エジプトまでの道程編
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目が覚めると見慣れない天井が見えた。床に敷かれた布団、畳の香り――紫苑はぼんやりとした頭で少しだけ考え、昨日は空条家に泊まった事を思い出した。
布団から体を起こし、伸びを一つする。そして借りていた服を脱ぎ、洗濯し終わって綺麗になった制服に着替え直し、身支度を整え部屋を出た。
ホリィやジョセフ達にお礼を言ってから学校に行こうと思い彼らを探しながら廊下を歩いていると、向かいからジョセフがやって来た。ジョセフは紫苑を見ると朗らかな笑みを浮かべながら声をかけてきた。
「おお、おはよう。よく眠れたかの?」
「おはようございます。はい、ぐっすり眠れました」
「それは良かった。……所で、ホリィを見なかったか?さっきから探しとるんじゃが……」
先程まで笑みを浮かべていたジョセフが、急に真面目な顔をして問う。
「いえ、今日お会いしたのはジョースターさんがはじめてなので……見つけたら声をかけておきますね」
「そうか、すまんのぉ……。わしも他の所を探して見よう」
役に立てない事に不甲斐なさを感じつつ、紫苑はそう言ってジョセフと別れる。何だか漠然と嫌な予感がしたが、ブンブンと頭を振ってその考えを振り切ると、ホリィを探すため再び歩き出した。何部屋か探してみるが、一向にホリィの姿は見当たらない。
そうやって歩き回っているうちに台所へとたどり着く。ふと入口付近の床を見ると、スプーンが一つ転がっていた。ホリィはここにいるのだろうか。
「ホリィさん、いらっしゃいますか?」
声をかけながら台所へと入るが反応はない。部屋の中はシーンとしているが、何故か人の気配がする。恐る恐る進んでいくと、フライパンやフライ返し、朝食であろう料理が床の上に散乱している。更には半開きになった冷蔵庫の陰から誰かの手が見えた。
先程の不安がまたじわじわと這い上がってくる感覚がする。紫苑はバクバクと鳴る心臓を抑えながら横たわる手の主へと近づいていった。
そこにあったのは、大量の汗を掻き気を失っているホリィさんの姿だった。
「ホ……ホリィさんッ!!」
紫苑は慌てて駆け寄りホリィの体を揺する。触れた体はとても熱く、ただの風邪ではない事が容易にわかった。
「あ……ど、どうしよう……だ、誰かッ!!……ホリィさんがッ」
自分ではどうしようも出来ないと思った紫苑は震える声で助けを呼ぶ。何度も何度も声を上げるが、パニックからか呼吸が浅くなり、だんだん言葉にならなくなってくる。
しばらくすると声が届いたのだろうか、扉からアヴドゥルが入ってきた。
「!こ、これはどうしたのだッ!?」
アヴドゥルは倒れたホリィを抱える紫苑を見て目を見開く。
「ホ……ホリィさんがッ!……へ……部屋に入ったら……倒れててッ……!」
動揺して上手く喋れない紫苑の話を静かに聞くアヴドゥル。そして紫苑が言いたい事をすぐに理解すると紫苑の手からホリィを受け取り、状態を調べ始める。
「すごい熱だ……病気か?…………ハッ!こ、これは……!?失礼ッ!」
何かに気がついたアヴドゥルがホリィの洋服を捲り、背中を確認しだす。ホリィの背中は、シダ植物のようなツルによってびっしりと覆われていた。
「これは……?」
「な、なんてことだ……透ける……す、『スタンド』だッ!ホリィさんにもスタンドが発現しているッ!」
ホリィの背中を覆うツルに手をかざし、それが手で触れることが出来ないのを確認すると、アヴドゥルは眉間にシワを寄せ、深刻な表情になる。
「なんてことだ……こ……この高熱……! 『スタンド』がマイナスに働いて『害』になっているッ! ……非常にまずい……こ、このままでは……『死ぬ!』『取り殺されてしまう!』」
「そ、そんな……」
スタンドとはその本人の精神力の強さで操るもの、 闘いの本能で行動させるものである。おっとりとした平和的な性格のホリィにはDIOの呪縛に対しての『抵抗力』が、 スタンドを行動させる力がなかった。 そのためスタンドがマイナスに働いて『害』になってしまっているのだ。
アヴドゥルから告げられた衝撃の事実に紫苑は青白い顔で言葉を失う。
そして後ろから視線を感じて振り向くと、そこには承太郎とジョセフが愕然として佇んでいた。
「わ、わしの最も恐れていた事が起こってしまったッ……ホリィには……DIOの呪縛に対する抵抗力がないんじゃあないかと思っておった……」
ジョセフは苦悶の表情で承太郎の胸ぐらを掴み、嗚咽を上げて縋りつく。承太郎はそんなジョセフの腕を掴み上げて引き剥がし、険しい顔で吠えた。
「言え!『対策』を!」
凛とした声が朝の澄んだ空気をビリビリと震わせる。
承太郎の言葉を受けたジョセフは悲痛な表情でうめき声を上げたあと、意を決してゆっくりと話し始めた。
「対策はただ一つ……DIOを見つけ出すことだ!DIOを殺して呪縛を解く!それしか方法はない!!
……しかし、わしの念写ではヤツの居場所はわからんッ……!」
「な、何か他に手がかりはないんですか……?」
ホリィを苦しめている元凶がわかっているのに何もできないだなんてあんまりだ。紫苑は震える喉から声を絞り出し、懇願するようにジョセフに問う。
それに対して答えたのはアヴドゥルだった。
「やつはいつも闇に潜んでいる! いつ念写しても背景は闇ばかり! 闇がどこかさえわかれば……しかし、いろいろな機械やコンピューターで分析したが、闇までは分析できなかった……」
「おい、それを早く言え。ひょっとしたらその闇とやらがどこか……わかるかもしれねえ!」
承太郎がスタンドを出し、ジョセフの念写した写真をじっくりと観察し始める。しばらくすると、暗闇の中背を向けて佇むDIOの写真をジッと見つめる承太郎のスタンドがキラリと目を光らせた。
「DIOの背後の空間に何かを見つけたな……スケッチさせてみよう」
承太郎が紙と鉛筆をスタンドに手渡すと、ものすごいスピードで筆を走らせる。
そして完成したのは、一匹のハエであった。
「ハエ……?」
「ハエだ……空間にハエが飛んでいたのか!!……待てよ、このハエはッ!知っているぞッ!」
アヴドゥルはどこからか図鑑を取り出してページをめくり始める。そしてとあるページを開くと、図鑑を床に置き皆に見せた。
そこに描かれていたのはナイル・ウェウェ・バエ。エジプトのナイル川流域にのみ生息するハエであり、特に足に縞模様のあるものは、アスワンハイダムの建設の影響でダム付近に異常発生し、人畜に被害を及ぼしているハエである。
「エジプト! やつはエジプトにいるッ! それもアスワン付近と限定されたぞ!!」
「やはりエジプトか……いつ出発する?わたしも同行する」
この場に居ないはずの人物の声が聞こえ振り向くと、そこには花京院が立っていた。
一日休んで疲労も取れたのだろうか、昨日よりも随分と顔色が良くなっている。
「花京院……」
「わたしも脳に肉の芽を埋め込まれたのは3ヶ月前!家族でエジプトナイルを旅行しているときにDIOに出会った。ヤツは何故かエジプトから動きたくないらしい」
花京院がそう言うと、一同は黙って彼を見つめる。
沈黙の中、承太郎が疑問を投げかけた。
「……同行するだと?なぜ?お前が?」
すると花京院は真剣な顔から一変して、僅かに笑みを浮かべながらこう言った。
「………………そこんところだが……なぜ……同行したくなったのかはわたしにもよくわからないんだがね……」
「……ケッ」
「……おまえのおかげで目が覚めた、ただそれだけさ」
昨日承太郎に身を挺して助けられたことにより、花京院なりに何か思うところがあったのだろう。そう告げた花京院の表情は、何処か吹っ切れたような清々しいものだった。
この流れだと確実に花京院はこの旅に参加することになるだろう。
言うならここしかない、と紫苑は思った。
「…………私もその旅に同行させて下さい」
紫苑がそう言うと、花京院の時にはさほど表情を変えなかった3人が驚いたように紫苑を見た。
それはそうだろう。花京院はともかく紫苑は言わば完全な部外者だ。DIOに会ったことがあるわけでもなく、操られていたわけでもなく、身内が危険に晒されているわけでもない。
それでも紫苑には旅に同行したい理由があった。
「短い間ではありますが、お世話になったホリィさんがこのような状態になっているのを放っておく事なんてできません」
「……てめー、本気か?」
「本気です。……それに、私のこの能力が……誰かの役に立てるなら、誰かを救う事ができるのなら。……可能性が一ミリでもあるのなら、私は旅に同行したいと思うんです」
今までのおどおどした雰囲気とは異なり、強い意志のこもった目で真っ直ぐに承太郎達を見つめながら話す。
それを聞いた承太郎は「……やれやれだぜ」と一言零し学帽のつばを下げる。
そして紫苑の話を静かに聞いていたジョセフは目をつぶって少しだけ考えたあと、ゆっくりと目を開いて声をかけた。
「……こちらとしても、スタンド使いが増えるのは助かる。そして君は珍しい治癒能力を持つスタンド使いじゃからな。……ただ、この旅は想像以上に危険じゃ。ましてや君は女の子、大変なことも多くあるだろう。……それでも同行したいかね?」
「はい、気持ちは変わりません」
「……そうか。こんな危険な旅に同行すると言ってくれてありがとう、心から礼を言おう」
紫苑がハッキリと同行の意思を告げると、ジョセフはにっこりと微笑んで紫苑を歓迎した。
「そうだ、JOJOに紫苑。占い師のこのおれがお前たちのスタンドに名前をつけてやろう」
アヴドゥルが思い出したかのようにそう言うと、懐からカードを取り出して見せる。
「運命のカード、タロット だ。絵を見ずに無造作に一枚引いて決める。これは君達の運命の暗示でもあるのだ。……そうだな、まずはJOJOからいこうか」
そう言ってシャッフルしたタロットカードを承太郎の前に差し出す。
承太郎が引いたカードは……星 だった。
「星 のカード!名付けよう!君のスタンドは『星の白金 』!」
承太郎が引いたカードを見たアヴドゥルは高らかにそう宣言する。
「……よし、次は君の番だ。引いてみなさい」
アヴドゥルが再びタロットをシャッフルして紫苑に差し出す。承太郎に習って紫苑がタロットを引こうとすると、急に紫苑のスタンドが現れ、今まさにカードを引こうとしていた紫苑の手を掴んで止めた。
「え、ど、どうしたの……?」
自分の意志とは関係なく現れたスタンドに目を見開く紫苑。彼女のスタンドは掴んでいた手を離すと、ふわりと目を細めて紫苑に微笑む。そして興味深そうにこちらを見ていたアヴドゥルの方へと向かい、彼の懐をまさぐってとあるカードの束を取り出して差し出した。アヴドゥルはそれを受け取ると、ジッとカードの束を見つめる。
「……ふむ。君はこのタロットこそが自分の運命であると言いたいのだな。……トートタロット、タロットの歴史の中では比較的新しい物だ。先程のタロットとは一部名称や解釈が異なるカードもある……。よし、紫苑、こちらのタロットを引いてみなさい」
アヴドゥルが楽しそうに口角を上げる。思いもよらないことが起こりそうな予感に、胸を高鳴らせているようだった。
紫苑は皆に見つめられる中、アヴドゥルの手からそうっとカードを引いてみる。カードをめくると、そこには永劫 と書かれていた。
「やはりウェイト版とは名称の異なるカードが出たか……ふふ、面白い。それでは名付けよう!君のスタンドは白の永劫 !!」
「ホワイト……アイオーン……」
与えられた名前を反芻してつぶやきながら彼女を見上げる。名付けられた紫苑のスタンド――ホワイトアイオーンは、その名前を呼ばれると嬉しそうにクルクルと回っていた。
布団から体を起こし、伸びを一つする。そして借りていた服を脱ぎ、洗濯し終わって綺麗になった制服に着替え直し、身支度を整え部屋を出た。
ホリィやジョセフ達にお礼を言ってから学校に行こうと思い彼らを探しながら廊下を歩いていると、向かいからジョセフがやって来た。ジョセフは紫苑を見ると朗らかな笑みを浮かべながら声をかけてきた。
「おお、おはよう。よく眠れたかの?」
「おはようございます。はい、ぐっすり眠れました」
「それは良かった。……所で、ホリィを見なかったか?さっきから探しとるんじゃが……」
先程まで笑みを浮かべていたジョセフが、急に真面目な顔をして問う。
「いえ、今日お会いしたのはジョースターさんがはじめてなので……見つけたら声をかけておきますね」
「そうか、すまんのぉ……。わしも他の所を探して見よう」
役に立てない事に不甲斐なさを感じつつ、紫苑はそう言ってジョセフと別れる。何だか漠然と嫌な予感がしたが、ブンブンと頭を振ってその考えを振り切ると、ホリィを探すため再び歩き出した。何部屋か探してみるが、一向にホリィの姿は見当たらない。
そうやって歩き回っているうちに台所へとたどり着く。ふと入口付近の床を見ると、スプーンが一つ転がっていた。ホリィはここにいるのだろうか。
「ホリィさん、いらっしゃいますか?」
声をかけながら台所へと入るが反応はない。部屋の中はシーンとしているが、何故か人の気配がする。恐る恐る進んでいくと、フライパンやフライ返し、朝食であろう料理が床の上に散乱している。更には半開きになった冷蔵庫の陰から誰かの手が見えた。
先程の不安がまたじわじわと這い上がってくる感覚がする。紫苑はバクバクと鳴る心臓を抑えながら横たわる手の主へと近づいていった。
そこにあったのは、大量の汗を掻き気を失っているホリィさんの姿だった。
「ホ……ホリィさんッ!!」
紫苑は慌てて駆け寄りホリィの体を揺する。触れた体はとても熱く、ただの風邪ではない事が容易にわかった。
「あ……ど、どうしよう……だ、誰かッ!!……ホリィさんがッ」
自分ではどうしようも出来ないと思った紫苑は震える声で助けを呼ぶ。何度も何度も声を上げるが、パニックからか呼吸が浅くなり、だんだん言葉にならなくなってくる。
しばらくすると声が届いたのだろうか、扉からアヴドゥルが入ってきた。
「!こ、これはどうしたのだッ!?」
アヴドゥルは倒れたホリィを抱える紫苑を見て目を見開く。
「ホ……ホリィさんがッ!……へ……部屋に入ったら……倒れててッ……!」
動揺して上手く喋れない紫苑の話を静かに聞くアヴドゥル。そして紫苑が言いたい事をすぐに理解すると紫苑の手からホリィを受け取り、状態を調べ始める。
「すごい熱だ……病気か?…………ハッ!こ、これは……!?失礼ッ!」
何かに気がついたアヴドゥルがホリィの洋服を捲り、背中を確認しだす。ホリィの背中は、シダ植物のようなツルによってびっしりと覆われていた。
「これは……?」
「な、なんてことだ……透ける……す、『スタンド』だッ!ホリィさんにもスタンドが発現しているッ!」
ホリィの背中を覆うツルに手をかざし、それが手で触れることが出来ないのを確認すると、アヴドゥルは眉間にシワを寄せ、深刻な表情になる。
「なんてことだ……こ……この高熱……! 『スタンド』がマイナスに働いて『害』になっているッ! ……非常にまずい……こ、このままでは……『死ぬ!』『取り殺されてしまう!』」
「そ、そんな……」
スタンドとはその本人の精神力の強さで操るもの、 闘いの本能で行動させるものである。おっとりとした平和的な性格のホリィにはDIOの呪縛に対しての『抵抗力』が、 スタンドを行動させる力がなかった。 そのためスタンドがマイナスに働いて『害』になってしまっているのだ。
アヴドゥルから告げられた衝撃の事実に紫苑は青白い顔で言葉を失う。
そして後ろから視線を感じて振り向くと、そこには承太郎とジョセフが愕然として佇んでいた。
「わ、わしの最も恐れていた事が起こってしまったッ……ホリィには……DIOの呪縛に対する抵抗力がないんじゃあないかと思っておった……」
ジョセフは苦悶の表情で承太郎の胸ぐらを掴み、嗚咽を上げて縋りつく。承太郎はそんなジョセフの腕を掴み上げて引き剥がし、険しい顔で吠えた。
「言え!『対策』を!」
凛とした声が朝の澄んだ空気をビリビリと震わせる。
承太郎の言葉を受けたジョセフは悲痛な表情でうめき声を上げたあと、意を決してゆっくりと話し始めた。
「対策はただ一つ……DIOを見つけ出すことだ!DIOを殺して呪縛を解く!それしか方法はない!!
……しかし、わしの念写ではヤツの居場所はわからんッ……!」
「な、何か他に手がかりはないんですか……?」
ホリィを苦しめている元凶がわかっているのに何もできないだなんてあんまりだ。紫苑は震える喉から声を絞り出し、懇願するようにジョセフに問う。
それに対して答えたのはアヴドゥルだった。
「やつはいつも闇に潜んでいる! いつ念写しても背景は闇ばかり! 闇がどこかさえわかれば……しかし、いろいろな機械やコンピューターで分析したが、闇までは分析できなかった……」
「おい、それを早く言え。ひょっとしたらその闇とやらがどこか……わかるかもしれねえ!」
承太郎がスタンドを出し、ジョセフの念写した写真をじっくりと観察し始める。しばらくすると、暗闇の中背を向けて佇むDIOの写真をジッと見つめる承太郎のスタンドがキラリと目を光らせた。
「DIOの背後の空間に何かを見つけたな……スケッチさせてみよう」
承太郎が紙と鉛筆をスタンドに手渡すと、ものすごいスピードで筆を走らせる。
そして完成したのは、一匹のハエであった。
「ハエ……?」
「ハエだ……空間にハエが飛んでいたのか!!……待てよ、このハエはッ!知っているぞッ!」
アヴドゥルはどこからか図鑑を取り出してページをめくり始める。そしてとあるページを開くと、図鑑を床に置き皆に見せた。
そこに描かれていたのはナイル・ウェウェ・バエ。エジプトのナイル川流域にのみ生息するハエであり、特に足に縞模様のあるものは、アスワンハイダムの建設の影響でダム付近に異常発生し、人畜に被害を及ぼしているハエである。
「エジプト! やつはエジプトにいるッ! それもアスワン付近と限定されたぞ!!」
「やはりエジプトか……いつ出発する?わたしも同行する」
この場に居ないはずの人物の声が聞こえ振り向くと、そこには花京院が立っていた。
一日休んで疲労も取れたのだろうか、昨日よりも随分と顔色が良くなっている。
「花京院……」
「わたしも脳に肉の芽を埋め込まれたのは3ヶ月前!家族でエジプトナイルを旅行しているときにDIOに出会った。ヤツは何故かエジプトから動きたくないらしい」
花京院がそう言うと、一同は黙って彼を見つめる。
沈黙の中、承太郎が疑問を投げかけた。
「……同行するだと?なぜ?お前が?」
すると花京院は真剣な顔から一変して、僅かに笑みを浮かべながらこう言った。
「………………そこんところだが……なぜ……同行したくなったのかはわたしにもよくわからないんだがね……」
「……ケッ」
「……おまえのおかげで目が覚めた、ただそれだけさ」
昨日承太郎に身を挺して助けられたことにより、花京院なりに何か思うところがあったのだろう。そう告げた花京院の表情は、何処か吹っ切れたような清々しいものだった。
この流れだと確実に花京院はこの旅に参加することになるだろう。
言うならここしかない、と紫苑は思った。
「…………私もその旅に同行させて下さい」
紫苑がそう言うと、花京院の時にはさほど表情を変えなかった3人が驚いたように紫苑を見た。
それはそうだろう。花京院はともかく紫苑は言わば完全な部外者だ。DIOに会ったことがあるわけでもなく、操られていたわけでもなく、身内が危険に晒されているわけでもない。
それでも紫苑には旅に同行したい理由があった。
「短い間ではありますが、お世話になったホリィさんがこのような状態になっているのを放っておく事なんてできません」
「……てめー、本気か?」
「本気です。……それに、私のこの能力が……誰かの役に立てるなら、誰かを救う事ができるのなら。……可能性が一ミリでもあるのなら、私は旅に同行したいと思うんです」
今までのおどおどした雰囲気とは異なり、強い意志のこもった目で真っ直ぐに承太郎達を見つめながら話す。
それを聞いた承太郎は「……やれやれだぜ」と一言零し学帽のつばを下げる。
そして紫苑の話を静かに聞いていたジョセフは目をつぶって少しだけ考えたあと、ゆっくりと目を開いて声をかけた。
「……こちらとしても、スタンド使いが増えるのは助かる。そして君は珍しい治癒能力を持つスタンド使いじゃからな。……ただ、この旅は想像以上に危険じゃ。ましてや君は女の子、大変なことも多くあるだろう。……それでも同行したいかね?」
「はい、気持ちは変わりません」
「……そうか。こんな危険な旅に同行すると言ってくれてありがとう、心から礼を言おう」
紫苑がハッキリと同行の意思を告げると、ジョセフはにっこりと微笑んで紫苑を歓迎した。
「そうだ、JOJOに紫苑。占い師のこのおれがお前たちのスタンドに名前をつけてやろう」
アヴドゥルが思い出したかのようにそう言うと、懐からカードを取り出して見せる。
「運命のカード、
そう言ってシャッフルしたタロットカードを承太郎の前に差し出す。
承太郎が引いたカードは……
「
承太郎が引いたカードを見たアヴドゥルは高らかにそう宣言する。
「……よし、次は君の番だ。引いてみなさい」
アヴドゥルが再びタロットをシャッフルして紫苑に差し出す。承太郎に習って紫苑がタロットを引こうとすると、急に紫苑のスタンドが現れ、今まさにカードを引こうとしていた紫苑の手を掴んで止めた。
「え、ど、どうしたの……?」
自分の意志とは関係なく現れたスタンドに目を見開く紫苑。彼女のスタンドは掴んでいた手を離すと、ふわりと目を細めて紫苑に微笑む。そして興味深そうにこちらを見ていたアヴドゥルの方へと向かい、彼の懐をまさぐってとあるカードの束を取り出して差し出した。アヴドゥルはそれを受け取ると、ジッとカードの束を見つめる。
「……ふむ。君はこのタロットこそが自分の運命であると言いたいのだな。……トートタロット、タロットの歴史の中では比較的新しい物だ。先程のタロットとは一部名称や解釈が異なるカードもある……。よし、紫苑、こちらのタロットを引いてみなさい」
アヴドゥルが楽しそうに口角を上げる。思いもよらないことが起こりそうな予感に、胸を高鳴らせているようだった。
紫苑は皆に見つめられる中、アヴドゥルの手からそうっとカードを引いてみる。カードをめくると、そこには
「やはりウェイト版とは名称の異なるカードが出たか……ふふ、面白い。それでは名付けよう!君のスタンドは
「ホワイト……アイオーン……」
与えられた名前を反芻してつぶやきながら彼女を見上げる。名付けられた紫苑のスタンド――ホワイトアイオーンは、その名前を呼ばれると嬉しそうにクルクルと回っていた。