エジプトまでの道程編
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「全く、わしもとんでもない孫を持ったものじゃ……さて、花京院じゃったかな、君はキズの手当てをしてもらおう。後でわしの娘を呼んでくるからちょいと待っていて貰えるか?」
「……はい、構いません。……何から何まですみません」
老人はため息をつき、やれやれといった様子で孫の所業に言及する。そして先程とは打って変わって穏やかな表情で花京院に語りかけた。
急に話しかけられた花京院はピクリと体を震わせると、申し訳無さそうな表情で言葉を返した。
「いいんじゃよ、さっきまで肉の芽を植えられていたんじゃ、今は安静にしていなさい。……さて、次はお前さんじゃな」
そう言うと老人は紫苑へと向き直る。
「お嬢さん、名前はなんて言うのかの?」
「あ、申し遅れました……翠川紫苑と言います」
老人にそう言われ、そこで紫苑はようやくこの家に来てから多くの人に会っているのにも関わらず、誰にも名乗っていなかった事に今更気がついた。承太郎にほぼ強制的に連れてこられたとはいえ、いくらなんでも非常識だったかもしれない。そう思った紫苑は初対面の時よりかは薄れた緊張感の中、急いで名前を告げてペコリと会釈をする。
「ふむ、紫苑と言うのか。……わしはジョセフ・ジョースター、承太郎の祖父じゃ。こちらに座っているのはアヴドゥル。わしの友人じゃ」
「モハメド・アヴドゥルだ。よろしく」
ジョセフ、アヴドゥルの順に自己紹介が行われ、2人も紫苑と同じように会釈をする。
「早速なんじゃが、君もスタンド使いと聞いておる。どのようなものか見せてもらっても良いかの?」
自己紹介もそこそこにジョセフからそう告げられる。どうやら幼少期からいつも一緒だった紫苑の友達は、実は『スタンド』というものらしい。また、スタンドはスタンド使いにしか見えないらしく、保健室で承太郎が友達の姿を視認していたのは、承太郎もスタンド使いだからという事だった。
ジョセフの相談に紫苑は一言「わかりました」と言うと自身の友達――スタンドを呼び出した。すると紫苑の隣に獅子のような耳と尻尾、天使のような翼を持ち、古代ギリシアの服飾に見を包んだ女性が現れる。彼女は一度紫苑を見たあと、ジョセフとアヴドゥルの方へ近づく。そして彼らの前で服の裾をひょいとつまんで一礼した。
「私のスタンドは細胞を活性化させることにより、傷の治りを劇的に早める事ができます。……これは実際に見てもらった方がわかりやすいと思います」
セーラー服の袖を捲り、先程エメラルドスプラッシュによってついた切り傷を見せる。紫苑が目で合図を送ると、紫苑のスタンドがその傷口に手を這わせた。するとみるみるうちに傷が塞がってゆき、数秒後にはまるで傷口などなかったかのようななめらかな肌が現れた。
「なんと……!治癒能力を持つスタンド使いかッ!」
「自分以外の傷も直せるのか?」
紫苑のスタンドの能力を目の当たりにした2人が身を乗り出して紫苑に詰め寄る。こういった能力は珍しいのだろうか。
「治癒速度は落ちますが直せます。……花京院くんの怪我を治療してみても?」
「ふむ……花京院、それでも大丈夫かね?」
「……はい、ぼくは平気です」
「よし、それではやってみてくれ」
「わかりました」
ほぼ強制的に実験台のようにしてしまった花京院に心の中で謝罪しつつ、今度は不安そうな顔をする花京院の方へとスタンドを向かわせる。紫苑のスタンドは花京院の周りを旋回して状態を一通り観察すると、真正面からいきなり抱きついた。
「んなッ!?」
「……私のスタンドの能力は触れた場所の細胞を活性化するので、広範囲の治療をする場合にはこうするのが一番効率が良くて……いつもこうなんです、すみません……」
「いッ、いえ……」
ほんのりと顔を赤らめぴしりと身を固める花京院に、紫苑も気恥ずかしさを感じつつ謝罪を述べる。スタンド越しに花京院の思ったよりもがっしりとした身体の感触が伝わり、何だかそわそわしてしまう。
その状態から数十秒ほど経った頃だろうか。スタンドが花京院から離れると、先程まであった傷が綺麗サッパリ無くなっているのがわかる。
「ほぉ、こりゃあ凄いのう……」
「見た目上は完全に傷が塞がっていますね」
ジョセフとアヴドゥルが感心したように先程まで傷口があった部位を見つめる。
その様子を眺めていると、紫苑は重要な事を話していなかったことに気がついた。気まずそうな表情で、恐る恐るそれを口にする。
「……ただ、この治療は怪我が大きければ大きい程身体に負荷がかかります。初めての場合は尚更です。
……大抵は空腹を感じるといった程度の症状が出ますが、この怪我の多さだと……」
「!か……らだが……ッ」
「ど、どうしたんじゃ花京院!」
紫苑が話している途中で花京院の体がぐらりと傾き、それを慌ててジョセフが受け止める。ジョセフが声をかけても反応がない。花京院は気を失っているようであった。
「紫苑、これはどういうことだッ!」
驚いたアヴドゥルが険しい顔で紫苑に詰め寄る。
「え、あ、すみませんッ!!えっと、彼は治療の反動による疲労で寝ているだけですッ!!しっかり休息をとれば問題ないはずです!」
キュッとスカートの裾を掴み、目をつむって慌てて答える。紫苑はこの能力のデメリットも教えず、安易に使ってしまった事に罪悪感を感じていた。
「……うむ、確認したが本当に寝ているだけのようじゃ。安心せい、アヴドゥル」
「そ、そうか……すまない紫苑、早とちりだったな」
「いえ、先に言わなかった私も悪いので……お気になさらず」
ジョセフの言葉を聞いたアヴドゥルがすまなさそうに紫苑に謝罪する。こればかりは先に伝えなかった紫苑も悪いと思っているので、気にしないで欲しいと首を横に振った。
ジョセフは花京院の身体をひとしきり観察すると、紫苑の方へと向き直り申し訳無さそうに言葉を紡いだ。
「紫苑、先程は警戒してすまんかったのう。怖かったじゃろう……安心していい、もう君を疑ったりはせんよ。
……色々な事があって疲れているのじゃろうな、顔色が悪い。今日はうちに泊まっていきなさい」
「……え、いいんですか、お世話になってしまって……?」
「なあに、心配いらんよ。それに、下手に帰らせて他のスタンド使いに襲われでもしたら大変じゃ。君だってスタンド能力を自分に使っていて疲れとるじゃろうしな」
最初は遠慮しようと思っていた紫苑だが、ジョセフにそう言われ今日起こった出来事を反芻するとブルリと体を震わせた。正直こんな事はできればもう二度と経験したくはない。
「……そうですね、ではお世話になります」
「うむ、それがいい」
ジョセフは笑顔で頷くと「ホリィに伝えてこよう。ついてきなさい、泊まる部屋まで案内するからの」と言うと立ち上がる。
「私は花京院を客室へ運んでおきます……紫苑、先程は疑ったり大きな声を出してすまなかった。……承太郎を助けたり花京院を治してくれてありがとう。礼を言う」
「承太郎は自分からは絶対に言わんじゃろうからなぁ。わしからも礼を言う。2人を助けてくれてありがとうな」
アヴドゥルとジョセフが微笑みながら感謝の意を述べる。
「いえ、私に出来ることをしたまでですから……それでは、今日一日お世話になりますね」
2人の言葉に紫苑は照れくさくなり、目線を少しだけ下げてはにかみながらそう伝える。そして緩む頬を押さえながら、茶室を出ていくジョセフの後を追いかけていった。
「きゃーかわいいわ!!とっても似合ってるわよ紫苑ちゃん!!」
「あ、ありがとうございます……?」
只今、紫苑はホリィによって着せ替え人形となっている。
ジョセフさんに部屋まで案内された後、昼食を摂り、他の傷も治し終わり部屋で一人寛いでいると、両手に大量の洋服を抱えたホリィがやってきた。ホリィは未だ血まみれのセーラー服を着ている紫苑を見ると「洗濯してあげるから着替えちゃって!お洋服は私のを貸してあげるわ!」と言うと両手に抱えた大量の洋服をドサリと床の上に置き、ニコニコしながら紫苑に詰め寄った。
布の山からアレコレと洋服を引っ張り出しては「あれもいいわね〜……あ!コレも紫苑ちゃんに似合うと思うわ!」などとと言いながら紫苑にどんどん洋服を手渡していく。女の子を着飾る機会なんて滅多に無いため、ここぞとばかりに楽しんでいるようだ。
紫苑はその服たちを手渡されるまま着ているうちに、一人ファッションショーのような状態なってしまい現在に至る。
「えーっと、ホリィさん、そろそろ夕飯の支度の時間なんじゃあ……」
紫苑は疲弊した顔でちらりと壁にかけられた時計を見ながら『もう勘弁してください』という気持ちも込めてホリィに言う。かれこれ数時間ほどずっとこの状態なのだ。そろそろ身体がきつい。
もう既に日はだいぶ傾いており、障子には西日が差し込み部屋の中はオレンジ色に染まっていた。
「あらほんと!もうこんな時間だわッ!今日はお客さんがたくさん居るから急いで支度をしなくっちゃあ!」
「私も手伝いますよ」
驚いた顔をして時計を見るホリィに『これで開放される……』と思いながら、紫苑は泊めてくれるお礼も兼ねて手伝いを申し出る。
「あらいいの?ありがとう、助かるわァ〜!あ、でも紫苑ちゃんの着るお洋服どうしましょ……」
「今着ている服で良いですよ。サイズもピッタリですし……貸していただきありがとうございます」
顎に人差し指を当てて服の山を見ながらまたうんうんと考え始めたホリィを見て、これはまた長くなりそうだと察した紫苑は慌ててそう告げる。
今着ている服は胸元が細いリボンで結ばれている清楚なボタンワンピースだ。普段こんな可愛らしい服なんてあまり着ないので似合っているかどうか心配だが、他のフリルがたくさんついているような服よりかは違和感は少ないだろう。
ホリィ用に購入された服を着るというのは、顔立ちが全く異なる純日本人の紫苑には中々ハードルが高いものだった。
「そお?もっとフリフリのやつとかもあるけれど……でもそれもとっても似合ってるから良いわね!かわいいわ!うちの子にしちゃいたいくらいよ〜!……ああそんなこと言ってる場合じゃあなかったわ!よし、それじゃあお夕飯の準備をしちゃいましょうか!準備が出来たら台所にきてちょうだい!」
ホリィは満面の笑みでそう言うと、ルンルンと鼻歌を歌いながら台所へと向かった。
ホリィが居なくなり、部屋がシーンと静まり返る。ホリィさんって結構グイグイ来るけど、とっても明るくて楽しい人だな、と誰もいなくなった部屋で紫苑は一人そう考える。先程楽しそうに紫苑を着せ替えていたホリィを思い出すと、何だか心が温かくなる感じがした。
一通り支度を終えた紫苑が台所へと入ると、先に中に入っていたホリィが「はい!コレは私が昔使ってたエプロンよ〜!ぜひ使ってね♡」と言って水色のこれまた可愛らしいフリルのついたエプロンを手渡してくる。
紫苑は『貸してもらったお洋服、汚さないようにしなきゃなぁ』などと考えながら、手渡されたエプロンを身に着けて夕飯の手伝いに取り掛かるのだった。
「……はい、構いません。……何から何まですみません」
老人はため息をつき、やれやれといった様子で孫の所業に言及する。そして先程とは打って変わって穏やかな表情で花京院に語りかけた。
急に話しかけられた花京院はピクリと体を震わせると、申し訳無さそうな表情で言葉を返した。
「いいんじゃよ、さっきまで肉の芽を植えられていたんじゃ、今は安静にしていなさい。……さて、次はお前さんじゃな」
そう言うと老人は紫苑へと向き直る。
「お嬢さん、名前はなんて言うのかの?」
「あ、申し遅れました……翠川紫苑と言います」
老人にそう言われ、そこで紫苑はようやくこの家に来てから多くの人に会っているのにも関わらず、誰にも名乗っていなかった事に今更気がついた。承太郎にほぼ強制的に連れてこられたとはいえ、いくらなんでも非常識だったかもしれない。そう思った紫苑は初対面の時よりかは薄れた緊張感の中、急いで名前を告げてペコリと会釈をする。
「ふむ、紫苑と言うのか。……わしはジョセフ・ジョースター、承太郎の祖父じゃ。こちらに座っているのはアヴドゥル。わしの友人じゃ」
「モハメド・アヴドゥルだ。よろしく」
ジョセフ、アヴドゥルの順に自己紹介が行われ、2人も紫苑と同じように会釈をする。
「早速なんじゃが、君もスタンド使いと聞いておる。どのようなものか見せてもらっても良いかの?」
自己紹介もそこそこにジョセフからそう告げられる。どうやら幼少期からいつも一緒だった紫苑の友達は、実は『スタンド』というものらしい。また、スタンドはスタンド使いにしか見えないらしく、保健室で承太郎が友達の姿を視認していたのは、承太郎もスタンド使いだからという事だった。
ジョセフの相談に紫苑は一言「わかりました」と言うと自身の友達――スタンドを呼び出した。すると紫苑の隣に獅子のような耳と尻尾、天使のような翼を持ち、古代ギリシアの服飾に見を包んだ女性が現れる。彼女は一度紫苑を見たあと、ジョセフとアヴドゥルの方へ近づく。そして彼らの前で服の裾をひょいとつまんで一礼した。
「私のスタンドは細胞を活性化させることにより、傷の治りを劇的に早める事ができます。……これは実際に見てもらった方がわかりやすいと思います」
セーラー服の袖を捲り、先程エメラルドスプラッシュによってついた切り傷を見せる。紫苑が目で合図を送ると、紫苑のスタンドがその傷口に手を這わせた。するとみるみるうちに傷が塞がってゆき、数秒後にはまるで傷口などなかったかのようななめらかな肌が現れた。
「なんと……!治癒能力を持つスタンド使いかッ!」
「自分以外の傷も直せるのか?」
紫苑のスタンドの能力を目の当たりにした2人が身を乗り出して紫苑に詰め寄る。こういった能力は珍しいのだろうか。
「治癒速度は落ちますが直せます。……花京院くんの怪我を治療してみても?」
「ふむ……花京院、それでも大丈夫かね?」
「……はい、ぼくは平気です」
「よし、それではやってみてくれ」
「わかりました」
ほぼ強制的に実験台のようにしてしまった花京院に心の中で謝罪しつつ、今度は不安そうな顔をする花京院の方へとスタンドを向かわせる。紫苑のスタンドは花京院の周りを旋回して状態を一通り観察すると、真正面からいきなり抱きついた。
「んなッ!?」
「……私のスタンドの能力は触れた場所の細胞を活性化するので、広範囲の治療をする場合にはこうするのが一番効率が良くて……いつもこうなんです、すみません……」
「いッ、いえ……」
ほんのりと顔を赤らめぴしりと身を固める花京院に、紫苑も気恥ずかしさを感じつつ謝罪を述べる。スタンド越しに花京院の思ったよりもがっしりとした身体の感触が伝わり、何だかそわそわしてしまう。
その状態から数十秒ほど経った頃だろうか。スタンドが花京院から離れると、先程まであった傷が綺麗サッパリ無くなっているのがわかる。
「ほぉ、こりゃあ凄いのう……」
「見た目上は完全に傷が塞がっていますね」
ジョセフとアヴドゥルが感心したように先程まで傷口があった部位を見つめる。
その様子を眺めていると、紫苑は重要な事を話していなかったことに気がついた。気まずそうな表情で、恐る恐るそれを口にする。
「……ただ、この治療は怪我が大きければ大きい程身体に負荷がかかります。初めての場合は尚更です。
……大抵は空腹を感じるといった程度の症状が出ますが、この怪我の多さだと……」
「!か……らだが……ッ」
「ど、どうしたんじゃ花京院!」
紫苑が話している途中で花京院の体がぐらりと傾き、それを慌ててジョセフが受け止める。ジョセフが声をかけても反応がない。花京院は気を失っているようであった。
「紫苑、これはどういうことだッ!」
驚いたアヴドゥルが険しい顔で紫苑に詰め寄る。
「え、あ、すみませんッ!!えっと、彼は治療の反動による疲労で寝ているだけですッ!!しっかり休息をとれば問題ないはずです!」
キュッとスカートの裾を掴み、目をつむって慌てて答える。紫苑はこの能力のデメリットも教えず、安易に使ってしまった事に罪悪感を感じていた。
「……うむ、確認したが本当に寝ているだけのようじゃ。安心せい、アヴドゥル」
「そ、そうか……すまない紫苑、早とちりだったな」
「いえ、先に言わなかった私も悪いので……お気になさらず」
ジョセフの言葉を聞いたアヴドゥルがすまなさそうに紫苑に謝罪する。こればかりは先に伝えなかった紫苑も悪いと思っているので、気にしないで欲しいと首を横に振った。
ジョセフは花京院の身体をひとしきり観察すると、紫苑の方へと向き直り申し訳無さそうに言葉を紡いだ。
「紫苑、先程は警戒してすまんかったのう。怖かったじゃろう……安心していい、もう君を疑ったりはせんよ。
……色々な事があって疲れているのじゃろうな、顔色が悪い。今日はうちに泊まっていきなさい」
「……え、いいんですか、お世話になってしまって……?」
「なあに、心配いらんよ。それに、下手に帰らせて他のスタンド使いに襲われでもしたら大変じゃ。君だってスタンド能力を自分に使っていて疲れとるじゃろうしな」
最初は遠慮しようと思っていた紫苑だが、ジョセフにそう言われ今日起こった出来事を反芻するとブルリと体を震わせた。正直こんな事はできればもう二度と経験したくはない。
「……そうですね、ではお世話になります」
「うむ、それがいい」
ジョセフは笑顔で頷くと「ホリィに伝えてこよう。ついてきなさい、泊まる部屋まで案内するからの」と言うと立ち上がる。
「私は花京院を客室へ運んでおきます……紫苑、先程は疑ったり大きな声を出してすまなかった。……承太郎を助けたり花京院を治してくれてありがとう。礼を言う」
「承太郎は自分からは絶対に言わんじゃろうからなぁ。わしからも礼を言う。2人を助けてくれてありがとうな」
アヴドゥルとジョセフが微笑みながら感謝の意を述べる。
「いえ、私に出来ることをしたまでですから……それでは、今日一日お世話になりますね」
2人の言葉に紫苑は照れくさくなり、目線を少しだけ下げてはにかみながらそう伝える。そして緩む頬を押さえながら、茶室を出ていくジョセフの後を追いかけていった。
「きゃーかわいいわ!!とっても似合ってるわよ紫苑ちゃん!!」
「あ、ありがとうございます……?」
只今、紫苑はホリィによって着せ替え人形となっている。
ジョセフさんに部屋まで案内された後、昼食を摂り、他の傷も治し終わり部屋で一人寛いでいると、両手に大量の洋服を抱えたホリィがやってきた。ホリィは未だ血まみれのセーラー服を着ている紫苑を見ると「洗濯してあげるから着替えちゃって!お洋服は私のを貸してあげるわ!」と言うと両手に抱えた大量の洋服をドサリと床の上に置き、ニコニコしながら紫苑に詰め寄った。
布の山からアレコレと洋服を引っ張り出しては「あれもいいわね〜……あ!コレも紫苑ちゃんに似合うと思うわ!」などとと言いながら紫苑にどんどん洋服を手渡していく。女の子を着飾る機会なんて滅多に無いため、ここぞとばかりに楽しんでいるようだ。
紫苑はその服たちを手渡されるまま着ているうちに、一人ファッションショーのような状態なってしまい現在に至る。
「えーっと、ホリィさん、そろそろ夕飯の支度の時間なんじゃあ……」
紫苑は疲弊した顔でちらりと壁にかけられた時計を見ながら『もう勘弁してください』という気持ちも込めてホリィに言う。かれこれ数時間ほどずっとこの状態なのだ。そろそろ身体がきつい。
もう既に日はだいぶ傾いており、障子には西日が差し込み部屋の中はオレンジ色に染まっていた。
「あらほんと!もうこんな時間だわッ!今日はお客さんがたくさん居るから急いで支度をしなくっちゃあ!」
「私も手伝いますよ」
驚いた顔をして時計を見るホリィに『これで開放される……』と思いながら、紫苑は泊めてくれるお礼も兼ねて手伝いを申し出る。
「あらいいの?ありがとう、助かるわァ〜!あ、でも紫苑ちゃんの着るお洋服どうしましょ……」
「今着ている服で良いですよ。サイズもピッタリですし……貸していただきありがとうございます」
顎に人差し指を当てて服の山を見ながらまたうんうんと考え始めたホリィを見て、これはまた長くなりそうだと察した紫苑は慌ててそう告げる。
今着ている服は胸元が細いリボンで結ばれている清楚なボタンワンピースだ。普段こんな可愛らしい服なんてあまり着ないので似合っているかどうか心配だが、他のフリルがたくさんついているような服よりかは違和感は少ないだろう。
ホリィ用に購入された服を着るというのは、顔立ちが全く異なる純日本人の紫苑には中々ハードルが高いものだった。
「そお?もっとフリフリのやつとかもあるけれど……でもそれもとっても似合ってるから良いわね!かわいいわ!うちの子にしちゃいたいくらいよ〜!……ああそんなこと言ってる場合じゃあなかったわ!よし、それじゃあお夕飯の準備をしちゃいましょうか!準備が出来たら台所にきてちょうだい!」
ホリィは満面の笑みでそう言うと、ルンルンと鼻歌を歌いながら台所へと向かった。
ホリィが居なくなり、部屋がシーンと静まり返る。ホリィさんって結構グイグイ来るけど、とっても明るくて楽しい人だな、と誰もいなくなった部屋で紫苑は一人そう考える。先程楽しそうに紫苑を着せ替えていたホリィを思い出すと、何だか心が温かくなる感じがした。
一通り支度を終えた紫苑が台所へと入ると、先に中に入っていたホリィが「はい!コレは私が昔使ってたエプロンよ〜!ぜひ使ってね♡」と言って水色のこれまた可愛らしいフリルのついたエプロンを手渡してくる。
紫苑は『貸してもらったお洋服、汚さないようにしなきゃなぁ』などと考えながら、手渡されたエプロンを身に着けて夕飯の手伝いに取り掛かるのだった。