番外編(短編)『性善説と殺人鬼』
楽しく明るい未来に胸を躍らせるような笑顔を優しく浮かべながら、言葉の外でSearchに同意を求める様な形で話されたその内容に、捜査一課の警察官達は視線は自身の手元の書類やパソコンの画面に向けたまま、苛立ちを隠しきれていない苦い表情を浮かべた。
それらは明らかに純次に対する呆れや反感から来る表情なのだが、その表情は先ほどまでに比べると何処か複雑そうな心境が見え隠れしているように感じられるのは何故なのか?
実を言うと、捜査一課の警察官達の中には、何気ない事を大切に扱う事の重要さや、それらの積み重ねが人生である、という主張に対しては理解が及ばない事は無いと思う者も多く、その意味で彼等は純次に対し一定の同意を覚えていたのである。
だが同時に、彼等にとってその主張は飽く迄も自分自身を含む極々一般的な人間を対象としたものであり、Searchの様な一般から逸脱しきった異質な存在に当て嵌める物では無い為、純次がそれをSearchにまで適用しようとしている事は不快極まりない事でもあるのだ。
だから彼等の表情は、純次の主張そのものへの同意と、その主張をSearchに使われる事への反感で、表面的には苛立ちが主な感情として浮かびつつも、何処か複雑そうな、純次を否定しきれないもどかしさが見え隠れしているのである。
さて、そのように複雑な苛立たしさを抱える捜査一課の警察官達の不快感に満ちた表情はともかく、重要なのは純次に直接同意を求められたSearchの次の一言である。
純次から優しくも楽し気で未来への期待に溢れる笑顔を向けられるSearchの表情は、純次のそれとは反対に相変わらず感情の読み取れない無表情であり、純次の話への興味とでも言うべき感情は一切感じられない。
かといって、純次の話を面倒臭がっているような感情も見えてこないところがSearchの不思議なところであり、不気味なところでもある。
漆黒の前髪の間から覗く紅い目は確かに純次を捉えている様で、しかしそれと同時に純次ではない何処か遠くを見ているような、或いはそもそも何も見ていないかのような、とにかく不安定な、あるいは虚空にも似た空っぽ且つ得体の知れない印象を感じさせ続けている。
端的に言って、何を考えているか分からない、としか言い様の無いその様子に、捜査一課の警察官達は常々不気味さと不快感、そして不安の様なモヤモヤとした感情を覚えており、彼等の中にはSearchの経歴よりもその不気味さの方が苦手だという者もいる程だ。
また、捜査一課以外に所属していたり、純次やSearchよりも若年層である為にSearchの経歴を詳しく知らない警察官達の中にもSearchのもつ独特の空洞な雰囲気が苦手だという者は多い。
そのような彼等、また彼女等は廊下などでSearchとすれ違う度、無意識の内に緊張感に満ちた視線を送ってしまう事が多々あるのだが、Searchはそれを不快に思ったり不思議に思ったり、とにかく気にするような素振りを見せない為、それが自然に不自然過ぎるとして更なる不気味さを演出してしまうという悪循環が構築されている面がある。
尚、当たり前だがSearchはその事を感知しておらず、Searchを不気味に思う彼等や彼女等がそれをSearch本人に進言する事も無い為、この悪循環が何らかの形で断ち切られる気配は今のところ存在していない。
そうして様々な人間から不気味がられているSearchに対して臆する事無く会話を試みる稀有な存在である純次と、一応はそれに応じているSearchという図はこのオフィスに居る捜査一課の警察官達の目にどう映っているのか、というのはおそらく今更言うまでもないだろう。
ともかく、今一番の問題は、結局のところSearchは純次の言葉にどのように返答するか?という事なのだが、純次の期待とでも言うべき感情のこもった視線を受け続けるSearchは一般人からすると何を考えているのか全く想像がつかない無表情を浮かべたまま暫しの間黙り込み、直ぐに返答しようとはしなかった。
純次を見詰めたまま沈黙するその姿は単純に純次の言葉の意味をよく考えようとしている様子に見えない事もないかもしれないが、それは飽く迄もSearchが一般的な人類と同じ思考回路を持っていて、純次の話にある程度の興味や関心を持っているという前提が必要な話であるという事を忘れてはならないだろう。
そしてその前提、まずはSearchが一般的な人類――簡単に言って一般人と同じと言える思考回路をしていない事は、Searchがこの捜査一課のオフィスに入室してからの一連の流れで明白になっていると言っても過言ではない。
また、Searchは純次の話に興味や関心を抱いている訳ではないという事も、これまでの淡々とした態度から大方見て取れる筈だ。
とはいえ、先程も述べた事ではあるが、興味や関心が無い割には面倒臭がる様子を見せる訳でもない、というのがSearchの相変わらず不気味なところである。
そうして、傍から見て何を考えたり思ったりしているのかが分からない不気味な無表情のまま、約十秒程度の長いとも短いとも言えない静寂を挟んでから、Searchはついにその口を開いた、が、しかし
「……そういうものなのか。」
という、Searchの言葉はあまりにも淡白で内容が薄く、それを耳にした捜査一課の警察官達はその殆どが特に深い意味の存在しなかったであろう十秒程度の静寂の事を思っては、その程度の言葉しか出てこない程何も考えていない癖に今の謎の沈黙は何だったと言うんだ! と、内心で叫ぶ羽目になってしまった。
また、その殆どの中に当て嵌まらなかった、大多数とは少しだけ考えの違う警察官達はやや不快そうに眉をひそめつつ、何を考えているか分からないと言うよりも何も考えていないであろう返答は聞いているだけでも正直不快だが、所詮はあの殺人鬼に人間の言葉の意図を正確に理解する力などある訳が無いのだからマトモな返答を期待する方が無駄だ、と改めて確信しているかのような、ある意味では落ち着いた、しかしまたある意味では苛立たし気な、結局のところは大多数と同じく不愉快そうな表情を浮かべるに至っている。
何にせよ、純次の発言に対するSearchの反応は捜査一課の警察官達にとっては気に障るものでしかなかったようだ。
とはいえ、それを一々Searchに、或いは純次に言う為に絡みに行く様な大人げない暇人は此処には居ない様で、彼等は午後の穏やかな陽気を台無しにする音声に腹を立てつつも、黙って自分達の仕事を熟す事に力を入れていた。
であるから、Searchのそっけないようにも聞こえる返答に対して更なる返答をするのはSearchの傍にいる性善説かぶれの馬鹿――純次だけであり、純次は同じ部屋の中で不快そうな雰囲気を醸しつつ仕事をする捜査一課の警察官達とは反対の穏やかで嬉しそうな笑みを浮かべて、言う。
「うん、そういうものだよ。だから、Searchちゃんには四月からの新しい場所での生活を頑張って、大切なものを沢山見付けてほしいんだ。……勿論、捜査の進展も願ってるし、応援してるよ?」
純粋に、ただ純粋に、愚かしい程純粋に、何の後ろめたさも感じずにSearchを応援する気持ちを声と表情に込めた純次は、捜査に関して言及する部分だけ少し悪戯っぽく、それでいて何かをほんの僅かに誤魔化すかの様な笑みを浮かべていた。
それは恐らく、Searchが中学校へ派遣される事に浮足立っている自分だが、それは飽く迄も捜査の為である事を忘れている訳ではない、という事を純次なりにアピールした結果の表情だったのだろう。
しかし、それをチラリと見てしまった捜査一課の警察官達の何人かは純次の能天気な表情と捜査の方がオマケであるかのような扱いに唯々頭痛に似た重い呆れの感情を覚えるのみであった上、純次に直接笑顔を向けられているSearchにはその様な呆れの感情すら存在しない為、純次の照れ隠しの様な笑顔は見事に空振りとなってしまっているのだが、純次がそれを気にする様子を見せる事は無い。
何故ならば、純次には自分の言動がSearch以外の傍から見るとダダ滑りの様な状況になっているという自覚が無いからだ。
それもその筈、例え傍から見る限りはとことん能天気な性善説かぶれの馬鹿のふざけた様な所業でしかないそれであっても、純次本人は能天気なつもりは勿論ふざけているつもりも無く、ただ真面目に真っ直ぐにSearchを応援する話をしているという認識しか持っていないのだから仕方がない。
とにかく、純次は暫しの間は意味深長の様でそうでもない、なんとも形容しがたくも能天気な事だけはよく分かる笑顔で、特に表情を変えようとしない無表情極まるSearchと見詰め合っていたが、やがてふとその笑顔を平常心の表情に近付けると、それまでの朗らかな雰囲気をギリギリまで薄め、どちらかと言えば少し沈痛な面持ちに近づけてからボソリと呟く様に、真面目な話を切り出した。
「……それにしても、痛ましいよね。未成年を狙う殺人事件の多発だなんて。」
そう言った純次の表情は、これまでに犠牲になった者達を悼む様な、その上で今後犠牲になるかもしれない子供達の身を案ずるかの様な、悲痛さと不安の入り混じる表情になっている。
周囲で二人の様子を苛立ちながら窺っていた捜査一課の警察官達にも、何処か薄らとではあるが苛立ちとは別の緊張が走った様だ。
未成年を狙う殺人事件の多発――それはまさに、Searchを含む複数の警察官が教師や事務員、用務員に扮して都内の小学校や中学校、或いは高校へと派遣されるに至った最大にして唯一の理由であるのだから、当たり前だろうか。
此処に至っては、飽く迄も無表情を貫き続けているSearchの発する雰囲気も、ほんの僅かにではあるものの先程に比べると真剣味が増している様だ。
それは強いて言葉で表現するならば、特別真面目でも不真面目でも無かったある意味で適当な態度から、どちらかと言えば真面目な態度に寄ったような、或いは自分に与えられた指令に沿う準備をするかのような真剣な雰囲気である。
ただ不穏なのは、その真剣さの中に犯人に対する正義感にも似た怒りの感情や、純次の様に犠牲者を悼んだり、犠牲者になる可能性のある者達を心配しているような様子が見えてこない事だ。
Searchの真剣さには、捜査一課の警察官達が大なり小なり持ち合わせる様な、被害者及びその遺族への哀悼の意、また犯人を絶対に罰し被害者の無念を晴らす為に逮捕すると考える熱意やそれに伴う執念とでも言うべき意思が明らかに欠けていた。
であるから、Searchと純次の様子を窺う捜査一課の警察官達は、Searchの能動的意思の欠如とそれに伴う熱意の欠如を何となく感じ取っては、あの真剣さは所詮ハリボテだと思い、やはり若干苛立つ事になるのだが、純次はその点をあまり気にしてはいないのか、あまりにSearchの傍に居過ぎて慣れてしまったのか、とにかくSearchの真剣さに熱量が無い事を気に掛ける事は無く言葉を続ける。
それらは明らかに純次に対する呆れや反感から来る表情なのだが、その表情は先ほどまでに比べると何処か複雑そうな心境が見え隠れしているように感じられるのは何故なのか?
実を言うと、捜査一課の警察官達の中には、何気ない事を大切に扱う事の重要さや、それらの積み重ねが人生である、という主張に対しては理解が及ばない事は無いと思う者も多く、その意味で彼等は純次に対し一定の同意を覚えていたのである。
だが同時に、彼等にとってその主張は飽く迄も自分自身を含む極々一般的な人間を対象としたものであり、Searchの様な一般から逸脱しきった異質な存在に当て嵌める物では無い為、純次がそれをSearchにまで適用しようとしている事は不快極まりない事でもあるのだ。
だから彼等の表情は、純次の主張そのものへの同意と、その主張をSearchに使われる事への反感で、表面的には苛立ちが主な感情として浮かびつつも、何処か複雑そうな、純次を否定しきれないもどかしさが見え隠れしているのである。
さて、そのように複雑な苛立たしさを抱える捜査一課の警察官達の不快感に満ちた表情はともかく、重要なのは純次に直接同意を求められたSearchの次の一言である。
純次から優しくも楽し気で未来への期待に溢れる笑顔を向けられるSearchの表情は、純次のそれとは反対に相変わらず感情の読み取れない無表情であり、純次の話への興味とでも言うべき感情は一切感じられない。
かといって、純次の話を面倒臭がっているような感情も見えてこないところがSearchの不思議なところであり、不気味なところでもある。
漆黒の前髪の間から覗く紅い目は確かに純次を捉えている様で、しかしそれと同時に純次ではない何処か遠くを見ているような、或いはそもそも何も見ていないかのような、とにかく不安定な、あるいは虚空にも似た空っぽ且つ得体の知れない印象を感じさせ続けている。
端的に言って、何を考えているか分からない、としか言い様の無いその様子に、捜査一課の警察官達は常々不気味さと不快感、そして不安の様なモヤモヤとした感情を覚えており、彼等の中にはSearchの経歴よりもその不気味さの方が苦手だという者もいる程だ。
また、捜査一課以外に所属していたり、純次やSearchよりも若年層である為にSearchの経歴を詳しく知らない警察官達の中にもSearchのもつ独特の空洞な雰囲気が苦手だという者は多い。
そのような彼等、また彼女等は廊下などでSearchとすれ違う度、無意識の内に緊張感に満ちた視線を送ってしまう事が多々あるのだが、Searchはそれを不快に思ったり不思議に思ったり、とにかく気にするような素振りを見せない為、それが自然に不自然過ぎるとして更なる不気味さを演出してしまうという悪循環が構築されている面がある。
尚、当たり前だがSearchはその事を感知しておらず、Searchを不気味に思う彼等や彼女等がそれをSearch本人に進言する事も無い為、この悪循環が何らかの形で断ち切られる気配は今のところ存在していない。
そうして様々な人間から不気味がられているSearchに対して臆する事無く会話を試みる稀有な存在である純次と、一応はそれに応じているSearchという図はこのオフィスに居る捜査一課の警察官達の目にどう映っているのか、というのはおそらく今更言うまでもないだろう。
ともかく、今一番の問題は、結局のところSearchは純次の言葉にどのように返答するか?という事なのだが、純次の期待とでも言うべき感情のこもった視線を受け続けるSearchは一般人からすると何を考えているのか全く想像がつかない無表情を浮かべたまま暫しの間黙り込み、直ぐに返答しようとはしなかった。
純次を見詰めたまま沈黙するその姿は単純に純次の言葉の意味をよく考えようとしている様子に見えない事もないかもしれないが、それは飽く迄もSearchが一般的な人類と同じ思考回路を持っていて、純次の話にある程度の興味や関心を持っているという前提が必要な話であるという事を忘れてはならないだろう。
そしてその前提、まずはSearchが一般的な人類――簡単に言って一般人と同じと言える思考回路をしていない事は、Searchがこの捜査一課のオフィスに入室してからの一連の流れで明白になっていると言っても過言ではない。
また、Searchは純次の話に興味や関心を抱いている訳ではないという事も、これまでの淡々とした態度から大方見て取れる筈だ。
とはいえ、先程も述べた事ではあるが、興味や関心が無い割には面倒臭がる様子を見せる訳でもない、というのがSearchの相変わらず不気味なところである。
そうして、傍から見て何を考えたり思ったりしているのかが分からない不気味な無表情のまま、約十秒程度の長いとも短いとも言えない静寂を挟んでから、Searchはついにその口を開いた、が、しかし
「……そういうものなのか。」
という、Searchの言葉はあまりにも淡白で内容が薄く、それを耳にした捜査一課の警察官達はその殆どが特に深い意味の存在しなかったであろう十秒程度の静寂の事を思っては、その程度の言葉しか出てこない程何も考えていない癖に今の謎の沈黙は何だったと言うんだ! と、内心で叫ぶ羽目になってしまった。
また、その殆どの中に当て嵌まらなかった、大多数とは少しだけ考えの違う警察官達はやや不快そうに眉をひそめつつ、何を考えているか分からないと言うよりも何も考えていないであろう返答は聞いているだけでも正直不快だが、所詮はあの殺人鬼に人間の言葉の意図を正確に理解する力などある訳が無いのだからマトモな返答を期待する方が無駄だ、と改めて確信しているかのような、ある意味では落ち着いた、しかしまたある意味では苛立たし気な、結局のところは大多数と同じく不愉快そうな表情を浮かべるに至っている。
何にせよ、純次の発言に対するSearchの反応は捜査一課の警察官達にとっては気に障るものでしかなかったようだ。
とはいえ、それを一々Searchに、或いは純次に言う為に絡みに行く様な大人げない暇人は此処には居ない様で、彼等は午後の穏やかな陽気を台無しにする音声に腹を立てつつも、黙って自分達の仕事を熟す事に力を入れていた。
であるから、Searchのそっけないようにも聞こえる返答に対して更なる返答をするのはSearchの傍にいる性善説かぶれの馬鹿――純次だけであり、純次は同じ部屋の中で不快そうな雰囲気を醸しつつ仕事をする捜査一課の警察官達とは反対の穏やかで嬉しそうな笑みを浮かべて、言う。
「うん、そういうものだよ。だから、Searchちゃんには四月からの新しい場所での生活を頑張って、大切なものを沢山見付けてほしいんだ。……勿論、捜査の進展も願ってるし、応援してるよ?」
純粋に、ただ純粋に、愚かしい程純粋に、何の後ろめたさも感じずにSearchを応援する気持ちを声と表情に込めた純次は、捜査に関して言及する部分だけ少し悪戯っぽく、それでいて何かをほんの僅かに誤魔化すかの様な笑みを浮かべていた。
それは恐らく、Searchが中学校へ派遣される事に浮足立っている自分だが、それは飽く迄も捜査の為である事を忘れている訳ではない、という事を純次なりにアピールした結果の表情だったのだろう。
しかし、それをチラリと見てしまった捜査一課の警察官達の何人かは純次の能天気な表情と捜査の方がオマケであるかのような扱いに唯々頭痛に似た重い呆れの感情を覚えるのみであった上、純次に直接笑顔を向けられているSearchにはその様な呆れの感情すら存在しない為、純次の照れ隠しの様な笑顔は見事に空振りとなってしまっているのだが、純次がそれを気にする様子を見せる事は無い。
何故ならば、純次には自分の言動がSearch以外の傍から見るとダダ滑りの様な状況になっているという自覚が無いからだ。
それもその筈、例え傍から見る限りはとことん能天気な性善説かぶれの馬鹿のふざけた様な所業でしかないそれであっても、純次本人は能天気なつもりは勿論ふざけているつもりも無く、ただ真面目に真っ直ぐにSearchを応援する話をしているという認識しか持っていないのだから仕方がない。
とにかく、純次は暫しの間は意味深長の様でそうでもない、なんとも形容しがたくも能天気な事だけはよく分かる笑顔で、特に表情を変えようとしない無表情極まるSearchと見詰め合っていたが、やがてふとその笑顔を平常心の表情に近付けると、それまでの朗らかな雰囲気をギリギリまで薄め、どちらかと言えば少し沈痛な面持ちに近づけてからボソリと呟く様に、真面目な話を切り出した。
「……それにしても、痛ましいよね。未成年を狙う殺人事件の多発だなんて。」
そう言った純次の表情は、これまでに犠牲になった者達を悼む様な、その上で今後犠牲になるかもしれない子供達の身を案ずるかの様な、悲痛さと不安の入り混じる表情になっている。
周囲で二人の様子を苛立ちながら窺っていた捜査一課の警察官達にも、何処か薄らとではあるが苛立ちとは別の緊張が走った様だ。
未成年を狙う殺人事件の多発――それはまさに、Searchを含む複数の警察官が教師や事務員、用務員に扮して都内の小学校や中学校、或いは高校へと派遣されるに至った最大にして唯一の理由であるのだから、当たり前だろうか。
此処に至っては、飽く迄も無表情を貫き続けているSearchの発する雰囲気も、ほんの僅かにではあるものの先程に比べると真剣味が増している様だ。
それは強いて言葉で表現するならば、特別真面目でも不真面目でも無かったある意味で適当な態度から、どちらかと言えば真面目な態度に寄ったような、或いは自分に与えられた指令に沿う準備をするかのような真剣な雰囲気である。
ただ不穏なのは、その真剣さの中に犯人に対する正義感にも似た怒りの感情や、純次の様に犠牲者を悼んだり、犠牲者になる可能性のある者達を心配しているような様子が見えてこない事だ。
Searchの真剣さには、捜査一課の警察官達が大なり小なり持ち合わせる様な、被害者及びその遺族への哀悼の意、また犯人を絶対に罰し被害者の無念を晴らす為に逮捕すると考える熱意やそれに伴う執念とでも言うべき意思が明らかに欠けていた。
であるから、Searchと純次の様子を窺う捜査一課の警察官達は、Searchの能動的意思の欠如とそれに伴う熱意の欠如を何となく感じ取っては、あの真剣さは所詮ハリボテだと思い、やはり若干苛立つ事になるのだが、純次はその点をあまり気にしてはいないのか、あまりにSearchの傍に居過ぎて慣れてしまったのか、とにかくSearchの真剣さに熱量が無い事を気に掛ける事は無く言葉を続ける。