episode3〜後輩
Dream Name
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「__って、真田副部長聞いてます??」
昼休み、
俺はテニス部の先輩達を屋上へ集めた。
「え?あぁ、すまない赤也。で、何の話だ?」
今日の副部長はなんだか様子がおかしい。
様子がおかしいと言えば、昨日のぶつかった時も。
なんか真田副部長らしくなかったんだよなー。
「熱でもあるんスか?副部長。」
「気にするな、赤也。熱ではない。
ただ、弦一郎にもこういう時はある。
確率13%のレアケースではあるが。」
上の空の副部長の代わりに柳先輩が答える。
「ふーん。そうなんスか。」
「で。マネージャーを募集しようだなんて
一体、どうしたんだ赤也。」
柳先輩は俺がさっき言った言葉に質問してきた。
そうこなくっちゃ。でも……。
「柳先輩鈍いっスね〜。マネージャーを募集する理由なんて
たった1つしかないじゃないですか。
俺閃いちゃったんですよ!!」
この方法ならきっと。
パチン__
「まさかとは思うけどよ……お前。」
綺麗に膨らんでいたガムが割れた。
丸井さんがまさかと目を丸くさせて俺を見ている。
「そのまさかっスよ。」
(名前)先輩をマネージャーにする。
そうすれば先輩はテニス部に戻って来れる。
__先輩が強制退部させられた日。
俺は、部室で1人泣いている先輩を見てしまった。
俺の前ではいつもニコニコと笑って
楽しそうにしている先輩が泣いていたんだ。
初めてだった。
先輩が悲しそうに、悔しそうに、泣いている姿を見るのは。
見ていた俺も辛かった。試合で負けても泣かずに、
次のステップだと言って前を向いていた先輩だ。
結局、俺は気の利いた言葉を1つも
先輩にかけてあげられなくて
その日は、1人で家に帰った。
でも、先輩のあの姿を見たから言える。
「(名前)先輩も絶対テニス部に戻りたいはずっスよ。
だって、俺ら仲間じゃないですか。」
腰に巻いたジャージをギュッと握りしめた。
今朝、ぶつかった女から借りたジャージ。
失くすと悪いと思って、腰に巻いていた。
着てみたけれどやっぱりサイズは合わなくて
俺は濡れた制服のまま授業を受けた。
あの女の顔を思い出すとどうもムシャクシャする。
どこのやつかは知らないけど、
(名前)先輩に似てたんだ。
「……。」
俺は、後ろのフェンスに寄りかかり
屋上から下を覗き込んだ。
そういえば今日柿ノ木との練習試合だったな。
あ。あの女いるじゃん。
下のコートでは立海と柿ノ木の
ダブルスの試合が行われていた。
あのぶつかった女……なんだっけ、かー……かべーら?
変わった名前の。そいつが審判をしていた。
柿ノ木のマネージャーとか?
初めて見るし1年か?
髪は長いけど、遠目から見ても(名前)先輩にそっくりだ。
姉妹?そんなわけないよな。先輩一人っ子だし。
「(名前)がマネージャーか……。」
柳先輩がボソッと呟いたのが聞こえて、
俺は女から視線を外した。
「そうっス!良い案だと思いません??」
きっと俺の考えは、先輩達も望んでること。
俺に近づいてくる柳先輩に、
そう思うでしょと俺はテンションを上げる。
ガシャン
「……え?」
けど、先輩は……いや、先輩"達"は
俺とは真逆の答えだったみたいだ。
俺の真後ろのフェンスを掴み、
鋭い目付きで柳先輩は言った。
「あまり余計な事はするな赤也。」
「な……んで……。」
こんな冷たい柳先輩は、初めてだ。
__乾いた風が俺らの間を通り抜ける。
「余計な事ってなんスか!!!俺は……。俺は。」
悔しさに、俺はギリギリと奥歯を噛み締める。
パチン__
「いい加減にしろ赤也。」
今度は、真田副部長が俺の頬を叩いた。
今まで黙っていたくせになんなんだよ。
こういう時ばかり。
「お前が今するべき事は
(名前)をマネージャーに誘うことか?違うだろ。」
真田副部長は珍しく、静かに俺を怒った。
俺がするべきこと……。
「俺達が目指しているのはなんだ?」
「……全国制覇っス。」
俺は真田副部長から貰った書を思い出した。
"克己復礼"
それは、自分の欲を抑えて
礼儀のある行動をとれという意味。
「分かっているならいい。
たるんだ気持ちで全国制覇など甘く見るなよ、赤也。」
「……はいっ。次の試合に向けて、俺集中します。」
「ああ。」
分かれば良いと
俺から離れる柳先輩と真田副部長。
俺が落ち着いた事で、周りも
張り詰めた空気から解放されたように
安堵の声を漏らした。
「はぁ……ほんとヒヤヒヤしたぜ。」
隣にいたジャッカル先輩が俺の肩に腕を回して
怖いもの知らずだなと笑う。
「なんで止めてくれなかったんスか〜!!」
「俺は止めようとしたんだけどな……。」
「いやいや、無理だろぃ。
飛び火食らうのはごめんだっての。」
「後輩の成長を見守るのも紳士の務めですからね。」
丸井さんは正直すぎるし、
柳生先輩は意味わかんないし
仁王先輩はそもそもいないし。
俺の味方はジャッカル先輩だけだな……。
「そういえば切原君。腰巻きとは、珍しいですね。」
柳生先輩が、俺の腰に巻いてあるジャージを指さして言った。
「つーか、それ女物じゃね?」
丸井さんよく見てるなー。
「借り物っスよ。失くすと悪いんで腰に。」
「そうか。けど、サイズ違うだろ?
なんで借りたんだよ?」
ジャッカル先輩が痛いところをついてきた。
「いやぁ……えっと。」
まずい。
これバレたら真田副部長に怒られるんじゃ……?
折角バレずに教室まで辿り着けたのに……!!
「それはですねぇ……かくかくしかじかありましてぇ〜。」
ん?待てよ。
よくよく考えたら
なんであの女、真田副部長にバレずに
教室まで行けるルート知ってたんだ?
気付いたら俺はまた下のコートを見ていた。
「おーい。赤也ー。何ボケーっとしてんだよ。」
丸井さんが俺の視線を追って
同じくコートの方を見た。
「あれ?お前それ、あの子の?」
「え!あ、いや!!これは……その。」
どの子だよ。と皆が俺の周りに集まってフェンス越しに
コートを見下ろす。
「へ〜。赤也ってああいう子タイプなんだ。」
ニヤニヤと俺の頬をつつく丸井さん。
「なっ!!違うっス……!!
俺は(名前)先輩の方がっ……!!」
(名前)先輩の方が……??
「ふーん。だってよ、真田。どうする?」
丸井さんがニヤニヤしながら俺を揶揄う。
「どうするも、赤也に任せられるわけなかろう。」
あー!!もう!!
「切原君はあの淑女とはどういったご関係で?」
「なんもないっスよ!俺があの女にぶつかっただけっス。」
「ほう。ぶつかったとな?」
あ。やべ。
心做しか、真田副部長の後ろに赤いオーラが見える。
やばい。昨日の5倍以上は怒ってる。
「今日の部活、赤也はラケット禁止。
グラウンド30周だ。終わったら部活終了時間まで球拾いだ。」
ひぇ〜〜あんまりっスよ〜……。
項垂れる俺の背中を
ジャッカル先輩が、頑張れよと優しく叩いてくれた。
俺への罰が与えられたところで
皆は俺のことを笑った。
オチが俺らしいなと。
「……。出来るものなら疾っくにしていた。」
1人を除いて。
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