」
未彩「……胸や腹に千枚通しを突き刺して内臓を抜き出してくる様なイメージの方が近いと思いますよ。」
満「……意外とグロい例えだね?いやまぁ、僕も生徒であり未成年である君の前だから抑えめの表現にしただけで、正直それに似たイメージが先にあったから理解できるけど……。」
未彩「ご理解感謝します。……とにかく、論名の前で俺はある種の無力なんですよ。隠そうとしても暴かれる、まるで生きたまま解剖台の上で捌かれる様な、そんな立場な訳です。」
満「なかなかにキツい立場と扱いだね……。」
未彩「えぇ、とても苦しい事も多々ありますし、見る側である論名も普通に考えれば同じかそれ以上に苦しい筈だと思うんですけど……不思議な事に、論名はそうして俺を捌いて、普通は視線を逸らしたくなるような不快なものを含めた全てを認識して、それでも俺を突き放さないんです。それが俺にはどうにも理解できません。」
満「うーん……普通に考えるなら不快からの嫌悪を凌駕する強烈な快と好意があるって話だろうけど……」
未彩「論名の場合、違う可能性も感じますよね?」
満「確かに……明確に言語化できる訳じゃないけど、好意とは違う何か、或いは……嫌悪が好意を掻き消す事を防げる別の何か……そういうのがありそうだよね。」
未彩「まぁ、それが何なのか、どの様な仕組みなのか、俺には分かりませんけどね。」
満「うーん、やっぱり不思議だよね、論名ちゃんと未彩ちゃんの関係って。」
未彩「当事者の俺が言うのもアレですが、至極同感です。」


登場人物:
清上院 論名 (その毒舌は悪意でも嫌悪でもなく――。)
清上院 未彩 (論名の前では装う意味が無い=真波等と話す時は何かを隠そうと必死になっている、という可能性が浮上中。……あれ?満の場合は?)
藤咲 満 (今回は質問者の役目しかありません)
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