第1話:新たなる闇と新たなる戦士

「今日は人が少ないのかしら?」

背後で聞こえたメイルの呟きに、熱斗は、

「そうかもね。」

と答える。

やがて、エレベーターは熱斗達のいる一階へ到着し、その扉を開いた、と、熱斗はその視線の先に少し意外なものを見て軽く目を見張った。
てっきり空かと思っていたエレベーターの中には、一つの人影があったのだ。
それも、白衣を着た研究員ではない、熱斗達と同じ程度の歳に見える人影が。

その人影は、髪は少し長すぎる黒髪で、目は吊り目で黒く、服は紺色のポロシャツの上に青い長袖のジャケットを着て白いズボンを穿いており、靴は革靴と思わしき黒い靴を履いている。
誰だろう? 少なくとも知らない人だよな? と熱斗は思った。
メイルとデカオも、少しだけ驚いたような、意外なものを見たような顔をしている。
その表情は、科学省に自分達以外の子供など珍しい、と言いたげだ。

エレベーターの中の人物は、熱斗達とは逆に、相手――熱斗達に興味は無かったようで、ドアが開き切るとすぐに歩きだし、エレベーターを降りて熱斗の横をすり抜け、デカオの横を通り抜け、更にメイルの横を素通りしてここから見た廊下の奥、受付のある方向へと進んでいってしまう。
熱斗は一瞬、試しに声をかけてみようかと考えたが、エレベーターから聞こえた、ドアが閉まります、というアナウンスでエレベーターに振り返り、急いでエレベーターに乗り込んで扉を開いておくボタンを押した。
メイルとデカオも少しだけ背後を振りかえった後、何だったのだろう? と言いたげな表情で顔を見合わせながらエレベーターに乗り込む。
そして熱斗が扉を開いておくボタンから指を離すと、エレベーターの扉は自動的に閉まり、上の階に向かって動き出した。
三人の間に僅かな静寂が訪れる。

「……ねぇ、今の子誰だったのかしら?」

メイルの何気ない疑問がその静寂を破り、熱斗とデカオが顔を見合わせた。
熱斗もデカオも、先ほどからそれが気になってはいたのだが、その答えを出す事はできない、答えは分からないという、少し困ったような表情でメイルに向き直る。
それを見たメイルが、やっぱり二人にも分からないか……、と言いたげにエレベーターの操作パネルに視線を向けた時、熱斗が何か思いついたように、あっ、と声を漏らした。
何かと思ったメイルとデカオが熱斗に視線を向ける。

「きっとパパかママが此処で働いてるんじゃないかな? ほら、俺だってこうしてママの代わりにパパに届け物をする訳だし。」

そう言って熱斗が右手に持った大きな鞄を指差すと、メイルとデカオは最初こそ驚いたような顔をして目をぱちくりさせていたが、やがて熱斗の意見を納得がいく理由だと思ったのか、二人とも小さく頷き、熱斗の意見に同意する。

「そうね、それなら納得がいくわ。熱斗と同じ、科学者のお子さんなのかもしれないわね。」
「今度見かけたら声掛けてみようぜ! 熱斗のお仲間かもしれないしな!」

デカオの発言に熱斗も賛成し、そうだな、と返答した丁度その時、エレベーターが動きを止め、その分厚い扉を開いた。
その先には片側が窓に面している明るい廊下が続いている。
エレベーター内のパネルのすぐ近くにいた熱斗が最初にエレベータを下りて廊下に足を踏み入れ、メイルがそれに続き、最後にデカオがエレベーターを降りると、エレベーターは何処かで呼ばれたのか、扉を閉じて下の階へ向かって動き出した。
そのエレベータを視界の端で見送りながら、熱斗達はクロスフュージョン関係の実験室に向けて歩きだす。
しばらく歩くと、前々からクロスフュージョンの実験の時に使っている部屋の前へ着いた。
扉の前にはカードリーダーとPETの認証機とインターホンが一体になったロックシステムが取り付けられており、熱斗はインターホンを押す。
すると数秒後、すぐ近くのスピーカーから光 祐一朗の声が聞こえてきた。

「誰だい?」
「俺だよパパ、ママに頼まれた荷物を持ってきたんだ。」
「え? ……ああ、熱斗か。」

一瞬驚いたような声で反応した祐一朗に、熱斗は、また研究に夢中になって昨日から荷物を届けに行くと連絡してある事を忘れていたな? と、僅かな呆れを感じた。
同時に、しかしまぁそんなのはいつもの事か、と思いながら小さく溜息を吐く。
そしてPETを認証用の機械に近付けると、ピピッという認証完了を知らせる音と共に研究室の扉が開いた。
その扉の先には何人かの研究院と、祐一朗と、それから、

「あ! 岬さん!」

ネット警察で働いている警察官である岬 悟郎の姿があった。
久しぶりの再会に、熱斗はやや嬉しそうな表情で岬へ駆け寄り、メイルとデカオもその後を追って研究室に入る。
研究室の中で祐一朗の近くに立っている岬は、クロスフュージョンが開発されて間もない頃に被験者として実験に参加していた時と同じ格好をしていて、熱斗はそれを上から下まで眺めてから訊いた。

「岬さん、今、なんかの実験中?」
「そうだよ、今回もクロスフュージョンの実験をね。なんでも、今回は俺ぐらいのシンクロ率の被験者が必要らしくてね。こうしてまたクロスフュージョンの実験に参加できるなんて夢のようだよ。」
2/15ページ