エジプトまでの道程編
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タロットによるスタンドの命名が終わったあと、台所で気を失っていたホリィを部屋まで運んでベッドへ寝かせ、濡れタオルや水、果物など、看病するために必要なものの準備をした。
そうやって皆でバタバタと忙しなく動いていると、遠くで電話をかけていたジョセフがこちらに戻ってくる。
「今スピードワゴン財団の方に連絡を取った。医師たちは数十分後に到着するそうじゃ。……花京院に紫苑、出発までまだ少し時間がある。この間に旅の支度を整えておきなさい。もし足りないものや必要なものがあればわしに遠慮なく言うといい」
ジョセフにそう言われ、家が遠い花京院は買い出しに、比較的ここから家が近い紫苑は準備の為一度自宅へ戻ることにした。
「翠川さん」
空条家の門を出ようとしたところで後ろから声をかけられる。振り返ると、そこには花京院が気まずそうな表情で立っていた。
「えっと……花京院、くん?どうかしましたか?」
紫苑がそう言うと花京院は視線をキョロキョロと彷徨わせ、口をもごつかせる。その表情は何処か苦しそうであり、何か言いたげな表情だったが、中々言葉にできないようであった。
しばらくすると、意を決したように口を開いた。
「……昨日はタイミングが合わなくて中々言えなかったんですが……保健室で君の事を攻撃したでしょう。操られていたとはいえ、ひどい怪我を負わせてしまった。すみませんでした」
苦虫を噛み潰したような表情で頭を下げる。その表情や言葉尻から察するに、この前の事をひどく後悔している様子だった。
「ああ……いや、あれは花京院くんが望んでやったわけじゃあ無いって事、わかってますから。……それに、私は直ぐに怪我を治せるし。気にしないでください」
紫苑は本当に何も気にしていない風に言う。実際、余程の致命傷でない限り自分が怪我をする分にはただ治せば良いだけなので、紫苑はそこまで気に病む必要性など微塵もないのにと思っていた。
しかし紫苑の返答を聞いた花京院は、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
「直ぐに治せるからって……怪我をしたら痛いでしょう。あんな怪我なら尚更だ。それにもしかしたら傷跡だって残ったかもしれなかった。……今回の旅だって、ぼくが巻き込んだようなものです。ぼくがあのタイミングで攻撃を仕掛けなければ、君は巻き込まれずに済んだかもしれないのに……」
「花京院くん」
ずぶずぶと後悔の海に思考を沈めていく花京院を咎めるように、紫苑が名前を呼ぶ。その声が耳に届くと、彼はハッとして顔を上げた。
「私が女の子だからって……攻撃能力を持たないスタンドだからって思って、私がこの旅に半ば成り行きのような形で同行するのに罪悪感があるんでしょう?あなたの言うように、私はDIOと何の関わりも無くて、ただあの時あの場所に居ただけの他人だから。」
花京院の藤紫色の瞳を見つめながら紫苑がそう言うと、彼は気まずそうにして視線をそらす。図星だな、と紫苑は思った。
「でも、本当に気に病む必要なんて無いんです。さっきも言ったように多少の怪我だったら直ぐに治せるし、昔はよく怪我ばかりしていたので痛みにだってある程度慣れてますから。それに、同行したいと言ったときにも話しましたが……私が居ることで誰かの助けになるのなら、私はこの過酷な旅にだってついて行きたいんです。紛れもなく、『私自身が』そう思ったんです。……この能力を使って誰かに感謝されるなんて、初めてだったから……だから、きっかけをくれた花京院くんには寧ろ感謝したいくらい」
紫苑は目を細め、少し微笑みながらそう言い切る。
その言葉には強固な意志が感じられたが、何処か危うさも含んでいるようであった。
「……そう、ですか。そう言ってくれると、ぼくも助かります。……お詫びと言っては何ですが、ぼくに手伝える事があったらいつでも言ってください。それでは、また後ほど」
花京院は何処か納得したような、しかしまだ何か言いたいことがあるような素振りをしつつも、これ以上食い下がるべきではないと思ったのだろう、そう言葉を区切って立ち去っていく。
紫苑はその後ろ姿をぼんやりと眺めながら、今度こそ準備を整えるため自宅へと向かった。
準備も終わり再び承太郎の家へ戻ると、丁度スピードワゴン財団の人達が到着したところのようであった。
到着した医師達がホリィの状態を確認し、一通りの診察が終わったあとには解熱剤や痛み止めなどといった症状を緩和する薬を処方していた。
そうしてジョセフが財団の医師から説明を受けている間、紫苑、花京院、アヴドゥルの3人は部屋の外で待機していた。
「自分のスタンドが害になって死ぬことなんて、有り得るのですか?」
「有り得る。私は今までそのような事例を何度か目撃している……。今はまだ背中だけだが……そのうち、シダ植物のようなあの『スタンド』は……ゆっくりとホリィさんの全身をびっしりと覆い包むだろう。高熱やいろいろな病気を誘発して苦しみ、昏睡 状態に入って……二度と目覚めることなく死ぬ……」
花京院が訊ねると、アヴドゥルは思い詰めた顔で花京院と紫苑にホリィが辿るであろう結末を伝える。
そしてちらりと空条家の門に止まっているスピードワゴン財団の車や財団の人達を見ながらさらに続けた。
「彼らは24時間体制でホリィさんを看護する信頼すべきスピードワゴン財団の医師たちだが……一般の人間には原因不明で何も見えず、わからず、どんな名医にも治すことはできない……。誰にも、私にも、君にも、どうすることはできないのだ……」
突きつけられた非常な現実、身近に感じた死の予感に、花京院と紫苑はアヴドゥルの顔を見たまま何も言えなくなる。
アヴドゥルはそんな状態の2人を見ると、懐から地図を取り出し、エジプトを指さしながらこう言った。
「だがホリィさんの場合希望がある……その症状になるまで50日は掛かるからだ。その前にエジプトにいるDIOを倒せばすむことだ! DIOの体から発する『スタンド』のつながり を消せば助かるのだ!!」
診察も終わり、意識の戻ったホリィの世話をジョセフが行う。医師も退出し、部屋の中にはジョセフと承太郎、そして布団に入っているホリィのみが残っていた。
「ほんと、あたしったらどうしちゃったのかしら。急に熱が出て気を失うなんて……。でも解熱剤でだいぶ落ち着いたわ」
ホリィが頬に手を当てながら笑顔でそう答える。しかしその顔には顔色の悪さが滲み出ており、空元気であろう事が伺える。
彼女自身、自分の身に何が起こっているのかまだ分かっていないだろう。しかし、何故このような状態になってしまったのかを説明しようとすると、必然的に『スタンド』について話さなければいけなくなる。ただでさえ弱っている彼女にさらに追い打ちをかけるような事はしたくない。それは誰しもが考えていることだった。
だから、誰も何も言えなかった。その青白い顔をただ見ていることしか出来なかった。
「びっくりしたぞ、ホリィ。今朝姿が見えないと思ったら台所で熱を出して倒れておって……。どら、起きたら歯を磨かなくてはな……」
そう言いながらジョセフは歯ブラシを持ち、ホリィの歯を磨き始める。
顔を拭き、髪の毛を梳かし、爪の手入れをし、りんごを剥いて食べさせる…………そうしてホリィの身の回りの世話を甲斐甲斐しく焼いていった。
ホリィは一通り世話を焼かれ終わると、また笑顔で話し始める。
「ふふ、ありがとう、パパ。……さあてと、承太郎、今晩何食べる?」
「動くなッ!静かに寝てろーッ!!」
心配させまいと気丈に振る舞う姿に耐えられなかったのだろう、承太郎が険しい顔で吠える。ビリビリと空気が震え、部屋の中にいた2人が驚いたように承太郎を見た。
「……ッ、い、や……ね、熱が下がるまで何もするなってことだ……。黙って早くなおしゃあいいんだ……」
「……フフフ、そうね。病気になるとみんなスゴく優しいんだもん。たまには風邪もいいかもね」
怒っているわけでは無いという事を伝えようと、承太郎は学帽のつばを引きながら先程よりも幾分か声を和らげて言う。承太郎が心配してくれている事をわかっているホリィはその言葉に微笑むと、目を閉じて横になる。しかしその途端、急にくたりと脱力した。その姿を見たジョセフはハッとして慌てて彼女に声をかける。
「ホ……ホリィ! ……ううッ! ま……また気を失ったぞ!! ……クウ……ウウウ……き、気丈に振る舞っているがなんという高熱……。今の態度でわかった、何も語らないが娘は自分の背中の『スタンド』のことに気づいている。……逆にわしらに自分の『スタンド』のことを隠そうとしていた……わしらに心配かけまいとしていた! 娘はそういう子だ」
ホリィの額に手を当てながら辛そうに顔を歪めるジョセフ。承太郎もその姿を見て、眉間にシワを寄せ悲痛な表情をしている。
「必ず……助けてやる……。安心するんだ、心配することは何もない……必ず元気にしてやる……。安心していればいいんだよ……」
優しく穏やかに言い聞かせるように、そして己の決意を固めるかのようにジョセフがホリィの頭を撫でる。
するとその様子を庭から見ていた花京院が、独り言のようにつぶやいた。
「…………JOJOのお母さん……ホリィさんという女性は、人の心を和ませる女の人ですね……。そばにいるとホッとする気持ちになる。こんなことを言うのもなんだが、恋をするとしたらあんな気持ちの女性がいいと思います。守ってあげたいと思う、元気なあたたかい笑顔が見たいと思う」
花京院の言葉に、紫苑も心の中で強く同意した。そんな素敵な人を苦しめている原因を、元凶を倒したいと心から強く思う。短い間ではあったが、そう思わせるには十分魅力的な女性であった。
「うむ……そろそろ時間だ。出発のようだな……」
アヴドゥルが花京院の言葉に同意しそう言うと、ホリィの事をスピードワゴン財団に託して、ジョセフと承太郎が部屋の中から出てくる。ジョセフはぐるりと見渡し全員が揃っている事を確認すると、高らかに声を上げた。
「皆、準備は整っているな。……よし、それでは出発だ。行くぞ!」
長い長い旅が、今始まるのだ。
暗闇の中に、一人、金髪の男がいる。
「やはり……おれの居場所を感づいたな……くるか……このエジプトに……」
その男は紫色の茨が巻き付いた腕でカメラを叩き割ると、そこから出てきた一枚の写真をジッと見つめる。
「…………ジョセフと…………ジョータローか………」
男の首筋には、襟足の隙間からちらりと星型のアザが覗いていた。
そうやって皆でバタバタと忙しなく動いていると、遠くで電話をかけていたジョセフがこちらに戻ってくる。
「今スピードワゴン財団の方に連絡を取った。医師たちは数十分後に到着するそうじゃ。……花京院に紫苑、出発までまだ少し時間がある。この間に旅の支度を整えておきなさい。もし足りないものや必要なものがあればわしに遠慮なく言うといい」
ジョセフにそう言われ、家が遠い花京院は買い出しに、比較的ここから家が近い紫苑は準備の為一度自宅へ戻ることにした。
「翠川さん」
空条家の門を出ようとしたところで後ろから声をかけられる。振り返ると、そこには花京院が気まずそうな表情で立っていた。
「えっと……花京院、くん?どうかしましたか?」
紫苑がそう言うと花京院は視線をキョロキョロと彷徨わせ、口をもごつかせる。その表情は何処か苦しそうであり、何か言いたげな表情だったが、中々言葉にできないようであった。
しばらくすると、意を決したように口を開いた。
「……昨日はタイミングが合わなくて中々言えなかったんですが……保健室で君の事を攻撃したでしょう。操られていたとはいえ、ひどい怪我を負わせてしまった。すみませんでした」
苦虫を噛み潰したような表情で頭を下げる。その表情や言葉尻から察するに、この前の事をひどく後悔している様子だった。
「ああ……いや、あれは花京院くんが望んでやったわけじゃあ無いって事、わかってますから。……それに、私は直ぐに怪我を治せるし。気にしないでください」
紫苑は本当に何も気にしていない風に言う。実際、余程の致命傷でない限り自分が怪我をする分にはただ治せば良いだけなので、紫苑はそこまで気に病む必要性など微塵もないのにと思っていた。
しかし紫苑の返答を聞いた花京院は、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
「直ぐに治せるからって……怪我をしたら痛いでしょう。あんな怪我なら尚更だ。それにもしかしたら傷跡だって残ったかもしれなかった。……今回の旅だって、ぼくが巻き込んだようなものです。ぼくがあのタイミングで攻撃を仕掛けなければ、君は巻き込まれずに済んだかもしれないのに……」
「花京院くん」
ずぶずぶと後悔の海に思考を沈めていく花京院を咎めるように、紫苑が名前を呼ぶ。その声が耳に届くと、彼はハッとして顔を上げた。
「私が女の子だからって……攻撃能力を持たないスタンドだからって思って、私がこの旅に半ば成り行きのような形で同行するのに罪悪感があるんでしょう?あなたの言うように、私はDIOと何の関わりも無くて、ただあの時あの場所に居ただけの他人だから。」
花京院の藤紫色の瞳を見つめながら紫苑がそう言うと、彼は気まずそうにして視線をそらす。図星だな、と紫苑は思った。
「でも、本当に気に病む必要なんて無いんです。さっきも言ったように多少の怪我だったら直ぐに治せるし、昔はよく怪我ばかりしていたので痛みにだってある程度慣れてますから。それに、同行したいと言ったときにも話しましたが……私が居ることで誰かの助けになるのなら、私はこの過酷な旅にだってついて行きたいんです。紛れもなく、『私自身が』そう思ったんです。……この能力を使って誰かに感謝されるなんて、初めてだったから……だから、きっかけをくれた花京院くんには寧ろ感謝したいくらい」
紫苑は目を細め、少し微笑みながらそう言い切る。
その言葉には強固な意志が感じられたが、何処か危うさも含んでいるようであった。
「……そう、ですか。そう言ってくれると、ぼくも助かります。……お詫びと言っては何ですが、ぼくに手伝える事があったらいつでも言ってください。それでは、また後ほど」
花京院は何処か納得したような、しかしまだ何か言いたいことがあるような素振りをしつつも、これ以上食い下がるべきではないと思ったのだろう、そう言葉を区切って立ち去っていく。
紫苑はその後ろ姿をぼんやりと眺めながら、今度こそ準備を整えるため自宅へと向かった。
準備も終わり再び承太郎の家へ戻ると、丁度スピードワゴン財団の人達が到着したところのようであった。
到着した医師達がホリィの状態を確認し、一通りの診察が終わったあとには解熱剤や痛み止めなどといった症状を緩和する薬を処方していた。
そうしてジョセフが財団の医師から説明を受けている間、紫苑、花京院、アヴドゥルの3人は部屋の外で待機していた。
「自分のスタンドが害になって死ぬことなんて、有り得るのですか?」
「有り得る。私は今までそのような事例を何度か目撃している……。今はまだ背中だけだが……そのうち、シダ植物のようなあの『スタンド』は……ゆっくりとホリィさんの全身をびっしりと覆い包むだろう。高熱やいろいろな病気を誘発して苦しみ、
花京院が訊ねると、アヴドゥルは思い詰めた顔で花京院と紫苑にホリィが辿るであろう結末を伝える。
そしてちらりと空条家の門に止まっているスピードワゴン財団の車や財団の人達を見ながらさらに続けた。
「彼らは24時間体制でホリィさんを看護する信頼すべきスピードワゴン財団の医師たちだが……一般の人間には原因不明で何も見えず、わからず、どんな名医にも治すことはできない……。誰にも、私にも、君にも、どうすることはできないのだ……」
突きつけられた非常な現実、身近に感じた死の予感に、花京院と紫苑はアヴドゥルの顔を見たまま何も言えなくなる。
アヴドゥルはそんな状態の2人を見ると、懐から地図を取り出し、エジプトを指さしながらこう言った。
「だがホリィさんの場合希望がある……その症状になるまで50日は掛かるからだ。その前にエジプトにいるDIOを倒せばすむことだ! DIOの体から発する『スタンド』の
診察も終わり、意識の戻ったホリィの世話をジョセフが行う。医師も退出し、部屋の中にはジョセフと承太郎、そして布団に入っているホリィのみが残っていた。
「ほんと、あたしったらどうしちゃったのかしら。急に熱が出て気を失うなんて……。でも解熱剤でだいぶ落ち着いたわ」
ホリィが頬に手を当てながら笑顔でそう答える。しかしその顔には顔色の悪さが滲み出ており、空元気であろう事が伺える。
彼女自身、自分の身に何が起こっているのかまだ分かっていないだろう。しかし、何故このような状態になってしまったのかを説明しようとすると、必然的に『スタンド』について話さなければいけなくなる。ただでさえ弱っている彼女にさらに追い打ちをかけるような事はしたくない。それは誰しもが考えていることだった。
だから、誰も何も言えなかった。その青白い顔をただ見ていることしか出来なかった。
「びっくりしたぞ、ホリィ。今朝姿が見えないと思ったら台所で熱を出して倒れておって……。どら、起きたら歯を磨かなくてはな……」
そう言いながらジョセフは歯ブラシを持ち、ホリィの歯を磨き始める。
顔を拭き、髪の毛を梳かし、爪の手入れをし、りんごを剥いて食べさせる…………そうしてホリィの身の回りの世話を甲斐甲斐しく焼いていった。
ホリィは一通り世話を焼かれ終わると、また笑顔で話し始める。
「ふふ、ありがとう、パパ。……さあてと、承太郎、今晩何食べる?」
「動くなッ!静かに寝てろーッ!!」
心配させまいと気丈に振る舞う姿に耐えられなかったのだろう、承太郎が険しい顔で吠える。ビリビリと空気が震え、部屋の中にいた2人が驚いたように承太郎を見た。
「……ッ、い、や……ね、熱が下がるまで何もするなってことだ……。黙って早くなおしゃあいいんだ……」
「……フフフ、そうね。病気になるとみんなスゴく優しいんだもん。たまには風邪もいいかもね」
怒っているわけでは無いという事を伝えようと、承太郎は学帽のつばを引きながら先程よりも幾分か声を和らげて言う。承太郎が心配してくれている事をわかっているホリィはその言葉に微笑むと、目を閉じて横になる。しかしその途端、急にくたりと脱力した。その姿を見たジョセフはハッとして慌てて彼女に声をかける。
「ホ……ホリィ! ……ううッ! ま……また気を失ったぞ!! ……クウ……ウウウ……き、気丈に振る舞っているがなんという高熱……。今の態度でわかった、何も語らないが娘は自分の背中の『スタンド』のことに気づいている。……逆にわしらに自分の『スタンド』のことを隠そうとしていた……わしらに心配かけまいとしていた! 娘はそういう子だ」
ホリィの額に手を当てながら辛そうに顔を歪めるジョセフ。承太郎もその姿を見て、眉間にシワを寄せ悲痛な表情をしている。
「必ず……助けてやる……。安心するんだ、心配することは何もない……必ず元気にしてやる……。安心していればいいんだよ……」
優しく穏やかに言い聞かせるように、そして己の決意を固めるかのようにジョセフがホリィの頭を撫でる。
するとその様子を庭から見ていた花京院が、独り言のようにつぶやいた。
「…………JOJOのお母さん……ホリィさんという女性は、人の心を和ませる女の人ですね……。そばにいるとホッとする気持ちになる。こんなことを言うのもなんだが、恋をするとしたらあんな気持ちの女性がいいと思います。守ってあげたいと思う、元気なあたたかい笑顔が見たいと思う」
花京院の言葉に、紫苑も心の中で強く同意した。そんな素敵な人を苦しめている原因を、元凶を倒したいと心から強く思う。短い間ではあったが、そう思わせるには十分魅力的な女性であった。
「うむ……そろそろ時間だ。出発のようだな……」
アヴドゥルが花京院の言葉に同意しそう言うと、ホリィの事をスピードワゴン財団に託して、ジョセフと承太郎が部屋の中から出てくる。ジョセフはぐるりと見渡し全員が揃っている事を確認すると、高らかに声を上げた。
「皆、準備は整っているな。……よし、それでは出発だ。行くぞ!」
長い長い旅が、今始まるのだ。
暗闇の中に、一人、金髪の男がいる。
「やはり……おれの居場所を感づいたな……くるか……このエジプトに……」
その男は紫色の茨が巻き付いた腕でカメラを叩き割ると、そこから出てきた一枚の写真をジッと見つめる。
「…………ジョセフと…………ジョータローか………」
男の首筋には、襟足の隙間からちらりと星型のアザが覗いていた。