エジプトまでの道程編
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朝の通勤通学ラッシュの時間帯を過ぎ、人気の少ない道を承太郎と共に歩く。195cmもある大男に怪我だらけの身体でついて行くのは大変だろうと思っていたが、花京院を背負っているせいだろうか、思っていたよりもゆっくりと歩いてくれたのでそれほど苦ではなかった。
10分ほど歩いていくと、立派なお屋敷の前に到着した。大きな門の横の表札には空条と書かれており、ここが今目の前にいる空条承太郎の家であることが伺える。
「で、でか……」
あまりの大きさに紫苑はあ然としてぽっかりと口をあけたまま豪勢な屋敷を見上げる。承太郎の家がお金持ちであることは噂には聞いていたが、こんな豪邸に住んでいたのか。そうやって立ち尽くしていると、そんな事は気にしていないというように承太郎がスタスタと門をくぐって中に入っていったので、紫苑は慌てて口を閉じてその後を追いかけた。
敷地に入り縁側を歩いていると、庭の方から楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。
「あ!今承太郎ったら学校であたしの事考えてる!今息子と心が通じ合った感覚があったわ……!」
さらに進んでいくと、鼻歌の主であろう金髪の女性が、部屋の中に飾ってあった写真を胸に抱き占めているのが見えた。
「考えてねーよ」
「きゃあああああっ!」
「お、お邪魔しています……」
承太郎が声を掛けるとその女性はビクリと肩を揺らし、悲鳴を上げながら持っていた写真を落とした。写真には承太郎が写っている。
――彼女は承太郎のお母さんなのだろうか?
そんなふうに考えながら紫苑は女性に向かって挨拶をした。
女性は振り向き、承太郎と担がれている花京院、そして血まみれで立っている紫苑を見て驚いたように目を見開く。
「じょ……承太郎!あなた学校はどうしたの……?
そ……それに肩に担いでいるその子……そこの女の子も……血……血が滴っているわ!ま……まさか、あ……あなたがやったの……?」
「てめーには関係のないことだ。おれはじじいを探している……こうも広いと探すのに苦労するぜ……茶室か?」
「え、ええ……アヴドゥルさんといると思うわ」
承太郎は目当ての人物の居場所を聞き出すと、動揺し声が震えている女性にくるりと背を向けてまたヌシヌシと歩いてゆく。紫苑がその後をついていこうとした所で、承太郎は急に立ち止まりこちらに振り向いた。
「おい……今朝はあまり顔色が良くねぇーぜ。元気か?」
承太郎が女性に尋ねる。
「イェーイ!ファインサンキュー!」
女性は少しだけ面食らったような顔をした後、パッと笑顔になりピースサインをする。その元気そうな様子を見て承太郎はフン、と鼻で笑うとまたくるりと背を向け茶室へと歩き始める。
そんな親子の微笑ましいやり取りを目にした紫苑は『なるほど、母親には優しいのか』とひとりごちる。学校の人達が知らないであろう承太郎の以外な側面を知ってしまった紫苑は、何だか微笑ましいような気持ちになって、承太郎にバレないように密かに笑う。そして承太郎の母親に会釈をして、急いで彼の後を追った。
承太郎の後ろをつけながら暫く廊下を歩いていくと、茶室へと到着する。襖を開け中に入ると、そこには承太郎の祖父なのであろうガタイの良い老人と、褐色肌で特徴的な大きなネックレスを身に着けている男性が座っていた。
2人は部屋の中に入ってきた3人を見ると、驚いた顔をして承太郎に声をかける。
「承太郎!?お前学校はどうしたんじゃ!それにその子達は……」
「さっきコイツに襲われたんでな……ちょいとDIOの事を喋ってもらう為に連れてきた。そこにいるアマはその時たまたま居合わせたヤツだ……コイツもスタンド使いらしいからな。念の為連れてきた」
「!『スタンド使い』じゃと!」
茶室にいた2人は紫苑がスタンド使いである事を知るとわかりやすく警戒し始め、目付きが鋭くなる。
紫苑は突如向けられた敵意に息を呑み、体が硬直するのがわかった。
「ただこの女は敵じゃあねぇ。……不本意だが庇われた。それにコイツも怪我を負ってるからな。下手なことはできねーはずだぜ……それよりも、だ。この男の状態はどんな感じだ」
承太郎の言葉に老人は険しい顔のまま「……そうか」と一言零すと、花京院の方へと意識を向けた。一時的であったとしても居心地の悪い視線から逃れられた事に、紫苑は安堵を覚え、肩の力を抜いた。
老人は彼の体を一通り観察すると、難しい顔をした後静かに首を横に振った。
「だめだな、こりゃあ。手遅れじゃ、こいつはもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」
「……………」
「承太郎……お前のせいではない……。見ろ!この男がなぜDIOに忠誠を誓いお前を殺しに来たのか……?理由がここにあるッ!!」
老人が花京院の前髪をあげると、額にヒクヒクと動く出来物のようなものが存在していた。
「なんだ?この動いているクモのような形をした肉片は?」
「それはDIOの細胞からなる『肉の芽』。その少年の脳にまで達している」
気持ちが悪いのかしかめっ面をしながら承太郎が問いかけると、褐色肌の男性がそれに対して肉の芽であると答えた。すると隣に座っていた老人がさらに言葉を続ける。
「このちっぽけな『肉の芽』は少年の精神に影響を与えるよう脳にうちこまれている!」
老人は言う。この肉の芽を埋め込まれるとヒトラーに従うような気持ち、邪教の教祖に憧れるような気持ちが呼び起こされ、忠誠を誓わせるのだ、それによりこの少年はDIOにあこがれ忠誠を誓ったのだと。
「DIOはカリスマによって支配してこの花京院という少年に我々を殺害するよう命令したのだ」
「そ、その……それは手術とかで摘出できないのでしょうか……?」
紫苑の問いに老人は悲しそうな顔をした後、目を伏せながら静かに首を振る。
「この肉の芽は死なない……取り出すときにこいつが動いたら脳をキズつけてしまう。脳はとてもデリケートじゃ、万が一キズでもついたら一貫の終わりじゃからな……」
「そ、そんな……」
絶望的な空気が漂い、静寂が場を支配する。紫苑は何とかならないかとあれこれ考えるが、いい案は全く思いつかない。もうどうしようもないのだろうか、そう思い始めた時、褐色肌の男性が静かに語り始めた。
「JOJO、こんなことがあった……。4ヶ月ほど前、私はエジプトの……カイロで……DIOに出会ったのだ」
――私の職業は占い師、ハンハリーリという市場 に店を出している。その晩は――満月だった。
ヤツは、私の店の二階への階段に静かに立っていた――心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し、黄金色の頭髪、透き通るような白い肌、男とは思えないような怪しい色気……。
――すでにジョースターさんと知り合いだったので話に聞いていた私はすぐに分かった、こいつが大西洋からよみがえったDIOだと!
『君は……普通の人間にはない、特別な能力を持っているそうだね? ひとつ……それを私に見せてくれるとうれしいのだが』
ヤツを本当に恐ろしいと思ったのはその時だ、ヤツの話しかけてくる言葉はなんと心が……安らぐんだ。……危険な甘さがあるんだ。だからこそ恐ろしい!
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』
私は窓から飛び出して必死で逃げた。闘おうなどとは考えはしなかった。
まったく幸運だった、話を聞いていてDIOだと気付いたから一瞬早く窓から飛び出せたし、迷路のようなスークに詳しかったからDIOの追走から逃れられた。
「……でなければ私も、この少年のように肉の芽で仲間に引き込まれていただろう。スタンドを奴のために使わせられていただろう」
「そしてこの少年のように数年で脳を食い尽くされ、死んでいたろうな」
その時の光景が蘇ったのか、褐色肌の男性はダラダラと冷や汗をかき始める。老人も険しい顔で花京院を見つめながら彼の話に言葉を付け加えた。
すると2人の話を聞いた承太郎が声を上げた。
「死んでいた?ちょいと待ちな。この花京院はまだ死んじゃあいねーぜ!おれのスタンドで引っこ抜いてやるッ!」
承太郎は突如しゃがみこんで花京院の頭を抑えると、スタンドを出現させる。どうやらスタンドを使って肉の芽を取り除こうとしているようだ。
「承太郎ッ!」
「じじい、おれにさわるなよ!コイツの脳にキズをつけず引っこ抜くからな……。おれのスタンドは一瞬のうちに弾丸を掴むほど正確な動きをする……」
「やめろッ!その肉の芽は生きておるのだッ!!なぜやつの肉の芽の一部が額の外へ出ているのかわからんのかッ!優れた外科医にも摘出できない理由がそこにある!」
『生きている』とはどういうことだろうか。紫苑が老人の忠告に首を傾げた途端、肉の芽がズルリと触手を伸ばし、花京院の頭を抑えている承太郎の手に突き刺さった。
「肉の芽が触手を出し刺した!まずい、手を離せJOJO!」
「摘出しようとする者の脳に侵入しようとするのじゃ!」
本当に『生きている』としか言いようがない肉の芽の動きに、紫苑は気持ち悪さを覚えた。
そして2人が承太郎に対し必死に声をかける中、触手はズルズルと承太郎の体内へ侵入し脳へと向かってゆく。すると花京院がパチリと目を開け、先程自分が襲いかかった人物が何故か自分を助けようとしている事に気がつくと、驚きと困惑の表情で承太郎を見上げる。
「き、きさま……」
「動くなよ花京院、しくじればてめーの脳はお陀仏だ」
承太郎は目線を肉の芽に向けたまま、真剣な表情で花京院に告げる。その間も触手はズルズルと体内を這い上がっていき、ついに承太郎の顔にまで侵食していた。
「あ、触手が……!」
「手を離せJOJO!顔まで這い上がってきたぞッ!」
「待てアヴドゥル」
承太郎を止めようと手を伸ばす褐色肌の男性。しかしそれを老人が左手で制した。
「わしの孫はなんて孫だ……体内に侵入されているというのに冷静そのもの……スタンドも震えひとつおこしておらんッ!機械以上に正確に力強く動いていくッ!」
皆が固唾を呑んで見守る中、承太郎は顔色一つ変えずに淡々と肉の芽を引っ張っていく。
そしてピシュッという音と共に、一切の迷いなく花京院の額から肉の芽を引き抜いてみせた。
「やったッ!」
「うおおおお!!」
そして己の手に侵入している肉の芽の触手を素早く引き抜くと、ブチリという音と共に思い切り引きちぎる。
「波紋疾走 !!」
最後に老人が電気のようなオーラをまとった手刀を肉の芽に浴びせると、肉の芽はサラサラと崩れ落ち完全に消滅した。
その流れるような動作に、紫苑は思わず目をキラキラさせながら「す、すごい……」と感嘆の言葉をこぼす。
承太郎は引き抜いた肉の芽が消えたのを確認すると、もう役目は終わったというふうに無言で踵を返し、この場を去ろうと襖へと向かった。
「な……」
花京院が起き上がり声を上げると、それに気がついた承太郎も振り返る。
「なぜお前は自分の命の危険を冒してまで私を助けた……?」
「さぁな……そこんとこだがおれにもようわからん」
花京院に背を向けながらそう言うと、今度こそ承太郎は部屋の外へと出ていく。
その言葉を聞いた花京院は、口をキュッと真一文字に引き結びながらただひたすらうつむいていた。
10分ほど歩いていくと、立派なお屋敷の前に到着した。大きな門の横の表札には空条と書かれており、ここが今目の前にいる空条承太郎の家であることが伺える。
「で、でか……」
あまりの大きさに紫苑はあ然としてぽっかりと口をあけたまま豪勢な屋敷を見上げる。承太郎の家がお金持ちであることは噂には聞いていたが、こんな豪邸に住んでいたのか。そうやって立ち尽くしていると、そんな事は気にしていないというように承太郎がスタスタと門をくぐって中に入っていったので、紫苑は慌てて口を閉じてその後を追いかけた。
敷地に入り縁側を歩いていると、庭の方から楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。
「あ!今承太郎ったら学校であたしの事考えてる!今息子と心が通じ合った感覚があったわ……!」
さらに進んでいくと、鼻歌の主であろう金髪の女性が、部屋の中に飾ってあった写真を胸に抱き占めているのが見えた。
「考えてねーよ」
「きゃあああああっ!」
「お、お邪魔しています……」
承太郎が声を掛けるとその女性はビクリと肩を揺らし、悲鳴を上げながら持っていた写真を落とした。写真には承太郎が写っている。
――彼女は承太郎のお母さんなのだろうか?
そんなふうに考えながら紫苑は女性に向かって挨拶をした。
女性は振り向き、承太郎と担がれている花京院、そして血まみれで立っている紫苑を見て驚いたように目を見開く。
「じょ……承太郎!あなた学校はどうしたの……?
そ……それに肩に担いでいるその子……そこの女の子も……血……血が滴っているわ!ま……まさか、あ……あなたがやったの……?」
「てめーには関係のないことだ。おれはじじいを探している……こうも広いと探すのに苦労するぜ……茶室か?」
「え、ええ……アヴドゥルさんといると思うわ」
承太郎は目当ての人物の居場所を聞き出すと、動揺し声が震えている女性にくるりと背を向けてまたヌシヌシと歩いてゆく。紫苑がその後をついていこうとした所で、承太郎は急に立ち止まりこちらに振り向いた。
「おい……今朝はあまり顔色が良くねぇーぜ。元気か?」
承太郎が女性に尋ねる。
「イェーイ!ファインサンキュー!」
女性は少しだけ面食らったような顔をした後、パッと笑顔になりピースサインをする。その元気そうな様子を見て承太郎はフン、と鼻で笑うとまたくるりと背を向け茶室へと歩き始める。
そんな親子の微笑ましいやり取りを目にした紫苑は『なるほど、母親には優しいのか』とひとりごちる。学校の人達が知らないであろう承太郎の以外な側面を知ってしまった紫苑は、何だか微笑ましいような気持ちになって、承太郎にバレないように密かに笑う。そして承太郎の母親に会釈をして、急いで彼の後を追った。
承太郎の後ろをつけながら暫く廊下を歩いていくと、茶室へと到着する。襖を開け中に入ると、そこには承太郎の祖父なのであろうガタイの良い老人と、褐色肌で特徴的な大きなネックレスを身に着けている男性が座っていた。
2人は部屋の中に入ってきた3人を見ると、驚いた顔をして承太郎に声をかける。
「承太郎!?お前学校はどうしたんじゃ!それにその子達は……」
「さっきコイツに襲われたんでな……ちょいとDIOの事を喋ってもらう為に連れてきた。そこにいるアマはその時たまたま居合わせたヤツだ……コイツもスタンド使いらしいからな。念の為連れてきた」
「!『スタンド使い』じゃと!」
茶室にいた2人は紫苑がスタンド使いである事を知るとわかりやすく警戒し始め、目付きが鋭くなる。
紫苑は突如向けられた敵意に息を呑み、体が硬直するのがわかった。
「ただこの女は敵じゃあねぇ。……不本意だが庇われた。それにコイツも怪我を負ってるからな。下手なことはできねーはずだぜ……それよりも、だ。この男の状態はどんな感じだ」
承太郎の言葉に老人は険しい顔のまま「……そうか」と一言零すと、花京院の方へと意識を向けた。一時的であったとしても居心地の悪い視線から逃れられた事に、紫苑は安堵を覚え、肩の力を抜いた。
老人は彼の体を一通り観察すると、難しい顔をした後静かに首を横に振った。
「だめだな、こりゃあ。手遅れじゃ、こいつはもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」
「……………」
「承太郎……お前のせいではない……。見ろ!この男がなぜDIOに忠誠を誓いお前を殺しに来たのか……?理由がここにあるッ!!」
老人が花京院の前髪をあげると、額にヒクヒクと動く出来物のようなものが存在していた。
「なんだ?この動いているクモのような形をした肉片は?」
「それはDIOの細胞からなる『肉の芽』。その少年の脳にまで達している」
気持ちが悪いのかしかめっ面をしながら承太郎が問いかけると、褐色肌の男性がそれに対して肉の芽であると答えた。すると隣に座っていた老人がさらに言葉を続ける。
「このちっぽけな『肉の芽』は少年の精神に影響を与えるよう脳にうちこまれている!」
老人は言う。この肉の芽を埋め込まれるとヒトラーに従うような気持ち、邪教の教祖に憧れるような気持ちが呼び起こされ、忠誠を誓わせるのだ、それによりこの少年はDIOにあこがれ忠誠を誓ったのだと。
「DIOはカリスマによって支配してこの花京院という少年に我々を殺害するよう命令したのだ」
「そ、その……それは手術とかで摘出できないのでしょうか……?」
紫苑の問いに老人は悲しそうな顔をした後、目を伏せながら静かに首を振る。
「この肉の芽は死なない……取り出すときにこいつが動いたら脳をキズつけてしまう。脳はとてもデリケートじゃ、万が一キズでもついたら一貫の終わりじゃからな……」
「そ、そんな……」
絶望的な空気が漂い、静寂が場を支配する。紫苑は何とかならないかとあれこれ考えるが、いい案は全く思いつかない。もうどうしようもないのだろうか、そう思い始めた時、褐色肌の男性が静かに語り始めた。
「JOJO、こんなことがあった……。4ヶ月ほど前、私はエジプトの……カイロで……DIOに出会ったのだ」
――私の職業は占い師、ハンハリーリという
ヤツは、私の店の二階への階段に静かに立っていた――心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し、黄金色の頭髪、透き通るような白い肌、男とは思えないような怪しい色気……。
――すでにジョースターさんと知り合いだったので話に聞いていた私はすぐに分かった、こいつが大西洋からよみがえったDIOだと!
『君は……普通の人間にはない、特別な能力を持っているそうだね? ひとつ……それを私に見せてくれるとうれしいのだが』
ヤツを本当に恐ろしいと思ったのはその時だ、ヤツの話しかけてくる言葉はなんと心が……安らぐんだ。……危険な甘さがあるんだ。だからこそ恐ろしい!
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』
私は窓から飛び出して必死で逃げた。闘おうなどとは考えはしなかった。
まったく幸運だった、話を聞いていてDIOだと気付いたから一瞬早く窓から飛び出せたし、迷路のようなスークに詳しかったからDIOの追走から逃れられた。
「……でなければ私も、この少年のように肉の芽で仲間に引き込まれていただろう。スタンドを奴のために使わせられていただろう」
「そしてこの少年のように数年で脳を食い尽くされ、死んでいたろうな」
その時の光景が蘇ったのか、褐色肌の男性はダラダラと冷や汗をかき始める。老人も険しい顔で花京院を見つめながら彼の話に言葉を付け加えた。
すると2人の話を聞いた承太郎が声を上げた。
「死んでいた?ちょいと待ちな。この花京院はまだ死んじゃあいねーぜ!おれのスタンドで引っこ抜いてやるッ!」
承太郎は突如しゃがみこんで花京院の頭を抑えると、スタンドを出現させる。どうやらスタンドを使って肉の芽を取り除こうとしているようだ。
「承太郎ッ!」
「じじい、おれにさわるなよ!コイツの脳にキズをつけず引っこ抜くからな……。おれのスタンドは一瞬のうちに弾丸を掴むほど正確な動きをする……」
「やめろッ!その肉の芽は生きておるのだッ!!なぜやつの肉の芽の一部が額の外へ出ているのかわからんのかッ!優れた外科医にも摘出できない理由がそこにある!」
『生きている』とはどういうことだろうか。紫苑が老人の忠告に首を傾げた途端、肉の芽がズルリと触手を伸ばし、花京院の頭を抑えている承太郎の手に突き刺さった。
「肉の芽が触手を出し刺した!まずい、手を離せJOJO!」
「摘出しようとする者の脳に侵入しようとするのじゃ!」
本当に『生きている』としか言いようがない肉の芽の動きに、紫苑は気持ち悪さを覚えた。
そして2人が承太郎に対し必死に声をかける中、触手はズルズルと承太郎の体内へ侵入し脳へと向かってゆく。すると花京院がパチリと目を開け、先程自分が襲いかかった人物が何故か自分を助けようとしている事に気がつくと、驚きと困惑の表情で承太郎を見上げる。
「き、きさま……」
「動くなよ花京院、しくじればてめーの脳はお陀仏だ」
承太郎は目線を肉の芽に向けたまま、真剣な表情で花京院に告げる。その間も触手はズルズルと体内を這い上がっていき、ついに承太郎の顔にまで侵食していた。
「あ、触手が……!」
「手を離せJOJO!顔まで這い上がってきたぞッ!」
「待てアヴドゥル」
承太郎を止めようと手を伸ばす褐色肌の男性。しかしそれを老人が左手で制した。
「わしの孫はなんて孫だ……体内に侵入されているというのに冷静そのもの……スタンドも震えひとつおこしておらんッ!機械以上に正確に力強く動いていくッ!」
皆が固唾を呑んで見守る中、承太郎は顔色一つ変えずに淡々と肉の芽を引っ張っていく。
そしてピシュッという音と共に、一切の迷いなく花京院の額から肉の芽を引き抜いてみせた。
「やったッ!」
「うおおおお!!」
そして己の手に侵入している肉の芽の触手を素早く引き抜くと、ブチリという音と共に思い切り引きちぎる。
「
最後に老人が電気のようなオーラをまとった手刀を肉の芽に浴びせると、肉の芽はサラサラと崩れ落ち完全に消滅した。
その流れるような動作に、紫苑は思わず目をキラキラさせながら「す、すごい……」と感嘆の言葉をこぼす。
承太郎は引き抜いた肉の芽が消えたのを確認すると、もう役目は終わったというふうに無言で踵を返し、この場を去ろうと襖へと向かった。
「な……」
花京院が起き上がり声を上げると、それに気がついた承太郎も振り返る。
「なぜお前は自分の命の危険を冒してまで私を助けた……?」
「さぁな……そこんとこだがおれにもようわからん」
花京院に背を向けながらそう言うと、今度こそ承太郎は部屋の外へと出ていく。
その言葉を聞いた花京院は、口をキュッと真一文字に引き結びながらただひたすらうつむいていた。