第1話:新たなる闇と新たなる戦士

一方此方は指令室の数階上にあるクロスフュージョン関係の実験室では、熱斗とヴァイアストが時代劇さながらのちゃんばら劇を繰り広げていた。
しかし状況は熱斗の方がやや劣勢で、ヴァイアストはこれでもかと言わんばかりに熱斗に攻撃を仕掛けているが、熱斗はそんなヴァイアストのソードを跳ね返すのが精一杯という状況である。
このままでは、パワーアップの手段も救援が来る予定もない此方が負けてしまう、と熱斗は焦りを感じ、その焦りが更に熱斗から冷静な判断力を奪う。
本来ならバトルチップ『カワリミ』の一枚や二枚を使ってヴァイアストの猛攻から一瞬でも逃れれば熱斗にも勝機はあるかもしれないのだが、今の状態のままソードで斬りつけて倒す事だけを考えている熱斗はそれに気付かない。
どうにか、どうにかこの猛攻を防ぐ手は無いものかと焦りつつ、熱斗はヴァイアストのソードを受け止めて受け流すのが精一杯であった。
そして、

「あっ!!」

ヴァイアストの猛攻に耐えかねたのか、熱斗の右腕のロングソードがバキンッと軽快な音を立てて折れてしまった。
不味い、やられる! と思った熱斗と、これでまた熱斗の防御力が下がったと喜ぶヴァイアスト。
勝敗は決してしまったかのように見えた瞬間だった、が、熱斗が斬劇を覚悟してせめて頭だけでも守ろうと腕で顔を覆い、それをチャンスと感じたヴァイアストがソードを一際高く振り翳したその時、

「退きなさいヴァイアスト! 電脳世界が正常化されたわ!」

ヴァイアストの耳に、ヴァイアストとは別の女性の声が届いた。
その声に呼応するようにヴァイアストは振りかざしたソードを熱斗の腕の直前で止め、数歩後ろに下がる。
その気配を察知した熱斗は恐る恐る腕を下げて前方を確認する、と、そこにヴァイアストの姿は無くなっていた。
直後、それまで科学省を覆っていたディメンショナルエリアも消え始め、熱斗のクロスフュージョンが解除される。
それまで身にまとっていたスーツがPETに戻り、カシャンと音を立てて床に落ちるのが見えた。
ディメンショナルエリアが解除されたなら、周囲のウイルス達も電脳世界に戻って行った事だろう。
熱斗は近くの窓から外の様子を確認し、そこにウイルスがいなくなった事を確認してようやくホッと胸を撫でお下ろし、腰が抜けたようにその場に座り込んだ。

「あ゛ー……死ぬかと思ったぜ……。」

熱斗が疲労困憊の声でぼやくと、ロックマンが熱斗の肩の上に出てきた。
ロックマンの表情も何処か疲れ気味で、今回は本当に余裕の無いギリギリのバトルだったのだな、と感じた熱斗は疲労と安堵の溜息を吐いた。
と、そこへ熱斗のPETが通信の着信音を鳴らす。
床に落ちたPETを取り上げて通信に応答すると、PETの小さな画面に映っていたのは祐一朗とメイルだった。
祐一朗はまだ事件は解決していないのかと訊きたくなるほど深刻な顔をしているし、メイルは少し困ったような、それでいて熱斗を心配している様な表情で画面を覗き込んでいる。

「熱斗! そっちはどうなった。」
「パパ……なんとか持ちこたえたよ。ただ、その、実験施設はかなり壊れちゃったし、廊下とかもボロボロだけど……。」

思った以上に敵の侵攻が速く強く、自分は自分で期待するほどに大切な何かを守る事が出来なかった、その事実に少ししょんぼりとしている熱斗を見て、祐一朗は首を横に振る。

「いや、お前達が無事ならそれで良い。研究機器はまた作ればいいだけだからな。」
「熱斗、ロックマン、大丈夫?」

祐一朗とメイルが熱斗とロックマンを気遣う声が聞こえる。
熱斗はそれで少しだけ元気を取り戻して、僅かに微笑みながら、「ありがとう、俺達は大丈夫。」と言った。
それを見た祐一朗とメイルもようやく安心したように穏やかな表情を取り戻す。
熱斗はその取り戻した元気で自分の四肢に力を入れてその場から立ちあがり、通信を繋げたままゆっくりとエレベーターに向けて歩きだした。
熱斗が、「今から戻るから。」と言うと、祐一朗の「気をつけて戻ってこいよ。」という言葉の端で、デカオが何やら忙しくまくし立てているのが聞こえてくる、相手は岬と名人らしい。
それが気になった熱斗は、PETに向けて問いかけた。

「ところで、デカオは何をそんなにハイテンションなんだよ? なんかあったの?」

熱斗がそれを訊いた瞬間、デカオが待ってましたと言わんばかりにメイルと祐一朗を押しのけて画面の真ん中に現れた。
メイルと祐一朗が苦笑をするのが画面の隅に見え、熱斗も小さく苦笑する。
しかしデカオはそんな事には構うものかと言いたげに通信画面に顔を近づけ、自分のテンションが高い理由を熱斗に伝えた。

「これはお前にとっても俺様にとっても一大事なんだぜ!? ロックマンの“そっくりさん”が現れたんだからよ!!」
「「ロックマン(僕)の“そっくり”さん?」」

熱斗とロックマンの声が見事に重なり、二人は歩みを止めて顔を見合わせた。
デカオの後ろで、祐一朗が何やら難しそうな顔をしていたが、デカオの顔が画面全体に映っている熱斗にそれは見えない。
ただ、被害状況の確認をしている名人と岬、それからデカオに押しのけられたメイルだけが祐一朗のその表情を、メイルは不思議なものを見る目で、名人と岬は祐一朗は何か隠し事をしていると言いたげな視線で見ていた。
ともかく、先ほどの電脳世界での戦いの最中に現れた“ロックマンそっくりの少女ナビ”の情報は熱斗とロックマンにも伝わった。
それがどういう事なのかはまだ分からないが、何か知らなければいけない重要な情報である気がした熱斗は、デカオ達に「後でじっくり教えてくれ。」と言って通信を切ってから急いでエレベーターに駆け寄る。
幸いエレベーターは故障する事無く機能していて、扉はすぐに開いた。
13/15ページ